だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1360回 「世界中のどんな言葉よりも、あなたの一歩が勇気をくれた」

「東京マラソン」を舞台に、綿密な取材を元にした10人のランナーたちの物語。この本に登場するランナーたちは、皆さまざまな人生を歩み、いろいろな思いを抱えて走っています。盲目の金メダリスト、摂食障害を克服した新米ママ、病床の母に力を与えたいと願う娘、流産を乗り越え授かった娘のために走る父親、、、

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東京マラソンの舞台裏

2月27日、東京マラソン2011が開催されました。 リスナーさんで参加された方はいらっしゃいますか??

マラソンは個人競技ということもあり、孤独で、自分との戦いというようなイメージがありますが、マラソンランナーは色んな想いを抱えて走っている人が多く、それぞれのストーリーがあるのだそうです。 それを、「世界中のどんな言葉よりも、あなたの一歩が勇気をくれた」(経済界/刊)が教えてくれました。

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● 著者について 中村聡宏さんは、1973年生まれ、慶應義塾大学法学部出身の作家さんです。 2000年のシドニーオリンピック取材を期に執筆活動をはじめ、現在はフリーのライターとして、人、スポーツ、マネジメントをキーワードに取材、執筆活動を続けています。

今回、「マラソン」をテーマにした本を書くきっかけとなったのは、中村さん自身もマラソンに熱中しているからに他なりません。最初はダイエット目的で走り始めたそうなんですが、ランニングの奥深さを知ってからというものすっかりハマってしまい、東京マラソン、かすみがうらマラソン、サロマ湖ウルトラマラソン(100キロマラソン)などに出場し、好タイムで完走しています。 ※フルマラソンのベスト記録は、2時間52分37秒だそうです!

なぜ、マラソンランナーは苦しいのに走るのか?

マラソンをする理由は人それぞれだと思います。 ダイエット、健康維持、自己鍛錬、趣味、ストレス解消いろいろありますね。 マラソンは個人競技なのでどこか孤独なイメージがありますが、著者の中村さんに言わせれば、マラソンは決して孤独なスポーツではないのだそうです。

駅伝や、マラソンの大会を思い出してみてください。 ただ走っているだけなのに、たくさんの人であふれています。

沿道で応援する観衆、家族、友人。 そして、ライバルとして共にゴールを目指すランナー。 また、レースの安全を守り、ランナーを支える大勢のボランティアたち。

そこには、人と人の繋がりの無数の輪が存在し、 それぞれストーリーがあることを、中村さんは取材を通して見つけたといいます。

本書は、10人の登場人物を取り上げて、マラソンランナーの“絆の物語”を紹介する内容となっています。 今日はその中からひとつ、「盲目の金メダリスト(パラリンピック)」が登場するストーリーをご紹介しましょう。

全盲ランナーと伴走者 絆のストーリー

ユーイチは34歳のときに、視力を完全に失った。

はじめて違和感を覚えたのは高校時代だった。夕方から夜にかけて暗くなってくると、視界がなくなった。不安は感じたが、そのうち治るだろうと思っていた。 しかし、医者からは「将来には視力がなくなる」と宣告された。

ユーイチがひとりで走れるのは、トレッドミル(※ランニングマシーンのこと)の上だけだ。手すりと左手をロープで結い、身体が左右にずれて床のベルトから落ちないよう注意しながら走る。

しかし、ロードを走る場合にはひとりでは走れない。 かならず伴走者が必要になる。

伴走が必要ということは、好きなときに好きなように走れないことでもある。 以前は福祉事務所を通じて伴走者を確保していた。だが、走力がついてくるにつれ、自分の走力に見合う伴走者を得るのも大変になった。

フルマラソンを2時間40分で走るユーイチの伴走は、その程度のタイムで余裕をもって走ることができるランナーでないと務まらない。 ユーイチは、ランニングクラブでの練習会に参加するようになり、そこで、ある程度、走力のあるランナーのなかから、有志に伴走をお願いするようになった。

見えないことに恐怖心を感じてしまうと、人は腕を振って走ることができなくなる。 だからユーイチは、以前は腕を振らずに走っていた。 しかし、これではスピードアップにも限界がある。 より早く走るために、腕を振って走る技術を体得した。 恐怖心との闘いだった。

全盲の金メダリストの支えとは?

思い切って腕を振るためには、「安全に走ることができる」という安心感が重要だ。 それゆえ、伴走者との信頼関係の絆がもっとも大切になる。 伴走者は、ユーイチにとっての目であり、カーナビである。 よく気づき、よく話してくれる伴走者が理想的だ。 いろいろな情報を話すことによって知らせ、盲人ランナーならではの危険を察知し、 伝えてくれる伴走者が左にいると、安心感を持って走ることができる。

ランニングクラブで出会い結婚した妻、ヨシコは、ユーイチにとって普段のジョグの伴走者であり、人生の伴走者でもある。 ヨシコは眼科に勤務しているため、徐々に視力を失っていき、悲しみにくれる患者たちを大勢診てきた。

一方、目が見えなくなってしまっても屈託ない明るい性格で他人を笑わせ、きれいなフォームで走り続けるユーイチの姿は輝いて見えたし、それがヨシコにとって驚きでもあった。 ユーイチからの猛アタックで、ふたりはつきあうようになり、そして、次第にパートナーとしての絆を深めていった。

日常の外出は、ヨシコがユーイチの手をつなぎ先導する。 階段やエスカレーター、細やかな段差や人の流れなどを知らせるために声をかけながら、ふたりは歩いていく。

どこの夫婦とも同じように、ふたりもケンカする。 「どんなケンカをしても、僕たちふたりは手をつないで帰るんです」

ユーイチがヨシコをどんなに怒らせたとしても、ヨシコはユーイチを置いて帰ることができない。ふたりは手を取り合って帰ることになる。

ヨシコは、ユーイチをもっとも深く理解する伴走者になった。

この本に登場するランナーたちは、皆さまざまな人生を歩み、いろいろな思いを抱えて走っています。盲目の金メダリスト、摂食障害を克服した新米ママ、病床の母に力を与えたいと願う娘、流産を乗り越え授かった娘のために走る父親など、、、、

10人の登場人物の走る姿や、彼らの生き様を通して、走ることについて何かを感じ、マラソンの魅力にも触れてみてはいかがでしょうか。

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世界中のどんな言葉よりも、あなたの一歩が勇気をくれた

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世界中のどんな言葉よりも、あなたの一歩が勇気をくれた

「東京マラソン」を舞台に、綿密な取材を元にした10人のランナーたちの物語。この本に登場するランナーたちは、皆さまざまな人生を歩み、いろいろな思いを抱えて走っています。盲目の金メダリスト、摂食障害を克服した新米ママ、病床の母に力を与えたいと願う娘、流産を乗り越え授かった娘のために走る父親、、、