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本が好きっ! 鬼頭あゆみのインタビューラジオ

『本が好きっ!』は、話題の本の著者をゲストに招いてお送りするインタビュー番組です。本についてはもちろん、著者の人となりや、成功体験、考え方、ビジネスのちょっとした気づきやなど、聞いて役立つトークをたっぷりお届けします。

ゲスト: アメリカ現代政治専門家 前嶋和弘さん

『共謀 トランプとロシアをつなぐ黒い人脈とカネ』

前嶋和弘さん、鬼頭あゆみの写真

「点」のように散らばった真実が「線」へ……「面」となればトランプの弾劾も?

鬼頭: 今回は「共謀 トランプとロシアをつなぐ黒い人脈とカネ」についてご解説頂きたいと思います。普段は上智大学の教授を務められている前嶋さんですが、主にどんな分野を専門とされているんですか?

前嶋: 私はアメリカ政治を専門としていますね。授業の中では、アメリカ政治の現状や問題等を中心に話しています。今回ご紹介する本には、その「問題」にあたる部分、つまりこれまで噂されてきたトランプとロシアの関係を、ジャーナリストの方が事細かに調査し、掘り起こしていった記録が書かれています。

鬼頭: 本を開いてみると、スパイ小説のような構成になっていて、非常に読み応えがありました。今回書かれている内容というのは全て鵜呑みにしてしまっていいものなんでしょうか?

前嶋: うーん……というところなんですよね。ただ、「点」のように散らばっていた真実が、調査や考察が進むにつれて、「線」になってきているような気はします。もし「面」になれば、トランプさんの弾劾が進んでいく事になるかと思いますが、今はまだそのような動きはありませんね。それは、この本に書いてあることがまだ真実だと証明されていないからです。ただ、極めて「本当らしい話」ではあるように思いますね。

鬼頭: 本当に細かいところまで書かれていますもんね。真実味のある事例もたくさん……。

前嶋: よくここまで調査できたなぁと思いますよね。だからこそ、1つ1つの事例を見ていく中で、間違いなく「黒い人脈」というものが存在していて、見えないところで何かが動いているように思えてくる本なんだと思います。

前嶋和弘さんの写真

トランプ「賛成派」と「反対派」:南北戦争以来の最大の分断

鬼頭: トランプさんとロシアの共謀関係について記されている「スティール報告」について、この文書を作ったスティールさんという人物について少し教えてください。

前嶋: 彼はもともとイギリス政府が長い間存在を否定してきた情報機関「MI6(エムアイシックス)」の一員で、スパイとして活動していましたが、今はもう脱退していています。元情報機関のスパイですから、当然、機密文書を扱う事はお手の物なんですよね。そして、この「スティール文書」というのが、この本の1つの核になっています。

鬼頭: スティール文書の内容、つまりトランプさんにかかっている疑惑を知った上で、なおトランプさんが大統領をやっているという現状を、アメリカ市民はどのように捉えているんでしょうか?

前嶋: そこなんですよね。簡単に言うと、この本って「トランプ政権がいかにロシア側から応援されて生まれたのか」という話が書かれているんです。だからこの本を読むことで、トランプさんに疑念を抱く人は多いはずですよね。でも、近年のアメリカはとても不思議な状況になっていて、民主党を支持する層と共和党を支持する層とに二分されれています。この状況は30年ほど前からゆっくりと始まって、今が分断のピーク。南北戦争のころに並ぶ最大の分断といえます。なので、民主党支持の人にとってみれば、「この本はトランプの問題を見事に暴いている」という見方になります。逆にトランプを応援している共和党支持者にとっては、「この本は嘘のニュースばかりを集めたフェイクブックだ」となる訳です。

前嶋和弘さん、鬼頭あゆみの写真

ロシア政府が握っているかもしれないトランプ政権の秘密

鬼頭: ではこの本に直接影響を受けそうな層は……?

前嶋: この本に揺さぶられるとすれば民主党支持者の方が多いと思いますね。ちょうど今年、下院の全員と、上院の3分の1が入れ代わる大きな議会選挙が行われるので、この選挙に向けて、民主党支持者はトランプ反対運動を続けています。そういう意味では今後のアメリカ政治に影響をもたらす本と言えるかもしれません。

鬼頭: この本を読むと、全てが真実らしく見えてきてしまうんですけど、トランプさんの支持者からすれば、これは全くのフェイクだという事で問題にしないんですね。

前嶋: そうですね。例えば、トランプさんがオバマさんとロシアのホテルに泊まった際に、オバマさんが使っていたベッドをトランプさんが故意的に汚したという疑惑の真偽について、ロシアがその一部始終をビデオに撮っている、という内容がスティール文書の中に記されています。ようするに、トランプさんにとって生き恥を晒す事になるような秘密をロシアが握っているという事なんですが、それも真実と見るか、フェイクと見るかに分かれるところなんですよね。

鬼頭: なるほど。では、もしトランプさんがロシアにそのような秘密を握られている事が発覚してしまったら、弾劾となる可能性が出てくるという事なんですね。

前嶋: 今の時点で弾劾となってもおかしくないと考える方は多いんですが、アメリカの議会に注目してみると、上院内の民主党・共和党のバランスはとれているんですが、下院の方は実は共和党派の方が少しリードしているので、弾劾が進まないんです。どれだけロシア疑惑の捜査が進んでも、トランプさんを応援する人の多い下院の動きが悪い以上、どうにもならないんですね。

プロフィール

著者:ルーク・ハーディング Luke Harding

イギリスのジャーナリスト。作家。『ガーディアン』紙海外特派員。オックスフォード大学卒。2007年から2011年まで、モスクワ支局長を務めたのち、ロシア政府から国外追放処分を受けた。これまで5冊のノンフィクションを執筆、30ヵ国に翻訳されている。邦訳された著書に『ウィキリークス アサンジの戦争』『スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実』がある。

解説:前嶋和弘

1965年生まれ。上智大学総合グローバル学部教授(2014年4月から)。上智大学外国語学部英語学科卒業後、新聞記者を経て1994年渡米。ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。敬和学園大学、文教大学を経て現職。専攻はアメリカ現代政治。

パーソナリティプロフィール

鬼頭あゆみ

1976年、愛知県生まれ。フリーアナウンサー。活動拠点を東京に移す前は、東海テレビ放送のアナウンサーとして、主にニュース番組、プロ野球番組などを担当。フリーに転身後は、TBS「サンデーモーニング」やNHK「探検ロマン世界遺産」などに出演。

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