だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1365回 「「経営」についてこれだけは知っておいて欲しいこと」

「経営」は、できる人にはできるし、できない人には逆立ちしてもできないもの。その分かれ目は、“経営のコツ”を呑み込んでいるかどうかにありました。本書は、経営の“急所”を捉え、実際に組織を動かす中で大切な思考法、役に立つ思考法を解説する内容です。ビジネススクールで学ぶ2年間分の智恵が、この1冊に凝縮されています。

新刊ラジオを購読する方はこちら

読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました

経営はできる人にしかできない

今はサラリーマンで使われている身だけど、いつかは独立して経営者になりたい! そんなことをぼんやり考えている方もいるのではないでしょうか。

「経営」というものは、できる人にはできるし、できない人には逆立ちしてもできないものだといいます。その分かれ目は、経営の“コツ”を呑み込んでいるかどうかにあるといいます。

「「経営」についてこれだけは知っておいて欲しいこと」(メトロポリタンプレス/刊)は、経営する上で外せない“コツ”を教えてくれる本です。

●著者について 中島孝志さんは、早稲田大学政治経済学部卒業。南カリフォルニア大学大学院修了。PHP研究所、東洋経済新報社を経て独立。現在は、キーマンネットワークを主催し、経営コンサルタント、経済評論家、ジャーナリスト、作家、出版、映画プロデューサー、大学・ビジネススクール講師など、多方面で活躍されている方です。

中島さんは、経営には「ここだけ押さえておけば間違いない!」という“急所”があるといいます。 ひとつ例え話をしますが、連邦準備制度理事会(FRB―アメリカ合衆国の中央銀行制度を司る企業体)において、20年もの長きに渡って議長をつとめたアラン・グリーンスパン氏は、経済予測をするために、毎日、40数種類ものデータをチェックしていたそうです。 そのアラン氏に、「これだけは外せないデータは何ですか?」と尋ねると、「鉄くずの生産量」と即答したそうです。 つまり、少なくとも景気のよしあしは「鉄くずの生産量」をチェックしていれば、およそ正確に判断できるということなのです。これが、経済予測のコツ、急所だったわけです。

これと同じように、経営にも外してはいけない「コツ」があるといいます。

松下幸之助は、経営をこう表現した

経営者は、営業、経理、商品開発、PL、BS、キャッシュフローなど、とにかくたくさんのことを見て、考えて、判断し続けなければなりません。しかし、すべてにおいて万能である必要はなく、経営者は経営のプロであればいいのです。

松下幸之助さんは、「経営者とは、方向指示器付きお茶くみ業や」と表現しました。 経営方針や戦略の方向性を打ち出すことにかけてはプロでなければならないが、あとは現場の人間にまかせて、自分はお茶でも汲んでおけばいいのだということなのだと思います。

本書は、経営するときに大切な思考法、役に立つ思考法を、できるだけ平易にかみ砕いて解説する内容です。 ビジネススクール(MBAなど)で勉強すれば、2年くらいかけて学ぶ内容を、この1冊に凝縮してまとめてあるので、サマリー的な構成になっています。

中島さんは、「まず森(全体)を掴んで欲しい。それで、もっと勉強したいと思ったら、木や枝葉を書いたマネジメント書を読んでくれればいい」と書いています。 この一冊で独立するためのすべての知識を得られるわけではありませんが、経営の入門書としては文句ナシでお勧めできる一冊です。

あなたの経営センスをチェック!無謀な値下げ要求をされたら?

本書には、当時、松下電器が、トヨタから厳しい値下げ要求を突きつけられたときのエピソードが掲載されていました。 あえぐ現場に、松下幸之助さんはどのような経営判断をしたのでしょうか?

