― 『日本人だけが知らない「がんばらない」投資法ほったらかしでも1億円貯まる!』についてお話をうかがえればと思います。読んだ感想として、日本人のお金に対する意識は世界の中でもかなり特殊なんだなというのがありました。中井さんは現在シンガポールで活動されているとのことですが、現地の人と日本人とではお金に対してどのような考え方の違いがありますか?
中井:大きな違いとして、シンガポールの人はお金の話をするのが好きですよね。
日本人はお金の話をするのにあまりオープンではないというか、そういう話は下品ではしたないものだという意識があるじゃないですか。でも向こうの人は初対面でも「家賃いくら?」とか「給料いくら?」とか普通のコミュニケーションとして聞いたりします。
― タイトルを見てまず目につくのが「がんばらない」という言葉です。この「がんばらない」はどんな状態を指すのでしょうか?
中井:だいたい「何か投資を始めよう」となると、FXや株に目が行く方が多いのですが、FXにしても株にしても、プロのトレーダーでも勝ち続けるのは難しい世界で、初心者の方がちょっと勉強したくらいで勝てるものではありません。稼ごうと思ったら相当勉強する必要があります。
そして、勉強して知識を得て投資にのめり込むようになると、今度は一日中チャートの値動きが気になって仕方がなくなります。こうなると仕事どころではないですし、すごく労力を奪われることになる。
この本でいう「がんばらない」とは、そうやってあくせくチャートを見たり、細かいトレードを繰り返したりしないということです。じっくりと、着実に資産を育てていく方法を書いているのですが、それはある程度放っておいても可能なんです。
― 中井さんの方法ですと、一日のうち投資にかける時間はどれくらいを想定していますか?
中井:極端な話、ゼロでもいいと思っています。投資を始める時の手続きをするのに時間は必要ですが、その後は月に1回チェックするくらいなので「一日何分」という話でもない。そのくらい「がんばらない」投資法です。
この本で紹介している投資法も、毎日チャートを見て値動きをチェックして、というようなものではありません。投資先を選んだら基本的には放っておくというスタイルです。
― 「日本人の40人に1人が1億円以上の資産を持っている」という箇所は驚きでした。投資になじみがない人が今から始めて1億円の資産を築くことは可能なのでしょうか。
中井:できると思いますね。全員が全員とは言いませんが、今30歳の人が60歳までに、というように20年とか30年の時間をかければ十分可能だと思っています。
― 最初に元手となるお金はどれくらい必要でしょうか。
中井:資産を1億円作るとなると、最低でも100万円くらいは必要ではないでしょうか。もし1000万円あればもっと早く安全に辿り着きます。ただ、遊び感覚といいますか、経験としてちょっとやってみるだけなら10万円でもできると思いますが。
― FXは不思議と人気があります。リスクの高いことはやる方もわかっているはずですが、なぜこうした投資が人をひきつけるのでしょうか。
中井:これはもうギャンブルと同じだと思います。てっとり早く儲かる(かもしれない)ということで、本人にそのつもりはなくても実際にやっていることは「ちょっと知的なギャンブル」です。熱くなって感情的になった時、または気を抜いていた隙に大負けするんです。
ただ、こういった投資は始めた時にいくらか儲かることはあっても、5年、10年と稼ぎ続けるのは本当に難しいことです。まして老後に備えてまとまった資産を作るというのは、素人ではまず不可能ではないでしょうか。
2015年に「スイスフラン・ショック」というのがありましたが、FXは何年かに一度、相場が激しく動くことがあります。プロのトレーダーチームは複数の通貨ペアで資金を分散させていますから、ある通貨の値動きがおかしくても他の通貨でリスクを吸収できますが、素人の場合はそうはいきません。まして、相場が動いている時に仕事中だったら対応できないわけですから。僕の知人は会社員で、会議中のたった2時間で300万円失ったと言っていました。2時間で年収が消えてしまったと。為す術がなかったそうです。
もちろん、きちんと勉強して、投資そのものへのリスクだけでなく恐怖心といった「感情」までもをすべてコントロールできるのならFXで稼ぎ続けることも可能なのかもしれません。でも、そこまでになるともう「素人」とは呼べないですよね。
― 本書で提唱している「7%で運用」というのは、かなりの高利回りですよね。
中井:「7%」というのは一例で、投資商品によっては利回り3%のものもありますし、大きいものだと20%のものもあります。平均すると大体5~7%くらいですから、そのくらいの利回りで運用、というのが現実的な数字だと思っています。
― この利回りを実現するための手法が「海外投資」です。「海外投資」といってもいろいろあるのですが、まず預金の利率が10%以上ある国があることに驚きました。
中井:モンゴルやブラジルといった国ですよね。ただ、確かに高金利は魅力的なのですが、通貨の価値も考えにいれないといけません。モンゴルでいえば、日本円とモンゴルの通貨トゥグルクのレートですね。
預金金利に限らず、海外には日本ではまずないような高利回りの投資商品が多くあるので、ぜひ目を向けてみていただきたいです。
―海外投資に興味がある人は多いと思いますが、やはり「語学」が必要になるのではないですか?
