書評

 「若いうちからコツコツ貯めておけば、老後に楽ができる」と言われていたのは昔の話。
 年金制度が心もとない今、貯蓄だけで老後の資金を準備できる人などほとんどいないだろう。
 そうなると、存在感を増すのが資産の「投資・運用」だ。もちろんその重要性など誰もがわかっているだろうが、もはや投資・運用は「興味がある人がやればいい」というものではなく、将来のために必須のスキルになりつつある。これからは資産を「若いうちからコツコツ運用」をする時代なのだ。

 しかし、やみくもに保険に入ったり、株を買ってみたりすれば手持ちの資金が増えていくわけではない。本書によると、今日本で流通している金融商品の多くには素人がつい引っかかってしまう落とし穴があるという。たとえば、資産運用の代表格のように扱われ、テレビCMなどで目にすることの多い「投資信託」にはこんなワナが潜んでいる。

■一般人が買っている投資商品は“寄せ集め”

 ひとくちに「投資信託」といっても、日本企業の株ばかりを集めたものや、ブラジル企業に特化したものなど、リスクも利幅もピンキリで、日本だけで約5000種類もの投資信託商品があるという。

 ここで大事なのは「本当にいい投資話は、まず大金持ちのところにいく」ということだ。
 金融機関にとって、大金持ちや資産家は子や孫の代までつきあいたい上客。だからこそ「元本保証で20%増えて戻ってくる」というような本当にいい投資案件は、一般客相手に小売するよりも、「最低投資額10億円」というような条件で資産家の元に持ち込まれる。
 つまり、いいところをすべて資産家が持っていった残りの寄せ集めが、私たちが買うことのできる投資商品ということになる。本書によると「日本の投資信託はゴミ箱」。そこにはこんな事情があるのだ。

 そして、「寄せ集め」の投資商品をなんとか一般客に売りつけようと、証券会社の窓口担当者は「今この商品が勢いありますよ!」というセールストークで「現在値上がりを続けている商品」をすすめる。しかし、投資会社や銀行といった「市場のプロ」は、値上がりを始める前から投資して、釣り上がったところで売り抜ける。値上がりしている時に買うのでは遅すぎるのだ。

 そもそも「寄せ集め」であるうえに、窓口で勧められる商品はもはや時機を失したものばかり。これは資産運用を始めるにあたって知っておくべき投資信託の実情だ。このような「ワナ」は、近年にわかに注目されているNISAにもいえる。

■非課税のはずのNISAで余計な税金がかかるハメに…

 株や投資信託で増えたお金には、通常約20%の税金がかかるが、年120万円までの「少額投資」であれば最長5年間非課税とするのがNISAの概要だ。つまり5年間・600万円の投資非課税枠を持つことができるということで、いい話のように思えるが、思わぬ税金がかかってしまうリスクについては、これまであまり語られてこなかった。
 たとえば、100万円で買った株が、NISAの非課税期間が終わる5年後に80万円まで値下がりしてしまった場合。ここで売却すれば問題は起こらないが、「これから値上がりするかもしれないからまだ持っておこう」となった時はNISAの口座から一般の口座に移す必要がある。

 そして、ここが重要なのだが、この際は「口座の中身をそのまま移動」するのではなく、「80万円で新規に株を買い直した」扱いになるのだ。そのため、その後持ち株が100万円に戻った時に売却したら、本当なら「100万円で買った株を100万円で売って利益は0」のはずなのに、「80万円で買った株を100万円で売って20万円の利益を得た」ことになってしまう。そして、この20万円には20%の税金がかかる。
 もちろん、非課税期間の5年間のうちに利益を出せばこんなことにはならないが、たとえば株の売買で儲かっている人は全体の1割から2割。それを考えるとNISAをやることで余計な税金を払う人は多いのではないかと、本書では指摘されている。

