だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1641回 「高度成長は世界都市東京から 反・日本列島改造論」

日本経済最大の特色はエネルギー効率のよさ。GDP1ドル当たりのエネルギー消費量が世界の3分の1という、その高いエネルギー効率実現の鍵は「日本の鉄道網」。日本の大都市圏の強さは、東京・名古屋・大阪の三大都市圏が数珠つなぎに存在していることでした。この利点を生かして活性化を図れば日本経済は伸び続けていけたのに、それを妨害してきたのはいったい…誰が、何故?経済アナリストである著者が反・日本列島改造論を展開していきます。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

今回の本は、経済アナリストである増田さんが日本経済を回復させるために、いま、やらなければならないこと、やるべきではないことを提唱していきます。

増田さん曰く、

「現在の日本経済が直面している最大の問題は、政策の不在ではなく、政策の過剰である」(P4より抜粋)

と語っています。

どういうことかといえば、多くの政治家や官僚、評論家たちが、「何が日本国民にとってベストなのかを我々が大衆の代わりに考えてやる。

大衆がその考えどおりに動けば、日本経済は復活する」と唱えていることが、そもそもの間違いで、経済が活性化するのは、こうした、「特定の目的や意図のために他人を誘導しよう」というおせっかいが最小限にとどまっているときである、と言い切っています。

本来、日本はもともと素晴らしい基盤を持った国、なのだから、と。

具体的に挙げると、日本の大都市圏の強さは、世界屈指のエネルギー効率を誇る東京、名古屋、大阪の三大都市が、500?600キロの範囲にほとんど切れ目なく数珠つなぎに存在していることなのだそうです。

しかも、この三大都市圏は、自動車よりはるかにエネルギー効率の高い鉄道で結ばれていますよね、このような強みを持った都市圏は、世界中どこを探しても、今の時点では存在していません。

それどころか、この先、100年や200年では育つことはないといいます。

日本は、国民経済の規模を支えるのに必要なエネルギー消費量が、抜群に低いのだそうです。

日本の経済は、1ドルのモノなりサービスなりを作るのに使わなければいけない エネルギーの量が、世界平均のほぼ3分の1ですんでいるのです。

逆に言えば、同じ量のエネルギーを世界平均より3倍大きな経済活動に使えるという、エネルギー効率の高い経済ということになりますよね。

そして、日本はこの経済活動のエネルギー効率ということでは、欧米諸国を寄せつけない断トツ首位を1970年代以来、維持し続けているというから驚きです。

◆著者プロフィール 増田悦佐さんは、1949年東京都生まれ。 一橋大学大学院経済学研究科修了後、ジョンズ・ホブキンス大学大学院で歴史学・経済学の博士課程修了。ニューヨーク州立大学助教授を経て帰国、HSBC証券、JPモルガン等の外資系証券会社で建設・住宅・不動産担当アナリストを務めました。 現在、株式会社ジパング経営戦略本部シニアアナリストとして活躍されています。 『地価暴落はこれからが本番だ。』『高度経済成長は復活できる』『東京「進化」論』 『世界は深淵をのぞきこみ、日本は屹立する』『デフレ救国論』『経済学七つの常識 の化けの皮をはぐ』ほか著書多数。

高度成長は世界都市東京から 反・日本列島改造論

エネルギー効率の高い理由

なぜ、こんなに日本は世界でいちばんエネルギー効率の高い経済であったのでしょうか? 

日本と欧米社会ではどこが大きく違うのでしょうか?

それは・・・。

鉄道交通でした。

日本で鉄道は、大都市圏の通勤通学にはかかせない、庶民の足としての機能を維持していますよね。 例えば、イギリスの旅客交通の鉄道依存度は8%、アメリカになると四捨五入してやっと1%という数字が出ています。

これに対して日本の旅客交通の鉄道依存度は、35%という高水準。

なぜ鉄道依存度が高いと、経済全体としてのエネルギー効率が高いのかは、もう分かりますよね。

みんながマイカー通勤する社会と、鉄道で通勤する社会では、まずそこからエネルギー消費量に桁違いの差が出てきます。

そしてそこからはじまって、車社会では膨大なスペースを占める道路や駐車場など、世の中のインフラや仕組み自体がエネルギー消費型に変わってしまうのです。

この強みを生かして、伸ばしていけばいい、というのです。

しかし、ここで問題は出てきます。

それは、働き口がないために地方から都市圏に出ていこうとする人たちを、強引に公共事業で押しとどめようとしたり、人工的に日本国中に、50万都市をつくり出して、大都市圏への集中を分散させるなどと言っている人たちがいるのだそうです。

それは、多くの政治家や官僚たちでした。

鉄道経営は膨大な固定資本を投入しなければできない事業です。

線路を敷いて、駅を建て、何十、何百という車両を作って、その車両がぶつからない制御システムを作ることも必要となってきます。

一日に何百、何千という乗客ではとうていやっていけず、何万、何十万、という乗客が毎日使ってくれるからこそ成り立っていくものなのです。

大勢の人が密集して住んでいて、その人たちが頻繁に使ってくれないと採算が合いません。

だから、日本政府は戦後一貫して、どんどん大都市圏にひとが集まってくることを奨励するか、最低でも妨害しない政策をつづけなければならなかった、と増田さんは言っています。

ところが実際にはどうでしょう・・・。

日本政府は極端に生産性の低い農林山漁村にひとをつなぎとめようとしてきました。

エネルギー効率の高い経済システムを壊そうとする政策を一貫して推進してきました。

そこで増田さんは、日本の大都市圏のエネルギー効率の良さを支えてきた鉄道網の整備拡充にこそ高い優先順位を与えるべきだと、本書の中で強調しています。

人は放っておけば、便利なところ、生活が楽にできそうなところに集まってくるものです。

この流れを妨害しなければ、所得の格差も小さくなるのだそうです。

この流れをすなおに受け入れれば、平等性が高く、経済成長率も高い高度成長期の社会を再現することができるのだといいます。

そのために、いま日本でなすべきことはなにか。

いま抱えている問題点を解決する策はなにか。

少子化高齢化がすすむ、いまだからこそ、進むべき道はどこか。

製造業、物流、サービス、小売・・・まだまだこれから繁栄し続けていくためには。

など、日本経済が発展していくための優先順位をあげ、そのために必要な施策を示しています。

東京や大阪のような、どの部分を切り取っても、生産・労働・居住・子育て・余暇・消費の各機能が混在している都市こそ理想とすべきだと訴えています。

日本経済が、設備投資の方向性から、家族の在り方、女性はいつ子供を産もうと考えるべきかにいたるまで、がんじがらめの統制で縛ろうとしているいまの安倍政権は・・・・、どうなのでしょうね。

真剣に、これからの日本の方向性について考えてしまう一冊でした。

高度成長は世界都市東京から 反・日本列島改造論

高度成長は世界都市東京から 反・日本列島改造論

日本経済最大の特色はエネルギー効率のよさ。GDP1ドル当たりのエネルギー消費量が世界の3分の1という、その高いエネルギー効率実現の鍵は「日本の鉄道網」。日本の大都市圏の強さは、東京・名古屋・大阪の三大都市圏が数珠つなぎに存在していることでした。この利点を生かして活性化を図れば日本経済は伸び続けていけたのに、それを妨害してきたのはいったい…誰が、何故?経済アナリストである著者が反・日本列島改造論を展開していきます。