書評 - BOOK REVIEW -

 経済のニュースを見たり聞いたりする機会は多いでしょう。しかし、経済と聞くと「難しそうだ」という苦手意識が先に立って、何となく避けて通ってきた人も多いのではないでしょうか。あるいは、経済のニュースは毎日見ているけれど、今ひとつ理解できていないと感じている人も多いかもしれません。
 そうした人のほとんどは、経済に関する基礎的な知識が不足しているので、ニュースがよく理解できないのです。ニュースというのは、起きた事を伝えるものであり、ニュースを読んだり見たりする人に基礎的な知識があることを前提としています。たとえば「象が尾にケガをした」というニュースは、象を見た事が無い人には理解できないでしょう。それから、「大きなケガは治療しないと死ぬかもしれないが、小さなケガは自然に治る」という事を知らないと、尾にケガをした事の影響が読めないでしょう。つまり、あるニュースに触れたとしても、前提となる基礎知識がなければ、それを理解することは難しいのです。
 逆に、そうした基本的な知識を身につけてから経済のニュースに接すれば、理解できるニュースが増えてくるとも言えます。経済のニュースがわかると、仕事に役立つ人もいるでしょう。生活に役立つ人もいるでしょう。経済関係の雑談に加わると、チョッと知的な人だと思われるかも知れません。選挙の時に各政党の経済政策を評価したいと思う人もいるでしょう。『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社/刊)は、そうなりたい人が読む最初の本として最適です。

ものの値段はこうして決まる

 たとえば、昨年秋からガソリン価格が値下がりした事を知っている人は多いでしょうが、それはガソリンスタンドが親切になったからではありません。世界中で原油の値段が下がったため、ガソリンスタンドの仕入が安くなり、その結果としてガソリンの小売り価格が下がったのです。では、どうして世界中で原油が値下がりしたのでしょうか?「世界中の原油の値段」はどのように決まっているのでしょうか?原油の値段が下がると、どうしてガソリンスタンドはガソリンの売値を下げるのでしょうか?本書はそうした疑問に答えて行くことで、経済というものが動く仕組みを説明してくれます。
まずは、「原油の値段は、売りたい人が増えると下がり、買いたい人が増えると上がる」 という大原則があり、今回は原油を安く掘る技術によって原油を売りたい人が増えたために原油の値段が下がったのだということです。
次に、原油の値段が下がると、ガソリンスタンドにとっては利益が増えると考える人もいるでしょうが、そうではない、という事も説明してくれます。それは、ライバルのガソリンスタンドが値下げをすると客がそちらに逃げてしまうので、仕入が安くなった分は売値も値下げしないといけないからです。

 こうした事を学ぶと、ものの値段の決まり方がわかるようになってきます。そうなれば、「給料も労働力の値段だから、給料の決まり方も基本的な仕組みは同じだろう」という事がわかってきます。「雇いたい会社が増えれば給料が上がり、減れば給料が下がるので、景気がよくなれば給料が上がり、景気が悪くなれば給料が下がる」ということがわかると、景気についてもっと知りたくなり、経済のニュースがもっと読みたくなるかもしれませんよ。
 本書は今の経済の基本中の基本から、結局アベノミクスってなんだったの? TPPって何? といった現在進行で進んでいる経済政策も平易な言葉で解説しているので、気軽に目を通すことができます。
 「経済」というものに何となく苦手意識を持ちながらも、なんとなく放置してきてしまったという人、将来に漠然とした不安をかかえている人、いずれの人にとっても得るところの多い一冊です。
(新刊JP編集部)

プロフィール- PROFILE -

塚崎 公義 (つかざき きみよし)

久留米大学商学部教授。東京都生まれ。1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)など多数。趣味はFacebook、散歩、本の執筆。

