BOOK REVIEW 書評

バランスシートや損益計算書、キャッシュフロー計算書など、いわゆる「財務諸表」に苦手意識を持っている人は多いはず。でも、これらを読めることが自分にとっていかに大きな武器になるか、ということについて考えたことはありますか?
財務諸表が読めれば、会社の経営や財務の状態がわかりますから、「危ない取引先」を見分けることもできますし、自分の会社にどれくらいの将来性があるかもわかります。就職先選びにも役立ち、投資の精度を高めてもくれます。そのメリットは計り知れません。

そして、「財務諸表」は決して読み解くことが難しいものではないのです。
たとえば「バランスシート」の各項目の数字を見ることで、企業のさまざまな性質や状態が見えてきます。

■経営の安全性の目安「自己資本比率」

「自己資本」とは会社の社長が、会社の「オーナー」である株主から預かっている資金のこと。この「自己資本」はバランスシートの項目でいうと「純資産」にあたります。
「自己資本比率」とは、「自己資本」がすべての資産(総資産)に占める割合です。
「自己資本」は金融機関に返済したり、取引先に支払ったりする必要のないお金ですから、この割合が高いほど、その会社の財務体質は健全だといえます。
計算の仕方は「自己資本比率」=「自己資本」÷「総資産」。
これくらいは、数字が苦手な人でも知っているかもしれませんね。

■商品代金を取りっぱぐれないように「流動比率」をチェックせよ

では、少し難易度を上げてみましょう。
「流動比率」という言葉を知っていますか?
これは「会社の短期的な支払能力」を示す数字です。
たとえば、機械の部品を工場に卸しているAという会社があったとして、A社は部品を納入したタイミングですぐに工場から代金を受け取れるわけではありません。「その月に納品した商品の支払いは翌々月10日」など、会社ごとに違いますが、一カ月~二カ月ほどタイムラグがあるはずです。
この時、A社が不安なのは、支払日が来るまでに工場の業績が悪化して、すでに納品した部品の代金を受け取れなくなることです。そのため、工場にどれくらいの支払能力があるかは大きな関心事。これを示す数字が「流動比率」なのです。

「流動比率」はバランスシートの「流動資産」と「流動負債」を使って計算することができます。
「流動資産」とは現金預金や有価証券など「短期的に換金される資産の集まり」で、「流動負債」は短期借入債務や買掛金など「短期間で返さなくてはいけない負債の集まり」。
「流動資産」÷「流動負債」=「流動比率」
という式で流動比率を出せば、その会社がさしあたってどれくらいお金を払う能力があるかということがわかります。
ちなみに、一般的には「流動比率は200%以上あるのが望ましい」とされています。前述の例でいえば、工場の流動資産が流動負債の2倍あれば、とりあえずはA社も安心、というわけです。 ここは最低でも100%以上は欲しいですね。

本書では数字が苦手な人でも、財務諸表を「時計周り」に見ることで、その内容を効率よく読み解いて、会社の状態を見抜くことができるとしています。
今回は「バランスシート」を取り上げましたが、これは本書のごくごく一部。損益計算書も、キャッシュフロー計算書も、数字嫌いな人が「自分には無理」と諦めていた財務諸表を理解するための秘訣が多く紹介されていますので、仕事のために、投資のために、参考にしてみてはいかがでしょうか。

PROFILE プロフィール

柴山 政行

著者写真
1965年、神奈川県生まれ。埼玉大学経済学部卒業。1992年、公認会計士2次試験に合格、センチュリー監査法人に入所。 1997年、センチュリー監査法人を退所し、1年間の個人会計事務所勤務を経て、1998年に柴山公認会計士事務所を開設。2004年、合資会社柴山会計ソリューションを役立し、インターネット事業に本格的に進出。公認会計士・税理士としての業務のほか、経営コンサルティング、講演やセミナーも精力的に行う。また、小中学生から始められる会計・簿記教育「キッズ★BOKI」のメソッドを開発し、その普及に力を注いでいる。主な著者『Google経済学』『銀座の立ち飲み屋でなぜ行列ができるのか』『儲かる会社に変わる「バランスシート革命」』『最短でうかる!目商簿記2級講座』など。