 こうした落とし穴やワナが「不動産投資」にも「生命保険」にも、日本で流通しているあらゆる投資商品に存在するとして、本書ではそれらから自分の資産を守り、賢く増やしてゆく投資手法を明らかにしている。
 目標は「1億円の資産を作り、年利5~7%で運用する」こと。普通の勤め人がこの目標をいかにクリアするか。資産運用をこれから始めたいという人は、素人を簡単に飲み込む投資の世界の実情を知るためにも一読してみるといいかもしれない。

著者プロフィール

中井 俊憲 (なかいとしのり)

1981年、奈良県生まれ。京都大学工学部卒業、同大学大学院を修了後、精密機器メーカーのコンサルティングエンジニアを経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。専門用語を使わず、初心者にわかりやすくお金の守り方や育て方を伝えることを得意とし、年間40回以上の講演、2000人以上に賢いお金とのつきあい方を教える資産運用セミナーに力を注ぐ。個人のリスクを日本から切り離し、中長期の海外投資でリスクを分散する資産形成を積極的にすすめている。近年は金融の最先端を走るシンガポールに拠点を移し、講演や執筆活動をおこなっている。

インタビュー

― 『日本人だけが知らない「がんばらない」投資法ほったらかしでも1億円貯まる!』についてお話をうかがえればと思います。読んだ感想として、日本人のお金に対する意識は世界の中でもかなり特殊なんだなというのがありました。中井さんは現在シンガポールで活動されているとのことですが、現地の人と日本人とではお金に対してどのような考え方の違いがありますか?

中井:大きな違いとして、シンガポールの人はお金の話をするのが好きですよね。
日本人はお金の話をするのにあまりオープンではないというか、そういう話は下品ではしたないものだという意識があるじゃないですか。でも向こうの人は初対面でも「家賃いくら?」とか「給料いくら?」とか普通のコミュニケーションとして聞いたりします。

著者近影

― タイトルを見てまず目につくのが「がんばらない」という言葉です。この「がんばらない」はどんな状態を指すのでしょうか?

中井:だいたい「何か投資を始めよう」となると、FXや株に目が行く方が多いのですが、FXにしても株にしても、プロのトレーダーでも勝ち続けるのは難しい世界で、初心者の方がちょっと勉強したくらいで勝てるものではありません。稼ごうと思ったら相当勉強する必要があります。
そして、勉強して知識を得て投資にのめり込むようになると、今度は一日中チャートの値動きが気になって仕方がなくなります。こうなると仕事どころではないですし、すごく労力を奪われることになる。
この本でいう「がんばらない」とは、そうやってあくせくチャートを見たり、細かいトレードを繰り返したりしないということです。じっくりと、着実に資産を育てていく方法を書いているのですが、それはある程度放っておいても可能なんです。

― 中井さんの方法ですと、一日のうち投資にかける時間はどれくらいを想定していますか?

中井:極端な話、ゼロでもいいと思っています。投資を始める時の手続きをするのに時間は必要ですが、その後は月に1回チェックするくらいなので「一日何分」という話でもない。そのくらい「がんばらない」投資法です。
この本で紹介している投資法も、毎日チャートを見て値動きをチェックして、というようなものではありません。投資先を選んだら基本的には放っておくというスタイルです。

― 「日本人の40人に1人が1億円以上の資産を持っている」という箇所は驚きでした。投資になじみがない人が今から始めて1億円の資産を築くことは可能なのでしょうか。

中井:できると思いますね。全員が全員とは言いませんが、今30歳の人が60歳までに、というように20年とか30年の時間をかければ十分可能だと思っています。

― 最初に元手となるお金はどれくらい必要でしょうか。

中井:資産を1億円作るとなると、最低でも100万円くらいは必要ではないでしょうか。もし1000万円あればもっと早く安全に辿り着きます。ただ、遊び感覚といいますか、経験としてちょっとやってみるだけなら10万円でもできると思いますが。