目次 -CONTENTS-

  1. 第1章 : わたしたちの身近な値段のはなし
    1. ものの値段ってどうやって決めるの?
    2. 需要と供給で決まらないものもあるの?
    3. 高くなったガソリンの値段が急に下がったのはなぜ?
    4. デフレとインフレってなに?困ったことなの?
    5. 政府や日銀は、インフレ率を何パーセントにしたいの?
  2. 第2章 : みんなが働いている会社のはなし
    1. 会社っていったいなんなの?
    2. 株式会社って、どんな会社?
    3. 株式の上場ってどういうこと?
    4. 会社の状態や価値ってどうやってわかるの?
    5. 会社の経営利益ってなんのこと?
    6. 会社が倒産するってどういうこと?
    7. 自己資本比率ってなに?
    8. 日本的経営ってなに?
  3. 第3章 : 労働力・失業率のはなし
    1. 失業率はどんなふうにうつりかわっているの?
    2. 高齢者も働く時代が来るの?
    3. 非正規雇用ってどんな問題があるの?
  4. 第4章 : 政府ってなにをやっているの?
    1. 神の見えざる手ってなに?
    2. 政府の仕事ってどんなものがあるの?
    3. 財政対策っていったいなんなの?
    4. 財政赤字はなぜ深刻なの?
    5. 消費税ってなんのためにあるの?
    6. 増税や歳出削減でなぜ景気が悪くなるの?
    7. 巨額の財政赤字があるのに日本政府は破産しないの?
    8. 日本銀行ってなにをしているところなの?
  1. 第5章 : 景気について
    1. 景気が良いとか悪いってどういう意味?
    2. GDPってなにがあらわしているの?
    3. 経済成長率がゼロって悪いことなの?
    4. 景気って物価と関係あるの?
    5. バブルってなんのこと?
  2. 第6章 : 日本の国のお金のはなし
    1. 日本の国のお金にも家計簿みたいなものはあるの?
    2. ニュースでよく見るけど日本の国って赤字なの?
  3. 第7章 : 世界と日本経済の関係
    1. 円高と円安って、いったいどういうこと?
    2. ドルの値段はどう決まるの?
    3. 日本の貿易は儲かっている?
    4. アメリカの経済ってなんで注目されるの?
  4. 第8章 : 投資について
    1. 投資っていったいなに?
    2. 結局、資産運用って必要なの?
    3. 投資ってなにをしたらいいの?
    4. 投資に関係する用語を教えて!
    5. 分散投資ってなにがいいの?
    6. 株を選ぶときになにをみればいいの?
    7. PERってはじめて聞いたけどなに?
    8. 資産運用に関して気をつけることはなに?
    9. 銀行の貸出金利はどうやって決めるの?
    10. 年金の仕組みってどうなってるの?
    11. いまの若者は将来年金がもらえないの?
  5. 第9章 : ニュースと経済
    1. ニュースで聞くけどアベノミックスってなにをしているの?
    2. 地方が消滅するって本当?
    3. TPPってなに?
    4. ユーロってなに?
    5. 格差社会って聞くけどなんとかならないの?
    6. 相続ってどうなってるの?
    7. 将来の日本経済は、以前のような勢いあるものになるの?
    8. 日本経済の未来はどうなるの?

インタビュー -INTERVIEW-

 経済ニュースというと難解なイメージがあって、苦手意識を持っている人が多いかもしれません。
 経済ニュースが難しいと思われがちな理由は、それらが「経済の基礎的な知識」を受け取り手がわかっている前提で構成されているから。逆にいえば、それさえわかっていれば、経済ニュースはどんな人でも理解できます。

 では「経済の基礎的な知識」とはどのようなものなのか。今回は『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社/刊)の著者、塚崎公義さんにお話を聞き、それらの知識を交えて、「TPP」「オリンピック景気」といった時事トピックを解説していただきました。

 ―塚崎さんはこれまで経済の入門書や教科書のような書籍を数多く執筆されてきましたが、この本を執筆する際に気を付けたこと、これまで書いてきた入門書と違う点、執筆の経緯などを教えていただけますか?

