BOOK REVIEW
- 書評 -

  ビジネスに携わる人、特に経営者の間では「日本のビジネス環境の悪さ」はある種の定説だ。その理由は複数あるが、法人税率の高さもその一つ。
 『2015年 世界の法定実効税率ランキング』によれば、日本はアメリカ、フランス、ベルギーに次いで4番目に法人税が高い。このままでは日本企業の国際競争力が落ちる、海外の企業が日本に進出しづらくなる等の理由から、政府は向こう5年間で法人税を合計6%引き下げることを表明している。

 その一方で消費税等の増税も推し進めているため、今後の流れとして、法人税が下がり続け、その他の税は上がり続けると予想される。となると、経営者としては「自分の年収を増やして所得税で持っていかれてしまうよりは、お金を少しでも多く会社に残しておくほうが得」と考えて、自分の収入よりも内部留保を増やそうと考えるのは当然かもしれない。
 しかし『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』(日経BP社/刊行)によると、この考えはまったくの間違い。著者の沖有人さんは、やり方次第では経営者が自身の年収を増やしつつ所得税を抑えることは可能だと語る。

■「いかに多く減価償却費を計上するか」が手取りを増やすためのポイント

  「年収を増やしながらも所得税を抑える」。この一見、無謀に思えるハードルを乗り越えるためのキーワードは「役員報酬」と「減価償却」だ。
 まずは一点目について。これは単純な話で、役員報酬を増やすほど、経営者の収入は増えるので、役員報酬を高くしましょうという話だ。
 だが、これだけでは所得税の課税対象額が増えて終わり。そこで、課税対象額を抑えるための策が必要になる。それが、「減価償却資産への積極投資」なのだ。
 減価償却とは、長期にわたって使う固定資産の購入費を決められた期間内で経費配分することを指す。つまり、増えた分の所得を相殺するために、減価償却資産への投資を増やしましょうというのが沖さんの提案である。
 ひと口に減価償却資産への投資と言っても、自動車、機械設備など様々なものがあるが、できるだけ一度に多額の減価償却をしたいのなら、必然的に額の大きな「不動産」がいいということになる。沖さんによると、中でも有効なのが「経営者自身が個人で“築22年を過ぎた中古木造アパート”を海外(例えばアメリカ)で購入すること」なのだそうだ。
 というのも、この条件を満たす建物の場合、4年で償却することができるため、償却期間が短いぶん、1年あたりの減価償却費は高くなるため。
 また、毎年の減価償却費は、物件における建物割合の高さによって左右され、たとえば「購入価格2億円、建物割合が60%」であれば、物件価格の15%になる。よって、毎年3000万円を減価償却費として計上できるのだ。つまり、経営者が3000万円の所得を得ていたとしても、差し引きで所得はゼロになり、計算上所得税もゼロになる。
 つまり、不動産投資をうまく使うことで所得控除になり、手取り収入を増やすことができるというわけだ。

本書では他にも、経営者の手取りを増やすための方法として、「経常利益を調整する」「安定収益を生む流動資産を確保する」「事業承継には高すぎる自社株評価を下げる」等を解説。経営者が「意外と知らない」「知って得する」不動産の使い方を紹介している。
 これまで「収入を減らして内部留保を」という思考にとらわれてしまっていた経営者にとっては、その「呪縛」を抜け出すためのきっかけづくりになり得る一冊だ。
(新刊JP編集部)

PROFILE
- 著者プロフィール -

沖 有人(おき・ゆうじん)

1988年、慶應義塾大学経済学部卒業。
監査法人系コンサルティング会社、不動産コンサルティング会社を経て、1998年にアトラクターズ・ラボ株式会社(現在のスタイルアクト株式会社)を設立、代表取締役に就任。
住宅分野において、日本最大級の不動産ビッグデータを駆使した調査・コンサルティング・事業構築を得意としている。独立当初から運営している分譲マンション価格のセカンドオピニオンサイト「住まいサーフィン」の会員数は、現在、18万人を超える。

◇主な著書

マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書) 2012年
経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』(日経BP) 2016年
空き家は2018年までに手放しなさい』(SB新書) 2016年