CONTENTS 目次

  1. chapter.1
    「7つの質問」でバランスシート早わかり
    1. バランスシートは時計回りに見る
    2. 債権者からいくら借りたの?
    3. 元手はいくら?
    4. いくら儲けたの?
    5. お金の運用状況を示す資産
    6. 設備はいくら?
    7. 1年以内に消える流動資産
    8. 在庫はいくら?
    9. 未回収金はいくら?
    10. 現金はいくら?
    11. 資産のだんご3兄弟
    12. 時計回りのチェックを実践
    13. 分析で役立つ6つの公式
    14. 自己資本比率は安全性の目安
    15. 返済能力を確認する流動比率
    16. 粉飾につながる7つのリスク
    17. 第1章 内容理解のためのチェック・テスト
  2. chapter.2
    こんなにも違う業種別のバランスシー卜
    1. 電機メーカー自己資金比率
    2. 実は借金体質の自動車メーカー
    3. 設備投資に積極的な鉄鋼と化学
    4. 大量の在庫を抱える不動産
    5. 有利子負債に依存する商社
    6. 鉄道業の資産の9割は固定資産
    7. 戦略の違いが表れるインフラ業
    8. 無借金経営のヤフー
    9. 預金は銀行にとっての負債
    10. 財務体質が安定的な飲食と製薬業
    11. 第2章 内容理解のためのチェック・テスト
  3. chapter.3
    損益計算書のプロの目のつけ所
    1. 経営成績を示す損益計算書
    2. 損益計算書も時計回りにチェック
    3. バランスシートのつながり
    4. 売り上げ計上のタイミング
    5. 売った商品の仕入原価
    6. 業界で様変わりの売上総利益率
    7. 企業活動にかかわる2つの経費
    8. 5%前後に落ち着く営業利益率
    9. 営業外収益と営業外費用
    10. 総合的な稼ぐ力を示す経常利益
    11. 「特別」な利益や損失
    12. 法人税等って何?
    13. 総合評価である当期純利益
    14. プ口の2つの視点
    15. 実力差を見る企業間比較
    16. 時計回りに原因を分析
    17. 第3章 内容理解のためのチェック・テス卜
  1. chapter.4
    誰でも書ける未来のバランスシート
    1. 7年後のバランスシート
    2. PERが持つ意味
    3. 投資効率を判断するROE
    4. 株価を決定づける予想利益
    5. 未来の株価を予測する計算式
    6. 未来の純資産を求める
    7. 株主への配分を示す配当性向
    8. 配当会社の純資産の増え方
    9. 配当性向の適正水準
    10. 株価の予想に便利な指標
    11. 理論的な株式の総額を計算
    12. ABCマートの未来バランスシート
    13. 企業価値の算定方法
    14. 自社株買いの正の効果
    15. 自社株買いの会計処理
    16. 未来のバランスシー卜戦略
    17. 第4章 内容理解のためのチェック・テスト
  2. chapter.5
    会社のリスクがわかるキャッシュ・フロー計算書
    1. 利益の増加と一致しない現金
    2. 利益が出ても会社が倒産!?
    3. CFとバランスシー卜の関係
    4. CFの表示形式
    5. 営業活動によるCF
    6. 売上高≠営業収入
    7. 売上原価と仕入支出との違い
    8. 2つに分かれる営業費用
    9. 利息の受け払いと配当金の受け取り
    10. 2つのCFの計算方法
    11. 投資活動によるCF
    12. 財務活動によるCF
    13. 最後に残った減価償却費の扱い
    14. フリー・キャッシュ・フロー
    15. CF計算書を時計回りにチェック
    16. CFで粉飾決算を見抜く
    17. 利益が出ていても営業CFは赤字
    18. 第5章 内容理解のためのチェックテスト
  3. chapter.6
    あの会社だった!決算書当てクイズ
    1. 決算書当てクイズ
    2. 負債と純資産を比較
    3. 固定資産を比較
    4. 棚卸資産を比較
    5. 売上債権を比較
    6. 手元動性を比較
    7. 損益計算書の内容を比較
    8. A社の解答
    9. B社の解答
    10. C社の解答
    11. D社とE社の解答
    12. 決算書当てクイズからわかること
    13. ヤフーの決算書
    14. フアース卜リテイリングの決算書
    15. 王将フードサービスの決算
    16. プ口が使う財務比率
    17. 第6章 内容理解のためのチェック・テスト
    18. おわりに

