■ 29歳で会社をやめ、体一つでアメリカへ
―本書『世界へ挑め!』には徳重さんのこれまでの道のりや、起業、人材についての考え方が書かれており、若いビジネスパーソンへの強烈な叱咤激励とも読むことができます。まずお聞きしたいのですが、徳重さんが考える“世界で戦える日本人”になるためにはどんなことが必要なのでしょうか。
「“海外で働くには何が必要か”っていう話になると、よく語学力や論理力っていう話になるじゃないですか。もちろんそういうことも必要だとは思うんですけど、僕が大事だと思うのは、“どういう世界を作っていきたいのか”というような、考え方のベースになる部分です。それって世界共通なんですよね。たとえば、僕は“日本からすごいベンチャー企業を作る”なんて言ってますけど、それって僕だけが考えていることではなくて、台湾とかベトナムの人の中にも同じようなことを考えている人がいて、そういう人の考えには、国や文化が違ってもすごく共感を受けます。
だから、ベースになる考えや信念、どうしてこの事業をやっているのか、それを通して世界をどう変えたいのかという、根本的なところがしっかりしていることが一番大事なんだと思いますね」
―「考え」「信念」といったところについて、多くの人は考えが「働くこと=お金を稼ぐこと」というところで止まってしまっていて、「世界をどう変えたいのか」というところまで行っていない気がします。
「そうですね。今言ったような“信念”について考えるためには、自分は何が好きなのか、とか、社会がどうなっているかを知らないといけませんし、そのためには広い世界を見ないといけません。歴史も勉強する必要があります。そういったことを通して、自分が何に感動して、何が好きで、といったことがだんだんとわかってくる。だから、“信念”は、今日明日で考えられるものではないんです。ずっと考え続けて、様々なことを経験し続けて、失敗し続けて、いろんな人に出会って、ということをしているうちに信念は形作られていきます。
僕にしても、すぐに信念を持つことができたわけではありません。29歳の時に会社を辞めて5年間シリコンバレーにいたのですが、その5年間で改めて日本の歴史を勉強してみたり、人と議論したり、という経験を積み重ねました。そういう経験があって今がある。
だから、考えることをやめてはいけないと思います」
―そうして培われた信念に従って、自分が何をやっていくかを決める。
「そうですね。よく若い人に言うんですけど、自分の強みとやりたいことって違うと思うんですよね。また、自分の強みややりたいことをそのままやっていくだけではなく、社会が抱える課題も考慮しないといけません。社会の課題と自分の強みが重なる領域を突き詰めていくプロセスがあればいいと思います」
―今おっしゃったようなことを若い人が実行していくにあたって、徳重さんが起業するに至ったプロセスを教えていただけると参考になるのではないかと思います。
「比較的いい大学を出て、いい会社に入って、普通に働いていたんですけど、29歳の時に思い切って人生を0に戻そうということで会社を辞めて、MBAを取るためにアメリカに行ったんです。
今まで蓄積してきたものを捨てて再出発するからには、最高のところを目指したいじゃないですか。それが僕にとってはベンチャーの起業だったんです。当時、僕の中ではベンチャー=シリコンバレーというのがあって、シリコンバレーに行くことにしました。
日本ではその頃、ベンチャーっていうとちょっとバカにされる感じがあったんですけど、向こうでは一番優秀な奴がベンチャーをやっていて、すごいなと思いましたね。
シリコンバレーにいると、日本政府から偉い人が視察に来て、“どうしたら産業を作れるんですか”と聞いてくるんですよ。つまり、シリコンバレーにはベンチャー企業がたくさんあって、成長していて、もちろん失敗もあるけれど雇用が生まれて、国の経済を牽引する一つの産業になっているわけです。
一方で、日本は大企業がおかしくなっていて、急速に成長しているメガベンチャーもないので閉塞感がある。もし、そのメガベンチャーがあれば日本が陥っている閉塞感を解決できるんじゃないかと思ったんです。そう考えた時、自分がやろうとしていることがすごく意義あることだと思えました。つまり、単に自分が好きなことをやるだけじゃなくて、そこに社会的な意味を見出せたんです。僕の場合はそれが信念に繋がりましたね」
―せっかくいい会社に勤めていたところを0に戻そうとなった時はやはり悩みましたか?
