だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『イオビエ ~イオがくれた幸せへの切符』猫沢エミ著

提供: 本が好き!

この作品は、赤い糸に手繰り寄せられたひとりの女性と、一匹のメス猫との運命と生死を超えた永遠の愛についての実際に起きた出来事をSNS上で公開しながら紡がれた素敵なお話です。

物語の構成は、ワタシと表記され、イオとその飼い主に名付けられたメスの老捨て猫が一人称で語るお話です。そしてその飼い主のことをママと呼びストーリーは展開していきます。
猫を主体とした視点からの描写は、人生を猫生、天国の住人を住猫とする徹底ぶりです。

ママと呼ばれる飼い主は、勿論作者である猫沢エミさんです。エミさんちの猫さんたちは、みな〝猫沢組の猫たち"とも呼ばれ、これはママと猫沢組の猫たちの群像ドラマでもあるのです。

最初にママに飼われた猫さんはピキ姉さんという強者のメス猫でフランスのパリで暮らし、狩りの達人ではなく達猫として登場しますがやがて亡くなります。その後パリから日本に戻ったママは、スーちゃんとアブちゃんと言う猫と暮らします。そこへ8月の暑い夏に瀕死の捨て猫のワタシであるイオちゃんと出逢い家に連れて帰り、ママは三匹の猫沢組の猫さんたちと暮らし始めます。ところがイオちゃんであるワタシは病におかされ何度も動物病院への通院と入院を繰り返し、元気になって猫沢組に戻ってくるのですが…。

イオちゃんは猫沢組の住猫となる前は、新宿二丁目の酒場を経営するお父さんに育てられるのですがやがて捨てられ野良猫として新宿で生きていたときにシマを管理するまとめ役のオス猫である銀次さんと出会います。

イオちゃんは何度も彼に助けられます。そして彼は牝猫のイオちゃんに愛を告白するのですが、イオちゃんの思い遣り溢れる返事は、その恋が実らなかったことを意味していたのです。
そしてその後、イオちゃんは彼氏猫と運命的出会いをしますがその銀色縞模様のオス猫はイオちゃんを助けるために、バイクに敷かれて死んでしまいます。そのような悲しい過去をもつイオちゃんでしたが、2匹の先輩猫と仲良く暮らし、ママからは限りない愛情をうけて幸せな猫生を過ごしますがやがて別れの時が訪れます。
イオちゃんの顎は癌におかされます。

猫が出し合う細やかな心のさざなみを猫電波といってそれをつうじて心をかよわせあうことができます。3匹の猫はイオちゃんの死が間近に迫っていることを話し合います。
3匹の猫たちが織りなす電波はショールを編み上げるような天国への階段となって上へ上へと昇っていくようであります。

この物語にはゼウスさんをはじめとしたスペシャルな神様たちが、折に触れて登場しイオちゃんを励まします。

「神っちゅうのは、心から愛した者が逝ったとき、残された者の中に宿る光のことをいうんだ。」
「おまえさんの猫生は最後に光り 輝いて、ママや二匹のぼっちゃんたちの神になるだろう。そしておまえさん自身が彼らの魂に宿って、永遠に光り続けるだろうよ」
とゼウスとは別の神様が、死がやがて訪れることに気づいたイオちゃんに言い聞かせるシーンにこの物語に込められた作者の願いが祈りとなって濃密に圧縮されて伝わってくる。

さらに次に続く文章にこの社会制度の変革へのメッセージが込められているようにも感じました。

「ところが昨今じゃ、医療や社会制度のせいで、備わっている能力が使えんで不本意な逝き方をする者も増えておる(中略)今まさに逝こうとしている愛する者を、最後まで尊重できるか」

つまり、これは平等な社会福祉制度と尊厳死への問題提起であると重く受け止めました。

「魂は天国っていうところへ行くらしいの。たぶん生きている間に愛した誰かの心のことを言うのかもしれない」とイオちゃんは考えます。

この作品のなかで、イオちゃん、スーちゃん、アブちゃんが三角形になって猫電波でお互いの心のひだを確かめ合う様を「美しい愛の整三角形」と表現するシーンがありますが、これは三人寄れば文殊の知恵ではないですがすべてのカタチあるものは三角形をその最小単位とすることにふと気付いた。二人寄ってもカタチはつくれないのです。自然界にも蜂の巣としてのヘキサゴン、建築界においてもハニカム構造としての六角形が強くて美しい象徴でありますがその基本は三角形なのであるということをあらためて理解しました。

やがて先代のピキ姉さんが運転する天国タクシーがイオちゃんをお迎えにきます。
タクシーにはサプライズの二匹の猫も乗っていました。このシーンには涙、涙が...止まりません。

そしてキャデラックのカーステレオからは何度もイオちゃんをだっこしてくれた歌手のミウちゃんが歌う曲が流れていたのです。ミウちゃんはこの本の帯に推薦の言葉を書いてくれたあの坂本美雨さんです。坂本龍一氏と矢野顕子さんの娘さんです。二匹のリアル猫と天使となったイオちゃんとピキ姉さんの猫沢組の猫たちは今はママさんとパリで愉しく暮らしています。

平易な言葉と徹頭徹尾、猫に寄り添った文章で綴られるこの奇跡の物語は猫沢エミさんオリジナルの死生感でもあり、いつまでも読者の心を感動のさざなみで満たしてくれます。
この本には、料理が得意なエミさんの猫食、人間食のレシピ、猫沢組の日記、写真が盛りだくさんで、写真には猫が大好きな女優石田ゆり子さんがイオちゃんをだっこしている写真も掲載されています。猫好きにはたまらないボリューム満点のお薦めの本です。

(レビュー:ウロボロス

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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イオビエ ~イオがくれた幸せへの切符

イオビエ ~イオがくれた幸せへの切符

「ねこしき」脱稿直後に発覚した急性の「扁平上皮癌」によって、1か月半の闘病の末、書籍発売前に急逝した猫沢家の保護猫イオちゃん。

猫沢氏とイオちゃんの出会い、病気の寛解、幸せの日々、急に訪れた永遠の別れを、イオ視点のファンタジー小説を主軸とし、著者自身の日記を挿入、一人と一匹の愛の物語を紡ぎます。猫沢飯レシピ付き。

この記事のライター

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