だれかに話したくなる本の話

「情報に踊らされるバカ」にならないための3つのキーワード

あなたは普段、メディアやネットで見聞きする「情報」をどのくらい信じているだろうか?
報道番組や新聞のことは信じるがネットの情報は信じない。特定の媒体だけ信じる。入ってくる情報はほとんど信じる。人によってさまざまだろう。

しかし、世の中の出来事は、誰かの、何がしかの意図をもって切り取られ、発信され、初めて「情報」となる。その切り取り方次第で印象が大きく変わり、情報の受け手はそのインパクトによって、いとも容易く情報をある一面でのみ捉えるようになる。

NHKの元ディレクターで作家の高木徹氏の 『国際メディア情報戦』(講談社刊)は、戦争、選挙、テロなど国際的な舞台で繰り広げられた「情報戦」について論じた一冊だが、私たちが日常生活の中で触れる「情報」に振り回されないためのヒントを得ることができる。

■メディアから流れる「情報」の3つの罠

メディアの情報には、三つのキーワードがある。
**「サウンドバイト」「バズワード」「サダマイズ」**だ。

「サウンドバイト」は、テレビ業界用語だ。ある人物の発言を数秒から数十秒の長さにカットしてニュースの中に編集していく、その発言の短い断片のことを指す。不祥事を起こした人の涙ながらの謝罪などの短い映像がその発言とともに繰り返し流されることがある。まさにあれだ。

次の「バズワード」は、ある言葉を象徴的に使うことで、世論にある方向への印象付けを行うことに利用される。今や「バズる」と日常的に使われ、馴染みのある言葉だろう。
たとえば、1990年代に起きたボスニア紛争では、PR会社が「民族浄化」という言葉をバズワードにして、国際世論がボスニア政府に同情的になるように印象付けたという。

最後の「サダマイズ」は、イラクの元指導者であるサダム・フセインに起因した言葉で、言ってみれば悪役を仕立てる戦略だ。

「サウンドバイト」では、前後の文脈はカットされ、印象的な部分だけがクローズアップされる。そこには編集する人間の意図が介在する。
また、「バズワード」をつくるのは、メディア側、もしくはメディアを味方につけている人間だ。そこにも当然、その言葉によってどういう印象を与えたいかという意図が存在する。 さらに、出来事や事件の当事者たちのどちらかを悪役に見立てる構図は、報道などでよく見かけるだろう。その構図をつくるのも、やはりメディアの側に立つ人間だ。

程度に関わらず、「情報」は発信される時点で、必ず誰かの意図が介在している。
そのことを、3つのキーワードともに押さえておけば、情報リテラシーは高まるだろう。

■情報は「拡大再生産」で真実となる

本書では何度か、「情報の拡大再生産」という言葉が使われている。
最初の出来事が些細なことであったとしても、多くのメディアが競い合って伝え始め、そのインパクトが急速に拡大するスパイラルだ。

例えば1992年のアメリカ選挙戦では、ブッシュ元大統領が「情報の拡大再生産」によって大きな痛手を被った。彼がしたことは、討論番組である女性との質疑中にチラリと腕時計を見たことだった。しかも、会場全体を広くとらえた映像でほんの一瞬の出来事だった。
しかし、(その後の対応も悪かったのもあるが)結果的に「質疑の最中に腕時計を見た」という映像をメディアはこぞって流し、ブッシュ氏が大統領選で敗北する決定打となった。

今では、情報を発信するのはメディアだけではない。SNSの拡散力は当時とは比べ物にならないほど強力だ。そこで拡大するインパクトについては言うまでもない。だが、そのことは同時に、些細な出来事だけが「真実」になり、本質を見失わせるというリスクも生み出しているのかもしれない。

今や、誰の意図も影響も受けていない情報というものは、どんな媒体を探しても見つかりはしない。唯一「純粋な情報」と呼べるのは、自身の目と耳で体験したものだけだが、この現代社会をそれだけの情報で生きていくことは難しいだろう。

では、どうするべきか。自分たちが「情報戦」の末端にいる受け手だということを自覚すること。そして、切り取られた情報を、むしろ楽しむくらいの余裕とタフさが必要だと著者は述べている。

(ライター/大村佑介)

国際メディア情報戦

国際メディア情報戦

『戦争広告代理店』の著者による新たな必読書。

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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