だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1427回 「福島原発の真実」

原子炉停止、プルサーマル凍結、核燃料税をめぐる攻防、隠蔽される数々のトラブル……情報が乱立する中、国民は何を信じたらよいのか。国が操る原発主義政策の欠陥と闘い続けた元に福島県知事が明かす、衝撃の真実の数々。

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福島県前知事、原発の嘘を告発

「電源立地地域」と「電源消費地域」という言葉を知っていますか?

「電源立地地域」  →原子力発電所や火力発電所といった発電所を持つ県やエリア(主に地方)。 「電源消費地域」  →地方で作られた電力を使うエリアのこと。東京などの大都市。

「地方に建てた発電所の電力を都市ばかりで使用しているのが不満だ」という地方住民の声。一方、「その分の雇用需要や補償があるだろう」という都市の住民の声。同じ日本の中でも、色々な意見があります。 立場によって意見に相違あるのは当然としても、このギャップの裏には何が隠されているのでしょうか。

● 著者プロフィール 著者の佐藤栄佐久さんは83年に参議院選挙に当選後、88年からは福島県知事に就任された方です。東京一極集中や国の原発政策、道州制などで政府の方針と対立し、「闘う知事」としても知られていた方です。

本書は、佐藤さんが知事に就任後から現在に至るまでの「国の原発政策」と「それに立ち向かい続けた歴史」を通して、「日本の危険な原子力の真実」を詳しく明かした一冊です。

本では主に、福島、福井、茨城、青森にある原子力施設・核燃料施設での事件や事故、それをめぐる政府や関連組織の対応を取り上げています。

嘘と欺瞞の原子力政策

先日の「東日本大震災」の影響で、福島第一原発の1号〜6号機は大きな被害を受けました。 なかでも不安になったのは、「1号から3号機は、地震当日のうちにメルトダウンを起こしていた」という事実と、その発表の遅さです。 この発表に限らず、それまでの「政府」「東電」「原子力保安院」といった指揮中枢や責任者たちの「情報誤認や隠蔽」「後手後手にまわる対応」が批判の対象にはなっていました。

しかしこの「福島原発の真実」を読むと、「その体質」はずっと昔から変わっていないことが分かります。

例えば、知事に就任した翌年、89年の1月6日。福島第二原発3号機で警報が鳴り、炉は手動停止させられました。しかし実際は、88年の暮れからトラブルが3度も起きていたそうです。 しかも炉は、3回目の警報でやっと停められたことが「後に」分かったそうです。

1度目の警報で自動停止した炉を、東電は原因も解明しないまま運転再開させ、その後も炉内の異常なデータを無視したまま運転を続けていました。 3度目の警報で停めるまで、6時間も運転させたその時の危険度は、「国際原子力評価尺度」でレベル2(異常事象)と評価されたそうです。

「後に」分かった原因は、「冷却水を再循環させるポンプの部品が外れ、ボルトなどが炉内に流入していた」という前代未聞のトラブルだったとか。

この時佐藤さんが痛感したのは、「原発の安全問題から、地元が疎外されていること」でした。

本来事故の情報は、影響が一番最初にあり、避難などの対応をしなければならない地元自治体に真っ先に伝わらなければいけません。が、その時は原発→東電本社→通産省→資源エネルギー庁→福島県という、電源立地地域に最後に伝わるかたちになっていたそうです。 さらにその一件で、このような緊急事態の際、県には原発の停止や立ち入り検査といった監督権限がないことに気づかされ、東電や原子力関係者、専門家は「信頼できない」ということにたどり着いたのです。

地元県民の命を預かる知事がそこに関与できないことに疑問を抱いたのが、佐藤さんと原発との長い闘いの始まりになったそうです。

目的と手段の逆転

佐藤さんは、また別の形で「地方と原発の在り方」に違和感を感じるようになったといいます。

91年、福島第一原発の立地・双葉町が「原発増設要望」を議決しました。 (双葉町には5号機、6号機がすでにあったが、さらに7号機と8号機を誘致しようとした) 何故か?

原発を持つ自治体には、「巨額の固定資産税の30年保証」と別に「電源三法交付金」という補助金が出るシステムになっていた。 ところがこの交付金、公共事業にしか使えないため「ハコモノ」を作るしかない。しかし補助金は維持管理費にも回せないため、作った施設の維持費が自治体の首を絞めることになる。 →結果、補助金が必要な自治体は、「金が無いから原発を誘致したい」という考えを持つようになり目的と手段が逆転していった。

こうして「原発は地域振興の役に立たない」という状況に佐藤さんは違和感を感じ、「地方財政の弱点を利用する国のやり方」に反感を募らせていきました。

国の杜撰な計画性

以降20年近く、国や東電は国策として原発の開発を進めてきましたが、一歩間違えれば大惨事にもなりうる事故をいくつも起こしてきました。

◆95年 福井県敦賀市の高速増殖炉もんじゅでナトリウム漏れ事故 ◆99年 関西電力高浜原発3号機のMOX燃料データの捏造が発覚。  同年茨城県東海村のJCO核燃料加工施設での臨海事故 ◆04年 年関西電力美浜原発で蒸気漏れ漏れ事故が発生(11人の死傷者) ◆10年 福島第一原発2号機で、電源喪失・水位低下事故が発生 青森県 六ヶ所村再処理工場の完成予定を二年延期することを決定

……と、ニュースになったような大事からデータ改竄など、大小様々なトラブルを続けます。 何かあると国は必ず「改善に努める」「再発防止に全力を注ぐ」といった文句で切り抜けますが、それが続いたことで「無謀な国策」への不信と疑念は大きくなるばかりだったのです。

たくさんの内部告発

また、様々なトラブルや隠蔽が発覚するにつれ「内部告発」が増えていったそうです。 以下が佐藤さんの元に寄せられてきた情報です。

◆各部品の損傷、欠陥の放置 ◆東電の監視体制の甘さ ◆公表されない爆発事故 ◆コストダウンに伴う作業員の質の低下 ◆点検データの改竄 ◆原発テロに対する危機意識の甘さ

この様なかなり具体的な報告があったそうです。 すごいのは、それまでの福島県の対応により「信頼できるのは東電や保安院でなく、福島県である」という認識が広まっていたそうで、集めた告発情報を独自に分析した上で、保安院に通報していたそうです。

■ まとめ 読んでいくほどに「国は本気で原子力をエネルギーの中心にする気があるのか?」という疑念が湧きました。 「よくもまぁ、次から次に同じような失敗を続けるな」、と呆れてしまうでしょう。

確かにCO2排出削減といった環境への効果は有効でしょうが、「安全・安心」の確約がないままで応援はできないでしょう。 反面、早いうちからその欠陥に気付き、闘ってきた佐藤さんの行動力や信念、住民の命を預かってるんだという責任感には感動しました。

印象的だったのが「電源立地県福島が立たされている状況に、電源消費地の東京がいかに無関心か」という訴えがありました。 「地方から電気が来ていることを首都圏のどれだけの人が知っていて、地元の犠牲を経て電力供給がされていることが知られていない」という指摘は、何か突き刺さるものがあるはずです。

「エネルギー開発」のターニングポイントにある今だからこそ、多くの人が読んで、改めて考えるきっかけに使ってほしい一冊です。

福島原発の真実

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