だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1626回 「日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉」

日本経済が好況になると、AKB48は消滅する――。 安倍首相の掲げるアベノミクスによる日本経済の回復は、芸能界、特に女性グループアイドルの世界においては決して望むべき事態ではなかった?デフレの終焉とデフレカルチャーの終焉によってもたらされた、国民的アイドルAKB48が迎える「最悪のシナリオ」とは何か?本書が日本経済とAKB48の隠れた関係を明らかにします。 

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

2012年12月に誕生した第2次安倍晋三内閣は、就任と同時に「経済の復興を最優先にする」と宣言しました。

安倍首相の掲げる経済政策「アベノミクス」では、デフレから脱却しつつ、緩やかで安定的なインフレにとどめることで景気の回復を図るリフレーション政策を積極的に推し進めており、その結果日本経済に明るい兆しが見え始めています。

しかし日本経済の回復は、芸能界、特に女性グループアイドルの世界においては、景気回復は決して望むべき事態ではなく、むしろ、存亡の危機にあるといってもいい出来事だと田中さんは述べています。

デフレ不況の中で誕生した「デフレカルチャー」の産物であるAKB48は現在、アベノミクスと激しい戦闘を繰り広げ、さらに近年彼女たちを取り巻く環境の変化により発生した様々なスキャンダル問題から、「社会のモラル」とも戦いを繰り広げています。

このように今、岐路に立たされているAKB48。果たして今後彼女たちを待ちうけている最悪のシナリオとは何か?経済学の視点から、それらを解説していきましょう。

◆著者プロフィール 著者の田中秀臣さんは早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学の経済学者です。現在は上武大学ビジネス情報学部教授として教鞭を揮われており、専門である日本経済思想史研究の他、日本経済論、経済政策など経済時論に力を注ぎ、AKB48やももいろクローバーZといったアイドルを題材にした経済学、韓流評論、漫画・アニメ評論など様々な分野での論評もされています。

アイドルは不況に強く、好況に弱い

さて、突然ですがここで質問です。

「おニャン子クラブ」、「モーニング娘。」、そして「AKB48」。

それぞれが時代を象徴した女性グループアイドルですが、この3組の共通点はなんだかお分りになりますか?

そうです、いずれも日本経済の不況期に誕生、活躍したグループなのです。

85年9月。

プラザ合意による急激な円高に端を発した円高不況が始まったこの年、フジテレビで『夕やけニャンニャン』がスタートし、「おニャン子クラブ」が世間を巻き込む一大ブームとなりました。

また97年から98年にかけて北海道拓殖銀行、山一証券などの大手金融機関が不良債権の増加や株価低迷のあおりを受けて、相次いで破綻・倒産していきました。

この金融危機と同時期に、テレビ東京系列『ASAYAN』をきっかけに「モーニング娘。」が徐々に国民的人気を得ています。

そしてAKB48が大ブレイクのきっかけとなるシングル『大声ダイヤモンド』を発売した08年。

まさにこの年は前年のアメリカのサブプライムローン問題発覚の余波による、リーマンショックが世界中に影響した年でした。

反対に80年代後半から90年代前半、日本の景気が好調であったバブル景気の真っ只中では女性グループアイドルの台頭はありませんでした。

代わりに台頭してきたのが「セクシーアイドル」と呼ばれるイケイケアイドルです。

不況期には消費意欲が減退して内向き志向になるのに対して、好況期になると疑似恋愛の対象となるアイドルよりは、生身の人間、本物の恋人へと関心が向かっていくようになりがちです。

たとえ、恋人のいない人でも購買意欲は少しずつ上昇し、家でテレビを見るよりも、街に出てお金を消費する人が増えていくのです。

したがって、好況期には正統派アイドル人気は低迷し、より強い刺激を求めるようになり、過激でイケイケなセクシーアイドルたちが台頭してくるのだと著者は述べています。

AKB48が国民的アイドルとなった一方で、最近では「日本一美しい32歳」と話題沸騰中の壇蜜が人気となっているのは、まさにそのはしりかもしれません。

このように「景気回復とアイドル衰退」という因果関係はこれまでの歴史が証明している厳然たる事実であり、そうなるとアベノミクスによる景気回復でアイドル衰退効果の影響を最も受けるのは、現在、誰もが認める国民的アイドルであるAKB48ではないかと著者は述べています。

