だれかに話したくなる本の話

仕掛け人に聞く『漫画 君たちはどう生きるか』大ヒットへの道のり

■「タイミングが良かった。バブルの頃なら売れなかったかもしれない」

『漫画 君たちはどう生きるか』に寄せられた読者からの感想を見ると、小学生から老人まで「老若男女」と呼ぶにふさわしい年齢層が賛辞を送っているが、発売当初は特に50代、60代以降の声が比較的多かったという。

「これは狙い通りというところです。
30代、40代の人たちにも通用する事実は力強かったですが、最初は50代以上がターゲット。『君たちはどう生きるか』を読んだことがある、もしくは名前は聞いたことのある世代です。まずはその世代をメインターゲットにすることで、そこから(下の世代に)広がるという流れを考えていました」(鉄尾氏)

この鉄尾氏の狙いは、確かに当たった。

「読者からの感想を見ると、孫や子どもにプレゼントしたい、読ませたいから購入したという声も多かったですね。ただ、そう思って買ってみたところ、自分が熱中してしまったと書いて下さった方もいました(笑)」(鉄尾氏)

すでに発行部数は50万部を超え、今や全世代的に読者が広がっている。1937年に刊行された本書になぜこれほど現代人の心を引き寄せるのだろうか。鉄尾氏はこう分析する。

「糸井さんもおっしゃっていましたが、タイミングは大きいと思います。もし、バブルの頃であれば、ここまでは売れなかったでしょう。
この本が出版された1937年は戦争が始まる少し前。日本人の価値観が揺らいでいた時代でした。自分自身がどう生きるかを考えさせる本書は、非常に本質的な問いを投げかけます。バブル崩壊後の長い不況の中で価値観が揺らいでいる現代の不安な日本人は、『どう生きるか』ということから目を背けられなくなっているのではないかと思いますね」(鉄尾氏)

『君たちはどう生きるか』にこんなシーンがある。友人たちが上級生から制裁(いじめ)を受けているのをただ見つめるコペル君。ともに立ち向かうことを約束し合ったにも関わらず、いざその時になり、足を踏み出すことができずにいる。

『漫画 君たちはどう生きるか』と同時発売となった新装版『君たちはどう生きるか』(現在までに14万部発行)の冒頭に、ジャーナリストの池上彰氏がこの象徴的なシーンに託けて、次のようなコメントを寄せている。

人がいじめられていたり、暴力を振るわれていたりしたときに、止めようとしても体が動かない。似たような経験をした人は多いはずです。身につまされる話ではないでしょうか。本当に勇気とは何かを考えさせられます。
この本は、そのとき自分はどうすればいいかを、まさに自分の問題として考えることになるのです。(新装版『君たちはどう生きるか』P7より引用)

この感覚は普遍的なものだろう。コペル君を通して、読者は自分自身に問いかける。「自分はどう生きるか」と。その一言が、前が見えない、不安だらけの時代に生きる自分に重くのしかかるのではないだろうか。

漫画 君たちはどう生きるか

漫画 君たちはどう生きるか

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