中井:語学は意外に問題にならないですよ。海外の金融機関には日本語サポートがあるところも多いですし。英語ができないからといって海外投資を諦めることはないと思います。
―NISAや保険など、既存の日本の金融商品のリスクについて書かれていた箇所が非常にインパクトがありました。こうしたものを無自覚に利用してしまっている人は多いと思いますが、老後のための資産を築くには、日本の金融商品だけでは難しいのでしょうか。
中井:そう思います。たとえば投資信託にしても、日本の投資信託は「見えない手数料」が内側に隠れているんです。
日本の証券会社でも海外のファンド(投資信託)を買うこともできるのですが、どんなに利回りのいい海外ファンドに投資したとしても、この大きな中間マージンによって顧客に入ってくる利回りは低くなってしまいます。
また、保険などの一般的な日本の投資商品の利回りが単純に低いということもいえますね。貯蓄型の保険でいえば今の日本だと年利1%以下でしょう。これがシンガポールだと年利3%~4%というものも多くあります。
今後、日本の財政が厳しくなると個人の預金や証券会社などの金融機関の資産が課税の対象になることもありえます。「死亡消費税」や「貯蓄税」まで検討されているというニュースもあるくらいですから、資産運用や投資を考えるなら日本にこだわる必要はないのではないでしょうか。少なくとも、国内の投資商品だけしか見ないと選択肢がすごく少なくなってしまいます。
― 最近の投資の流行として「ワンルームマンション投資」が挙げられます。都心にワンルームマンションを買って賃貸に出して家賃収入を得たり、売ったりといったことをするわけですが、これにも疑問を投げかけていましたね。
中井:前提としてワンルームマンションはそこまでニーズがなくて値が上がりませんし、ローンを組んでしまうと返済に何年もかかりますからね。
不動産業者がこういう物件を売る時に「税金が安くなりますよ、トータルで考えたら得ですよ」というセールストークを使うのですが、これもよく考えるとおかしいんです。
要は「不動産事業を赤字にすることで、会社員として納めている税金が安くなりますよ」ということなのですが、税金は安くなっても何千万も借金をしてローンを組んだ挙句に不動産事業が赤字なのでは、資産運用としては失敗ですし、リスクが高すぎます。
― 日銀が導入を決めた「マイナス金利」は投資をする人にとって気になるところです。個人の投資に「マイナス金利」はどんな影響を与えるかご意見をうかがえますか?
中井:まず、定期預金の金利が普通金利並みに引き下げられました。今のところ、個人の預金に対してマイナス金利は導入されていませんが、口座維持手数料の導入やATM手数料の値上げなどで実質的なマイナス金利になるかもしれません。銀行にお金を預けているとこのような手数料でマイナスになっていく可能性はあります。
逆に借りる場合は金利が安くてよいですね。ただ、注意しなくてはいけないのは今「変動金利」でローンを組んでいる人です。この「マイナス金利」が悪い方に働いて、日本の経済がいよいよ危なくなってきたら、ローンの金利が急に上がってもおかしくありません。今住宅ローンの金利であれば1%くらいだと思いますが、これが8%くらいに上がることも考えられます。金利の動向には常に気をつけておきましょう。
― 本書には、投資運用によってお金を増やす方法だけでなく、手持ちの資金を守る方法についても書かれています。この「守り方」についてアドバイスをいただけますか。
中井:これは一例ですが、「ずっと入っているし、まあいいか」という理由で、よく考えると必要ない保険に入り続けている人は結構多くて、その支払いに月1万円とか2万円が消えているという現実があります。
最近実際にあった話で、30歳の方なのですが保険料が月に7万円かかっているという人がいました。特に収入がいいわけではなくて月収30万円くらいなのに、保険に7万円かけている。いくらなんでも多すぎます。
おそらく、以前もう少し収入がよかった時に加入した保険なのでしょうが、今の収入になってもほったらかしにしているというのはよくありません。額は違えどこういう状態になっている人は少なくありません。投資をするにしても、自分の現状をよく見てそれに合わせてやっていただきたいですね。
特に、マイナス金利は保険会社にとっても辛いため、近々掛け金が上る可能性があります。今のうちに適切な保険かどうか見なおしておいたほうがいいでしょう。
―中井さんは本書をどんな方に向けて書かれましたか?
中井:僕は今34歳なのですが、10年前にこんな本があったらな、と思える本を書こうと思っていました。
当時、勤めてはいましたけど年金も期待できないし、退職金も出るかわからないしで、このままじゃまずいと思っていましたし、投資をするにしても情報が多すぎて何をしていいかわかりませんでした。今も当時の僕のような人はいるはずで、そういう人にぜひ読んでいただきたいですね。
― 最後になりますが、今おっしゃったような、投資を始めたいけどどうしていいかわからないという方々にメッセージをお願いできればと思います。
中井:お金持ちになりたければお金について学ばなければならない、と何かの本で読んで、実践するようになってから僕の人生は変わっていきました。この本も、お金について学びはじめるきっかけになってくれたらいいなと思っています。
(新刊JP編集部)