だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1251回 「教育問題はなぜまちがって語られるのか?―「わかったつもり」からの脱却 (どう考える?ニッポンの教育問題)」

「子どもの自殺原因の主な理由はいじめ」「親子関係は希薄化している」「昔の教師はみんな優秀だった」。誰もが語るこんな教育問題は本当にそうなのか?出口のない水掛け論や居酒屋談義があふれる教育論に終止符を打ち、きちんと教育問題を考えるために必要な「情報の選び方」を見極めるための一冊です。

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“教育問題”の『モンダイ』って?

● 著者について 広田 照幸(ひろた・てるゆき)さん  南山大学助教授、東京大学助教授・教授を経て、現在は日本大学文理学部教授。 伊藤 茂樹(いとう・しげき)さん  聖徳学園岐阜教育大学講師を経て、現在、駒澤大学総合教育研究部教授を務めております。 お二方とも、教育に関する著書を数多く出版しており、以前に共著をされたこともあります。

● この本のテーマは!? “教育問題”の『モンダイ』って?

世の中にあふれている、「教育問題」に関する議論は、しばしば大きな間違いや歪みを孕んでいると著者はいいます。その間違いや、歪みを孕んだ議論を元にして、解決策や対処法が決められていくと、事態はより悪化してしまうリスクがあります。

本書は、教育問題の“ホントのところ”を見極める視点や、どうすればより正確な情報を汲み取ることができるのか。正しい議論や解決策を模索していけるのか。といった内容を扱います。「教育問題が孕んでいるモンダイと実態」+「情報リテラシー」が理解できる一冊です。

「子どもの自殺原因の主な理由はいじめだ!」 はウソ?

警視庁が2007年にまとめた「中高生の自殺の原因・動機」のデータです。 「いじめ」……………………6人 「病気の悩みや影響」………63人 対象:248人 ※データは本書からの抜粋です。

もちろん自殺自体は痛ましいことですし、軽視することはできません。しかし、この統計を考えると、世間のイメージからは大きく離れているような気がしませんか?

ここに、「社会的に問題とされている“問題”」の本質があります。メディアが広く「問題だ」と取り上げたから、世間の人々も「問題だ」と認知したのです。もし、その段階で情報を発信する側の思い込みやイメージで、歪んだり偏ったりした情報を元にして、教育問題を論じてしまうと大変なことになってしまいます。教育問題を適切に捉えるためには、私たちが普段触れている「教育問題」の歪みや偏りについて、より知って、考えていく必要があるのです。

こんな事例が本の中で取り上げられています。

近年、凶悪な殺人事件や、悲惨な幼児虐待による死亡事件が目につきますが、「事件の量」が増えているわけではないのに、「報道の量」が増えてきているということが明らかにされています。

「最近は、凶悪な事件が増えている」のではなく、正確には、「最近は、凶悪な事件のニュースをたくさん耳にする」なのです。「少年の凶悪犯罪が増えているかどうか」を検証したデータでも、実際は増えているとは言えず、ここ2、30年は横ばいで、1950〜60年代と比べるとむしろ減っているそうです。

教育問題で解決策を短絡的に考えてしまうと……大変!!

解決策を考える上でのポイントのひとつに「副作用に目を配る」というものがあります。ここでは「学校評価」の問題を例に挙げています。 2000年前後から、世間では学校評価の公開を求める声が高まりました。内容は「学校が自己点検・自己評価した結果をHPなどで広く公開せよ」といったものです。

学校評価の公開→ 教育の質がわかり、地域の保護者が把握できる → 学校選択の有益な情報になる

このように考えられましたが、結果はそうなりませんでした。実際は、自己点検・自己評価が、いい点ばかりを取り上げる形式的なものになってしまったのです。

学校評価の公開 → 自己点検・自己評価の形骸化→ 実情がわからない情報が 公開される

このようになってしまいました。わざわざ悪い点を取り上げて、入学者を減らしたい学校なんてないので、当然の結果ともいえます。

そこで今度は、「第三者による評価を」という声が高まりました。

第三者による評価 → 客観的で厳しい評価になる → 保護者が実情を把握できる

このように期待され、2010年初頭にこの改革案が検討されていました。 しかし、これが導入されたらどうなるか。想像つきませんか?

第三者では、結局、その学校や学校がある地域を知らない人たちなのですから、視察にくるときにだけ、いいイメージを作っておくという見かけだけを立派にしておく形式主義になることが想定されるでしょう。また、すべての学校が「実は問題があって……」と自ら吐露するかどうかも確信がもてません。

つまり、このようになる可能性が指摘されるわけです。

第三者による評価 → 形式主義や取り繕いの発生 → 個々の学校教育活動が歪む

本書には、「教育問題」を論じるにおいて、情報に左右されない目と、問題を考える上で注意するべき点がいくつも挙げられています。「教育問題ってなんだろう?」そんな疑問を持ちはじめた学生さんから、「もっと考えてみたい」と感じている大人の方まで、教育に関心のあるすべての人に読んでいただきたい1冊です! この続きは新刊ラジオでお聴き下さい!(再生する)
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