― FXは不思議と人気があります。リスクの高いことはやる方もわかっているはずですが、なぜこうした投資が人をひきつけるのでしょうか。

中井:これはもうギャンブルと同じだと思います。てっとり早く儲かる(かもしれない)ということで、本人にそのつもりはなくても実際にやっていることは「ちょっと知的なギャンブル」です。熱くなって感情的になった時、または気を抜いていた隙に大負けするんです。
ただ、こういった投資は始めた時にいくらか儲かることはあっても、5年、10年と稼ぎ続けるのは本当に難しいことです。まして老後に備えてまとまった資産を作るというのは、素人ではまず不可能ではないでしょうか。
2015年に「スイスフラン・ショック」というのがありましたが、FXは何年かに一度、相場が激しく動くことがあります。プロのトレーダーチームは複数の通貨ペアで資金を分散させていますから、ある通貨の値動きがおかしくても他の通貨でリスクを吸収できますが、素人の場合はそうはいきません。まして、相場が動いている時に仕事中だったら対応できないわけですから。僕の知人は会社員で、会議中のたった2時間で300万円失ったと言っていました。2時間で年収が消えてしまったと。為す術がなかったそうです。
もちろん、きちんと勉強して、投資そのものへのリスクだけでなく恐怖心といった「感情」までもをすべてコントロールできるのならFXで稼ぎ続けることも可能なのかもしれません。でも、そこまでになるともう「素人」とは呼べないですよね。

― 本書で提唱している「7%で運用」というのは、かなりの高利回りですよね。

中井:「7%」というのは一例で、投資商品によっては利回り3%のものもありますし、大きいものだと20%のものもあります。平均すると大体5~7%くらいですから、そのくらいの利回りで運用、というのが現実的な数字だと思っています。

― この利回りを実現するための手法が「海外投資」です。「海外投資」といってもいろいろあるのですが、まず預金の利率が10%以上ある国があることに驚きました。

中井:モンゴルやブラジルといった国ですよね。ただ、確かに高金利は魅力的なのですが、通貨の価値も考えにいれないといけません。モンゴルでいえば、日本円とモンゴルの通貨トゥグルクのレートですね。
預金金利に限らず、海外には日本ではまずないような高利回りの投資商品が多くあるので、ぜひ目を向けてみていただきたいです。

著者近影

―海外投資に興味がある人は多いと思いますが、やはり「語学」が必要になるのではないですか?

中井:語学は意外に問題にならないですよ。海外の金融機関には日本語サポートがあるところも多いですし。英語ができないからといって海外投資を諦めることはないと思います。

―NISAや保険など、既存の日本の金融商品のリスクについて書かれていた箇所が非常にインパクトがありました。こうしたものを無自覚に利用してしまっている人は多いと思いますが、老後のための資産を築くには、日本の金融商品だけでは難しいのでしょうか。

中井:そう思います。たとえば投資信託にしても、日本の投資信託は「見えない手数料」が内側に隠れているんです。
日本の証券会社でも海外のファンド(投資信託)を買うこともできるのですが、どんなに利回りのいい海外ファンドに投資したとしても、この大きな中間マージンによって顧客に入ってくる利回りは低くなってしまいます。
また、保険などの一般的な日本の投資商品の利回りが単純に低いということもいえますね。貯蓄型の保険でいえば今の日本だと年利1%以下でしょう。これがシンガポールだと年利3%~4%というものも多くあります。
今後、日本の財政が厳しくなると個人の預金や証券会社などの金融機関の資産が課税の対象になることもありえます。「死亡消費税」や「貯蓄税」まで検討されているというニュースもあるくらいですから、資産運用や投資を考えるなら日本にこだわる必要はないのではないでしょうか。少なくとも、国内の投資商品だけしか見ないと選択肢がすごく少なくなってしまいます。

― 最近の投資の流行として「ワンルームマンション投資」が挙げられます。都心にワンルームマンションを買って賃貸に出して家賃収入を得たり、売ったりといったことをするわけですが、これにも疑問を投げかけていましたね。

