
定価:1,470円(税込み)
ISBN-10: 4766785177
ISBN-13: 978-4766785173
バブルの崩壊以降、長く不況の時代が続き、さらに世界経済の情勢も見通しが立たなくなっている。そんな中で、日本の少子高齢化は“人口減”という問題を生み出し、企業は国内市場が縮小していくことを前提に戦略を立てなければいけなくなった。 では、日本の中小企業はどのような経営を目指すべきなのか?
30年近く数多くの企業や経営者と関わってきた藤井正隆さんは、著書『ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則』(経済界/刊)の中で、時代を超えて普遍性が高い経営として、「カメ型の経営」を推奨する。カメ型の経営とは、持続がおぼつかない一時的で急激な成長戦略ではなく、ゆっくりと確実な成長戦略を描く経営を指す。
では、その「カメ型の経営」の実際とは一体どのようなものなのだろうか? 今回は、著者の藤井正隆さんにインタビューを行い、お話しをうかがった。
■企業は“利益最優先”では成功できない
―この度出版された『ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則』は、イソップ寓話の「ウサギとカメ」をモチーフにされていらっしゃいますよね。非常にユニークな構成になっていると思ったのですが、こうした寓話をモチーフにした理由から教えていただけますでしょうか。
「まず一つはシンプルだということですね。小さな頃に両親や近所のおじちゃんおばちゃんから教えてもらったこと、童話・寓話で書かれていることは、普遍性を端的に示しているものが多いと思うんですよ。
もう一つは親しみやすさ、想像しやすしさですね。経営書だとどうしても横文字や専門用語が中心になってしまい、分かりにくくなります。だから、『ウサギとカメ』が同じことを伝えているのであれば、そちらの方が理解しやすいですし、親しみが持てると思ったんですね」
―なるほど。経営を突き詰めて考えていくと、本質的な部分はシンプルで昔から変わっていないということになるのでしょうか。
「原理原則や法則に関しては、私は変わっていないと思いますね。時代とともに技術が発達して、インターネットができて……というようなことは変わりますが、例えばAさんとBさんの仲が悪いとか、集団の中でいざこざが起こるというようなことは大昔から繰り返し起きています。そういった人間関係の部分はとても普遍的で、経営の中においても極めて重要ですし、どんなに素晴らしいビジネスモデルを創りあげても、その点をしっかり抑えていないと結局ダメになってしまうと思います」
―本書では、カメのように一歩ずつ歩みを進めていく企業を「カメ型経営」として18社取り上げ、その経営の現場を伝えています。これらの企業は非常に身の丈にあった経営をしている印象を受けたのですが、藤井さんは、この18社に共通する部分はどのようなところだと思いますか?
「これは前著『感動する会社は、なぜ、すべてがうまく回っているのか?』でも書かせていただいたのですが、基本的にはお客様への価値提供を先に行っているということですね」
―つまり、利益を最優先するのではなく…。
「そうです。自社の売上や利益を、お客様へ価値を提供したことの結果として捉えています。多くの企業はその逆で、売上や利益が先行しています。高度経済成長期であればそれでも何とか企業を維持できました。しかし、今は低成長・マイナス成長の時代ですから、売上・利益先行では、必ず無理が生じます。そして、数値の成長が前提としてあるから、無理な押し込み販売などをして、社員がクタクタになってしまうんです。こうなると、みんなが不幸になってしまい何も生まないんですよ。
また、身の丈にといった印象を受けるかも知れませんが、決して、無理をしないということではありません。企業が成長する上で、ある時期多少無理をしてでも頑張るというのは大事です。ただ、お客様への価値が伴わない無理な成長は企業をおかしくする原因になりますし、誰かが犠牲になるでしょう。それは従業員かも知れないし、取引先、お客様かも知れません。多くの場合、歪みが生じてしまうので、5年は続いても、10年、20年スパンで見たときには続かないでしょうね。30年間、様々な企業の盛衰を見てきましたが、その経験からそういえると思います」
―本書を拝読して感じたのが、経営者の方々の中に、最初は無理をする経営を続けていたけれど、途中で軌道転換している人が多くいらっしゃったんですよね。例えばEC Studioの山本敏行さんはそうです。経営者の柔軟性といいますか、経営者が自分の経営の方法を変えるという意思決定に踏み込める人じゃないと、こうした経営は難しいのかなと思います。
「そうでしょうね。実際に地獄を見た経営者は、頭でなく腹で理解しています。そして、中小企業の経営の是非は、社員で決まることはほとんどないと思います。90%以上が経営者の責任でしょう。本質を腹で理解した良い経営者であれば良い社員が育ちますし、良いお客様がつくと思います。ほとんどの最終的な意思決定や判断を握っているのは、中小の場合は経営者自身ですから」
―本書の冒頭で松下幸之助の言葉を引用されている箇所がありましたが、その中に「生きた経営」という言葉が出てきます。これは非常に印象的な言葉だったのですが、藤井さんはこの「生きた経営」という言葉をどのように定義付けていらっしゃいますか?
