BOOK REVIEW書評

子育てをする親であれば、我が子によりよい教育を受けさせたいと願うのは自然だろう。

しかし、同時に「よりよい教育とは何か?」とは、様々な要素をはらんだ答えの出しにくい難問でもある。

たとえば、「子どもを塾に行かせるべきか、家庭学習で勉強するクセづけをする方がいいのか」という選択は、基本的に夫婦それぞれの実体験以外の手がかりがない。また、「私立か公立か」は、日本の公立教育をどう評価するかという問題に行き着く。こうしたトピックについて客観性のある考えを持っている親は、あまり多くはないはずだ。

■30代で「ベテラン」と呼ばれる 教育の現場で起こっている「異変」

本書は、2020年教育改革を控え、日本の教育の過渡期である今、親が感じやすい疑問について、その実態を解説している。

たとえば、「子どもの進学先を私立にするか公立にするか」で悩む親にとっては、公立高校教師の指導力低下を指摘する声には過敏にならざるを得ない。いじめや教員による不祥事もあり、社会全体として学校への信頼が揺らいでいると感じる人は少なくないだろう。

この問題について、著者であり元衆議院議員として教育問題に取り組んだ石井としろう氏は、学校を取り巻く環境の変化が根本にあると指摘する。

まず知っておくべきは、学校の現場が教師の入れ替わり時期に差しかかっている点だ。
今の教員の年齢構成は50代が全体の約40%。この層はあと10年ほどでごっそり抜けることになる。この一斉退職に備えて、今20代の若い教員の採用が増えているのだ。

それもあって、20代で採用された教員が、30代で「ベテラン」と呼ばれてしまう状況が生まれつつある。十分な経験を積む前に一人前として頼りにされてしまう教育現場の現実は、一般企業とは隔絶の感がある。

社会人経験を積んだ親からすれば、大学を出て間もない若手教員が頼りなく見える場面があるのは確かだろう。教師の若返りは、子どもの通う学校への親の不安や不満の一因として挙げられる。

また、石井氏によると、「学校外の教育力が上がったこと」が相対的に学校の教育力を押し下げている一面もあるようだ。

昔は学校にしかなかったコンピュータや顕微鏡も、今では一般的な家庭で手に入り、知らないことは教師に聞かずともネットで調べればいい。時事問題や歴史をわかりやすく解説するテレビ番組も増えた。学校以外の環境が進化したことで、学校や教師の質が落ちたように見える、ということも言えるのだ。



ただでさえ悩みやすい子どもの教育方針に、教育改革が追い打ちをかける。過渡期にある日本の教育がどのように変化するのか、そして学校はどう変わり、受験ではどんな能力が必要とされるのか。本書ではそれらの問いに一つ一つ答えを出していく。

子どもだけでなく親にとっても教育の機会は一度きりである。将来、「こうしてばよかった」と後悔しないよう、本書から日本教育の現在地と未来を読み取ってみてはいかがだろう。

(新刊JP編集部)

INTERVIEWインタビュー

――『モヤモヤが一気に解決! 親が知っておきたい教育の疑問31』について。石井さんは衆議院議員時代から「学び」や「教育」を活動の軸にされてきました。特に教育について、今石井さんがお持ちの問題意識についてお聞きしたいです。

石井:
政治家が語る「教育」って、無償化とかの「教育費」の問題とか、「愛国心」や「道徳」、そして「ジェンダー」と言うような、それぞれとても大切だけど、そもそもの「教育の根幹」が議論されることが実はあまりないんですよね。あったとしてもサワリだけでしかない。

一方で、それほど目立たぬところで、実はその大切な「教育の根幹」に関する議論はされていて、それが実は大きな変化として教育の転機を迎えている。その本質を、すべての親が知っておくべきではないか、そうでないと不安が膨らむばかりだなというのが、いまの問題意識です。それで、この本を書くことに繋がりました。

――石井さんもお子さんをお持ちとのことですが、子育てや子どもの教育について気をつけている点がありましたら教えていただきたいです。

石井:
いきなりそうきますか(汗)。自分で教育の本を書いていて、その書いている内容に自分自身が戒められているような気分です!

親として、何が正解なのかわからないのは、僕も全く同じです。その中で気をつけているのは、子どもの気持ちを大切にすること。こちらが何かをさせたいと思っても子どものやる気が起きなかったら、それはどうしようもない。どうやって気持ちを引きつけるか、その工夫をあの手この手を駆使しながら、向き合っています。

そして、子どもが「どうしたいか」を引き出すこと。うちの子どもはまだ4歳ですが、「将来の夢は何?」と聞いたら答えてくれるようになってくれました。「じゃ、その夢に向かうために、頑張ろうね!」みたいな言い方で、モチベーションが引き出せるかなあと。

――「海外には学校に事務専門の職員がいる」などは驚きでした。この他にも海外と日本で教育現場にどのような違いがありますか?

