平成19年の文部科学省の調査によると、学習塾に通っている中学生の割合は53.5%。学年別に見ると3年生が65.2%、2年生が50.9%、1年生が45.1%となっており、大まかに中学生の2人に1人が塾に通っている計算になります。
さまざまな子どもたちが集まる学習塾。偏差値が70を超える子もいれば、30から進学校を目指そうとする子もいます。その子に合った指導方法で成績を伸ばすとともに、その子たちの心のケアも大事になります。
なぜなら、“ただ勉強をさせても”子どもの成績はあまり伸びないからです。
小中高生対象の個別指導塾を経営する喜多野正之さんはコミュニケーションが子どもの成績上昇を促す例として、次のようなエピソードを著書の中で明かします。
■バイクを乗り回していたやんちゃ中学生を塾講師はどう変えたのか?
母親とともにやってきた中学1年生のK君。すでに「ワル」の風格を持つ男の子で、その頃からバイクを盗んでは乗り回していたという噂も立っていました。
母親はわが子が勉強をしてくれるように懇願し涙を流すのですが、当のK君は眼をギラつかせ、担当講師にも挑発的な態度をとります。成績を伸ばそうという気持ちも感じられません。
ただ、K君は塾にはちゃんと来ていました。また、さほど勉強していないのにテストで70点を取ることもありました。もう少し勉強に目が向けば、伸びるかもしれない。そんな淡い想いを抱いたまま、時間が流れていきます。
教室責任者や担当講師は、K君と粘り強くコミュニケーションを取り続けました。つながるカギはなかなか見つかりませんが、いつも声をかけ続けました。
そのうち、K君に変化が見られます。中学3年生になり、自分から進路を口にしはじめたのです。成績や授業態度は相変わらずでしたが、自動車やバイクの整備をしたいから某工業高校に進学したい、尊敬する先輩が通っていた高校に行きたいと、自分の志望校について話すようになりました。
塾の出す宿題も提出するようになり、成績も少しずつ上がります。この変化に、担当講師は「ホメる」「話を聞く」ことをさらに強く行い、K君が志望校を見据えて気分よく勉強できるように努めました。
半年後にはK君の成績は、志望校の合格水準に達します。模試の結果や定期試験の結果が上がると、担当講師が喜ぶ。それをモチベーションにしていた一面もあったようだと喜多野さんは述べます。
そして、K君は見事第一志望に合格。高校を卒業した後は、自動車整備の仕事に就き、今でも担当講師のもとにK君から連絡があるそうです。
■つながりの中で勉強をするモチベーションが育む
喜多野さんは、K君は不遜な態度を取りつつも約3年間休まず塾に通い続けたとした上で、「彼も大人に構ってもらいたかったんじゃないかと思います」と推測しています。
実はK君の両親は再婚で、母親の連れ子だったそうです。大人に対する警戒心も相当あった中で、担当講師が粘り強くコミュニケーションを取り続けたことが、K君を変えたのでしょう。
このエピソードは、喜多野さんの著書である本書に収められています。
本書は、「いかに子どもに勉強させるか」や「こうすれば成績が伸びる」という具体的な方法論よりも、「子どもの成績を伸ばすために親がどうサポートすべきか」ということが中心になって書かれています。
多感な時期を過ごす子どもたちは、家庭環境によって学習意欲が左右します。学習状態がパッとしない生徒も、家庭で辛抱強くコミュニケーションを取り続けた結果、成績を伸ばすということもあるのです。
子どもをしっかりと見ること。叱るときは本気で。子どもに本気を出させたいのなら、こっちも本気で。本書を読み終わると「親が子どもの成績を下げている」という喜多野さんの主張は腑に落ちるはず。
子どもの成績を伸ばしたい、もっと勉強してほしいという親御さんにとっては力強い味方になる一冊です。
(新刊JP編集部)
- 第1章
あなたの子どもが塾に行っても成績が伸びない本当の理由 -
- ある塾での経験が今につながった
- 個別塾の指導もまた個別式?
