だれかに話したくなる本の話

誰でもイノベーティブなアイデアが生み出せるたった5つの思考法とは?

革新的な製品やサービスが誰かによって生み出されたとき、「その手があったか!」と驚くとともに「なんでこんな簡単な発想が自分にはできなかったのだろう?」と悔しい思いをしたことはないだろうか?

しかし、創造的なアイデアと呼ばれるものは、実は特別な才能や、常人では考えられないような「枠」をはみ出た発想から生まれたものではない。
そのことを教えてくれる一冊が『インサイドボックス 究極の創造的思考法』(ドリュー・ボイド、ジェイコブ・ゴールデンバーグ著、池村千秋訳、文藝春秋刊)だ。

本書によれば、成功を収めている革新的・独創的商品の半分以上は、既成概念の「枠」にとらわれない発想よりも、むしろ、「枠」という制約の中で生み出されたものがほとんどであり、それらを分類していくとたった5つの思考パターンによるアプローチに集約されるという。

そのパターンとはどのようなものかを紹介しよう。

■イノベーションを起こすたった5つの思考法

・「引き算」の思考法

それまで欠かせないとみなされていた要素を取り除くのが**「引き算」の思考法**だ。
メガネからフレームを取り除くことで生まれたコンタクトレンズ。さまざまな機内サービスや利便性を最小限にすることで業界にイノベーションを起こした格安航空会社。あえて字数を制限することで世界中に広まったTwitter。これらはすべて「引き算」である。

引き算は、「欠かせない要素」を取り除くことがポイントだと著者。食品における糖質カットなどは機能の仕方を変えているだけなので「引き算」には当たらない。

・「分割」の思考法

既存の構成要素を分けて、一部を分離して用いるようにするのが**「分割」の思考法**。
本体にあった操作ボタンを移した家電製品のリモコン。乗客がチケットを自宅でプリントアウトすることで搭乗手続きのコストや手間を省いている航空会社。あえて樹脂と硬化剤を別々にすることで接着剤が固まる時間をユーザー自身で調節できるエポキシ系接着剤などが、「分割」の思考法で生まれた製品やサービスだ。

機能や物理的な線引きで製品を分けることで、まったく新しい価値や既存の価値の新しい形を生み出せるのが「分割」の特徴だ。

・「掛け算」の思考法

製品やサービスの一部の要素をコピーして増量するのが**「掛け算」の思考法**である。
刃を二枚にすることでより剃りやすさが増した二枚刃の髭剃り。近視用メガネのレンズを増量することで遠くも見えるようにした遠近両用メガネ。粘着剤を裏表につけた両面テープなどが「掛け算」にあたる。

要素を単純にコピーするだけではなく、コピーした要素に改良や変更点を加えることが、「掛け算」で独創性を発揮させるポイントだという。

・「一石二鳥」の思考法

製品やサービスの一つの要素に複数の機能(多くの場合、それまで互いに無関係だと思われていた機能)を持たせるのが**「一石二鳥」の思考法**。

日焼け止めの効果もある乳液や保湿クリームなどのリアルな製品はもちろんだが、スマートフォンの懐中電灯アプリや鏡アプリ、また、iPhoneのアプリ開発モデルもユーザーにアウトソーシングするという形で大量の機能が生み出されている。

十徳ナイフのように別々の機能をもった複数の道具の集合体は、それぞれの要素がバラバラだったときにも担っていた機能を果たしているに過ぎないので「一石二鳥」とは異なることに注意しよう。

・「関数」の思考法

ひとつの要素が変わると、それに合わせて別の要素も変わるようにするのが**「関数」の思考法**だ。

赤ちゃんにやけどをさせないよう温度によって色が変わる哺乳瓶。対向車が近づいてくると自動的に光量が落ちる車のヘッドライト。現在地によって店の所在地や情報を教えてくれるスマホのサービスなど、その領域は多岐にわたる。
実現するのが比較的難しい思考法ではあるが、商品のイノベーションの35%は「関数」で生み出されているという。

 ◇

一般的に、創造的なアイデアを生み出すためには、奇抜さや非凡さが求められるイメージがある。しかし、本書で紹介される思考法とプロセスを辿れば、これまで思いつかなかったようなアイデアが生み出すことは決して不可能なことではないと思えるだろう。

(ライター/大村佑介)

インサイドボックス 究極の創造的思考法

インサイドボックス 究極の創造的思考法

既成概念の「枠」の中でもイノベーションは生み出せる。

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

このライターの他の記事