だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1423回 「詩の礫」

東日本大震災を地元福島で被災し、3月16日からツイッター上で詩を発信し続けた詩人を知っていますか? 詩人の名前は和合亮一、発信されたのは詩篇『詩の礫』。4月初旬まで毎日発信された詩は多くのフォロワーに読まれ、5月25日に「決着」を迎えます。その『詩の礫』が書籍になりました。圧倒的な言葉の力に触れてみて下さい。

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震災時、ツイートし続けた詩人

東日本大震災のあと、3月16日からツイッターで詩を発信し続けた詩人をしっていますか? 福島県出身で、ご自身も被災した和合亮一さんです。和合さんが発信した一連の詩は「詩の礫」と名づけられ、この度、書籍になって出版されました。

あの大震災のあと、被災をした詩人は何を感じ、何を発信したのでしょうか。

● 著者プロフィール

和合亮一さんは、1968年福島県生まれ、高校の国語教師として教鞭をとりながら詩人として活動中。1999年第一詩集「AFTER」で第4回中原中也賞。2006年第四詩集「地球頭脳詩篇」で第47回晩翠賞を受賞。 他、詩集多数。また、地元福島でラジオパーソナリティとして活動するほか、書評やエッセイの執筆、講演や司会、作詞など幅広い分野で活動をされています。ツイッターアカウントは@wago2828 このアカウントで、東日本大震災の被災を元にした詩を世界に発信し続けてきたのです。

3月16日午前4時23分に被災後最初の詩を発信し、それから5月26日早朝までに発信した一連の詩は「詩の礫」と命名され、ツイッターを通じて多くの方に読まれてきました。

本書では、和合さんの「詩の礫」に関するツイートを全て掲載し、「詩の礫」という作品のみならず、作品執筆当時の和合さんの心境や身の回りの状況も伝わるように編集されています。

詩の抜粋

本書での和合さんのツイートは3月16日から始まっています。

2011年3月16日  震災に遭いました。避難所に居ましたが、落ち着いたので、仕事をするために戻りました。みなさんにいろいろとご心配をおかけしました。励ましをありがとうございました。

2011年3月16日  本日で被災六日目になります。物の見方や考え方が変わりました。

2011年3月16日  行き着くところは涙しかありません。私は作品を修羅のように書きたいと思います。

これが本書に掲載されている最初の3つのツイートです。

詩人として活動する和合さんが「物の見方や考え方が変わりました」というと、殊更重く聞こえる気がします。 こうして和合さんは、ツイッターを通じて、作品を発信して行くようになりました。

2011年3月16日  あなたにとって故郷とは、どのようなものですか。 私は故郷を捨てません。故郷は私の全てです。

2011年3月17日  女川。美しい港町だった。さんまが美味しかった。高村光太郎の碑があった。海で魚を捕ることは、人が原始に帰る興奮を味わうことだ、そんなことが美しく簡潔に書かれていた。

2011年3月17日  1月ぐらいにシクラメンをもらってきた。それを部屋に置いていた。だんだんと薄紅色の花びらを眺めるのが楽しみになってきた。だけど、少しずつ萎れていった。悪いところを摘み続けるうちに、花も葉もなくなってしまった。

2011年3月17日  花も葉もなくなってしまった。鉢をベランダに片付けたら、今まで有った存在が消えてしまった。いつもあったものが、無くなってしまった。いつもあると信じていた。信じることしか、しなかった。存在は消えても、存在感だけは、消えない。

津波で、生まれ育った町や馴染みのある街を失ってしまった人の気持ちを、正確に知る事はできませんが、この作品を通じて、その虚無感というか亡失感というか・・・悲しい気持ちと懐かしむ気持ちの複雑な交じり合いを感じる事ができました。

そして、この日の深夜に、和合さんが書いた作品が、被災した和合さんの力強さを感じさせます。

2011年3月18日  私は震災の福島を、言葉で埋め尽くしてやる。コンドハ負ケネエゾ。

まとめ

和合さんは、この時までツイッターをほとんどやったことがなかったそうです。 以前、知り合いに誘われて、ちょっと触っただけで放置していたのですが、被災したあと、和合さんの言葉で言うと『明日にも自分の生活が消滅するかもしれないその夜に、誰かに受け止めて欲しいと思い、言葉をパソコン上に投げた。』という経緯でツイートを始めたのだそうです。 そして初日にフォローが171人、翌朝に550人、3日目の朝には800人とフォロワーが増えていき、現在は1万8000人を超えるといいます。

当然、和合さんの元には多くの方からメッセージが寄せられるわけで、そのメッセージもその後の和合さんの詩に影響を及ぼしていったのでしょう。

和合さんはさらに意欲的に連作『詩の礫』を発信していきます。 この『詩の礫』の派生として『礫の礫』という連作なども発表したりと、色々なタイプの詩が当時のツイッター上に発信されました。

そして、5月25日に連作『詩の礫』は決着を迎えます。 決着という言葉の意味や、最初に紹介した2日目以降の和合さんの詩の変化は、是非、本書を読んで振り返ってみて下さい。 ツイッターならでは、そして連作ならではの圧倒的な量の詩を、是非その目で読んで欲しいと思います。

詩の礫

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詩の礫

詩の礫

東日本大震災を地元福島で被災し、3月16日からツイッター上で詩を発信し続けた詩人を知っていますか? 詩人の名前は和合亮一、発信されたのは詩篇『詩の礫』。4月初旬まで毎日発信された詩は多くのフォロワーに読まれ、5月25日に「決着」を迎えます。その『詩の礫』が書籍になりました。圧倒的な言葉の力に触れてみて下さい。