激突!AKB48対アベノミクス

ここでアベノミクスとは何か、改めて説明しておきましょう。

「アベノミクス」とは「アベ(安倍首相)」と「エコノミクス(経済)」を組み合わせた造語のことで、具体的には

・大胆な金融政策 ・機動的な財政政策 ・民間投資を喚起する成長戦略

の3点が特徴です。

これらに象徴されるように、安倍首相は日本をデフレから積極的に脱却させようという姿勢を鮮明にしています。

このデフレからの脱却路線は、AKB48にも大きな影響を与えようとしています。

AKB48の人気を支えている要因は「低価格路線」の採用と、「会いに行けるアイドル」というコンセプトを大切にしていることにあります。

1000円前後の低価格のムックスタイルの写真集やCDについている握手券など一連の低価格路線がファンの裾野を広げ、デフレ不況下の日本でAKB48を大成功に導きました。

つまりAKB48はデフレ経済と相性がいいのです。

しかしデフレ解消により金銭的な余裕が出来ると、人々の選択肢もまた広がっていきます。

AKB48だけに使っていたお金を、ももクロなど他のアイドルに使うようになる人も出てくるかもしれません。

もしそうなれば、今までのようなAKB48の一人勝ち状態もまた変化していくことでしょう。

デフレからの脱却は、日本経済にとっては待ちに待った「朗報」ですが、AKB48ファンにとっては「悲報」と言えるものなのかもしれません。

そして本書では、アベノミクスの他にもう一つAKB48の難敵が紹介されています。

AKB48対 社会のモラル

東日本大震災を契機としてAKB48のあり方は変容を余儀なくされました。

これまでのアイドルとは異なり、震災復興へ向けてのボランティア活動を迅速に、そして協力に行うこと、積極的に社会とコミットしていくことを彼女たちは選択しました。

それにより彼女たちの社会的認知度は大幅に上がり、まさに国民的アイドルの名にふさわしい超大物アイドルユニットとなったのです。

しかし、その副作用とでも言うべきか、多くのトラブルが顕在化してくることとなりました。

それが相次ぐAKB48メンバーたちによるスキャンダルの数々です。

今まで「AKB48とファンとアンチ」という三角形の中だけで構成されていた彼女たちのやり取りが、社会へ強力にコミットし始めた影響により、もはや三角形の中だけの理論で生きていくことは出来なくなりました。

AKB48は既に三角形の外側に居る人達をも相手にしているのです。

相次ぐスキャンダル問題は、そこに気付いていなかったからこそ、あるいは無自覚だったからこそ、社会との齟齬が生まれ、それが綻びとなっていったのです。

AKB48内のルールはあくまでもAKB48内にしか適用されず、社会には依然として社会のルールがありそれはとても大きく、保守的で、そして排他的ですらあります。

これが現在AKB48が直面している「社会のモラル」という強大な敵との対立の本質的な構造といえます。

大震災以降、社会とAKB48の世界は、相互にその関係を深めていきAKB48も意識的に「社会を変える」位置に着いたと著者は述べています。

その相互のコミットが強まれば強まるほど、AKB48ワールドと一般社会の緊張の度合いもまた強まっていかざるを得ないのが現在の実情なのです。

■ まとめ

日本経済の復活とAKB48の隠された関係、お分りいただけたでしょうか?

今回取り上げた内容以外にも本書ではSKE48、NMB48といったフランチャイズ化やJKT48などの海外進出に関しても、より詳しく論じられています。

また本編で取り上げたようなAKB48に迫る危機だけでなく、今後の未来について

・宝塚音楽学校のようなAKB48学園というアイドル養成教育機関を開校する可能性も秘めているのではないか? ・AKB48だけでなく、ももクロなど全アイドル参加の選抜総選挙を開催し、「誰が日本でナンバーワンのアイドルか」をはっきり決めてみては?

など、ユニークな提案もされています。

皆さんも経済学という一見難しそうな題材に、AKB48という分かりやすい身近な存在を例にとって考え、触れてみてはいかがでしょうか。

日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉

日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉

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日本経済が好況になると、AKB48は消滅する――。 安倍首相の掲げるアベノミクスによる日本経済の回復は、芸能界、特に女性グループアイドルの世界においては決して望むべき事態ではなかった?デフレの終焉とデフレカルチャーの終焉によってもたらされた、国民的アイドルAKB48が迎える「最悪のシナリオ」とは何か?本書が日本経済とAKB48の隠れた関係を明らかにします。