「それはすごく悩みました。僕は住友海上火災保険株式会社に勤めていて、エリート部門ではないですけど比較的いい部署にいたので、辞めるとなると“なんで辞めるんですか?”となるわけです。あまり辞める人がいない会社ですから“不満は何ですか?”と聞かれました。
でも、僕は元々“サラリーマン”ではなく“プロのビジネスマン”になりたいと思っていましたし、上の役員の人を見ても、将来彼らのようになりたいとは思えなかったんです。それは、このまま会社に染まっていけるのかという問題で、多分やろうと思えばできたと思うんですけど、自分の道を生きる方を選びました。
ただ、自分のやりたいことを追求できる自由度はあるけれど、この先どうなるかわからないわけですから、1年くらい悩みましたね」
―さきほどベンチャー企業のお話が出ましたが、本書には日本とアメリカにおけるベンチャー企業の位置づけの違いとして、アメリカは優秀な人ほどベンチャーに行き、日本は優秀な人ほど大企業に行くという対照的な傾向について触れられていました。この状況に関して何かご意見があればお聞かせ願えますか?
「まず、アメリカでは大企業に勤めることが必ずしも安定した生き方というわけではありません。IBMでもオラクルでも、業績が悪くなったら事業部門ごとバッサリ切ってしまうので、そこで働く人にとっては“大企業=安定”ではないんです。いわゆる従来の日本の大企業が安心度90%だとしたら、アメリカの大企業は安心度60%くらいだと思いますね。
それに対して、ベンチャー企業はどうかというと、日本の場合は安心度10%くらいですけど、アメリカは大企業にいてもどうなるかわからないということで、安心度ということでいったら大企業もベンチャーもさほど変わらないんです。ベンチャーで働くと実力がつくということもあって安心度40%くらい。だから大企業と20%くらいしか変わりません。ここが大事なところで、アメリカは自分に力をつけること、つまり何かその道のプロになっておけば、それこそが幸せなことで安心でもあるという発想なんですよ。
例えば、ベンチャーのマネジメントチームで一生懸命やったけど失敗してしまったとします。でも、ベンチャーや新規事業って誰がやっても難しいんですよ。マーケットという人間には制御できない不確実要素があるから、ベストを尽くしても失敗することはある。
じゃあ、その失敗した人を抹殺すべきかといったらそうではないわけで、その経験とスキルがあれば次のチャンスはいくらでもあるんです。そこが日本とは違いますね。
だから、日本人に起業家精神がないということではなくて、結局は日本とアメリカで大企業とベンチャーのリスクの度合いが違うということだと思います」
―これだけ学生が「安定」を求めると、中小企業やベンチャー企業は人材の確保に苦労するかと思います。こういった時期に優秀な人材を確保するために、企業側はどのようなことをすればいいとお考えですか?