「まだ言葉として整理できていないのですが、仕事柄、何千冊もビジネス書を読んできましたし、今でも月に10冊くらいは読むのですが、結局実際の現場にいる経営者に会って話したほうが、100冊の本を読む以上に学びが大きいんですよ。この本の中でも紹介したAZスーパー牧尾社長やディスコの関家社長の話等、経営学の本には書いていなかったり、セオリーとは真逆だったりしますが、本当に勉強になりました。
本は自分が知らないことを教えてくれ、経験を整理することになりますが、そこで得られる知識はクリスマスツリーで例えると飾りみたいなものなんですね。しっかりとしたツリーの幹がないと、どこに飾ったらいいのか分からなくなってしまいます。やはり経営者がずっと考えてきて自分の腑に落ちた自分なりの法則(幹)あって、はじめて、その知識を整理できるんです。
MBAが一時期ブームになりましたが、ミンツバーグという経営学者はMBAが会社をつぶすということを言っています。確かに銀行と折衝したこともない人が、カタカナでキャッシュフローと言っても説得力がないでしょう。経営者は納得しない。実際に、実践して結果を出す経営が「生きた経営」ではないでしょうか?大学院で経営学を教えている有名な教授が経営する会社が10年間赤字の例を知っていますが、何のための経営学かと思ってしまいますね。
自分自身も大学院に2校行き、会社を2社ほど経営していますので、机の上での勉強で経営はできないと思います。」
―つまり、座学だけでは絶対無理ということですよね。例えば、座学で理論は学べますが、実際にはそこに人々がいるわけで、彼らと向き合っていかなければいけない。人間そのものを見なければいけないわけですから、理論だけで押し込むことは到底できないですよね。
「できないですね。中にはすごく頭の良い方もいらっしゃって、非常に理路整然と話すのですが、たくさんの経営者と会って話していると勘みたいなものが働くんですよ。正しいことは言っているけれど、なんか上手くいかないだろうな、と」
■“年間120社の視察”から見えた“早く倒産する企業の兆候”
―藤井さんは年間120社を視察されているそうですね。
「そうですね。年間120社はノルマにしています」
―先日とある本を読んでいまして、その中に、その年の1月1日に100社、会社が誕生したら10年後には6社しか残っていないという計算になるという話がありました。そのくら い経営は厳しい世界だと思いますが、視察をされている中で「これは早いうちに倒産するだろうな」と思う企業はありますか?
「ありますね。30年近く企業を見てきて、一見派手な企業はかえって危ないんですよ。ちょっと調子が良くなると経営者がやたら講演をやったり、何冊も本を出したり。周りもチヤホヤするから、自分の能力と勘違いしちゃうんですよ。たまたま起業した当時に上がりのエスカレーターだった業界に乗っていただけで、自分は経営能力があると思い込んじゃう。そういう意味では、むしろそこで用心できる経営者はすごいですね。もう20年ほど前に亡くなられましたが、将棋の大名人で大山康晴さんという方がいました。大山名人は、、有利なときほど時間をとって考えたんですね。世の中こんなに上手くいくわけない、どこかに上手くいかなくなる落とし穴があるのではないか、と。逆に悪いときは、打つ手が限られているので時間が掛からない。
流行を追う経営者も危ないと思います。「他社が導入したから、自分のところでも・・」といった意志決定は、後追いで主体性がないと思います。経営者が自分で考えたものでないと、どうしても検討が甘くなる。
経営者の評価は、財務諸表です。本当に実績を出している経営者ほど、謙虚で派手でない方が多いように感じます。そして、必ず人まねではない“持論”を持っています。その一つ一つが違っていて、貴重だと思うんですよ。かたや、本に書かれている理屈(セオリー)は、表現は違っても内容はほぼ一緒ですからね」
―現代は人々の流行、トレンドの移り変わりが激しく、消費行動の変化も速いと思います。その中でトレンドに左右されずに経営を持続できる企業はどのような点を重視しているのでしょうか。
「人ですね。社員、パートナー(取引会社)の人、とにかく人だと思います。新しいお客様がびっくりするような、喜ぶような新商品を開発するのも人ですし、実際にそうしたサービスを提供するのも人です」
―経営者と社員の距離と取り方についてはどうお考えですか? 近すぎても、遠すぎてもいけないと私は思うのですが…。
「私は、これが正解というのはなくて、その経営者のキャラクターと組織の状況によって決まるのかな、と。すごく距離を置くことが好みな経営者と、たえず、現場の方と一緒にいることが好みの経営者、どちらが良い悪いではなくて、どちらでも良いと思うんですよ。経営の世界は基本的には社会科学の世界ですから、正解と不正解ではなく、状況に合う合わないかですね。但し、経営者のキャラクターに合わないとスベってしまうかもしれません。また、組織の規模も関係します。起業した当初は、当然、距離が近く、ある程度の大きさになれば、少人数のような運営は難しくなるので距離は遠くなります。大切なのは、経営者が社員との関わり方とその影響について、意識していることではないでしょうか?最近、サークル活動のような関わり方が人気ですが、意思決定が仕事である経営者は、距離を置いた方がいい場合もあると思いますね。」
―それは人材を採用する際の鍵みたいなところですよね。会社にあった人を採用しないといけなくなりますし。
「そうですね。できるだけ価値観が合う人を採用すべきでしょうね。ただ、会社の価値観を共有する際、金太郎飴のように全部が同じにするのではなく、コアな部分の価値観だけはちゃんと共有し、それ以外は自由にする。それが最もバランスの良い形だと思います」
―企業が永続的に発展するために、最も重要なものを1つあげるとしたら、何だと思いますか?
