解説
特にスポーツの世界で、一流のアスリートほどイメージトレーニングを大事にすることはよく知られている。
たとえば、ソチオリンピックで金メダルを獲得したフィギュアスケートの羽生結弦選手は、日本からソチへ向かう飛行機のなかで、10時間にもわたって4回転ジャンプを成功させる自分、さらには技を決めたあとにガッツポーズをとっている自分まで繰り返しイメージしていたという。
右脳を鍛えるなら6歳までに
イメージトレーニングが重要なのは、スポーツの世界に限らない。
『夢を叶える 0.1秒で人は変われる!』(しちだ・教育研究所刊)の著者である、七田厚さん、尾﨑里美さんは、「教育」の分野でもイメージトレーニングがもっと活用されるべきだとしている。
イメージトレーニングをすると、どんなメリットがあるのか。本書によれば、「右脳がより使えるようになるので、心が優しくなったり、イメージ記憶(写真記憶)ができるようになったり、集中力がつく」という。
つまり、イメージトレーニングを日々の習慣にすることで、子どもたちはよりいきいきと暮らすための力を手に入れられるというわけだ。
だが、せっかくイメージトレーニングをするのなら、最も効果的な時期を選んだ方がいい。七田さんによれば、「人間は生まれたときは100%右脳優位で、6歳を迎えるころには完全に左脳優位になってしまう」そう。つまり「イメージする力」は、幼少期の方が伸びやすいのだ。
イメージトレーニングでやってしまいがちな「失敗」
では、どのようにイメージトレーニングを行えばいいのか。子どもが「こうなりたい」「これをやってみたい」とイメージを膨らませるとき、気をつけるべきポイントはいくつかある。
- (1) 視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚など、できるだけ五感を使ってイメージする。
- (2) イメージする目標は高すぎても低すぎてもダメ。わくわく感を大切にする。
- (3) イメージしていることが「本当に望んでいることなのか」に敏感になる。
特に重要なのは、三つ目の「本当に望んでいることなのか」という点。
親のちょっとした一言をきっかけに、子どもは無意識のうちに「親が望んでいそうなこと」を自分の望んでいることにすり替えてしまうケースがあるのだ。
この状態でイメージを膨らませていっても、子どもはどこかで必ず「わくわくできない」感情に襲われてしまうそうだ。
もし子どもがイメージを膨らませるのに苦労しているように見えたなら、いったん立ち止まり、我が子が「本当に望むこと」は何なのかにじっくり寄り添ってあげる必要がある。
イメージトレーニングをするうちに、脳はそのイメージを「現実のもの」として認識するようになる。ゆえに、「●●ができる」と脳が認識すると、人間は実際に「●●ができる」ようになるのだ。
我が子の可能性を広げたいのなら、「イメトレ」の力を借りてみてはどうだろう。
インタビュー
キャサリン妃が出産時に使った「イメトレ 」とは?
『夢を叶える! 0.1秒で人は変われる!』(尾﨑里美、七田厚/著、しちだ・教育研究所/刊)の著者のひとりである尾﨑さんは普段、「お笑いセラピスト」として、経営者あるいは子育て中のママなどに向けて、心理学などの知見を用いながら、「自分を好きになる方法」を伝えている。
まずは、尾﨑さんが普段おこなっている活動の話を中心に、人の潜在能力を引き出す一手法としての「イメージトレーニング」の可能性について聞いてみた。
―― 本書は、教育研究家の七田厚さんとの共著です。元々、七田さんとはつながりがあったのですか。
尾﨑: はい。以前より、七田眞先生が書かれた書物を読み、講演会にも行って、右脳教育、イメージトレーニングを学ばせていただいていました。その後、眞先生のご子息である厚さんが私の本を読んでくださったことがきっかけで交流が始まりました。今では、二人でコラボ講演をさせていただいたりもしています。
活動テーマとしても、「イメージトレーニング」を行なっているという点で、七田さんとは重なる部分があると感じています。
―― 尾﨑さんが普段の活動で使っているイメージトレーニングとは、どのようなものなのでしょうか
尾﨑: イマジネーションの力を使って、意識を拡大させ、変性意識から潜在意識に働きかけ、人のなかに眠っている可能性を引き出すということをしています。
変性意識に入ることで、左脳の働きを止め、右脳を活性化し、イメージがしやすくなって、潜在意識との対話がしやすくなるのです。
これは元々、海外で発祥した手法で、私自身、アメリカとイギリスでプロのライセンスを取得しました。日本ではまだあまり一般的ではありませんが、海外では代替療法の一種として普及しています。
―― イメージトレーニングは、海外でどのように使われているのでしょうか。
尾﨑: たとえば「出産」で使われることがあります。少し前に、イギリスのキャサリン妃が「ヒプノバーシング(催眠出産)」を使い話題になりましたが、これもイメージングの一種といえます。
