だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1329回 「AKB48の経済学」

AKB48を経済学の観点から検証した異色の一冊。「AKB48」と「おニャン子クラブ」「モーニング娘。」のビジネスモデルはどこが違うのか?AKB48と相撲業界のシステムは似ている?アイドルは不況のときにこそ輝くもの?今や国民的アイドルに成長した「AKB48」を題材に日本経済を読み解く!

新刊ラジオを購読する方はこちら

読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました

AKB48のよくできた収益システム

みなさんの中で一世を風靡したアイドルと言えば誰でしょうか? 今日の新刊ラジオメンバーでは、矢島さんは「モーニング娘。」、担当ディレクターは「おニャン子クラブ」の直撃世代でした。

そして、最近のアイドルといえば、やはり「AKB48」でしょう。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの秋元康プロデュース。一人勝ち状態といっても過言ではありません。

今回は、経済学者が「AKB48」のビジネスモデルを語った本を紹介します。

● 著者について 田中秀臣さんは、上武大学ビジネス情報学部教授。社会資本整備審議会委員。専門は経済思想史・日本経済論で「リフレ派」経済学の代表的な論客として、各メディアで積極的な発言を続けています。2004年に出版された『昭和恐慌の研究』で、第47回日経・経済図書文化賞を受賞されています。

● この本のテーマ 「AKB48を題材にした気軽に読める、肩の凝らない経済本」

AKB48から日本経済を読み解き、成功の秘密に迫りながら、そのビジネスモデルを検証しています。話題は身近で、「AKB48」と「おニャン子クラブ」「モーニング娘。」のビジネスモデルの違い、AKB48がもたらす「心の消費」、AKB48と相撲業界の共通点から日本型雇用システムとの関係を検証するなど、面白く読みやすい内容です。

「AKB48」を、「デフレカルチャー」「嫌消費」「心の消費行為」という軸から語っているところを紹介しましょう。 「デフレカルチャー」というのは、デフレと経済の停滞によってもたらされた文化活動のことです。簡単に言うと、お金がないからこそ生まれてきた文化のこと。実はこの「デフレカルチャー」が、AKB48が売れた要因のひとつではないか、と田中さんは論じています。キーワードは「嫌消費」と「心の消費行為」です。

「嫌消費」とは、不況により、消費者がお金を使うことを嫌った状態です。この状態になると、それまではお金を使って外へと向いていた消費行動が、ネットを介した交流、つまり「心の消費行為」に傾向していきます。 「心の消費行為」とは、ツイッター、ブログ、SNSなどを使って、自分の心の中を表現し、自ら生産しながら、なおかつ自分で消費していく行為です。周りの人間は、それを読み手として消費しつつ、リンクしたり、コミットしていきます。

重要なのは、生産も消費も無料で、金銭の授受を伴わないということです。インターネットは初期投資だけしてしまえば、あとはいくら使っても費用は定額です。経済用語でいうところの「限界費用」。つまり、生産量に比例したコストの増加がゼロに等しい状態で消費が行えるのです。これが「心の消費行為」です。

秋葉原に集まるオタク系の若者をコアなファンに持つAKB48は、まさにそういった「デフレカルチャー」や「心の消費行為」の中心にいます。AKBは研究生や関連グループを含めると100名以上のメンバーがいて、かなりの人数がそれぞれのブログを持っています。ファンの人たちはそのブログやツイッターを読んだりするだけでなく、彼女たちの発言を、自分のブログやツイッターで発信していきます。このようにTV出演や劇場公演といった表の生産と消費とは別個に、ファンとともに100人以上のメンバーが、水面下で「心の消費ネットワーク」を構築しているのです。

金銭の受容を伴わない「心の消費」、いわば「デフレ消費」にマッチしたアイドル。それが爆発的な人気に大きな影響を与えたのではないでしょうか。

「AKB48」と「大相撲」の共通点

一見、全然違うものですが、システムが非常に似ています。 まず前提知識として、AKB48のメンバーは、それぞれ所属事務所が違います。個々人の芸能活動は各事務所がマネジメントを行っています。また、秋葉原での公演やAKB全体としての活動は、AKSという団体が統括しています。

相撲においても、力士たちは各相撲部屋に所属しているので、マネジメントは部屋が行っています。しかし巡業があるときは、日本相撲協会が統括しています。 つまり、「AKB48全体の活動=本場所・巡業」で、「メンバー個人の活動=相撲部屋での活動」ということです。

ほかにもあります。 AKBの「総選挙」という旧来のアイドルにはなかった順位付けのシステムは、いわば相撲における「番付」です。関係者の感覚で順位が決まるわけではなく、誰が見ても一目瞭然の公平なシステムです。

さらに、「入り口の透明性」です。 「アイドルのなり方」とは、よくわからないものですが、AKBは「公開オーディション」により選ばれます。相撲でいえば、「新弟子検査」というわかりやすい入り口です。相撲では地方巡業でファンが力士に会いに行けるという機会を多く作っています。AKBのコンセプト「会いに行ける」と同じです。

「AKB48の経済学」はこのように経済学の視点から、AKB48を検証しています。 肩肘張らずに読めるけれど、面白く、興味深い検証がされています。経済に関心がなくとも、AKB48を通して楽しく経済を学べる一冊です。

ラジオを聴く

AKB48の経済学

よくできておる・・・。

AKB48の経済学

AKB48の経済学

AKB48を経済学の観点から検証した異色の一冊。「AKB48」と「おニャン子クラブ」「モーニング娘。」のビジネスモデルはどこが違うのか?AKB48と相撲業界のシステムは似ている?アイドルは不況のときにこそ輝くもの?今や国民的アイドルに成長した「AKB48」を題材に日本経済を読み解く!