 塚崎:私はこれまで、難しいことを平易にわかりやすく説明することを心がけて来ました。多くの入門書を書かせていただけたのも、出版社の方々がそれを認めてくださったからだと思っています。
 今年始めに出版された『増補改訂 よくわかる日本経済入門』も、おかげさまで多くの読者から「わかりやすい」というコメントを頂戴しましたが、中には少数ながら「それでも自分には難しくて理解できなかった」という方もいらっしゃいました。
 そこで、「この方にわかっていただける本を書こう」と思い立ち、『日本経済入門が読めるようになるための経済の本』という題名で出版社に打診し、宝島社からご承諾いただいた、というのが経緯です。
 というわけですから、「世界でいちばん」か否かはわかりませんが(笑)、とにかく「わかりやすい」本ですから、経済のことを全く知らない人、他の本を読んでよくわからなかった人に、是非お読みいただきたいと思います。

 ―海外ではつい最近まで中国のバブル景気が注目を集めていましたが、その景気が一気にしぼんでいきました。日本でもバブルにわいたあと、長い間低迷しましたし、こうした事例はたくさんあります。そもそもバブルとは一体なんでしょうか。

 塚崎:バブルというのは、土地や株の値段が、経済の状態から説明できないほどに高くなり、その後暴落する(バブル崩壊と呼びます)、という出来事です。
 バブルは大きく分けて二通りあります。人々が「バブルだ」と知っている場合と知らない場合です。バブルだと知っていても、「明日は今日より値上がりするだろうから、今日買って明日売ろう」と思う人が多ければ、土地や株は値上がりを続けます。昔のバブルはこうした「バクチ」が多かったのですが、最近ではそうした状況になれば政府がバブルを潰しますから、この手のバブルは最近は少なくなっています。
 最近のバブルは、人々がバブルだと気付かない間に大きくなって行くものです。たとえば日本のバブルの時には、「日本経済は素晴らしい。世界一素晴らしい経済なのだから、地価や株価が高いのは当たり前だ」と考えて土地や株を高値で買っていた人が多かったわけです。こうしたバブルは、人々がバブルだと気付かないので、世界中で時々発生するのです。
 私たちが生きている間に、また日本でバブルが起きるかも知れません。そして、バブルが起きても人々はバブルだと気がつかないでしょう。結果としてバブル崩壊で損をする人が出て来るはずです。そうした目に遭わないために気をつける事として、一つだけ覚えておいて欲しいのは、「いままで株式投資に全く興味を持っていなかった人々が、素人が儲けた話を聞いて自分も儲けようと考えて株を買っている」時には、その流れに参加せず、じっと見ていましょう、ということですね。初心者ほど、周囲の初心者の流れに飛び乗ってしまう人が多いので、気をつけましょう。

 ―日本では2020年の東京オリンピックに向けて好景気が続くともいわれていますが、本当に私たち一般市民が実感できるレベルの好景気はやってくるのでしょうか。また、オリンピックが終わった後の日本経済はほとんど語られることがありませんが、どのようなことが起こるのでしょうか。

 塚崎:今の景気は、株を持っているお金持ちが潤っていることと、失業率が減ったので失業していた人が就職できたことがプラス面ですが、一般庶民の生活はあまり景気回復を実感できていません。それは、給料が上がっていないからです。
 バブル期までの日本企業は、利益が増えると社員の給料も上げたものでしたが、最近の日本企業は社員の給料を簡単には上げなくなったのです。
 しかし、今後については明るい材料もあります。景気の回復に伴なって、人手不足が激しさを増しています。この流れが続けば、企業が給料を引き上げざるを得なくなるでしょう。そうなれば、庶民の暮らしも景気回復が実感できるものになるはずです。景気の回復がオリンピックまで続けば、相当な人手不足になるでしょうから、給料も結構上がるのではないでしょうか。
 問題は、オリンピックの後ですよね。人々が語らないのは、わからないからでしょう。過去のオリンピックを見ると、開催後(あるいはオリンピックの準備が概ね終わった開催直前)に景気が悪化するケースは多いようですが、悪化の程度はケース・バイ・ケースのようです。
 東京の場合、建設ラッシュで都心の不動産がバブルだ、という人もいますので、もしも本当なら、オリンピックを契機にバブルが崩壊するかもしれません。そのあたりが少し心配ですが、前回のバブルとは規模が全く違いますから、仮に崩壊しても後遺症はそれほど深刻なものにはならないと考えてよいと思います。

