BOOK REVIEW

書評
宇宙の写真画像

 この写真、なんと100円ショップやホームセンターなど身近な場所で手に入るもので作成した装置で撮影したものだ。装置は安くできていても、彼が撮影する宇宙から見た地球の写真は、息を呑むほどの美しく、雄大だ。
 こんな面白い試みを、彼は日本の中で、しかもたった一人で行っている。

 “彼”の正体は、岩谷圭介さん、1986年生まれの29歳。北海道大学在学中に“個人レベルの投資”と身の回りの素材だけで「ふうせん宇宙撮影」という壮大な“宇宙開発”をはじめる。2012年には日本で初めて小型風船カメラを使い、上空3万メートルから撮影に成功。現在ではCMや広告にも起用されるなど、大きな注目を集める青年だ。
 そんな彼の活動が『宇宙を撮りたい、風船で。』(キノブックス/刊)として一冊の本にまとめられた。

■身近なもので宇宙へと飛び立つ

 宇宙から地球を撮影するという壮大なプロジェクトのやり方はこうだ。
大きな風船(バルーン)に発砲スチロールでつつんだカメラをつけて空に飛ばし、宇宙が見える高度まで上昇させて、宇宙と地球の境界や地球の輪郭を撮影。風船が割れたところで地上に落下してくるので、データを回収する。この一連の撮影で、だいたい2時間半程度かかるそうだ。
 バルーンは公的団体や企業が行う宇宙開発でもたびたび利用されているが、費用があまりかからないことから私個人が使うことも多いのだとか。さらに、岩谷さんの場合、バルーン以外の機材も、どこでも手に入るものばかり。意外なほど素朴な素材を使っていて、スタートして以来ずっと手作りなのだという。釣り具のリールを機材として使わなければいけないとき、そのまま買えば10万円するところを、創意工夫とアイデアで100円までコストを抑えたというからすごい。「宇宙」と聞くと巨額のプロジェクトだと思うものだが、岩谷さんの話はそうした既成概念を吹き飛ばしてくれる。
 では、どうして岩谷さんはこの「ふうせん宇宙撮影」をたった一人で始めたのだろうか?

宇宙の写真画像

■最初は何事も失敗続きからはじまる

 「ふうせん宇宙撮影」をはじめたきっかけは、岩谷さんが2度目の大学4年生を過ごしていた夏。大学院への進学もせず、就職もしない予定だった彼は海外のニュースサイトで、アメリカの大学生3人組が自作のバルーンカメラで宇宙を撮影するという記事を見かける。
 そこで掲載されていた写真は多少粗っぽいものの、黒っぽい空が広がる宇宙から撮影した地球だった。個人の手でも宇宙に届く――岩谷さんの固定観念は粉々に破壊された。そして、実際にやってみたいという衝動から、財布と相談しながら宇宙を撮影するための風船カメラを作る。
 何も知らない中からのスタートで、失敗を繰り返すのは当たり前。最初はせいぜい100メートルくらい浮かんだだけだったという。ただ、岩谷さんはその失敗にめげず、チャレンジを続けたのだ。

■「そんなことやって何になるの?」という言葉への回答

 夢中になっているものがある人がよく言われる言葉が「そんなことやって何になるの?」だ。そして、その後に「お金と時間と労力の無駄じゃない?」「そんなお金があるならもっといろんなことをしたほうがいいよ」など、行動そのものを諦めさせるような文句が続く。
 失敗を繰り返していた当時の岩谷さんもこうした声を浴びたという。いろんな人に声をかけても、誰からの共感も得られなかったという苦境を味わいながらも、彼は「やってみる」ことの重大な意味を噛みしめていたそうだ。
 小さく、くだらないことでも、一歩を踏み出す。どんな長い旅路でも、その一歩を踏み出さなければ前には進まない。「歩幅の大きさではなく、踏み出したことが大事だと思うのです」という岩谷さんの言葉は、「何になるの?」に対する一つの回答なのではないだろうか。

 岩谷さんがはじめて宇宙を撮れたのは、2012年に打ち上げた11号機が撮影した写真だった。そのとき撮影した写真の枚数は1万6000枚だが、その中でまともな写真はわずか1枚。それからさらに改良を加えて、16号機にしてようやく「撮れた」と思える写真が出てきたのだから、相当根気強さが求められる勝負だったのだろう。

 本書は小さな一歩から宇宙へとつながる壮大な実験を追いかけた一冊だ。あなたは自分のやりたいことをこんな風に追いかけられるだろうか?
 書籍の巻頭には、美しい地球の写真が並んでいる。文章からも、そして写真からも、宇宙に駆ける想いと挑戦することの素晴らしさが伝わってくる、読む者の心を揺さぶる本である。

