だれかに話したくなる本の話

『定価のない本』門井慶喜著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

直木賞受賞作の「銀河鉄道の父」をとても気に入ったので、
次の新刊を手に取りました。二冊目の読破です。
創作なのに時代を感じさせる作風は、著者独特のものでしょう。
心理面にあまり踏み込まないので、自分の趣味と少しずれている
感じがありましたが、ストーリー性重視のかたは気に入るかもですね。

定価のない本とは、稀覯本のことです。
そういう古書の知識はビブリア古書堂の事件手帖でずいぶんと教わりました。
だから、ちょっと知ったかぶりになれて、読み進めるのが嬉しくなります。

プロローグとエピローグは現代ですが、本篇は第二次世界大戦直後の
上野の神保町が舞台です。主人公は琴岡庄治。
琴岡玄武堂の屋号で、実店舗を持たないリスト売りの古書店です。
しかも取り扱うのはただの古書ではなく、古典籍と呼ばれる明治より前の
和装本の専門書店なのです。

そんな個性のかたまりみたいな琴岡が、懇意にしていた後輩の芳松の
死の知らせを受けるところから物語が始まります。
死因は圧死。倉庫の中で、本棚に保管していた本が三方向から崩れ、
大量の本の下敷きになって亡くなったのです。
妻のタカが本に埋もれた芳松を見つけ、自分一人ではどうにもならずに
慌てて琴岡を呼びに行ったのです。

なぜこんなことに。なぜこんなにも大量の本が。
誰の注文で、いったい何が関係しているのか。

琴岡は、芳松の死をどこか不審に思い、調べ始めます。
その直後、倉庫の中でいきなり誰かに襲われた挙句、GHQのアメリカ人が
手助けに出てきます。そこから、物語はどんどんとあらぬ方向へ走り出します。

ミステリー部分が物語の推進力のようですが、
古典籍と呼ばれる歴史のある書物との関りや、GHQから連想される戦争物の
残酷な要素もあって、読んでいる途中は的が絞れなくなりました。
読後、あまり深読みや世界観に浸らずに、起きることにただついていけばいいと
いうことが分かりましたが、行間は少なめのように思います。

それぞれの要素の掘り下げは深くないので、まあ、気楽に楽しむ一冊ですよ。

(レビュー:たけぞう

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定価のない本

定価のない本

直木賞作家がすべての愛書家に贈る長編ミステリ。

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