CONTENTS
- 目次 -

  1. 第1章
    知っておくべき3つのメガトレンド
  2. 第2章
    経営者が解決できる7つの課題
  3. 第3章
    不動産固有の解決手段4つのメリット
  4. 第4章
    会社の経常利益を調整する
  1. 第5章
    固定資産の処分を真剣に考える
  2. 第6章
    流動資産で利益を上げる
  3. 第7章
    役員報酬を2倍にする
  4. 第8章
    事業承継・相続に不動産を活用する

INTERVIEW
- インタビュー -

自分の給料は自分で決められる経営者だけに「今の報酬は適正なのか」と疑問に思うこともあるはず。

ならば「もっと欲しい!」と願いつつも税金などの兼ね合いから控えているならば、一度「不動産」に目を向けてみるべきだ。

今回は『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』(沖有人著、日経BP社刊)の著者で不動産投資のプロである沖有人氏に、経営者が「手取り収入を増やす」ために不動産をどう使えばいいかを聞いた。

― 沖さんは本書の冒頭で「これまで多くの経営者は不動産のことはなおざりにしてきた人が多いように思う」と書かれています。まずは、このお話から聞かせていただけますか。

沖:我々は経営者の方を相手に仕事をすることが多いので、実感としてそう思います。ここで言っている「なおざり」とは、「持っている不動産を残す/残さない」という判断を避けることを指しますが、特に、「先代から譲り受けたもの」をどう処理するのかについて、意思決定できない経営者は多いと感じています。
意思決定を渋る経営者の気持ちも分からないわけではありません。「人からもらったものを処分する」のは気が退けるものですから。
ただ今後、大部分の土地の価格は下がっていくことが予想されます。そういったなか、「創業者が大切に守っていたから」という理由だけで土地を「なんとなく大事に」持っていてもリスクは増すばかりです。
そこで経営者の方が意思決定できるよう、判断材料を提供したいという思いから本書を執筆しました。

― 意思決定した上で「残す」という決断をする分には構わないということですか。

沖:そうです。私はこの本のなかで「3つの質問」(何のために持っているのか、今すぐ活用できるのか、収支はどうなのか)という書き方をしていますが、経営者が「この資産は、自分たちにとって本当に必要なものなのか」を自問自答した結果、「どうしても残したい」と思うのであれば、それは止めません。
資産を残すのであれば「残す」という決断をすべきなのです。たとえば「創業の地は残し、そこに創業者の銅像を建てる」といった具合に。

― 意思決定しないことが問題なのですね。

沖:おっしゃるとおりで、経営者として一番いただけないのは「行動しないこと」なのです。そして、なぜ行動しないことが悪なのかといえば、土地を「持っているだけ」だと結果的に失うものがあまりにも多いからです。
先ほども少し触れたように、土地の価格は下がり続けているのが現状で、今のところ地価は、全国平均で毎年1.7%ずつ下がっています。さらには固定資産税が1.4%、都市計画税があれば最大0.3%乗っかってくる。つまり、「持っているだけ」でも、毎年計3%ぐらいずつキャッシュを失っていくわけです。
したがって、もしキャッシュを垂れ流しにしてしまっているのであれば、どこかで歯止めをかけるためにも「決断」が必要になるのです。

― 今のような話をして、経営者の方はすんなり理解してくれるものですか。

沖:理解してくれます。経営者の日常は決断の連続ですから、こちらがロジカルに説明すれば、「分かりました。いついつまでに●●の対策をやっておきます」と決断してくださるケースがほとんどですね。
ではなぜ不動産の処理を先送りしてしまう経営者がいらっしゃるのかといえば、それは単に不動産というものに対して不慣れで、判断するための材料が不足しているためです。
その意味で、我々が不得手としている相手は地主さんです。先祖伝来の土地を守ってきた方々は、あくまでも一般論ですが、ロジカルというよりはエモーショナルに物事をとらえる方が多いため、このような話をしても、「うーん、考えておきます」と言って、結局何も行動しないという傾向が強い。したがって我々は地主さんとお仕事させていただくことはあまりないですね。

― ということは、沖さんの会社のクライアントになる人というのは、ある程度限られた層なのですか。

沖:ある程度は限られてきます。なぜなら不動産というものの特性上、勝てる人は限られているからです。そこで我々は、相談に来られた方に対して「この世界では、“選ばれし民”しか儲かりませんよ」とはっきりお伝えします。

― 「選ばれし民」とは、具体的にどのような人々を指すのでしょう。

沖:まずは、土地などを含め「すでに資産をたくさん持っている人」です。こういう方に関しては、相続税や贈与税の対策をおこない、払う税を減らすためのお手伝いをします。もうひとつのケースは「高年収の人」。具体的には年収3000万円以上の人で、経営者の方が多く当てはまります。こういう方に対しては所得税対策をおこない、手取りを増やすためのお手伝いをしています。そして本書はまさに、この後者のケースを念頭に置きながら執筆しました。

― 本書では「節税」に関する話が数多く出てきますが、これはなぜですか?

