「小宮一慶さんに聞く 日本と世界はどう変わる!? 経済のこと、政治のこと」
Q、8月の第45回衆議院議員総選挙で民主党が第一党となり、政権が交代しました。「戦後政治の総決算」とも謳われたこの政権交代劇によって、日本の政治はどのように変わるのでしょうか。
A、「民主党は霞ヶ関主導ではなく、政治主導に体制を作り直すという、今までの既成概念を大きく変えることをやっていくのではないかと思っています。
例えば国土交通大臣の前原誠司さんが動いている八ツ場ダムの問題もそうですし、あとは農家個別支援政策の問題ですね。これは今までJAや地方組織を通じて農家にお金を分配していたものを政府が直接お金を分配するというものですが、こうした政策が進むことで、これまで既得権益で守られていた人たちの構造が徐々に変わっていくと思います。もちろんそれがプラスのインパクトが出るのか、マイナスのインパクトが出るのかは、今のところは予想がつきません」
Q、一方、国民は民主党に対して非常に大きな期待を寄せています。
A、「今回の選挙の様子を見ていて、国民が「政権が変わる」ことに固執していた気がします。確かにそれも重要ですが、政治とは人を幸せにするための手段です。だから、変わることだけに固執すると上手くいかないこともあるということは注意しなくてはいけません。
また、もう1つは、民主党も自民党政権と同様、永久に続くわけじゃない。必ずどこかで揺り返しがあります。だから、また揺り返しがきたときにそれにどう耐えていくかということも考える必要があります。
これからの日本は、政権が変わることを前提とした仕組みを作っていくことが大事だと思いますね」
Q、民主党は日米FTA締結をマニフェストに入れるなど、市場開放に対して積極的であるように思います。こうした動きは日本経済にどのような影響を与えると思われますか?
A、「本書にも書きましたが、日本は1998年の外国為替法の改正によってほとんどの分野で市場開放されています。例外的に行っていないのが農産物ですね。米や小麦は非常に高い700%くらいの関税がかかっています。農産物の市場開放は民主党も当初のマニフェストから外しましたが、私自身としては、やはり食料自給率の問題等、影響が大きい部分なので当面開放できないのではないかと思います。
ただ、その他の部分に関してはほとんど関税がかかっていないものも多いですから、FTAを締結してもインパクトは少ないでしょう。むしろFTAを多くの国と締結することは、日本の方にメリットが多くあると思います。色んなものが行き交うようになるわけですから」
Q、国民は日本の政治の向かっている先が正しいかどうかを、どのようにチェックしたらよろしいのでしょうか。
A、「それは簡単で、政治が変わったことで自分たちが幸せになったかどうかを見ていればいいんです。そして、幸せにならなければ次の選挙で別の政党に入れればいいでしょう。最初に言ったとおり政治は国民を幸せにするための道具なのですから。
私たちが幸せになるためにはやはりまともなリーダーが必要だと思いますが、私自身はそのためには首相公選制にしないといけないと思いますね。よく首相公選制にすると衆愚政治になりかねない、と言いますが、今回の民主党政権も衆愚政治だと思います。アメリカはまともなリーダーが出ることが多いと思いますが、それは長い時間かけて大統領を決めるから。その辺も含めて、国民が政治に関心をもたないといけないと思いますね」
Q、では、日本が政治的にも、経済的にも今後注目しなくてはいけない新興国家はどこだと思われますか。
A、「やはり中国です。もちろん他にも色んな国が発展していますが、日本からとても近いし、発展スピードがすごく速い。早ければ今年の末、遅くても来年の前半には日本のGDPを抜くといわれていますよね。これは驚くべきスピードです。
去年の暮れに3年振りに上海に、今年のシルバーウイークに8年ぶりに北京を訪問したんですが、以前とは全く違う街になっていたのは驚きでした。また、中国人もその発展のスピードに慣れてきたという印象があります。昔は国民自身が国の発展スピードについていけないという印象を受けましたが、今はもう落ち着いていますよね。特に沿岸部は。もっと発展していくと思いますね」
Q、中国という国について、小宮さんはどのような印象を持っていらっしゃいますか?