 ―本書ではTPPについても解説されています。日本のTPP参加をめぐり、「低所得者層への影響」という観点から、TPP参加のメリット・デメリットについて解説をお願いします。

 塚崎:TPPというのは、いろいろな事が取り決められていますが、最重要なのは貿易の自由化です。各国が得意なものを作って輸出して、不得意なものを外国から輸入しよう、ということです。したがって、日本で言えば、工業製品の輸出が増えて農産物の輸入が増えることになるでしょう。
 そうなれば、製造業は雇用を増やしますから、失業者が減ります。一方で、農家は輸入農産物に負けてしまうので損失を被ります。農業をやめて製造業に就職する人が多ければ問題はないのですが、なかなかそうもいかないので、零細農家をどう保護するか(補助金などによって零細農家を守る方法や、零細農家が競争に負けたとしても以前の所得を保証してあげる方法などがあります)、政府がいろいろ検討しているようです。不幸中の幸は、日本の農家は高齢者が多いということです。「遠からず引退するはずだったが、TPPが締結されたので、予定より少し早めに引退しよう」という人が多いとすれば、農業全体としてのデメリットはそれほど大きくないかもしれませんね。
 忘れてはならないのは、農家以外の多くの国民にとっては、外国から輸入される農産物を安く買うことができるので、メリットがあるということです。
 このように、TPPによって、大勢の人々が小さなメリットを受ける一方、少数の農家が大きなデメリットを受けるので、デメリット部分が注目を集めやすいのですが、日本全体として、あるいは日本中の低所得者層全体としてみれば、悪い話ではないと思いますよ。

 ―日本の「借金」についてはたびたび話題になりますが、本書では「日本の財政赤字については、それほど心配していない」と書かれています。ギリシャの経済破綻との比較で、なぜ日本は財政破綻しないと予測されるのかについての解説をお願いします。

 塚崎:日本政府は、巨額の借金をしていますが、外国から借りているのではなく、日本国民から借りているのです。日本国民は、巨額の金融資産を持っていて、政府に貸した残りを外国に貸している(または投資している)のです。お父さんがお母さんから借金をしているが、お母さんは金持ちなので、お父さんにたくさん貸している他に、銀行にも貯金している、というイメージでしょう。それなら、家計としては安心ですね。夫婦喧嘩は絶えないかもしれませんが(笑)。
 一方、ギリシャ政府は、外国から借金をしています。ギリシャ国民がそれほどお金を持っていないからです。そこがギリシャとの最大の違いです。
 少し難しい話になりますが、ギリシャがユーロに加盟していた事がギリシャ政府の破綻を招いたという面もあります。ギリシャ政府が借金返済のために増税をしたため、ギリシャの景気が悪くなりました。そこでギリシャ政府は、金利を下げたり自国通貨が安くなるように為替を操作したりして景気を良くしようとしましたし、紙幣を印刷して政府の借金を返したりしようと考えましたが、いずれもユーロ圏の他の国が反対したので出来なかったのです。日本が同じ状況になれば、金利を下げたり通貨を安くしたり、様々なことが出来たでしょうから、その面でも日本とギリシャは違うのです。

 私は、日本政府が破産するとは思っていないので、老後は公的年金で安心して暮らそうと考えていますが、日本政府が破産するとか年金がもらえなくなるとか、心配している人も多いようですね。そうした人に対しては、「老後の資金はドルで持ちましょう。日本政府が破産するような時は、誰も日本円(日本銀行券)など持ちたいと思わないので、円が紙屑になるかも知れませんから」とアドバイスをしています。不思議なことに、日本政府の破産を心配している人が、全財産を銀行に預金したりしている場合もありますが、それは止めましょう。

 ―そもそも「経済成長」とは一体なんでしょうか。先日、シアトルに住む老婆2人が「経済成長とは何か」「成長し続けることにどんな意味があるのか」「成長に限界はあるのか」という疑問を持ち、ウォール街の要人に話を聞きに行くというドキュメンタリー映画が日本で公開されました。その映画では、明確に「成長」の定義を教えてくれず、成長の先に何があるのか、具体的に示すものはありませんでした。経済成長の先には何が待っているのですか?