(新刊JP編集部)

BOOK INFO

書籍情報
Amazonで「宇宙を撮りたい、風船で。」の詳細をみる

宇宙を撮りたい、風船で。

定価 :

1,400円+税

著者 :

岩谷 圭介

ISBN :

4908059195

ISBN :

978-4908059193

岩谷 圭介(いわや けいすけ)

1986年生まれ。発明家・工ンジ二ア・アーテイスト。福島と東京で育つ。北海道大学在学中より、個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん字宙撮影』をはじめる。
2012年、日本で初めて小型の風船カメラを使い上空30キロメートルからの撮影に成功。その後も開発を進め打ち上げ80以上の実績を重ねる。園内のさまざまなTV・新聞・雑誌に取り上げられ、CMや広告にも起用されている。技術は独力により開発。
ふうせん宇宙撮影を通して、「やってみる」ことと失敗することの大切さ、挑戦する気広げていくために活動している。

CONTENTS

目次
  1. 第1章
    風船で宇宙を見る!
    1. 風船はどこまで飛ぶ?
    2. 風船を使った宇宙開発
    3. 「ふうせん宇宙撮影」が教えてくれたこと
    4. 日本国内ではじめての「ひとり宇宙開発」
    5. 商品を買うことに慣れてしまっている
    6. 100円のリールからスタート
    7. 既成品に頼ったほうがいいときもある
    8. なぜ「風船」でなく「ふうせん」なのか
    9. 取り返せる失敗と取り返せない失敗
    10. 1万6000枚のうち1枚だけ
    11. 身近なものこそ利用できる!
    12. 回収するのも一苦労
    13. 風船を飛ばすことが仕事になる?
  2. 第2章
    夢は転がってはいない
    1. 分解してばかりの少年時代
    2. 複雑な機械も直せるようになった中学生時代
    3. 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクになりたい!
    4. 苦し紛れに下した决定
    5. 航空宇宙の研究を生かして
    6. 落とそうとして単位
    7. 仕事=就職?
    8. やりたいこととお金どちらを優先すべき?
    9. 理系、宇宙を楽しむ
    10. 分解が役に立つとき
    11. 等身大の宇宙
  3. 第3章
    「やってみて」はじまった
    1. きっかけは小さい記事
    2. やってみてははじめて分かる
    3. 「やってみる」意味
    4. 味方ができる
    5. 味方が増え、仲間ができた
    6. 宇宙開発はアート
  4. 第4章
    失敗は教えてくれる
    1. 1号機の失敗
    2. 予測も立てないままのスタート
    3. まぐれの成功が教えてくれたこと
    4. もうダメだ。諦めよう・・・・・・
    5. 成功より失敗のほうがたくさんのことを教えてくれる
    6. はじめて宇宙が撮れた!
    7. 小さくて地味で泥臭いこと
    8. 自分が劣っているように思えても
    9. 評価されても発明家にはなれない
    10. やってみて、ダメでもいい
    11. 「宇宙」「ものづくり」「発明」がクロスするとき
    12. アイディアは日常の中に
  1. 第5章
    「達成した」その先へ
    1. 夏に冬の星座を撮る
    2. 体験する宇宙をアート作品として作り出す
    3. 宇宙と深海は同じ!?
    4. 夢は「ふうせん宇宙コンテスト」
    5. 自分の考えは人に話したほうがいい
    6. 子どもたちに伝えたいこと
    7. イメージしやすい科学
    8. 「初日の出」を宇宙から撮影
    9. 「なんでも」「そこそこ」の壁
  2. 第6章
    「ふうせん宇宙撮影」の扉を開く
    1. 「ふうせん宇宙撮影」はどうしてできる?
    2. 打ち上げにかかる時間
    3. 費用は1回に20万円~100万円
    4. 航空法や電波法がある
    5. 航空法のこと
    6. 電波法のこと
    7. スマートフォンは違法?
    8. リスクの少ない道東地区がおすすめ
    9. 回収するときに気をつけたい野生動物
    10. 凧揚げの感覚で撮影
    11. 結果以上に大きなものが得られる
    12. 糸つき撮影装置の作り方
  3. 第7章
    手を伸ばした先にある宇宙の姿
    1. 宇宙ってどんな場所?
    2. 風船が割れるとき
    3. 宇宙の温度
    4. 機材は燃えないの?
    5. マイナス60度の上空でも動くバッテリーを発明
    6. 宇宙、そこは……
    7. おわり

INTERVIEW

著者インタビュー
coming soon
ページトップへ