だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1294回 「岡本太郎という思想」

「太陽の塔」「明日の神話」など数多くの作品が今でも残る、稀代の芸術家・岡本太郎。哲学・社会学・精神病理学・民俗学などをその身に取り込んだ岡本太郎の思想を、彼自信の言葉から読みほどき、“これからを生きる岡本太郎”との幻の対話を試みた一冊です。

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岡本太郎の思想を読み解く

● 著者について 赤坂憲雄さんは、日本の民俗学者。東北芸術工科大学教授、同大学東北文化研究センター所長、福島県立博物館館長などを務めている方です。 岡本太郎という人は、縄文土器の芸術性の高さに大きな衝撃を受け、縄文文化や、東北、沖縄などの文化と伝統を大きく評価した人物です。民俗学者である赤坂憲雄さんが岡本太郎に魅せられたのは、芸術だけでなく、民俗学での意志の共感もあったからなのかもしれません。

● この本のテーマ 岡本太郎の思想を読み解く

岡本太郎は、「芸術は爆発だ!」「法隆寺は焼けてけっこう」といった強烈な言動に加え、「太陽の塔」や「明日の神話」に代表されるような、アバンギャルドで、強いエネルギーを持った作品で、芸術界のみならず、世界に名を知らしめてきました。 本書は、芸術家としての岡本太郎ではなく、彼が残した言葉や文章から見つけ出した岡本太郎の思想について掘り下げた本です。

岡本太郎が書いた文章には、度々「生活」という言葉が登場します。エッセイや著書の中にも、「生活的」「生活感」「生活様式」といった表現が出てきます。

しかし、彼の作品を前にして、私たちが「生活」の匂いを感じたり、生活感を連想することは少ないのではないでしょうか。むしろ前衛的で抽象的な世界を感じるはずです。 そこには一体、どのような意図があるのでしょうか?

文中から一部を引用しましょう。 岡本太郎は、「なぜ芸術はあるのか」 という命題に対して、「芸術は、けっきょく生活そのものの問題だ」 と言いました。そして、こう続けます。 芸術は、ちょうど毎日の食べ物と同じように、人間の生命にとって欠くことのできない、絶対な必要物、むしろ生きることそのものだと思います。 しかし、何かそうでないように扱われている。そこに現代的な錯誤、ゆがみがあり、またそこから今日の生活の虚しさ、そして、それをまた反映した今日の芸術の空虚も出てくるのです。 すべての人が現在、瞬間瞬間の生きがい、自信を持たなければいけない、その喜びが芸術であり、表現されたものが芸術なのです。

――著書『今日の芸術』より。

岡本太郎を読み解くためのキーワード

岡本太郎が言う「生活」とは、一般的な意味の―家族生活、労働、消費行動といった―「生活」ではありません。彼が言っている「生活」とは、「生命」もしくは「生きる」という意味です。

著者の赤坂憲雄さんはこのように読み取っています。 太郎にとって、芸術とは生活の中に打ち開かれる、むしろ生活そのものであるべき「何か」だった。近代社会にあっては、人間たちはみな部品化され、生きる目的や全体性を見失い、本来的な生活から遠ざけられ、その自覚さえ失っている。そうした、失われた自己を回復し、「自分は全人間である」ということを象徴的に表すこと。そこに今日の芸術の役割がある。

人が生きている中では、その瞬間、瞬間に生まれてくる感情があります。その生まれてきた感情を、自分の中で生まれたものとして自信を持って受け止めて、表現すること。それがそのまま「芸術」で、また、それを表現したものも「芸術」なんだということではないでしょうか。

これが正しいかどうかはわかりませんが、「楽しい」と思ったことを受けて、笑ったり することも岡本太郎が言うところの「生活=生きる」ということであり、「芸術」なのかも しれません。

岡本太郎は「芸術とは、うまくあってはならない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。」という宣言をしたことがあります。手先の巧さ、美しさ、心地よさは、芸術の本質とは全く関係がないと言ったわけです。 当時、この言葉は芸術界に衝撃を与えました。 「生活=生きる」ことは、技術的に美しく見せる必要なんかないということが言いたかったのかもしれません。実際、岡本太郎の作品は、美しさや心地よさよりも、剥き出しの感情のような荒々しさや、不協和音が内包されています。ですが、同時に見る者を激しく引きつけ圧倒するパワーがあります。それは岡本太郎の思想や哲学がありのままそこにぶつかった結果なのかもしれません。

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岡本太郎という思想

岡本太郎という思想

岡本太郎という思想

「太陽の塔」「明日の神話」など数多くの作品が今でも残る、稀代の芸術家・岡本太郎。哲学・社会学・精神病理学・民俗学などをその身に取り込んだ岡本太郎の思想を、彼自信の言葉から読みほどき、“これからを生きる岡本太郎”との幻の対話を試みた一冊です。