各企業で会社説明会や面接がはじまり、街中ではリクルートスーツを着た学生たちがよく見受けられるようになった。
内定を取れる学生とそうでない学生の違いとはどこにあるのか? 今回は『これで内定! ドラッカー流就活塾』の著者である藤屋伸二さんにお話をうかがった。藤屋さんは幾多のドラッカーの解説書を執筆、ドラッカーの思想を知り尽くした人物だ。ドラッカーの考えに基づいて就活を分析すると…?
―『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』がベストセラーとなって以後、ドラッカーの存在が学生にとって身近になったところがあると思います。学生の皆さんと話していてもドラッカーの名前自体はみんな知っているし、『もしドラ』を読んでいる人も多いですね。本書は就活にドラッカーの考え方を持ち込んだものですが、このアイデアはどういったところから生まれたのですか?
素直に言うと、編集者さんから企画をいただいたのがきっかけですね(笑)。もともと私がドラッカーを分かりやすく伝える本を執筆していたというところで、ドラッカーの考えを就活に応用できないか、と。
ドラッカーは経営者ではなくて社会生態学者、ソーシャルエコロジストです。だから人間というものに強く興味を抱いていました。そして、人間はどのように生きるべきか、というところから思索をスタートさせていき、組織社会、そして企業のマネジメントの研究に入っていきました。マネジメント=会社の経営と思われている方も多いですが、マネジメントとは人の集まるところをどうリードするのか、その手法であり考え方です。目的に向かってどういう風にやっていくか、計画・実行・評価の繰り返しというのは就職活動にも通じますよね。
また、自分自身のマネジメントができていない状況で就職活動を始めても、会社の方向性とミスマッチしていたら、せっかく入社できてもすぐに辞めてしまいかねません。それは本当にお互いの為にならないですから、そうならないように本書を書かせていただきました。
―現在の就活生を取り巻く現状について、藤屋さんはどのようにお考えですか?
受身の学生さんはきついと思いますね。
就活は端的に言えば、労働者が自分の商品を売り込む行為なんですよ。どういうことかと言いますと、お店の人はその商品を売るためにいろいろな工夫や努力をしますよね。商品を磨いて清潔に保ったり、商品にキャッチコピーをつけたり。お客さまに手にとっていただくために、お客さんが良いと思うものを売ります。就活も同じで、自分のことだけを考えて就活に入ると、内定は取れないんですよ。
―自分を労働力とみなし、それを売り込むというのは営業的な要素がありますよね。実際に就職してからも非常に役立つ能力だと思いますが、学生時代の間は自分を商品として売り込む機会はそうそうないですよね。
ないでしょうね。だから、就活が始まる前に自分は何を目指したいのか、自分は何ができるのか、どんな風に働くのが自分に合っているのかというところから考えていくと、分かりようになってくると思います。分かって動くことと分からないで動くことは違います。
―面接などでも「サークルやゼミでリーダーシップを発揮した」という文句を使う学生は多いと思いますが、個人的にはまず新入社員として働く上でリーダーシップはそこまで必要かなと思うところもあるんですね。サークルと会社はリーダーシップの執り方や責任の重みも違ってきますし…。面接のテクニック本に影響を受けすぎているというか…。
就職はエサを獲るための手段ですから、どういうエサの獲り方をしたいのか、何のためにエサを獲るのか、つまりどう生きるのかというところから入らなければいけないと思います。そこを分かっていないとテクニックに走ってしまいがちなんですよ。そうなると、就活が目的になってしまいます。
ドラッカーは、“手段は目的のフリをする”ということを言っています。『手段の目的化』なんですが、学生の皆さんもそういう風になってしまっている人は多いように思いますね。
―ドラッカーの本や思想が学生を中心に広く一般に読まれるようになりましたが、ドラッカーが広まってから人々の意識は変化したと思いますか?
