だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1692回 「親の家を片づける 実践ハンドブック (ゆうゆうブックス)」

親が高齢になってひとりで暮らせなくなったり、亡くなってしまったときに、親の家を片づけなければなりません。それは途方に暮れてしまうような膨大な作業の数々でした。モノが多すぎる、ひとりではできない、進まない、捨てられない、どこから手を付けていいのか分からない、でもやらなくてはいけない。誰もがつきあたる疑問、難題にどう向き合っていったらいいのかを教えてくれます。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

今回紹介する本は、去年5月に紹介した『親の家を片づける』の続編です。

前回の本は、離れて暮らしていた親が高齢でひとり暮らしができなくなって自宅で同居することになった、介護施設に入ることになった、亡くなって家を処分することになったなどの理由で、突然、膨大な量の親の荷物を整理して処分するという難題が降りかかったときにどうすればいいのか……という未知の問題に手探りで取り組んだ15人の体験をまとめたものでした。

今回の本は、その実践編。

具体的な片づけ方や、整理の仕方、生きている親との気持ちの折り合いの付け方・捨て方のルール、兄弟・親戚とのトラブルを避けるためにはどうしたらいいのか、などより詳しい内容となっています。

親の家を片づける、この本ではそのことを『親家片(おやかた)』と呼んでいます。

今回も、親の家を片づけた日本全国の体験者の方たちのアンケートをもとに出来上がった1冊です。

その数、67名。

とにかく『親家片』は、一筋縄ではいかないもの。

限りある体力、気力、手間、時間、そしてお金を効率よく配分することが必要となってきます。

まずなによりも、『親家片』は、予想以上に大変な作業。そう肝に銘じることが大切なのだそうです。

見て見ぬふりができないもの、それが『親家片』。

『親家片』は、ある日突然やってきます。

そして予想外の連続です。

親の家にはびっくりするほど、大量のものが鎮座しています。

一見、きれいに片づいているように見えても、油断禁物。

押し入れや棚の中、物置、キッチンの収納棚、洗面所の下・・・などなど、ありとあらゆる場所にものがぎっしり入っているのです。

何年も袖を通していない洋服やバック、箱に入ったままの引き出物や頂き物、 何十年も防虫剤だけを入れている着物、ガチガチに固くなった革靴、古い電化製品、通信販売で買った品々、昔使ったスキーやゴルフ用品、ほこりをかぶって黄ばんだ本、顔が茶色くなった人形やお土産やこけし、手紙、アルバム、賞味期限切れの食品、使わない薬、食器類、鉢植え……、次々と出てくるはずです。

親自身が買ってきたものばかりではなく、祖父母などの前の世代の持ちものや、子供が置いていったものもあるはずです。

1軒家の場合、2階から上が物置になってしまっていることも……。

体験談

こんな意見がありました。

「義母の足が不自由になると、私たち夫婦や姉夫婦が訪ねて行かなければ、2階は雨戸も開けられない状態に。2階はいつの間にか、もののたまり場になっていました」

他にも、

「義母の家を片づけて唖然としたのが、はさみでした。あらゆるところにあるのです。台所と居間だけで20本近くもありました」

このようなことは、よくあるそうです。

はさみや爪切りなど、普段の生活で頻繁に使う道具をしょっちゅう買いもとめるようになって、それがまず家のあちこちに散乱し始めるのだそうです。

そしてやがて、ほかの道具やものも、家の中をジワジワと浸食していくのだとか。

洗濯終わったものがそのまま床に、新聞の束が並びだしていく……、こんな風にジワジワと。

『親家片』は、肉体的にも精神的にも大変な作業だったんですね。

では、親の家を片づけるのは、具体的にどうすればいいのでしょう?

親が生きている場合、なによりも大切なのは、“親の気持ち”なのだそうです。

親自身が、何か目的をもって片づけたいと思わない限り、その気にさせるのはなかなか難しい、といいます。

実際にものがあふれていても、片づけを拒む親が多いのだそうです。

そんな家族の実例が紹介されていました。

「ひとり暮らしが難しくなった母と同居するために、実家を片づけました。でも母はすでに現状維持しか考えられない状態。家はすさまじい量のものがあふれているにもかかわらず、母はものを捨てることを極端に嫌がりました。私たちが捨てたゴミ袋の中から洋服を拾い出すほどでした。いくら説得しても納得してはもらえませんでしたが、救いは母が見ている前で捨てなければ、案外忘れてくれることでした」

また、こんな家族も。

「8年前に父が、1年前に同居していた弟が亡くなったために、母はひとり暮しに。そこで母がすっきりラクに暮らせるように、姉と相談して片づけ始めました。母の了承をなんとか得て着手したものの、父と弟のものを片づけることを極端に嫌がり、“まだ使える、手足をもぎとられているみたい”とつらそうに言うのでなかなか進みませんでした」

このような場合、親をその気にさせるのは、どうしたらいいのでしょう?