向こうでは「ペインコントロール」といって、陣痛や分娩の痛みをコントロールするためにイメージの力を使うことがあるのです。
他にもたとえば、ダイエットや受験合格など、何らかの目標を達成したいときに使われるケースがあります。一般的に「イメトレ」というと、スポーツ分野で使われるケースを思い浮かべる方が多いと思うのですが、決してそれだけではありません。
―― 尾﨑さんが潜在意識に興味を持つようになったきっかけを教えていただけますか。
尾﨑: なんと言っても大きかったのは、25歳のときに心身症になったことですね。
―― 心身症というのは、具体的にどのような症状があらわれるのでしょうか。
尾﨑: 学生時代、受験の前日に緊張して眠れなかったことはありませんか? あのような緊張状態が24時間続くイメージです。
1週間も2週間も眠れない状態や、何も食べられない状態が続いたので、精神科へ行き、安定剤と睡眠薬を出してもらいました。
―― それは辛かったでしょうね……。
尾﨑: 何より辛かったのは薬の副作用でした。当時、美容師の仕事をしていたのですが、薬のせいで手の震えが止まらないのです。これは美容師にとって致命的。ハサミを握れなくなるわけですから。
それでも、薬づけになりながら頑張ったのですが、2年ほど経ったある日、「もう限界だな」と思い……。それまで通っていた精神科の先生に「私、自分で治します。もう今日かぎり、薬は飲みません」と宣言したのです。
それからは世界中に師を求めて、様々なセラピーの手法を学ぶようになりました。そして、あるときに出会った呼吸法を実践してみたら、2か月で心身症の症状がおさまったのです。
呼吸法もそうですが、セラピーについて学んでいれば、必ずといっていいほど潜在意識に関する話は出てきます。なので、今お話したようなことが、潜在意識に興味を持つようになった経緯ですね。
「我が子を愛せない」母親が突破すべき壁
テレビなどで、母親が幼子を虐待したり、殺めたりといったニュースを見かけることがある。子育て未経験の人にとっては「なぜ、そんなことを…」と理解不能な事件に映るかもしれない。
だが、ある調査によれば、子育て中の母親の約半数が「育児ノイローゼだと感じたことがある」そうで、多くの人にとって、この問題は「対岸の火事」で済まされる話ではないことが分かる。
ちなみに、育児ノイローゼかどうかをセルフチェックするための項目の一つに「子どもをかわいいと思えない」というものがある。つまり、親が子どもを愛せなくなったら危険信号というわけだ。
『夢を叶える! 0.1秒で人は変われる!』(しちだ・教育研究所/刊)の著者、尾﨑さんのもとには、そんな「我が子を愛せない」親が相談に来るケースも多いという。
親が子どもを愛せなくなるという状況の根っこにはどのような問題があるのか。また、その問題を解決する上でのキーワードは何なのかを中心にお話を聞いた。
―― ところで普段、尾﨑さんのもとには、どのような方がセラピーを受けにいらっしゃるのですか。
尾﨑: ケースとして少なくないのが「我が子を愛せない」母親ですね。「うちの子のあそこが腹立つ、ここが腹立つ」「どうしても我が子のことが好きになれない」といって、当社に相談に来きます。
―― そうしたケースで、母親はどのような心理状態に陥っているのでしょうか。
尾﨑: 母親がいまだ受け入れられずにいる「自分の欠点」を子どものなかに見て苛立っているという状態です。
―― では、母親がそのような状態を抜け出すために、どういったアドバイスをするのでしょうか。
尾﨑: 私の口癖は「ええやん」なのですが、母親が自分の欠点を受け入れられるよう、さらに言えば短所を長所に変えられるよう、とにかく「それでええやん」という言葉をかけるようにしています。
そういうやりとりを続けていると、ある日、母親が「先生、うちの子が“いい子”になりました!」と報告しに来る。
でもそれは、子どもが変わったのではなくて、母親の心の持ちようが変わった証拠。母親が自分の欠点を受け入れたことで、子どもにどんな面を見せられても、「嫌だ」とは感じなくなったというだけのことなのです。
―― ただ実際、母親に自分の欠点を受け入れてもらうことは一筋縄に行かないのではと感じます。「欠点を受け入れる」作業を促すとき、先ほど言っていた「言葉がけ」以外に、尾﨑さんが意識しているのはどのようなことでしょうか。
尾﨑: 母親自身のなかにある、「常識」という名の思い込みを外してもらうということを意識します。私はこれを「他者の価値観からの解放」と呼んでいます。
「かくあるべし」と思っているようなことは、その人が子どものころに植えつけられた「誰かの常識」であることがほとんどです。それはたとえば「美人か、そうでないか」という基準一つとってもそう。美人の基準は国や地域によって、驚くほど違うでしょう? 「常識」というのは所詮、その程度のものなのです。