「顧客価値を上げ続けることです。それはイコール、お客様と向き合うという意味でもあります。お客様が価値を感じることは、変わっていきますから当たり前のようで以外と難しい。何故、お客様が、その会社の物を買ったり、サービスを利用するかと言えば、非常にシンプルですが、先ほど申し上げたように、お客様が価値を感じたからですよ」
―その価値は、例えばそれは純粋な効果だけではなく、対応した人の人柄の良さや早さというのも含まれてくるわけですよね。
「もちろんそうです。お客様が感じること全てが価値です。
だから、永続する会社の条件は、まずお客様の価値を上げ続けるというのがまず1点目。続いて、価値を上げ続けるにはどうしたらよいかというと、自分たちで自分たちの課題をつくり、解決できるようになる必要があります。それが2つ目です。そして最後に、社員が生き生きとしていることですよ。朝、定時より30分早く自ら積極的に出社できてしまう会社です。楽しくて仕方ないから早く出社するという社員がたくさんいる企業は成長するでしょうね。非常にシンプルだと思いますよ」
―本書をどのような方に読んで欲しいとお考えですか?
「まずは、厳しい中で、頑張っている中小企業経営者に読んで欲しいですね。あるいは、新しく起業しようとしている方。それから学生さんにも読んで欲しいです。 中小企業は、大手企業からの不条理なコストダウン要求などで、非常に厳しいのが現実です。そして、やる気をなくしてしまっている経営者も少なからずいます。そうした経営者の方にも、同じような悩みを経験して乗り越えた企業の経営者の法則を知って欲しいですね。是非、中小企業の経営者には、手にとっていただけたらと思います」
―よく学生さんと話していると、名前や華やかさに目を奪われがちで、中小企業に目が届いていないようです。
「学生も分かっていないし、学校の指導者も分かっていない、保護者もそう。だから、就職のミスマッチが起こっているんですよ。学生に人気の企業の多くは、いざ入ってみると社員や部署同士で日常茶飯事的に悪口言っていたりします。企業の実態と人気は決してイコールではないんです。また、天井株を買っても自分が退職するとき、会社がダメになっていたら仕方が無いですね。私が社会に出た頃、優秀な同級生は金融機関に行きましたが、多くは金融の自由化でリストラされました。また、大企業にいっても、分業化された限定的な仕事で、転職する際のキャリアが積めない場合も多いと思います。
有名でなくても、本当にいい会社は世の中にたくさんあります。そうした会社に入った方が、後から『入ってよかった』と思う方が多いと思いますよ。新卒の就職というのは人生の大事な賭けなんですから、良い会社に入り、良い仲間と良い成長をしていかないと面白くないですよね」
―最後に、本書の読みどころをお願いします
「繰り返しになりますが、高い成果あげている経営者が、血の滲むような経験を重ねた上で最終的に腑に落ちた経営の法則を書きましたので、参考にして欲しいと思います。そして、この本に書かれている企業を真似するのではなく、それを参考に自分の経営法則を作り上げて欲しいですね。ここに書いてあることを真似しても、上手くとは限りません。借り物ではく、自分の力で辿り着いた法則でないと結局、うまくいかないと思いますね(笑)。自分の法則づくりの参考にしてもらえると嬉しいですね」
1962年4月生まれ。
株式会社イマージョン代表取締役。法政大学大学院中小企業研究所特任研究員。経済産業省支援事業「ドリームゲートサービス」認定専門家『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)の著者で知られる法政大学政策創造研究科・坂本光司教授の推薦で取材した企業が、高い理念を具現化する社会性と経済性を両立した素晴らしい経営を実現していることに驚嘆。以来「優良企業を訪問することが趣味」になり、現在も研究室メンバーと月10社、年間120社の企業視察研究を継続する。人やチーム・組織のプロセスに関わる泥臭いコンサルティングや教育研修を行いながら、日本の農業問題にも関心を持ち、日本の農家株式会社を立ち上げ精力的に活動中。
著書『感動する会社は、なぜ、すべてがうまく回っているのか?』(マガジンハウス)ITmediaエグゼクティブで、経営者対象に「日本の元気ダマ」他、執筆多数。