変わっていませんね。『もしドラ』はブームですから。問題は、ドラッカーの思想を読んで、その後にその人の行動が具体的に変わったかどうかなんです。
ドラッカーの思想にもともと触れていた人間が心がけるべきことして、ブームを通して知っていただいたものにどう働きかけるか、その材料を提供することが大切ではないかと思います。私の場合、最初は“分かりやすいドラッカー”というコンセプトで本を書いていましたが、今は“使えるドラッカー”、会社でどうドラッカーの考えを使えば業績が上がるかという視点で書いています。具体的に行動に落とし込めない限り、結局『良い本を読んだな』ということで終わってしまうように思います。
―実際に自分自身で生かせるようにならないといけない。
そうです。だから、実は本書はテクニックではなくて考え方の本なんですよ。
―その部分はすごく感じました。
本書の中にも書いていますが、ドラッカーは『どのような人間として記憶されたいか』ということを考えなさいと言っています。それを充分に考えてから就職活動をスタートすると、目的が定まっていますから、ただなんとなく会社にエントリーして、説明会に行って、というようなことにはならないと思います。もちろん人間ですから、人に喜ばれる仕事のほうが良いに決まっていますから、それに対し自分が貢献できることは何だろうかということですね。
―自分が貢献できること、という基準で選ぶと職種準拠になりますよね。ただ、やはり企業の名前を見ながら就活を進める人もいると思います。
そうなんですが、会社って将来どうなるのか分からないんですよ。結局大企業でも倒産してしまうところはしてしまいます。だから、職種から入るべきだと思いますね。自分がどんな仕事をしたいのかが大切なのであって、どんな会社に入りたいかということじゃないですよね。
―会社内にもいろいろな職種がありますよね。営業、経理、制作、企画、広報など…。その中で合うものもあれば、合わないものもある。
自分の特性が分かれば、例えば物を相手にする仕事の方がいいのか、人間を相手にする仕事の方がいいのか分かれば、じゃあ人間相手の職種は何があるのか考えていけばいいですよね。その上で、会社にはそれぞれ文化や風習がありますから、自分に合う会社を見つけていけば良いと思います。そうしたほうが間違いは少ないですね。
また、どうしても、大企業志向になってしまいがちですが、それは圧倒的に中小企業の情報が少ないというのがあげられますね。マスコミは話題性に飛びつきますし、多くの人に読んでもらわないと意味がありませんから、どうしてそこで出てくる情報は大企業中心なんですよ。
―では、学生が本当に欲しい情報を手に入れるためにはどうすればいいのですか?
ドラッカーがよく言っているのは現場に行き、よく見て、よく聞き、よく尋ねなさいということです。自分の目、耳で確認しないと、又聞きでは悪意がなくても必ずバイアスが入ります。OB訪問でも一人だけじゃなくて、たくさんの人に会うべきですし、例えば目当ての企業の近くにある居酒屋で張り込んで、飲み会の会話を聞くとか(笑)。居酒屋でアルバイトなんかすると情報通になれると思いますよ。
―これまで就活についてお話を聞いてきましたが、学生の起業について、藤屋さんは賛成ですか? 反対ですか?
反対ですね。経験がないことができるわけがありませんよ。時どき特別な人はいますが、そうでない人は不可能だと思います。
―藤屋さんご自身は、ドラッカーの思想のどの部分に魅力を感じたのでしょうか。
本質という部分と体系的という部分、この2つですね。経営書を読むと戦略、モチベーション、文化、人事など各論について書かれている本はたくさんあるのですが、全部部分的なんですね。だから例えば戦略についての良書を読んでも、組織の作り方はそこには載っていないんですよ。
―つまり、土台がない状態になってしまうということですね。
そうです。ドラッカーはマネジメントという視点で経営論を展開しますから、その分、本が分厚くなるのですが(笑)、土台の部分はそれくらい必要なんです。マネジメントを勉強しておけば、その後に各論を読んだときに、肉付けできるんですね。根と幹、そして大きな枝がある状態でそれぞれの専門書を読むと、きれいに枝葉がついてくるという感覚ですね。
―現在の学生が今後、必要となってくるスキルはなんだと思いますか?
テクニックはあとから身に付きます。だから若いうちは古典といわれる本を読むべきですね。まずは生き方について学ぶことが大切です。それから、その生き方を実現するためにどんな仕事をすればいいのか、何を身につければいいのかを考えていけば、最終的には早くなりたい自分になれると思います。
―最後に、学生の皆さんにエールをいただければと思います。
この本はドラッカーの思想を基盤にして書いているので、間違いはない本だと思います。そして、1回や2回ではなくてメモを取りながら何でも読んで、自分の行動に落としていって欲しいですね。
―本書の中には、そのまま書き込める部分もありますからね。
そうですね。それを常に確認しながらやっていくのが一番だと思います。是非、頑張っていただきたいですね。
大学卒業後、民間企業の勤務を経て1996年に独立し、藤屋マネジメント研究所を設立。すでに中小企業診断士と社会保険労務士の資格を取得していたが、経営理論を体系的に勉強し直すため、1998年に大学院に入る。そのときドラッカーの著書と出会い傾倒。その後、テーマを設定しながら170回以上読み込み、独自のコンサルティング手法を編み出した。現在は、“いい会社にしよう、ドラッカーを使って!”をテーマに、中堅・中小企業を中心に業績伸長・V字回復のためのコンサルティング、社員研修、セミナー、執筆活動などを行なっている。 主な著書・監修書には『まんがと図解でわかるドラッカー』『まんがと図解でわかるドラッカーリーダーシップ論』(以上、宝島社)、『図解で学ぶドラッカー入門』『図解で学ぶドラッカー戦略』(以上、日本能率協会マネジメントセンター)、『20代から身につけたいドラッカーの思考法』『20代から身につけたいドラッカーのマーケティング思考法』、『20代から身につけたいドラッカーのリーダー思考法』(以上、中経出版)など多数で、通算100万部以上の販売を達成している。
