だれかに話したくなる本の話

『光る壁画』吉村昭著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

みなさんは胃カメラを飲んだことはありますか? 

私は何度かあります。
いや、あれ辛くってねぇ。
もう、涙目、うげげになってしまいます。
今は、鼻から入れるタイプのものもありますが、私の場合鼻の孔が小さいとかでうまく入らないんですよ。
また、胃の組織を採る場合には鼻からのタイプではダメなのだそうです。

今は麻酔で眠らせて、その間に検査をしちゃうという方法もあり、この方法でもやってもらったことはあるのですが、私の場合には完全に眠りはしませんでした(うっすら意識は残ってるんです)。
妻は完全に眠ってしまったと言いますが、まあ、あいつは寝やすい体質だからな(普段からやたらに寝ています)。
でも、胃カメラをやる時って胃の中に空気を送り込むじゃないですか。
うっすら意識は残っているとは言え寝ているので、自然とゲップをしてしまって空気を出してしまい、あんまりよくなかったとか(結局、私は眠らない普通のやり方でもう一度!になってしまいました)。

なんで胃に空気を送り込んでゲップしないようにしろなどとご無体なことを言うのか?
と、ずっと思っていたのですが、本作を読んで、「あ、そういうことなのか」と納得しました。
まあ、「もう一度!」と言われた時の先生は上手だったのか、はたまたいい加減私が慣れたのか、2度目の時はこれまでに比べてさほど苦しくなくやっていただけたのですが(先生、ありがとうございます)。

というわけで、本作は胃カメラ開発のお話でございます。
胃カメラって日本人が世界最初に作り出したんですってね。
そのことを知った吉村氏が「これは書かねば!」ということで書き上げたのが本作です。

胃カメラを実際に最初に作ったのはオリンパスだそうですが、本作ではオリオンカメラという会社が開発したということになっています。
東大の医師からの依頼に基づき、オリオンカメラの曾根菊男を中心としたメンバーが四苦八苦して開発した物語です。

胃鏡という医療器具はあったそうなんですね。
これは真っすぐの金属の棒を胃にツッコんで反対側から胃の中を直視するというものだったそうですが、患者に非常な苦痛を与えたばかりか、下手をすると食道などを突き破ってしまい、亡くなった患者さんも出たという危険な方法だったそうです。
いやいやいや、金属の真っすぐな棒入れるなんて無理っす!!
何でも、剣を飲み込む芸人の技を見て思いついた方法だと言いますが、そんなの飲めねぇよぉ。

で、曾根らに依頼してきた東大の医師も胃鏡は危ないからダメだと考え、患者に苦痛を与えない安全な医療器具を開発して欲しいと考えたそうなんです。いや、ありがとうございますです。

とは言え、初期型はそれでも相当に苦しそうではあります。
だって、管の中にカメラを仕込んでいたので12・5ミリも太さがあったんだそうですよ。
最初は、胃の中を水で満たし、水中カメラで撮影するという方法を考えたそうなのですが、これだとダメでした。
それで水ではなく空気を送り込むという方法に変えたのだとか。
そうか、だから今でも胃カメラの時は胃に空気を送り込んでいるんだ!

その後、ファイバースコープが開発されて、この物語に登場した胃カメラよりもさらに細い、精巧な器具へと発展していくことになるわけですが、とにもかくにも曾根らが開発した胃カメラというのが最初だったそうです。
なお、これはフィクションの部分なんですが、曾根は旅館の跡取り息子なのだけれど、家業を継ぐことを断って技師の道に進んだため、曾根の妻が一人で旅館を背負って立つことになり、大変苦労したという話が絡められて物語を進めて行きます。

これまでお世話になってきた胃カメラの話でしたので、ほうほうと思いながらあっという間に読み切ってしまいました。
そうそう、知人から聞いた話ですが、胃カメラはまだ大したことはないのだそうです。
大腸カメラ(下から入れるらしい)はもっとしんどいぞ~と言われました。
……腸だけは大事にしよう……。

読了時間メーター
楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)

(レビュー:ef

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本が好き!
光る壁画

光る壁画

胃潰瘍や早期癌の発見に絶大な威力を発揮する胃カメラは、戦後まもない日本で、世界に先駆けて発明された。わずか14ミリの咽喉を通過させる管、その中に入れるカメラとフィルム、ランプはどうするのか…。幾多の失敗をのりこえ、手さぐりの中で研究はすすむ。そして遂にはカラー写真の撮影による検診が可能となった。技術開発に賭けた男たちのロマンと情熱を追求した長編小説。

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