だれかに話したくなる本の話

耕さない“究極の田んぼ”を完成させた男の半生

不耕起米」という米をご存知だろうか。
 耕した田んぼではなく、耕していない田んぼで作られた米のことだ。

 通常、お米の栽培過程には田んぼを耕す「耕起」という作業がある。現在はトラクターを使って耕すことがほとんどだが、昔は馬を使っていたという。
 その「耕起」をしないまま硬い土に苗を植え、無農薬、無肥料で作る「不耕起米」。

 そんな奇跡の農法を完成させたのが、千葉県で農家を営む岩澤信夫氏である。
 日本経済新聞出版社から刊行された『究極の田んぼ』(岩澤信夫/著)は、岩澤氏が「不耕起米」を完成させるまでの道のりや、田んぼに関する知識、そして環境のことについて幅広く書いている一冊だ。

 岩澤氏が究極のコメ作りにのめりこむきっかけになったのは1980年、そして1981年に起きた冷害であるという。
 夏に気温が上がらず、実るべき穂は秋になっても緑色のまま真っ直ぐと立っているだけ(これを「青立ち」という)。岩澤氏はそんな緑色の田んぼの中にポツリ、ポツリと黄金色の穂を垂れている田んぼを発見する。

 どうしてあの田んぼだけ黄金色に染まっているのだろうか。
 岩澤氏は田んぼの持ち主をまわり訪ね、その農法を聞き、苗や農法に試行錯誤を重ねる。そして「不耕起」の存在を知り、不耕起専用の田植え機の開発などにも携わる。
 奇跡の農法を完成させるまでの過程からは凄まじい情熱と、究極のコメ作りへのこだわりが見え隠れする。

 近年、再び注目を浴びる「農業」。リタイアした人々が第二の人生として農業を選んだり、若者が農業に従事をしたりする姿がたびたびニュースでも報じられるが、テレビの画面では見えない厳しさが存在する。
 もちろん本書からも、「農業に携わること」の厳しさがふんだんに伝わってくる。しかし、その一方で「楽しさ」も同じくらい、いやそれ以上に感じるのだ。

 農業とは本当に奥深いものだと感じざるを得ない一冊だ。
(新刊JP編集部/金井元貴)