だれかに話したくなる本の話

「自分への手紙」を通して人生を振り返る。そこから見えるものとは(後編)

過去の自分自身に手紙を書いてみる。
そこには自分が人生の中で大切にしていた価値観や想いが浮かび上がり、「自分との対話」が生まれる。

大瀧夏箕さんは統合失調症と診断を受け、30歳のときに精神科病院に入院をした。その体験をベースに、7通の自分への手紙をつづり、自分の人生を振り返った。それをまとめたのが『私への七通の手紙 統合失調症体験記』(幻冬舎刊)だ。

「手紙」を通して見えた、困難を乗り越えてきた自分。大瀧さんへのインタビュー後編では、新たな人生の可能性についてお話を聞いた。

(新刊JP編集部)

■振り回される人生から「自分で舵を切る人生」へ

――30歳の自分への手紙では「統合失調症」という言葉が出てくるほか、「生」と「死」がせめぎ合うような詩的な文章がつづられています。この時期は大瀧さんにとって大きな転機だったのではないかと思いますが、改めて当時の自分に伝えたかったことはなんですか?

大瀧:この時期は「統合失調症って何?」という思いがすごくあって、困惑していた時期でした。先ほども言ったように、統合失調症には幻聴、幻覚、支離滅裂といった症状が知られていますが、当時の私もそうした知識しか持ち合わせていませんでした。だから私が見ていた世界はすべて統合失調症によって見えていた世界だったのか、と怖くなったんですね。

その恐怖感を一人ぼっちで抱えていて、誰も聞いてくれようとはしなかったし、関心も向けてもくれなかった。それがとてもつらかったんです。そのつらかった感情が、誰かに統合失調症だと打ち明けたいニーズを生み出して、それが実はこの本を執筆したきっかけにもなっていきました。

だから、あの頃の私の困惑が今のこの本の出版につながっていると考えると、あの頃を乗り越えた自分に感謝を伝えたい気持ちですね。

――39歳の章は「手紙」ではなく「記録」となっており、自分自身の可能性を見つけるための具体的な行動も書かれています。なぜこの章は「記録」としたのでしょうか。

大瀧:この頃は初めて自分から社会に対して行動を起こした時期でした。人に会いに行って自己開示をして、話を聞いていろんなことを学んだという点で、遅れてきた青春と言ってもいいと思います。その青春の輝きを写真に収める感覚で「記録」としました。

今度立ち上がることができた時にはこのように頑張りたいし、この時に失敗した教訓を糧にして、次は失敗しないぞという意気込みも込めて、記録として残したいと思ったんです。

――38歳の自分への手紙には登山にはまるという記録がつづられていますが、39歳の記録では、ソーシャルワーカーに会いに行ったり、精神保健福祉を学んだりと、前向きに行動されています。30歳で統合失調症と診断されから約10年経って大きな前進を感じました。

大瀧:道が開けた感じがしますよね。10年かけて、やっと自分のエネルギーを前に進めることができたというか。

――本書を読ませていただいて、行動をして少しストップして、でもまた前に踏み出してという、山あり谷ありだけれども少しずつ前に進む大瀧さんの姿を感じました。

大瀧:悪く言えば私はしつこい性格だと思うんです。逆にいえば諦めないということでもあるんですけど。やってみようかなと思って前に進んで、それでしばらく忘れるんですけど、また思い出してやってみようとする、そのサイクルが6年くらい続いていて。

――諦めないということは大切だと思います。今の大瀧さんはどのような状況なのでしょうか。

大瀧:今はまた大きな変化の真っただ中にいます。これからまた行動しないといけないなと思いますし、そうしたいですね。今、福祉系の大学に通っていて、事情があって休学状態なのですが、来年の春から気持ちを切り替えてまた勉強をして、総合的に福祉のことを理解できる人になりたいと思っています。

――「おわりに」で「半生をふり返り語ることによって、人生をあきらめない道を主体的に選べる可能性を書きたかった」と書かれています。これが大瀧さんがこの本に込めた想いなのだと感じましたが、その可能性について、今はどのように感じられていますか?

大瀧:自分自身と社会に振りまわされて生きづらかった人生から、めんどうだけれども常に考えて一つ一つ丁寧に選択して自分自身で舵を切ることができる新しい人生へのシフトの可能性を感じています。楽しく生きたいですし、そのためにシフトして可能性を追っている感じですね。

ただ、自分の意志で舵を切るということは難しくて、いつのまにか流されていることもあります。でも、その様子を振り返って自覚することで、昨日よりも今日、今日よりも明日という感じで少しずつ自分の船を進みたい方向に進めていきたいと思います。

――自分の人生をこうして手紙にして振り返ってみて、良かったことはなんですか?

大瀧:「はじめに」でも書いていますが、コミュニケーションに対してずっと悩みがあったんです。それが手紙を通して自分と対話して、自分のことが分かってきたことによって、克服できたような感覚があります。

――本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?

大瀧:キーワードとしては、「生きづらさ」や「統合失調症」「可能性」「スピリチュアル」「人生の舵を切る」といった事柄に関心を持っていて、誰かとの対話を望んでいる人に読んでいただきたいです。そして、ぜひ自分自身と対話をするきっかけにしてほしいですね。

(了)

私への七通の手紙 統合失調症体験記

私への七通の手紙 統合失調症体験記

悩んだ。苦しんだ。
でもいつか、きっと前を向ける––。

かつて心を閉ざしていた著者が当時を振り返り、思いを綴る。
書簡形式の温かな自分史。

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