「僕も最初は苦労しました。人材紹介会社にお願いするお金はないので、ハローワークにお願いしたんですけど、いい人が来ないんですよ。だけど、僕が大事だと思うのは、やっぱり何を目指して会社をやっているのかっていう経営者のビジョンですよね。経営者のビジョンや理念がしっかりしていること、それが面白くてワクワクするようなものであれば、優秀な人は集まって来ると思っています。 僕は、創業当初から世界市場に出ると言っていますし、イノベーションを起こすとか、アジアのリーダーになるとか言っています。たとえ今は実現できていなくても、そういうことを社長が本気で言っていると、それは社員にも伝わるんです。本気度が伴った理念にワクワク感があれば、優秀な人は来ると思っています」
―経営者のビジョンが第一なんですね。
「それに尽きると思いますね。ベンチャーの給料は低いですし、福利厚生もない、労働時間は長い。すべてマイナスです。そのマイナスに勝るビジョンやワクワク感がないと人は来ないですよ。
それともう一つは、この会社に入ったら自分が鍛えられるぞっていうことが分かれば、人は集まると思います。例えばゴールドマンサックスとマッキンゼーだとゴールドマンサックスの方が給料はいいですけど、マッキンゼーに行った方が力がつくという理由でマッキンゼーに行く人が多いんです。仕事は厳しいかもしれないけど、でもその分力がつくなら行きたいと思うじゃないですか。それと同じで、うちも今若くて優秀な人材が切磋琢磨する塾のようになっているんです。この会社に入ったら仕事を任せてもらえて、圧倒的に成長できるよと。そういうのが噂になって人が来るということもあります。その二つですね」
―自分が成長できるなら労働条件が多少悪い会社でも入るという人は、その会社で働いて力をつけた後、独立するということを視野に入れているのでしょうか。
「当然、将来的には自分で会社をやりたいと考えている人もいますし、単に力をつけたいと思っている人もいます。力をつけてすぐに辞めてもらっては困りますけど、その人なりに意図を持ってやっているでしょうから、“経営者と社員”というだけではなく“パートナー”という感じでやっていますね」
―「パートナー」という言葉が出てきましたけども、一般的な会社での経営者と従業員の関係とは少し違いますね。
「今言ったように、将来自分で会社をやりたいからうちに来ているっていうのはあると思うんですけど、やはり実際に働いてみると会社を立ち上げるってそんなに簡単なことじゃないなという現実が分かってきたりもしますよね。
会社を経営するにはOSが必要なんですけど、うちに来ればそれが身につくよとか、そういうことを言うだけではなくて、本当にその場を提供するということが大事なのではないかと思います」
―それができないと、労働条件によって社員から不満が出てきてしまったりするわけですね。
「それはもちろんそうです」
■ 「リスク=危ないこと」ではなくチャンスもある
―世界で勝負するために必要なことの一つとして、本書では「枠から外れる勇気」の重要性が語られています。徳重さんご自身、この勇気をどのように培ってこられましたか?
「こういうことは生まれ持った気質よりも経験の方が大きいと思いますね。自分の体験と、思いと、歴史観がミックスされて培われるものだと思います。
僕は高杉晋作を尊敬しているんですけど、彼は若い時に上海に行って、そこが欧米列強の奴隷みたいになっているのを見た。それで、日本をこんな風にしてはいけないという思いを抱いたわけですが、それはまさしく彼の体験が元になったもので、彼の信念や勇気はそこから生まれています。
僕はベンチャー起業家ですが、起業家の中でも日本全体を見る視点、日本がこういう状況だから起業家としてこうしなきゃいけない、ということを考えている人ってあまりいないのではないかと思います。自分がお金持ちになりたいとか、そういうのは多いですけど。
僕はアメリカでシリコンバレーを見て、日本にはそういうものがなくて困っていることや、アジアではこれまでソニーだとかパナソニックの製品が売れていたのに、今は全部サムスンになっているのを見て悔しい思いをしてきました。そういう経験や体験を通じて、自分こそが世界に出てそれをやらなきゃいけないという使命感を持ったんです。それは自分のオリジナリティだし、自分だからこそできることだと思います」
―やはり起業する方の動機はお金持ちになりたいというのが多いんですね。
「そう思います。学歴がないとか貧乏だとか、そういうコンプレックスをバネに、というのが昔は多かったんですけど、それだとお金ができたら目的が達成されてしまうので、その後はモチベーションを保てません。日本の企業が大きくならない理由の一つはそれなんですよね。
それと、最近多いのは、自由でいたい、縛られたくないっていう人ですね。それはそれでいいと思うんですけど、僕は今の日本の状況を憂いているので、一つの産業を作れるような事業をやりたいなと思っています」
―本書の中で、「リスク=危ないこと」ではなく、チャンスでもあるという言葉が印象的でした。徳重さんのご経験のなかで、リスクを取ったおかげで大きな成功を得たというエピソードがありましたら教えていただければと思います。
「経営学や財務理論では、リスクというのは振れ幅を意味します。つまり、リスクが大きいということはボラティリティ(振れ幅)が大きいということですから、大失敗する可能性もあるけど大成功するかもしれない。
さっきもお話ししたように、僕は29歳の時に今まで蓄積してきたものチャラにして、シリコンバレーに飛び込みました。それこそ何の保障もなく、あったのは夢だけです。だからすごくリスクの高いことをしていたんですけど、そのおかげで僕は今の仕事を始めることができたので、結果的には成功ですよね。
日本の若い人たちはよく“失敗したらどうするんですか”と言いますけど、失敗してもいいんですよ。強い思いを持ってやったことが失敗したらそれはショックでしょう。でも、それがエネルギーになるんです。たとえば、起業には強烈なエネルギーが必要ですが、それは失敗や挫折がないと生まれないんですよ」
―本書には、企業として世界で戦うために必要となる考え方や、具体的な戦い方が書かれており、それを読むと中小企業やベンチャー企業でも十分に海外でビジネスを成功させるチャンスがあるように思えます。それにも関わらず、徳重さんや、徳重さんが経営されているテラモーターズのように、はじめから世界を見据えた起業が少ないことにはどういった理由があるとお考えですか?