A、「実際に訪問すると分かると思いますが、中国は社会主義国だけど、社会主義国じゃない。実は日本よりもずっと資本主義化しています。特に沿岸部はそうですね。
この本にも書いたのですが、中国は共産主義体制を維持するために資本主義という劇薬を飲んだんです。この政策は小平という人がやったのですが、彼はまさしく天才で、もし1970年代後半から資本主義化をしていなかったら、共産主義政権は崩壊していました。事実、近隣諸国の共産主義体制は崩壊したわけですから。でも、劇薬がききすぎた状態ですよね。ただ、今のところ目的は達しています。その目的とはつまり、“共産党の独裁体制維持”です。正確にいうと、中国共産党は共産主義でもなければ社会主義でもありませんから」
Q、本書では資源不足に陥る世界と資源外交について述べられていますが、突き詰めていくと、資源を巡って戦争が起こったりということも考えられるのではないでしょうか。
A、「これは新興国の発展とも関係しますが、私は近い将来必ず資源が不足し、資源インフレが起こると思っています。石油もそうだし、レアメタルもそう。石油についてはロシアや中東諸国がすごく持っている。資源をめぐって戦争まで起こるかどうかは分からないですけれど、資源価格が徐々に高騰する可能性は充分あります。その中で、日本がどういう風に対処していけばいいかというのは実はすごく難しい問題なんです。なぜなら日本は資源を持っていないからです。
日本は工業製品を作っていますが、工業製品は各国大量に作るからどうしても供給過剰になってデフレが起き、工業製品の価格が安くなります。しかし、その一方で原材料の資源がインフレになると、日本にとって最悪のパターンになります。実はこれがおそらく高い確率で起こります。原価は高いのに、製品は高く売れないという事態が日本で起こるわけです」
Q、そうすると、主要産業を変えていくということも考えないといけなくなるのではないですか?
A、「そこまでする必要はありませんが、他国で作れないような付加価値のあるものを作っていけば良いのです。日本は農産物も資源も少ない国ですから、内需産業だけではもうやっていくことはできないんですね。だから外需に依存するしかない。
そんな中で生き残る上で重要なのが、付加価値の高い製品を作り出すことです。例えば自動車でしたら、中国が今、たくさんの自動車を製造していますが、一番自動車を購入しているのも中国人なんです。もちろんその中には性能の高い自動車が欲しい人も増えています。先日私が北京で宿泊したホテルの1Fはロールスロイスの展示場でしたから(笑)。
あとは、原材料が必要ないアニメも有効だと思いますし、個人的に期待しているのは、宇宙航空産業。ロケットの主要部品のほとんどは日本制です。もともと日本はそういうものを創るのが上手いので、そういった部分を伸ばしていくことが重要だと思います」
Q、現在、1ドル100円を大幅に割っており、円高の現象が起きていますが、今後、どの通貨を注目すればいいのでしょうか?
A、「これはなかなか難しいです。ただ先ほど述べた資源インフレなどの仮説があたるとすれば、資源をもっている国の通貨ですね。具体的にはオーストラリアなどでしょうか。ただ景気には波があるので…。米ドルではないことは間違いありません。それと円でもない(笑)。ユーロは安定するかも知れません。だから、ユーロとかオーストラリアドル…あとは人民元。今は米ドルの相対的地位が落ちている状況なのだと思います」
Q、小宮さんのように未来を予測するための力を身につけるにはどうすれば良いのでしょうか?
A、「大事なことは、大きな流れ、本質をつかむことです。でも、それはとても難しいんですよね。だから私がマメにやっていることは新聞を丹念に読むことです。あれだけの情報をコンスタントに得られるメディアはありません。またテレビやインターネットも使いながら、色んな情報をコンスタントに取り入れていくことが重要です。そして、それを積み重ねていく。そうした中で、自分で仮説を立てながら、この問題の本質とは何なのかを見極めていくことが必要です。
ただ、若いうちからそんな本質を見極めるのは難しいですよ。だから、色んな本を読むことも重要です。本というのは本質をついているものがたくさんあります。そして取り入れた情報を使いながら、その仮説を検証していく。そうすれば、間違いなく本質をつかむ力を身につけることができるはずです」
Q、仮説を立てる力、本質をつかむ力を身につけるために読んでおかなければいけない本はありますか?
A、「それは、1冊、2冊では身につきません。難しい本、良い本を10冊や20冊読み込まないといけません。あと、これはよく講演などでも注意するのですが、速読をいくらやってもそうした力は身につきません。速読は情報を得るにはとても良いのですが、あれをしていても論理的思考力はつきませんね。
若いうちは難しい仕事なんて与えられないんですよ。難しいことが分かるようになった人に難しい仕事が与えらますから、余裕がある若い間にたくさん勉強をしてください。そのとき読むのは速読で読めるような本ではなく、しっかりした難しい本です。そうすれば、論理的思考力が自然と高まっていきます」
Q、最後に本書をどのような人に読んで欲しいと思っていますか?
A,「経済の大きな流れを知りたい人ですね。この本の特徴は細かい事実やデータがたくさん載っていますから、それの情報を取り入れながら本質は何なのか、大きな流れとは何なのかを分かって欲しいし、それが理解できるように工夫して作っていますから」