石井:
これまで、海外視察に行く度に、色々な学校を見て回りましたが、びっくりするような例をたくさん見てきました。

例えばシンガポールでは、校区に生徒が多すぎて、「二部制」になっているんです。第一部は午前8時から午後1時まで。第二部は午後2時から7時まで、というような具合に。

韓国でも面白い例がありました。放課後の教室が、補修教室だけでなく、学期教室や絵画教室などに使われているのですね。英語の教室もあったかな。

また、日本みたいに放課後の教室清掃を生徒に行わせている国は、あまりなかったように思いますね。これが日本の特徴のひとつかもしれません。どの国でも、思考錯誤しながら、子どもたちにベストの教育を施そうとしている点は、どこに言っても共通していますね。

――教育関連については、教師の不祥事やいじめ、ブラック部活など、ネガティブなニュースが目立ちます。こうした情報を伝えるメディアの側に何か言いたいことはありますか?

石井:
いえいえ。インプレッシブな出来事を伝えるのがニュースですから、それはやむを得ないことでしょう。

それよりも、必ずしも新聞には教育のネガティブな側面ばかりを書いているとは思いませんよ。確かに、1面や社会面は、ネガティブで印象的なニュースに溢れていますが、落ち着いて新聞をめくっていると、「教育面」にはとても前向きな、各地の取り組みがけっこう頻繁に取り上げられています。

情報を伝える側だけでなく、受けとめる側のニュースのとらえ方、心持ちをちょっと変えるだけでも、受け止め方は変わりますよ。

――教育改革のただ中ということで、親としてはどう変わるのか知っておきたいところです。教育改革以後の学校教育の在り方についてお話をうかがえればと思います。

石井:
ここ数年は、混乱期、移行期になるのかもしれません。例えば従来のセンター試験が廃止されますよね。そして、新しいテストが始まろうとしている。

今までは、唯一の正解を書かせるテストでしたから、マルかバツか、とてもクリアーですし単純でした。しかしこれからは、必ずしも正解が唯一ではない問いも出てくるでしょう。そうなると、評価基準が不明確だ、不平等だ、フェアでない、ということが必ず保護者側から出てくるはずです。

ただ、ここで思い出してもらいたいのが、これからの時代は、唯一の正解を追い求めることだけで生きていける時代ではないこと、そして新しい教育につくっていくために、みんなで思考錯誤していかねばならないということ。

だから、当然、混乱することは織り込み済みです。その混乱をけしからんと言って脱皮を拒むのでは、新しい教育改革を乗り越えられるはずはありません。

そう考えると、子どもが教育改革に順応しようとしたときに、親がその混乱が予想される転換期を迎える心構えがないと、親自身が障害とさえなってしまうリスクがあることを、自覚しておいた方がいいと思います。

――また石井さんはこの教育改革をどのように評価していますか。

石井:
基本的に、とても評価していますよ。ただ、この改革期を迎えるにあたり、やはり未知なる世界にみんなで入っていこうとするわけですから、とてもわくわくする部分と、不安な気持ちも正直あります。

果たして、思い描くような成果が得られるのか、旗振り役だけが一生懸命で、子どもや親たちも一緒に歩んでもらえなければ、元のさやにおさまっちゃうだけで終わると思います。その意味でも、僕の本(でなくてもいいですが)を通じて、これからの教育について考えてもらいたいですね。

――そして気になるのはやはり子どもの受験です。今回の教育改革で受験にどんな変化が起こるのでしょうか。

石井:
本の中でも触れましたが、従来型の受験スタイルから、AO的な枠は間違いなく増えて行くはずです。そのことはつまり、所定の点数をとれば受験に合格する、という時代から、目的意識を自分で持てる子どもが合格するということへの変化とも言えます。

――最後になりますが、教育について不安や悩みを抱える親の方々に向けてメッセージをお願いいたします。

石井:
不安や悩みがある方が健全だと思います。その不安や悩みは、恥ずかしいことでも情けないことでもありません。そうした思いを前向きに発散し、子どもやいろいろな人と共有しながら、格闘しながら前に進むことにこそ、価値があると思うし、その姿は子どもにも素晴らしい影響があると思います。

不安や悩みを明るくぶっちゃけ合える、そんな国にしていきたいですね!

(新刊JP編集部)

BOOK DATA書籍情報

プロフィール

石井 としろう

1971年兵庫県出身、元衆議院議員。早稲田高校、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、神戸製鋼所に入社。阪神淡路大震災のボランティア活動を機に、幼少期から憧れていた政治家を目指すべく会社を退職し渡米。99年、ペンシルバニア大学大学院で公共政策課程を修了(Master of Governmental Administration)。帰国後、日本総合研究所創発戦略センター、参議院議員鈴木寛の政策秘書を経て、2009年、衆議院議員に当選。文部科学委員として教育行政に携わる。12年の総選挙で惨敗。政治家として一度立ち止まり、自らの歩みを振り返る中で「一人一人の社会を良くしたいという思いを活かしたい。そういう民主主義の世の中をつくりたい」と確信。「みんなのまちづくりプロジェクト」を立ち上げ、市民社会からの民主主義の再生と、シチズンシップ教育に積極的に取り組んでいる。ヤフージャパン政策企画部フェロー、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。家族旅行が大好きな一児の父。著書に『古典に学ぶ民主主義の処方箋』(游学社)。

目次

  1. 第1章 学校って信頼していいの?「学校と子育て」
  2. 第2章 変化する社会で、子どもを育てるには?「社会と子育て」
  3. 第3章 そもそも日本の教育の仕組みって、どうなってるの?「公教育と私たち」
  4. 第4章 ともに学校をつくろう。「みんなで子どもを育てる社会」
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