「日本人的なメンタリティもありますけど、成功事例がないことも大きいですよね。成功事例がないから、できるというイメージが湧かないわけです。
でも、世界を見ると成功事例はたくさんあるんですよ。
今、アメリカで液晶テレビのシェアが一番大きいのはVIZIOっていう会社なんですけど、ベンチャーなんです。売上が約3,000億で社員は200人くらい。設立からまだ7年くらいしか経っていないんですけど、もうアメリカではソニーやサムスンを追い抜いてしまいました。世界にはこういう事例がたくさんあるんです。
逆にいうと、なんでそれを日本人ができないのかというのが僕の中にあって、それが僕のモチベーションになっています。世界に成功事例があっても日本人がやらないと身近にならないんですよ。帰国子女でもなく、英語も完璧にできるわけでもない日本人の僕が成功できれば、“自分でもできるんじゃないか”と思う人も増えるはずです。その成功事例を作ろうとしているのがテラモーターズなんです」
―徳重さんの今後の目標を教えていただけますか?
「この2年くらいの短期的な目標としては、まだ世界市場で2輪とか3輪の小型EVで突き抜けた存在感を持っている会社がないので、その位置に行きたいです。中期的な目標は、日本からメガベンチャーを作るということ。みんな日本の企業ではアップルやサムスンを超えるのは無理だと思っているから、それを我々がやってやろうと思っています。無茶苦茶なことを言っていると思われるかもしれないけど、さっきの事例のように不可能ではなくて、僕たちにもできるはずです。
長期の最終的な目標は、やっぱり産業を作ることですね。シリコンバレーはスピンアウトによって作り上げられたと言われるんですけど、最終的にはテラモーターズからスピンアウトした人で一つの産業を作っていければと思っています」
―最後になりますが、読者の方々、特に若いビジネスパーソンの方に向けたメッセージをお願いできればと思います。
「“60%行けると思ったならGO”ということですね。日本って80、90%行けるとならないとアクションを起こさないじゃないですか。
今、世の中はものすごく不確実になってきていて、どんなに計画したとしても想定通りに進むわけがないし、80%、90%になるまで待っていたらスピードが遅すぎます。だから60%行けると思ったらまず始めてみることですね。その結果、挫折することもあると思いますけど、それは自分のエネルギーになっていくので、とにかく動けと。それが一番です。
僕の感覚だと、日本人が60%行けると思ったことって、同じ事実でもアメリカ人からすると70%行けるくらいの感覚なんですよね。アジア人だと80%。それくらい日本人って完璧主義なところがあるし、自分で自分に規制をかけてしまっています。
あとは軌道修正能力をいかに高めるかです。さっきの60%の話と関係しますけど、軌道修正能力の重要性がわかっていれば、ある程度不確実ななかでスタートさせることはそんなに気にしなくていいわけですから」
(インタビュー・記事/山田洋介)