だれかに話したくなる本の話

直木賞作家・三浦しをんさんが語る“作家の生活”―『天国旅行』刊行インタビュー(1)

2005年、『私が語りはじめた彼は』で山本周五郎賞候補、『むかしのはなし』で直木賞候補。2006年に『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞受賞。2009年には『風が強く吹いている』が映画化されるなど、作家として確かな足跡を残してきた三浦しをんさん。その三浦さんの最新作『天国旅行』が新潮社から出版された。
 「心中」をテーマにした短編集だが、三浦さんはどのような想いでこの物語を書き綴ってきたのだろうか。さらに直木賞受賞作家の普段の生活についても質問。気になる作家生活やストレス解消法などをインタビューした。第1回目となる今回は『天国旅行』についてお話をうかがう。

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■短編はお題があった方が書きやすい

―本書『天国旅行』を読ませていただきましたが、短編集ということで、各作品の質はもちろん、作品の並び順がすごくいいなと思いました。この流れは、小説新潮で連載する前から決めていたのでしょうか。

三浦「そうですね。全体の流れというか、どこにどんな話を持ってくるかということは、最初から決めていました」

―CDアルバムみたいですよね。各作品を別個に捉えるのではなく、7作品を通して読むことでより魅力的に感じられるという。

三浦「ありがとうございます。そう言ってもらえるとすごくかっこいいもののように思えますね(笑)短編を書く時は、それが一冊にまとまった時にどんな本にしたいかということを考えてから書く方が書きやすいんです。今回は編集の方に、全体のテーマを“心中”にしたらどうかと言っていただいたので、最初の作品(『森の奥』)は“心中”がテーマになっていると気付かれないくらい遠いところから入っていって、話を追うにつれて核心部分というか、心中という行為に接近していき、最後(『SINK』)はずばり心中に直接的に関係する人の話にしようと思いました」

―本書の巻頭にTHE YELLOW MONKEYの『天国旅行』の歌詞が引用されていますが、他にも好きなミュージシャンがいらっしゃれば教えてください。

三浦「BUCK-TICKです…って何で声が小さくなっちゃうんだろう(照)」

―本の内容と実によくマッチする曲ですが、曲から着想を得たというところもあったのでしょうか。

三浦「いえ、そうではないです。この本のタイトルを決める時に、収録された短編の一つから取ってしまうと、その作品だけがクローズアップされてしまうと思ったので、それぞれの作品名とは関係のない総タイトルをつけようと思ったんです。でも、なかなかピンと来るものがなくて……。そんな時に、そういえばTHE YELLOW MONKEYに心中っぽい曲があったな、と思い出して、好きなバンドだし、もしかしたら内容とピッタリかもしれない、と思ってタイトルにさせていただきました」

―今回の“心中”のように、編集さんからお題が出ることはよくあるんですか?

三浦「私は短編だとあまり率先してネタが湧いてくる方じゃないんですよ。ご依頼を受けてはじめて、じゃあどういうのを書こうかな、と考えるタイプなんです。だから今回は担当の編集さんが気を効かせてくれたんだと思います。
ただ、心中っていうのは死に直結している題材だし、死に直結しているということは生にも関係します。好き合った男女が一緒に死ぬというイメージが強いですから、愛情とは何だろうという方向にも広がっていけるので、結果的にはいいテーマだったなとは思いますね。
この本の中で書いていることはおそらく普段から書きたいと思っていたことなんですけど、“心中”というテーマを外からもらったことによって、具体的にシチュエーションを想像するきっかけになったという気はしています」

―では、三浦さんとしてはお題をもらった方が書きやすい、と。

三浦「短編に関しては、お題が外から設定されることってよくあるんですよ。雑誌に掲載されるとしたらその号の特集のテーマとか。そういう方がやりやすいことはやりやすいですし、短い枚数の場合は、外からの設定がなくても自分の中でテーマを決めて、それに沿って書く方が書きやすいです」

―なるほど。反対に、テーマを決めずに書き始めてそのまま書き切る、ということもあるのでしょうか。

三浦「あると思いますね。私は、特に長編の場合はテーマがない方が多いです。“テーマをひとことで説明できないからこれだけの分量を書いたんだよ”みたいな(笑) 」

―本作では『初盆の客』のように、一つの死の周りに生まれた人間関係を描いていたり、死から派生するものについても触れていますけども、全体のテーマとして、“死”“心中”があります。こういったテーマについて書くことで、精神的なストレスを感じたりはしましたか?

三浦「ストレスというのはないですね。ただ現実に心中事件は起きているわけで、その死を称賛することはしたくないとは思っていましたし、逆に、心中や心中をした人たちをやみくもに批難することもしたくないと思っていました。そういったところで気をつかうことはありましたね」

―この短編集を書く前後で、三浦さんの死生観に変化はありましたか?

三浦「それはないです。この短編集は心中や死をテーマにしてはいますけど、できるだけ生の方向を目指す話にしたいなと思っていました。書き終えてからもその気持ちに変化はないですね」

第2回 「小説家」という職業 を読む