だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1367回 「後継者 金正恩」

韓国で話題となり、その翻訳版が講談社から緊急出版! 金日成、金正日から世襲して、3代目の後継者に抜擢された金正恩の全貌に迫る一冊。なぜ、金正恩なのか。そして、金正日は、金正恩の権力を確立するためにしてきたこととは。本書で、北朝鮮政治の真実に迫っています。

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金日成は、なぜ金正恩を選んだ?

北朝鮮の後継者、金正日の三男・金正恩新体制に関するニュースが何かと話題です。 公開処刑が3倍に増加するなど、金正日よりも更に強行的な恐怖政治で「世界からますます孤立する」との声もあります。

後継者 金正恩」(講談社/刊)は、“平壌特派員”の異名を取る韓国・中央日報の記者が粘り強い取材を行い、明らかになったことをまとめた一冊です。 韓国で出版され話題となり、日本でも緊急出版が決まりました。

● 著者について 李 永鐘(イ・ヨンジョン)さんは、韓国の全国紙「中央日報」編集局政治部次長。1993年から1995年まで、同国の通信社である内外通信に所属していた時期を含め、およそ20年間、一貫して北朝鮮問題の担当記者として活動してきた方です。

訳者の金 香清(キム・ヒャンチョン)さんは、国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」編集者。朝鮮半島担当として日々、南北朝鮮の動向を追い続けている方です。平壌へは3度の訪問と6ヶ月間の滞在経験もある在日コリアン3世です。

お二人とも、北朝鮮については非常に詳しい方ですが、特に、イ・ヨンジョンさんは、 大変長い間、北朝鮮をウォッチしてきている方です。イ・ヨンジョンさん独自のパイプもあり、他ではなかなか読めない内容も本に書かれています。

延坪島砲撃事件は、金正恩のマーケティングだった?(1)

社会主義国家での3代世襲は、前代未聞のことだそうです。 金正日は、後継者になぜ金正恩を選んだのでしょうか。そして、金正恩の権力を確立するために、一体、何をしてきたのでしょうか。

延坪島砲撃事件の原因 2010年11月23日、北朝鮮は、朝鮮戦争休戦協定に違反して、延坪島(ヨンピョンド)に砲撃を行いました。

北朝鮮という国は、外交に行き詰まると、ミサイルを威嚇射撃して、軍事的な挑発をもって交渉を要求するというパターンを繰り返してきました。

しかし、このとき韓国に打ち込まれたのは、76.2mm平射砲や、122mm大口径砲といった強力なもので、他にも、特殊な殺傷能力を持つロケット砲や、コンクリートを貫通する機能を持った砲弾、爆風よりも引火性の強い砲弾などが使用されていたことがわかりました。

専門家の間では、この砲撃は挑発のための威嚇射撃ではなく、別の目的があったと されています。

2009年から2010年にかけての、金正日総書記の「現地指導」の足取りを追っていくと、その目的・狙いの足跡が残されています。

延坪島砲撃事件は、金正恩のマーケティングだった?(2)

「現地指導」とは、金正日が地方の農村や工場、軍事施設などを訪れて、地元の幹部らに直接指導を行う“行事”です。この現地指導は金日成国家主席の時代から続いており、全国紙などでも逐一報じられ、指導者のプロパガンダには欠かせないイベントです。

2009年に報じられた、金正日の現地指導のうち、軍事施設関連についてみていくと、1月〜3月までの間、金正日は、毎月「砲兵司令部」を訪れており、2010年の軍事施設関連の現地指導においても、砲兵訓練の視察を三度も行っています。 この事からも、専門家たちの多くは、「金正日の狙いは、金正恩に後継者としての箔をつけるための砲撃だったのではないか」と分析しています。

延坪島砲撃事件の2ヶ月前、北朝鮮では金正日の三男、金正恩が事実上の後継者として公表されました。ここで金正恩は、朝鮮人民軍大将、朝鮮労働党軍事委員会副委員長の座を与えられました。 しかし、金正恩には軍隊での経験がなく、年齢も28歳(推定)と若いこともあり、朝鮮戦争を経験してきた軍人たちに軽視される恐れがありました。 金正恩への心からの忠誠を誓わせるためには、軍人としての手柄を立てさせる必要があり、金正日は、そのために現地指導を行い、金正恩に延坪島砲撃の主導を握らせたのではないかという見方ができます。

北朝鮮の報道では、「韓国軍が通常訓練のなかで、軍事境界線を越えたため、その報復として、金正恩大将が力を見せつけた」とされていました。

流出した金正恩の「砲撃」文書

2009年末に、北朝鮮の内部資料が韓国に流出しました。 その文書は、北朝鮮の住民に金正恩を宣伝するために作られたもので、金正恩を“砲撃に明るい軍事の英才”と印象付ける内容でした。

金正恩は、金日成軍事総合大学砲兵学科を卒業し、卒業式では彼の「戦略戦術的構想」をしたためた「作戦地図」が卒業論文として発表され、それを見た朝鮮人民軍の指揮者たちは、感激の声をあげたことになっているのだとか。

このように金正日の数々の作戦により、「金正恩は砲撃術の天才だ」というイメージを浸透させ、韓国を威嚇するのに有効な砲撃戦術を金正恩に学ばせ、実践を積ませたという見方が強くあります。

本書の続きでは、 ・流出した金正恩の「砲撃」文書 ・謎の死を遂げた組織指導部第1副部長 ・正恩が兄・金正男を急襲した「ウアム閣襲撃事件」 ・「正恩の後見人VS.軍の実力者」の行方 ・金正日の「Xデー」を予測していた米国大使館 ・金正恩の私的組織「烽火組」の正体 などが書かれています。

ちなみに砲撃事件当時、本書は翻訳作業中だったそうですが、日本での発行に合わせて、著者の李 永鐘さんに最新情報を加筆してもらったそうです。 そのため、翻訳版は1章分新たに加わって、10章構成になっています。

付録には、 ・北朝鮮の権力構造と、各党・委員会・会議・軍などの相関がまとめられた資料、 ・北朝鮮についての関連年表、 ・金正日ファミリーの家系図、 ・金正恩を支える5人のキーパーソン、 ・本書に登場する、韓国の主な政府組織に関する資料 などがまとめられています。

朝鮮政治は、外から見えにくいところが多く、関連性も複雑でわかりにくいだけに、この資料は理解を助けます。

金正恩個人だけでなく、ここ数年のうちに起こった北朝鮮問題とその背景、また、金正日一家に関する内実なども含まれており、全貌を掴むことができると思います。

不気味な国、北朝鮮を少しでも理解する助けになる1冊を読んでみてください。

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