INTERVIEW 著者インタビュー

― 『日本一やさしい「決算書」の読み方』についてお話をうかがえればと思います。この本では、決算書を「時計回り」に見ていくことで、効率的に理解できるとされています。これはなぜなのでしょうか。

柴山:決算書が苦手な方のほとんどは、決算書の「見方」がわからないんです。つまり、どこから見ればいいかがわからない。注目すべきところに下線を引いてあるわけでもないですしね。だから、ぼんやりと全体を見てしまう。これでは決算書を読めるようにはなりません。
ならば、決算書を見る「手順」をこちらで示してあげたほうが親切じゃないかと思ったんです。それで、この本では決算書の右上、時計でいうと1時の辺りから時計回りで見ていく読み方を提案しています。この読み方は、ビジネスそのものの流れに従うことになるので理解しやすいんです。
たとえば「バランスシート」でいえば、左半分は「財産」で、右半分は「その財産をどうやって調達したか」が示されます。ビジネスを始める時、元手0円では始められませんよね。だから、銀行に借りたりして資金を調達するわけです。これがバランスシートの右上で、まずはここから見ます。そしてその下、バランスシートの右下は自己資金です。右上の数字と見比べることで、その会社が「ヤバい会社」かどうかがわかりますよね。自己資金よりも借り入れで調達したお金が圧倒的に多かったらそれは経営状態が良くないと言えます。借入と自己資金が2:1くらいだとバランスがいい。

― 右上と右下を見るだけで経営状態をチェックすることができる。

柴山:そうです。そして次は左側に行きます。
右半分に記したお金、つまり調達した資金や自己資金を使って何をするかというと、投資しますよね。在庫投資をして商品を仕入れたり、設備投資をしたり。こうした投資のことを会計では「運用」といいます。どうやって運用したか、というのがバランスシートの左側です。こちらは下から見ると「設備」「在庫」「未回収の売掛金」「現金」と、項目が「重いもの」からだんだん「軽いもの」になっていきます。
こうやって右上、右下、左下から左上と時計回りで見ていくと、ビジネスを立ち上げて売上が出るまでの流れをそのまま追うことになるので理解しやすいんです。
ここまでの説明に専門知識はまったくありませんし、単純でしょう。私は会計の勉強を子どもにも教えているのですが、こうして教えると理解してくれますし、実際に小学6年生で簿記の2級に合格する子もいます。小学生、中学生に教えるためにいかにわかりやすくするか、という工夫を通じてこの本ができました。だから、大人がわからないわけがないんです。

― 確かに、非常にシンプルで理解しやすかったです。

柴山:この本のポイントになっているのは「難しい用語を使わないこと」と「借方・貸方という表現をしないこと」、「仕訳を使わないこと」です。でも、この本の内容が理解できればどんな決算書でも読めますよ。

― 「仕訳」は決算書を見るにあたって大事なことではないですか?

柴山:大事かどうかというと、もちろん大事です。ただ、「仕訳」の知識が必要な人というのは基本的には経理担当者であって、その他の人にとっては必要ありません。経理担当者以外の人が決算書から何を知りたいかというと、「会社が儲かっているのか」とか「将来有望な会社なのか」「在庫を持ち過ぎているんじゃないか」「借金が多すぎるのではないか」といったことですよね。そういったことを決算書から読み解くのに「仕訳」の知識は不要なんです。
子どもに教える時も「仕訳」はほぼ教えません。簿記の試験対策をする時に少しやるくらいですね。
ただ、こういうことを言うと“業界”からは嫌な顔をされるんですよ(笑)
。仕訳中心の教育法が昔からの常識で、誰もそれが「非効率かも?」と疑ったことがないでしょうから…。

― 一般的な簿記・会計の勉強とは全然違うやり方なんですね。

柴山:経理部門の実務手順に従って教えるという、今まで行われてきた方法はまじめすぎるんです。全体の数%ほどしかいない「経理関係者」向けの教え方なので、残り90%以上の経理と無関係な人が会計や決算書を複雑で難しいものだと思い込んでしまう。
経理が必要な会計の知識と、一般的なビジネスで必要になる会計の知識は全く別物なんです。