中井:前提としてワンルームマンションはそこまでニーズがなくて値が上がりませんし、ローンを組んでしまうと返済に何年もかかりますからね。
不動産業者がこういう物件を売る時に「税金が安くなりますよ、トータルで考えたら得ですよ」というセールストークを使うのですが、これもよく考えるとおかしいんです。
要は「不動産事業を赤字にすることで、会社員として納めている税金が安くなりますよ」ということなのですが、税金は安くなっても何千万も借金をしてローンを組んだ挙句に不動産事業が赤字なのでは、資産運用としては失敗ですし、リスクが高すぎます。

― 日銀が導入を決めた「マイナス金利」は投資をする人にとって気になるところです。個人の投資に「マイナス金利」はどんな影響を与えるかご意見をうかがえますか?

中井:まず、定期預金の金利が普通金利並みに引き下げられました。今のところ、個人の預金に対してマイナス金利は導入されていませんが、口座維持手数料の導入やATM手数料の値上げなどで実質的なマイナス金利になるかもしれません。銀行にお金を預けているとこのような手数料でマイナスになっていく可能性はあります。
 逆に借りる場合は金利が安くてよいですね。ただ、注意しなくてはいけないのは今「変動金利」でローンを組んでいる人です。この「マイナス金利」が悪い方に働いて、日本の経済がいよいよ危なくなってきたら、ローンの金利が急に上がってもおかしくありません。今住宅ローンの金利であれば1%くらいだと思いますが、これが8%くらいに上がることも考えられます。金利の動向には常に気をつけておきましょう。

― 本書には、投資運用によってお金を増やす方法だけでなく、手持ちの資金を守る方法についても書かれています。この「守り方」についてアドバイスをいただけますか。

中井:これは一例ですが、「ずっと入っているし、まあいいか」という理由で、よく考えると必要ない保険に入り続けている人は結構多くて、その支払いに月1万円とか2万円が消えているという現実があります。
最近実際にあった話で、30歳の方なのですが保険料が月に7万円かかっているという人がいました。特に収入がいいわけではなくて月収30万円くらいなのに、保険に7万円かけている。いくらなんでも多すぎます。
おそらく、以前もう少し収入がよかった時に加入した保険なのでしょうが、今の収入になってもほったらかしにしているというのはよくありません。額は違えどこういう状態になっている人は少なくありません。投資をするにしても、自分の現状をよく見てそれに合わせてやっていただきたいですね。
特に、マイナス金利は保険会社にとっても辛いため、近々掛け金が上る可能性があります。今のうちに適切な保険かどうか見なおしておいたほうがいいでしょう。

―中井さんは本書をどんな方に向けて書かれましたか?

中井:僕は今34歳なのですが、10年前にこんな本があったらな、と思える本を書こうと思っていました。
当時、勤めてはいましたけど年金も期待できないし、退職金も出るかわからないしで、このままじゃまずいと思っていましたし、投資をするにしても情報が多すぎて何をしていいかわかりませんでした。今も当時の僕のような人はいるはずで、そういう人にぜひ読んでいただきたいですね。

著者近影

― 最後になりますが、今おっしゃったような、投資を始めたいけどどうしていいかわからないという方々にメッセージをお願いできればと思います。

中井:お金持ちになりたければお金について学ばなければならない、と何かの本で読んで、実践するようになってから僕の人生は変わっていきました。この本も、お金について学びはじめるきっかけになってくれたらいいなと思っています。

(新刊JP編集部)

目次

  1. 序 章
    「お金が育つ」って、ワクワクすること!
  2. 第1章
    お金に対する思い込み、なくしませんか?
  3. 第2章
    自分のお金、しっかり守れてますか?
  1. 第3章
    日本人が陥りやすい投資のワナ、知っていますか?
  2. 第4章
    これでも「貯金1億円」は「夢の話」でしょうか?
  3. 終章
    あなたの人生、今からもっと自由になります!
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