世の中にはあんな本やこんな本、いろんな本がある。そのテーマも十人十色。 「感
動したい本が読みたい!」「思いっきり怖い本を味わいたい」と思っても、 どんな本
を選べばいいのか分からない! とお悩みの方も多いはずでは? そんなときにあ
なたの味方になるのが書店員さんたちだ。 本のソムリエ、コンシェルジュとしてあ
なたを本の世界に誘ってくれる書店員。 そんな彼らに、テーマごとにお勧めしたい
本を3冊答えてもらった。
『虚航船団』
選んだ理由・読みどころ
◆筒井康隆◆
たぶん筒井康隆に入門なんてありませんしあり得ないと思うのですがどなたか教えていただけないでしょうか。一番最初に勧められた筒井康隆が本書『虚構船団』と現在絶版中の『驚愕の曠野』だったのでそれに習うよりほかどうしようもなく。
『虚構船団』は本当にどうしようもないくらいハードルの高い作品で、けれどこの作品を最初に読むということは、これから筒井康隆を読んでいこうとするならずいぶん的を射たチョイスだったのだと冗談抜きで思います。これを読んでもまだ筒井康隆を読もうという気になればの話ですが。『虚構船団』を要約しようとするとどうしても内容ではなく、一方で擬人化された文房具が乗る宇宙船の話があり、もう一方で猿の惑星ならぬ鼠の惑星の創世記からの歴史が記されており、現在までやって来たところで宇宙船による惑星の侵攻がはじまる、というような小説の構造の話になってしまいます。小説の構造の提示というのが筒井康隆を読むうえで目につくのはあえて言うべきことでもないでしょう。メタフィクションと言ってしまえばなにやら知ったふうに聞こえるものの、筒井康隆のそれが意味するところは読むほどによくわからなくなってきます。フィクションというのはもともとメタを含むのではないか、と矛盾した思いつきが腑に落ちたり。もっともこのような読み方は胡散臭いものですから、素直に『文学部唯野教授』『虚人たち』『大いなる助走』『筒井版 悪魔の辞典』などへ筒井康隆入門の面目躍如を期待する所存です。
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『虚航船団』
著者:筒井康隆
出版社:新潮文庫
定価(税込み):820円
『空の怪物アグイー』
選んだ理由・読みどころ
◆大江健三郎◆
大江健三郎といえばいわずと知れた日本を代表する作家のひとりだ。教科書にも必ず名前は載っているし、日本文学と大江健三郎という名前が入れ替わっても毀損ないとすら思えるほどのポピュラリティがある。しかしあらためて「代表なるものとはどんなか」とページをめくると、なんだ。なんだこれは。あまりに有名で、存在を当たり前のことのように受け止めていたけれど、この人はやっぱりヘンだ。“死体洗いのアルバイト”という噂や、現在出版されていない幻の短編があったりと、どこか都市伝説的な面をもっているし、読み直すと、ああ存在が事件、と思う。『空の怪物アグイー』は、初めて読むひとはもちろん、あらためて大江の作品に向き直るときにも「ヘンなの!」を味わえる小説だと思う。〈アグイー〉は空中を漂うカンガルーほどの大きさのもので、登場人物の頭上に取り憑いて離れない。カンガルーというのがへんに怖い。しかし怖いのは、それだけじゃない。その正体を知ると、執拗かつ冷静で、書くことに激烈に命を燃やす作家そのものの姿が見えてくるから。
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『空の怪物アグイー』
著者:大江健三郎
出版社:新潮文庫
定価(税込み):500円
『人間そっくり』
選んだ理由・読みどころ
◆安部公房◆
『こんにちは火星人』というふざけたラジオ番組の脚本家の家に火星人と名乗る男がやって来る。男の話はひらりひらりと舞い、脚本家と僕らは掴んだのかどうか感触を曖昧なものにする。単なる気狂いか、火星人か、人間か? こんな単純な問いにさえ、ちょっと待てよと立ち止まる。両者の中間である「そっくり」という言葉を見つけてほっとする。分からなくなるというのは恐ろしいことだ。自分を信じることはどれだけ大変なんだろう。間違っていたっていい、信じよう。と思うと、今度は気狂いの仲間入り。それでいいじゃないか。
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『人間そっくり』
著者:安部公房
出版社:新潮文庫
定価(税込み):380円