― 決算書の基本的な読み方は1章から3章に集約されています。特に1章の「7つの質問でバランスシート早わかり」と「分析で役立つ6つの公式」はすぐに使える知識として重宝します。

柴山:そうですね、「7つの質問」が決算書の見方のベースになります。先ほどお話した「時計回り」の見方でバランスシートの各項目が何を示すのかを確認していくのですが、これを覚えてくれれば損益計算書やキャッシュフロー計算書も含めて、決算書の見方はすべてわかるはずです。
「分析で役立つ6つの公式」については、私はセミナーでも会計について教えているのですが、ここが一番生徒さんに好評ですね。すべてビジネスの現場に直結することなので。
4章から6章は応用編・実践編なのですが、前半に書かれている基礎がわかっていれば理解できるはずです。

― 会社での実務もさることながら、決算書を読めると就職先や転職先選びにも役立ちますよね。この目的で決算書を読む時、特に気をつけるべきポイントはありますか?

柴山:基本的には、やはり「時計回り」で見て行けば大丈夫です。バランスシートの右上と右下を見て、自己資金と比べてあまりにも借り入れが多すぎないかチェックするのは、経営の安全性を知る基本的な方法です。
ただ、会社を判断するにはそれだけでは不十分で、「安全性」のほかに「収益性」と「成長性」も見るべきです。特に「成長性」は大事ですよね。これからの伸びが見込めない会社に行ってもしょうがないでしょうし。
これは「時間軸」と「空間軸」という二つの視点で分析します。「時間軸」は過去からの推移で業績が伸びているかという視点です。前年や前期と比べてどうかというのを見ていく。
「空間軸」は同じ時間の中での他社との比較ですね。これを地道にコツコツとやっていくことが大事で、続けているうちに、経営状態が安定していて今後も継続的に成長していく会社かどうかを自分で判断できるようになってくるはずです。
「時間軸」と「空間軸」で会社の成長性を見るというのは投資についてもいえますね。

― その他に、決算書を読めることで得られるメリットがありましたら教えていただければと思います。

柴山:自分が勤めている会社や取引先について何か噂が立った時は、決算書を見ればその噂が本当かどうかわかります。会社に何か変化がある時は、かならず損益計算書やバランスシートに影響が出ますから。そうして、「うちの会社は今後まずいかもしれない」となったとしても、早いうちに把握できていれば手が打てるでしょう。取引先についても同様で、変な噂が立っていたら決算書を調べて、経営状態が悪化しているようなら対策を立てておく。そういう意味で、決算書を読めることは自分の身を守る武器になるはずです。

― ただ、決算書を公開しているのは基本的には上場企業のみです。そうでない企業の場合は決算書を手に入れること自体が難しいのではないですか?

柴山:すべての会社ではないにしても、非上場の企業を扱った『会社四季報・未上場会社版』などがあって、そちらである程度カバーできることもありますし、「帝国データバンク」などの情報提供機関からデータを買うという手もあります。
それと、決算を公開していない会社でも、ホームページには「資本金」や「売上」「従業員数」などの情報が出ていますし、また、会社に行けば本社や倉庫などの状況が見られます。この本で会計知識を得れば、そこからでもある程度想像できるようになると思います。

― 最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

著者写真

柴山:「これから会計の勉強を始める方」、「簿記を勉強中という方」、「すでに簿記の資格を持っている方」、「株式投資を始めたい方」に役立つようにと思ってこの本を書きました。
中でも、「これから会計の勉強を始める方」ですね。仕訳や難しい専門用語は抜きにして、この本の最初にあるクイズに挑戦してみてください。決算書を見てどの会社のものかを当てるクイズなのですが、最初はわからないかもしれません。でも、本に目を通してもう一度チャレンジしてみるとどの決算書がどの会社か、各項目の数字を見て判断できるようになります。そうやって成果を実感することで、「会計はおもしろくて、実は難しい知識などいらない」ということを知っていただきたいですね。

ページトップへ