そうした思い込みを一つひとつ外していってもらって、最終的に「こんなことにコンプレックスを感じる必要なんてなかったんだ」と気づいてもらう。そこに気づきさえすれば、自ずと「ありのままの自分」を受け入れられるようになります。
―― なぜ尾﨑さんはそのように「常識を疑うことの大切さ」に気づかれたのだと思いますか。
尾﨑: 私は元々、旅が好きで、これまで30カ国以上をめぐってきたのですが、もしかしたらそのことが関係しているのかもしれませんね。海外に行くと、人の価値観というものは、本当に様々なのだなと痛感させられますから。
たとえば、日本人のおばあちゃんがビキニを着て、海で泳いでいたりといった光景を見かけることはまずありませんよね。でもヨーロッパやアメリカへ行くと、当たり前のように、80歳ぐらいのおばあちゃんがビキニを着て、最高の笑顔で泳いでいるのを見かけます。
良い悪いの問題ではなく、それだけ常識は地域によって、あるいは時代によっても異なるもの。様々な光景を見るなかで、そう実感してきたからこそ、「こうあるべき」「こうしなければいけない」「これをすべきではない」など、植えつけられた誰かの価値観や常識を「それって真実なの?」と疑っても良いのではと思うようになったのです。これらの思い込み全てを手放した時に、本当に自分が望む人生が見えてくるのではないか、と。
ネガティブな子どもをつくる親の言動
もしも、「あなたは自分のことが好きですか?」とストレートに聞かれたとして、あなたは「好きです」と答える自信があるだろうか。
また、「日本の子どもは他の先進諸国に比べて、自己肯定感が低い」ということがよく言われるが、なぜそのような状況に陥ってしまったのだろうか。
『夢を叶える! 0.1秒で人は変われる!』(しちだ・教育研究所/刊)の著者、尾﨑さんの実体験をもとに、子どもが健全に自尊感情を育む上で、本人ができること、周囲の大人がやってはいけないことなどを聞いた。
―― 尾﨑さんのもとを訪れる人に、いつもまず伝えることはどのようなことなのでしょうか。
尾﨑: 「自分を好きになりましょう」ということですね。インタビューの中編でお話した「我が子を愛せない母親」の例にも言えることですが、「悩み」の原因を突き詰めていくと「自分嫌い」という問題に行き着くことが少なくありません。
つまり、この問題を解決しさえすれば、かなりの悩みを解消できるということが経験的に分かっているのです。
―― 自分を嫌いになってしまう原因として、どのようなものがあるのでしょうか。
尾﨑: 「自己批判」ですね。子ども時代、周りが自分を否定的に扱うと、たえず自分を責め続ける、自己批判の状態に陥ってしまいます。
たとえば、子どものころ太っていたとしても、周りに「かわいいね」と言われながら育てば、劣等感は生まれません。
つまり、価値がある存在として大事にされれば、自分を愛せるようになる。その逆も然りです。
―― その意味でいうと、尾﨑さん自身は、子ども時代、周囲の人からどのように扱われていたと思いますか。
尾﨑: 「あんたは暗い人間や」と言われながら育ちました。つまり、「価値がない存在」として扱われていた。
その影響か、小学校五年生くらいまで、人とまったく喋れませんでした。「自分は本当に暗くて、価値のない人間なんだ」と思い込んでいたのです。でも、あることがきっかけで、その思い込みを手放すことができました。
―― そのきっかけとは、どのようなものだったのですか。
尾﨑: 当時の私は友だちが全くいなかったのですが、それでもというか、それだからこそ夢中になれることがありました。書道です。「一人でできるもの」ということもあり、小学校一年生のときに習い始めて以来、唯一、私の「好きなこと」であり続けました。
小学校六年生のとき、書道の授業である課題が与えられました。その課題に沿って、「無記名で」書をしたため、最終的に皆で投票し合って優秀作品を選ぶことになったのです。
誰が書いたものか分からない状態での投票だったこともあり、結果的に私の作品が一位に選ばれました。それは自分にとって、生まれて初めて「存在価値を認められた日」になりました。
簡単にいえば、それが自信になって自分の心持ちが変わり始め、それまでの思い込みを手放せるようになっていったのです。すると面白いもので、自分の変化に合わせるかのように、周りの接し方も変わっていきました。
―― 最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
尾﨑: 私がセラピストとして皆さんにお伝えしたいのは、何かを学びましょう、何かを変えましょうということではありません。「本当の自分に還(かえ)りましょう」という、その一点だけです。元々、無限の可能性を持って生まれてきた、あのころの自分に還っていただく。本書がそのためのヒントになれば、これほど嬉しいことはありません。