 塚崎:経済成長というのは、日本国内で作られる物やサービスの量が増えていくことです。これには二つの意味があります。
 一つは、多くの物やサービスが作られれば、日本人が豊かに暮らせるようになる、ということです。江戸時代や戦前と比べて、私たちは格段に便利で快適な生活をしています。これはまさに、経済が成長したおかげなのです。今後についても、経済が成長していけば、更に豊かに便利に暮らせるようになるはずです。
 もちろん、経済が成長しても、精神的な豊かさが失われてしまったり、貧富の格差が拡がって従来よりも貧しい生活をする人がふえてしまったりしては、元も子もありませんが。
 経済成長の今一つの意味は、失業が減るということです。企業が大量の物やサービスを作るということは、大勢の人を雇うという事なので、結果として失業者が減るのです。
 経済が成長していくためには、需要(買い注文)と供給(売り注文。生産力が増えれば売り注文が増える)がバランスよく増えていく必要があります。供給が増えても需要が増えないと、失業者が増えてしまいますし、需要が増えても供給が増えないとインフレになってしまうからです。
 バブル崩壊後の日本は、ずっと需要が足りない経済で、失業が問題でしたが、今後は少子高齢化に伴う労働力不足で供給が伸びず、インフレに悩むような国になってしまうかも知れません。そうならないように、安倍政権は「成長戦略」で日本経済の生産力を高めようとしているのです。

 ―経済ニュースに触れたとき、どのような点にまず注目すべきなのでしょうか。経済に関する情報のリテラシーを上げるために必要なことを教えて下さい。

 塚崎:経済のニュースは、基本的なことが理解できている人を対象にしたものが多いので、初心者には難しすぎて、ついつい経済のニュースを敬遠してしまう人が多いようですが、少し馴れてきて、少しずつ理解できるようになれば、その後は弾みがついたように理解できる事が増えていきますから、まずは最初の段階で諦めてしまわないことでしょう。
 経済のことが解っている人と解っていない人では、一生の間に大きな差がつくでしょうから、ここは是非、入り口の所で一歩を踏み出していただきたいと思います。
 その際に必要なことは、二つあります。一つは基本的な入門書を読む事です。拙著でいえば、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』『増補改訂 よくわかる日本経済入門』がお勧めですが、書店へ行けば、拙著以外にも入門書は数多く並んでいますから、気に入ったものを選びましょう。
 その際に注意して欲しいことは、経済の入門書と経済学の入門書は違うということです。経済学は、「理論的に考えると何が言えるのか」を探求する学問ですが、世の中は理論通りに動かないことも多いので、実際はどう動いているのかを知っておくことが重要なのです。経済学は、理論的に物を考える訓練としては非常に有益な道具なのですが、経済ニュースを理解するためには必ずしも必要ではありません。経済学の中にも必要な事柄もありますが、そうした事柄は経済の入門書にも書いてありますので、御心配なく。ちなみに筆者も経済学の入門書を出版済ですが、こちらはお勧めリストには加えてありません。
 経済ニュースが理解できるようになるための第一歩として重要なことの第二は、何でもわからない事は調べる癖をつける、ということです。今はインターネットで何でも調べられますから、疑問に思ったことはすぐに調べましょう。そうしているうちに、知識が増えていくだけでなく、体系的に物事が考えられるようになってきます。点と点が線になり、それが面になっていくイメージです。なるべく早くそうなるように、頑張って下さい。

 ―最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

 塚崎:経済と聞くと、「難しくて解らない」と考えて敬遠する人が多いのですが、経済にも簡単な部分と難しい部分があります。簡単な部分がわかっただけでも、得なことは多いですし、そこから少しずつ難しいことを理解していく突破口となりますから、まずは最も簡単な所から経済というものに親しんで下さい。
 専門家の中には、易しい事を難しげに話して自分を偉く見せている人も多いので、そうした人ではなく、難しい事を易しく説明してくれる人の話を聞きましょう。それ以前に、易しいことだけを選んで本にしてくれた人がいるならば、その本を読みましょう。
 とにかく、本書が経済を敬遠している人々の入り口の第一歩となることを祈っています。
(新刊JP編集部)

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