嫌だという親を無視して、勝手に片づけるのは難しいことです。

1回で説得することなど思わず、何回でもまずは話し合うことが大切なのだそうです。

納得してもらえなくて当たり前、くらいの気持ちが大切。

もし、親がエキサイトしたり、こちらの気分が悪くなるような物言いをしてきたとしても、ここはグッと我慢です。

長期戦で押したり、引いたり、少しづつ親を啓蒙していくといいのだそうです。

そして、ここが肝心。

決して、親を責めたり傷つく言葉だけは使わない。

勢いにまかせて、そのようなことを言っては絶対に状況は進展しませんからね。

それどころか、言葉は刃になってしまいます。

心ない言葉によって、自分の人生を否定されたと受け取るかもしれません、子供が投げつけた言葉によって修復不可能な心の傷を負ってしまうことだってあるのです。

まとめ

そしてもうひとつ、言ってはいけない言葉があるそうです。

それは、「ものを捨てよう」と、「ものを減らそう」。

親は捨てたくないのですから、この言葉も禁句です。

その代わり、この言葉を使いましょう。

「家を片づけよう」、「整理しよう」、といった前向きの言葉。

そして、しぶしぶでも親が、「うん」 と言ってくれたら、小さいところから片づけていくのです。

例えば、食器棚の引き出し、テレビ台の下、台所の流しの下。

まずそうしたところを1ヶ所だけきれいにします。

いきなり全面展開するより、親も構えないし、受け入れてくれるはずです。

試してみて下さい。

『親家片』は、必ずしも不用なものをすべて処分して、何もかもスッキリさせることが目的ではありません。

大切なもの、必要なもの、心を満たしてくれるものなどを、自分で管理できる範囲で残していくことも大切ですよね。

また本書では、『親家片』のときには、親だけでなく、兄弟や親戚などと連絡を取って、話し合いも必要だと言っています。

実際に勝手に始めたために、「あれ、私が欲しかったのに」とか、「黙って捨てられた」「こちらの気持ちを無視して勝手に片づけた」、などというトラブルが起こってしまったということも多いそうです。

その他にも、ゴミの処理はどうすればいいのか?

一人っ子や、どうしても兄弟や親戚に頼めない場合はどうすればいいのか?

業者に頼んで、お金で解決してしまうのはどうなのか?

写真は? 仏壇は? 

など、『親家片』をする上で、必ず出てくる疑問について、具体的に解決策を示してくれます。

また、親が生きている場合だけでなく、亡くなったときの『親家片』の方法も教えてくれます。

『親家片』に近道はありません。正解もありません。

ひとつひとつ違っていいのです。完璧などないのです。

本にこのようなことが書いてありました。

「親家片は、親と向き合い、親子の縁を結び直し、そして送り出すこと」

「同時に、親家片は、人が老い、この世を去るということを、親が最後に、自らの姿を通じて教えてくれること、でもあります」

そして感じたことが、もうひとつありました。

『親家片』を通じて、親の人生や老い、自分の人生や老い、また死ということをあらためて考えさせられました。

“大変だったけど、やってよかった” と思えるように、幸せな『親家片』ができるように、この本は、きっとその時に助けになってくれると思います。

親の家を片づける 実践ハンドブック (ゆうゆうブックス)

親の家を片づける 実践ハンドブック (ゆうゆうブックス)

親の家を片づける 実践ハンドブック (ゆうゆうブックス)

親が高齢になってひとりで暮らせなくなったり、亡くなってしまったときに、親の家を片づけなければなりません。それは途方に暮れてしまうような膨大な作業の数々でした。モノが多すぎる、ひとりではできない、進まない、捨てられない、どこから手を付けていいのか分からない、でもやらなくてはいけない。誰もがつきあたる疑問、難題にどう向き合っていったらいいのかを教えてくれます。