- 熱心な指導が成績を下げる
- 「わかりやすさ」って何でしょうか?
- 売上中心に傾いてしまった悲しい塾
- 塾に行くのなら成績の上がる塾を選びなさい
- 10回の書き込みこそ間違いのもと
- 中学受験勉強は小6からでよい
- 塾に行かなくても勉強できる!?
- 中学に向けた心得!
- 第2章
落ちこぼれでも、不良でも、偏差値30アップは当たり前! -
- 母親を泣かした「ワル」も変わった
- ほぽ学年ビリがいきなり3番になった!
- 勉強したことのない生徒がいきなり勉強机に向かった「約束」
- 数学で5点しか取れなかった子がいきなり90点!
- 第3章
簡単に信頼関係を築くコミュニケーション方法を教えます -
- 親が子どもの成績を下げている
- 無関心も、子どもの意欲を奪う
- 「別に……」しか言えない子ばかりでした
- 始まりは、あいさつから
- 「good&new」の徹底
- お子さんを素直にホメてみましょう!
- ホメ方のバリエーション
- 叱るは引き出す
- 泣かせても泣かせても
- 子どもたちの「?」に真正面から答えるべきか
- 説明させることで表現力アップ
- 明るい未来を想像させる
- 第4章
ルールづくりとその徹底がお子さんの意欲を盛り立てる! -
- 子どもの背中に「ヤル気スイッチ」はない!?
- 最初に手を握り合うのは、目的・目標から
- 65点満点法とは?
- その子のプラスアルファを見つける
- 自分でルールをつくる
- 親は我慢で口出しせず
- 計画がうまく運ばなくてもやり直しは利く
- 可視化でヤル気!コモリポイント
- 子どもは、リビングで勉強させなさい
- 家に仕事を持ち込みなさい
- 過程をきちんと見てあげる
- 第5章
つまずいてもそれが次につながる学習意欲アップ法! -
- 恋愛でも意欲的になれる
- 「悔しさ」は向上心の素
- 飽きたサインはすでに出ているかも!
- 本人もおかしいと思っている
- 気をつけよう、2年生
- 受験生もうまくフォローしましょう
- ご褒美はいいの?悪いの?
- 達成感は、イベントで
- チャンスを逃すな
- 限界を決めつけない
- 第6章
親が教える必要のない学習法を教えます! -
- 親は問題集片手に。でも、解く必要はない
- 「五箇条の御誓文」の実践
- 宿題は絶対!
- テキストは、1冊1000円でOK!
- ノートの取りかたは「俺流」でいい
- 授業設計のデザイン
- 確信犯より危ない「わかっている子」
- 試験3週間前、始動!
- 定期試験後の「復習」は忘れてはいけない
- 成績が上がらない子はがんばってしまう子
- 受験勉強は夏休みから!
- 家庭でもできる「力ミサマ」
- 夏休みが終るとランナーズ・八イ!
- 子どもはそんなヤワじゃない!
喜多野正之(きたの まさゆき)
株式会社WITS 代表取締役
1972年、東京都生まれ。日本大学生産工学部応用化学科卒。
教師を志すも、教育実習で学習指導要領に縛られた指導しかできない現実に失望し、医療機器メーカーに就職。その後、経営コンサル会社に転職後、ベンチャー企業の役員を3社歴任し、2003年に独立。小中高生対象の個別指導塾「ITTO/みやび個別指導学院」のフランチャイジーとなる。その後、順調に教室数を増やし、現在50以上の教室を東京・千葉・埼玉で展開。カリスマ講師ではなく、アルバイトの学生が教えても成績が上がる教え方のノウハウを確立しており、どの教室でも偏差値が30以上アップする生徒が続出。今やそのノウハウは、フランチャイズ本部や他の塾のオーナーから教えを乞われるまでになっている。座右の銘は「意志あれば道あり」。

- 定価:
- 1,300円(税抜)
- 著者:
- 喜多野正之
- ISBN-10:
- 4774791199
- ISBN-13:
- 978-4774791197