小説の賞として最も有名な“直木賞”を受賞すると、そうでない場合と比べて、作家としての生涯収入にどれほどの差が出るかご存知だろうか?
その額、約2億円。受賞によって原稿料や、講演、その他露出の際のギャラが上がる結果、それほどの違いになるそうだ。
では、デビューして10年、処女作以外はすべて初版で終わっている“売れない小説家”の生活はどうかというと、どうやら華やかさとは無縁のようだ。
本作、『チッチと子』の主人公・青田耕平は“次にブレイクする”と言われ続けて10年、ブレイクどころか出した本はすべて初版で止まってしまっているという、まさしく売れない小説家。5年前に妻を不可解な事故で亡くしたため、小学4年生の一人息子・カケルとの二人暮らしだ。
日に日に成長していくカケルのためにも、と執筆に励む耕平だが、担当編集者から初版の部数が減らされたことを聞かされたり、仕事を依頼してくれる出版社が徐々に減っていく現実をつきつけられて、自分と家族の今後にほとんど恐怖に近い不安を抱いたり、同時期にデビューした作家の成長に嫉妬したりと、現実は全くといっていいほどうまくはいかない。
このあたりの日常のシーンや軽妙な会話、家族の絆などを描かせたら石田衣良氏は天下一品。物語が進むにつれて深まってくる妻の事故死の謎など、初めから終わりまで読者をひきつける構成の巧みさはこの作品でも健在だ。
しかし、石田衣良氏クラスの作家なら物語が面白いのは当たり前。
それよりも、本書に散りばめられている作家という職業についての描写の方が、個人的にはずっと刺激的だった。
小説家という肩書を持つ人間が、どんなサイクルで仕事をしていて、どれくらいの量の原稿を書いて、幾らの収入を得ているのか、ということはもちろん、交友関係や文学賞選考の仕組み、執筆の進め方etc…。ここまで書かれると、小説家の生活を伝えることが本作自体のテーマであるような気がしてくるほどだ。
最後に、本書を読んでいると、芥川賞・直木賞が作家にとってどれほどの重さを持つかがよくわかる(作中では芥山賞・直本賞、となっているが)。
冒頭にも書いたとおり、それらの文学賞を受賞することは、作家としての収入増に直結するからだ。
受賞する者としない者。
フィクションとはいえ、作家の間の“格差”が悩ましい一冊だ。
(新刊JP編集部/山田洋介)
◆『チッチと子』
著者:石田衣良
出版社:毎日新聞社
定価(税込):1575円
発売中
石田衣良の最新作は、小説家の生活が丸ごとわかる物語!
[2009/11/09 配信]