沖:節税を伴わない不動産投資は意味をなさないからです。日本は海外に比べて重税。したがって、不動産投資により一時的にキャッシュが入ってきたとしても、うまく節税対策をしないと、儲かれば儲かるほど税金を持っていかれてしまいます。その結果、「税引き後利益はわずか」ということになりかねません。

― 本書では、節税のための具体的なノウハウとして、減価償却費に着目されていますね。

沖:まず一般論的に、会社が利益をあげたとき、多くのオーナー経営者は自分の役員報酬を下げ、法人の内部留保を増やそうとします。「法人税より所得税のほうが高い」ということが頭をよぎり、役員報酬を増やしてしまったら、その分、税金で丸ごと持っていかれるだろうと思っているからです。
たしかに今後のトレンドとして、法人税「以外」は増税していくことが予想されます。その意味で、「儲かったら内部留保に」と考えるのは間違いではありません。
ですが、会社が利益を出し、経営者自身の役員報酬を上げたとしても、税金で持っていかれないようにする方法もあります。減価償却資産に投資し所得控除を受ければ、手取りを2倍、3倍に増やすことができるのです。

― 具体的に、どのような減価償却資産を購入すればいいのですか。

沖:築22年以上で、かつ建物割合が60%の中古木造アパートを購入しましょう。この条件を満たす物件であれば、物件価格の15%を毎年減価償却できるからです。たとえば、2億円の物件を買った場合、毎年3000万円が減価償却できるわけですね。つまり、その経営者が3000万円の所得を得ていたとしても、所得税と住民税をゼロにできるのです。
こういった節税対策をしない状態で収入3000万円の場合、手取りは1800万円くらいになります。ですが、減価償却資産への投資によって節税することで、最終的な手取りは3600万円ほどになります。

― では、そのような条件の物件を見つけるために気をつけるべきポイントは何ですか。

沖:アメリカの西海岸で物件を探すのがポイントです。というのも、日本では、築22年を超える木造アパートは少ないですし、減価償却制度の違いにより、建物割合が60%という物件を見つけるのは難しいからです。その点、西海岸であれば、このような物件はいくらでもあります。
また何より、アメリカの物件に投資することのメリットは、リノベーションやリフォームによって建物の価値を上げられる点です。壁紙を張り替えたり、躯体を残して水回りを全部替えれば、アメリカでは「建物価値が高い」と評価してもらえるのです。
日本では、建物をリフォームしても賃料を上げるのは難しいですから、この違いは大きい。アメリカの不動産に投資をすることで、「資産をバリューアップさせ、購入価格以上の価格で売却」という絵を描くこともできるのです。

― 節税面もさることながら、「どういう形にして売るか」まで視野に入れて不動産投資をおこなうということも重要なのですね。

沖:これは株式投資にも言えることですが、投資において、「出口戦略」つまり「どういう状態になったら売るか」を考えることはとても重要です。にもかかわらず、「出口戦略」を持たずに株や不動産に手を出してしまう人は意外と多い。
たとえば、100円で買った株が120円になったので「売ろうかな」と思っても、ずるずる決断をのばしているうちに、あっという間に株価が90円になってしまい、売るタイミングを逃してしまった……というようなケースは決して珍しくありません。
「このくらいの期間が経ったら売る」など、買う時点で「売るときのこと」も考えておかなければ、長期的に儲け続けることは難しいでしょう。

― 最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。

沖: 特に経営者の方には、不動産に対して「食わず嫌い」にならないで下さいということをお伝えしたいですね。これまで見てきた経営者の方のなかには、食わず嫌いであったり、判断材料が不足したりしているために、思考停止に陥ってしまっている方が少なくありませんでしたから。
その意味では、本書の内容に触発され、行動を起こす経営者の方が増えてくれれば、これにまさる喜びはありません。
(了)

著者近影
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