*** 話は1961年のことです。 パナソニックの創始者である松下幸之助が東京支社を訪れたついでに、当時の松下通信工業に立ち寄ると、幹部が会議を行っていました。 聞けば、トヨタ自動車から大幅な値引き交渉があったということのよう。

当時、小型乗用車パブリカに付けていたカーラジオを、即日5%、向こう半年でさらに25%、合計30%の値引きを要求されていたのです。

メーカーは1%のコストダウンのために日々乾いた雑巾を絞っている状況。これでは死ねという宣告に等しかった・・・。 回答の先延ばしが通用する相手ではありません。

さて、あなたが経営者だったら、どんな判断をしますか?? ***

発想の転換でピンチはチャンスに

はてさて、30%の値引き要求とは厳しいものですが・・・。 この背景には、当時、政府が合意した、「貿易自由化」による、アメリカ産業の上陸があったのです。 松下幸之助さんは、このような判断をしました。

*** 幸之助は口を開きました。 「トヨタさんの立場になってみたらどや? 無茶な話やと驚いているが、わしがトヨタさんの立場になっても同じ要求をすると思う」。

当時松下幸之助は、トヨタの値引き要求は私心からされたものではなく、日本の自動車産業の未来を考えてのことと悟り、即日5%、半年後25%、計30%の値引きを受け入れる方針をその場で即決したのです。

「コストダウンちゅうもんは、5%や10%を目標にしてたらかえってできんもんや。性能と規格は変えたらあかん、と言われとるんやろ。けど、あとはなにをやってもええんや。」

「それに、もし30%のコストダウンがほんまにでけたらどや? トヨタさんだけやない。世界中から注文が殺到するで」。」

「そう考えると、これはピンチやないな。天佑やな。でけたら買うてくれるんやろ? 納入先が決まってるんや。ありがたいことやないか」。

このやりとりで、さっきまでの暗澹たる会議がパッと明るくなったといいます。 三流メーカーが一流に躍り出られるぞ! と励まされて全社一丸となった結果、30%値引きした上で、10%の利益まで得ることができたそうです。それまでは3%の利益しかなかったのに。 ***

社員たちは、松下幸之助さんの指示の元、これまでの延長線上に「解」を捜したのではなく、今までの設計図を捨てて、0から新たに設計し直したのです。そうしてこの難題をブレイクスルーできたのです。 絶対的なピンチを、発想の展開で大きな成長の機会に変えた松下幸之助さんの経営手腕にも唸らされます。

全章チェック

1章 「0」をつかめば経営のすべてがわかる 2章 「1」が教える生き残る経営 3章 潰れない経営をするには「2(=もうひとつ)」を用意する 4章 「3」という数字を理解すれば危機に強くなる 5章 「4つのマトリックス」で経営問題はすべて解決できる

1〜2章は、考え方の原理原則。 3章以降は、経営判断やチェック機能といった、実践的なテクニックの解説となっています。 ところどころ、松下幸之助さんや、本田総一郎さんといった日本経済の基盤を築いた名経営者たちのエピソードが登場しますが、これがとても面白い。

他には、 マクドナルドが安売りできるのはなぜ? 高級ブランドが、セカンドライン(廉価版)を出す理由は? など、身近なところで目にする経営手法の解説があり、読んでいて興味をそそられます。

経営に興味がある方の入門書として、ぜひおすすめします。

ラジオを聴く

「経営」についてこれだけは知っておいて欲しいこと

ビジネススクール2年分のサマリー

サラリーマンはどうして生まれた?(ひとつ前の新刊ラジオを聴く)

「経営」についてこれだけは知っておいて欲しいこと

「経営」についてこれだけは知っておいて欲しいこと

「経営」は、できる人にはできるし、できない人には逆立ちしてもできないもの。その分かれ目は、“経営のコツ”を呑み込んでいるかどうかにありました。本書は、経営の“急所”を捉え、実際に組織を動かす中で大切な思考法、役に立つ思考法を解説する内容です。ビジネススクールで学ぶ2年間分の智恵が、この1冊に凝縮されています。