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解説

家族が死ぬまでにするべきこと
定価:
1500円+税
著者:
斉藤 弘子
出版社:
彩流社
ISBN-10:
4779121841
ISBN-13:
978-4779121845
 私たちにとって「死」は避けられないもの。
 自分だけでなく、大切な家族も恋人も友達も、いつかは必ず死を迎えます。その悲しみや辛さは経験しないとわからないものですが、確かなこともあります。人が亡くなった時、家族や近しい人には「やらなければならないこと」が次々と折り重なってくるのです。それは葬儀や埋葬の手続きだけではありません。年金や税金、金融機関や生命保険、不動産などのさまざまな場で、故人の人生を完結させるためにたくさんの手続きが必要になります。
 故人が長く闘病していたならば親族には看病疲れがあるでしょうし、介護をしていたなら介護疲れもあるはず。突然死ならショックを受け、混乱しているかもしれません。いずれにしても平常心でいるのは難しく、その状態で故人にまつわる膨大な手続きを迅速に行うのは考えているよりずっと大変なこと。生前から「どんなことをしなければいけないか」という知識は持っておくべきです。

「銀行口座」が凍結 解除には高いハードルが

 ノンフィクションライター、終活カウンセラーでもある斉藤弘子さんが、自身の親とパートナーを看取った体験から、人の人生の最期に向き合う時、大切にするべきことやしなければならないことをつづった『家族が死ぬまでにするべきこと』(彩流社/刊)によると、人が亡くなった時に起こることの一つとして「故人の銀行口座の凍結」があります。

 つまり、故人の預貯金を引き出すことができないのです。このことは知っている人もいるかもしれませんが、注意すべきは親族が金融機関に預金者の死亡を伝えることで口座が凍結されるだけではなく、どのようなルートかは不明ですが、金融機関が死亡の事実を知り、口座を凍結することもあるのです。
 こうなると、遺言がない場合は、法定相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明、故人の誕生から逝去までの戸籍謄本(除籍・改正原戸籍)、法定相続人全員の実印が押印された銀行所定の用紙などがないと、凍結を解除することはできません。遺言がある場合も、遺言書、遺言者の除籍謄本、遺言執行者の印鑑証明書、遺言執行者の実印を押印した払戻依頼書などが必要となります。
 つまり、遺産分割協議の話し合いが成立して、相続がきちんと完結しないと凍結解除は難しいということ。しかし、葬儀費用に限っては引き出すことができるとも言われます。金融機関によってもルールが異なるため確認すべきでしょう。

亡くなった人の住民税も支払わなくてはならない

 また、税金の問題もあります。「人の死」と関係する税金というと思い浮かぶのは相続税ですが、それだけではありません。
 たとえば住民税は、その年の1月1日現在に住所がある市区町村が前年の所得に応じて課税します。だから、故人が1月に亡くなったとしてもその年の住民税は発生します(ただし1月1日に亡くなった人については課税されないのが通例)。
 「もう亡くなっているのだから、支払う必要はないはず」と決めつけて請求書を無視してしまうと、後で延滞税がかかることもあるので注意が必要です。これは固定資産税や個人事業税にも同じことがいえます。

死去したとたんに病院の対応が変わる

 ここまで「お金」にまつわる話をしてきましたが、故人のために最初に考えることは、きちんと弔う葬儀の準備です。というのも、斉藤さんによると、故人が生きていて「患者」だった時と比べて、死後は病院側の対応がとてもドライになるそう。できるだけ早く遺体を搬送するよう求められ、斉藤さんの場合はパートナーが午前4時過ぎに亡くなり、その日の昼までには搬送するよう告げられたといいます。
 こうなると、葬儀まで遺体をどこに安置するかという問題が生まれます。葬儀社の安置所や、斎場の安置所などをすぐに確保しないといけません。葬儀社が決まっていない場合は、遺体の搬送だけを担う業者や、「遺体専用ホテル」という安置のための施設もできているため、選択肢の一つに入れておくといいかもしれません。

 ここで紹介したことは、家族など親しい人が亡くなった時にやらなければならないことのごくごく一部。実際には年金や住宅ローン、保険など各分野でさまざまな手続きが必要になります。本書ではそれらの実情について詳しく解説されているとともに、大切な人の人生をよりよく幕引きするために、自分にどんなことができるのかという点についても、斉藤さん自身の体験を元にアドバイスを与えてくれます。

 生きているうちから自身や家族の死を考えて準備しておくことは不謹慎なことではありません。やがてくる時に備えて、起こりうること、やるべきことを整理しておくことは、大切な人を良く看取るための優しさなのです。

(新刊JP編集部)

目次

    1. 家族が向き合うこと
    2. 医師、コ・メディカル・スタッフとどう付き合うか―医療現場の実態
    3. 死にゆく大切な人に寄り添う
    4. いざというときの準備をする
    5. 「ご臨終です」といわれてからするべきこと
  • あとがきに代えて 体験からの学びと社会化

著者プロフィール

斉藤 弘子

「生と死」のあり方を追究するノンフィクションライター、 終活カウンセラー(一般社団法人終活カウンセラー協会認定・上級)。 また「死生学」を専攻し、葬祭ディレクター養成の学校の講師 (「サナトロジー&カウンセリング論、終末人生設計論)でもある。

死生学の主著

人は死んだらどうなるのか?』(言視舎)、
はじめて読む「葬儀・お寺・お墓・人生の後始末」の本』(共著、明石書店)

その他の主著

器用に生きられない人たち─「心の病」克服のレシピ』(中公新書ラクレ)、
私たちが流した涙─記憶に残る最期』(ぶんか社文庫)、
心をケアする仕事がしたい!』(彩流社のち言視舎)、
自殺したい人に寄り添って』(いのちを見つめるシリーズ2、三一書房)など多数。