だれかに話したくなる本の話

「ウソを書くこと」に抵抗があった頃――石井遊佳さんインタビュー(後編)

『百年泥』(新潮社刊)で芥川賞を受賞した石井遊佳さん

出版業界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
第95回となる今回は、『百年泥』(新潮社刊)で第158回芥川賞を受賞した石井遊佳さんが登場してくれました。

『百年泥』は、「百年に一度」という大洪水に見舞われたインド南東部のチェンナイで暮らす「私」が、水が引いた後の橋の上に残された泥の中から人々の百年間の記憶にまつわる珍品(そして人間!)が掘り出されるのを目撃するというユニークなストーリーと巧みな語りが特徴的な、石井さんのデビュー作。

痛快であり、時にほろりとさせるこの物語がどのようにできあがったのか、石井さんにお話をうかがいました。その最終回をお届けします。
(インタビュー・記事/山田洋介)

百年泥

百年泥

私はチェンナイ生活三か月半にして、百年に一度の洪水に遭遇した。橋の下に逆巻く川の流れの泥から百年の記憶が蘇る! かつて綴られなかった手紙、眺められなかった風景、聴かれなかった歌。話されなかったことば、濡れなかった雨、ふれられなかった唇が、百年泥だ。流れゆくのは――あったかもしれない人生、群れみだれる人びと……