書評
とにかく面白い本だ。
こういう場でこんなことを言うのはどうかという意見もあるのかも知れないが、 正直、女性は本書をあまり読まないほうがいいかも知れない。 と言いたくもなるくらい、男臭さが充満している。 それも、脂が乗り切っているような男臭さではなく、非常にスマートな男臭さなのだ。
『男のための自分探し』というタイトルがつけられた本書は男性が「男性」として生きていくためのある種の「開き直り」を、 哲学者たちの思想の言葉を絡めながら説明していく、まさに「男性」のための本である。
「恋愛」「結婚」「浮気」「セックス(精子)」「死」「自由」「幸福」といったキーワードを、 科学哲学の視点から鋭く切り込んでいくのは、気鋭の哲学者である伊藤健太郎氏だ。 哲学者だけあり、本書にはその分野の先人たちの言葉や思想が引用されている。
例えば、ソクラテスやニーチェ、デカルトといった誰もが知る哲学者からスタンダールやシェイクスピアといった作家、 さらにはヒュームやウィトゲンシュタインといった、比較的マイナーな思想家など (とは言っても、2人ともその道の中では知らない者はいない哲学者なのだが) とにかくカバーしている領域は幅広い。
そして、本書を読み進めていくと、彼らの思想は古さを感じさせない、 むしろ、「いつの時代も同じことを悩み、考えているのだなあ」と感心させられてしまう普遍性と 共感させられてしまう説得力があることに気づく。
男として開き直りたい、殻を破りたいという野心に燃える男子は必読の一冊だ。 また、冒頭に「女性は読まないほうがいいかも…」と言ってしまったが、撤回。 スマートな男臭さの世界を垣間見てみたい女子にも是非お薦めしたい。プロモーション動画
第1章
恋の脳科学──結婚すれば自動的に幸せになるメカニズム
- 誤解を恐れずに言えば、「結婚」は人生の唯一にして最大の幸福です
- なぜ、結婚すると幸せになれるのか――進化論からの考察
- ソクラテスの大発見!!幸せになれないのは、「私が幸せになること」ではなく「私の体が喜ぶこと」ばかり求めているから……
- 恋愛のさなかでは、相手のすべてが長所に見え、欠点は無視してしまう――これをスタンダールは「結晶作用」と言った
- 片思いがなかなか消えない科学的理由と、哲学的対策──やはり哲学はジュリエットを作ってはくれない
- 愛は4年で終わる──その危機を脱するためのニーチェのアドバイス
第2章
本当は「私の体」に動かされている「私」──浮気が止まらない理由
- 男が「気持ちいい」と感じるのは、自分の遺伝子を残すのに役立つものばかり
- 恋人がいないのは、「自分に魅力がないから」と思うのは、500%間違っている
- 「彼女が欲しい!」この悩みに感謝しよう。これぞ、男の全活動のエネルギー源!
- 男は結婚すると、明らかに成果も才能も減ってしまう。ライバルに完全勝利したければ独身を貫くのが最善!?
- 赤ちゃんを見たら必ず、「お父さん似ですね!」と言ってあげましょう
- 世にも過酷な試練を耐え抜いた精鋭の中の精鋭、それがあなたです。命を大切に……
- いい男と結婚すると損?──モテない男ほど、よきパパになる理由
第3章
男を動かすのは理性か女か精子か
- 命よりも女が欲しい、これが男の本能でしょう
- 男は、自分の精子に、さんざん利用されたあげくに捨てられる
- 「気持ちいい体験」は繰り返したい、と思うように、人間はプログラムされている
- 男は単純なので、お金、車、恋人と、欲しいものを手に入れようと奮闘する――これぞ遺伝子の思うつぼ
- 男の脳が「美人」だと感じる女性には、いつの時代でも、どこの国でも、変わらない共通点がある──「美人」の科学
- なぜ、代わり映えのしない毎日の繰り返しで、一生が終わるのか
第4章
私が考えるのは「手段」、考えないのは「目的」
- 恋は目から始まります。頭で計算してから熱を上げる人はいません
- 「感情のまま、好きに生きるのが、自由ではない」と気づいた人が、「自分探し」を始める
- ソクラテスもプラトンも「肉体の喜びではなく、本当の幸福を探そう」と訴えている
- なぜ脳は、「下見て暮らすな、上見て追いつき追い越せ」という思考回路になっているのか
第5章
「私の本当の望み」=「本当の幸せ」
- 「美しい者を愛する人は、何を欲しているのか」。ソクラテスいわく「幸福になるため」
- 「なぜ、こんな苦しみに耐えなければならないのか」が分からないから、苦しくてならないのです
- 私も知らない本当の私 「無意識」という部屋の中で、他人に言えない恐ろしいことを考えている
- 猫は、「わがはいは、なぜ生きるのか」と悩んだりしない。人間だけが、自分の存在を問うことができる
- 周りの人に合わせることで安心を得ようとしていないだろうか。それは、本当の自分を見失っている姿!
- 「死」を見つめた時、人間は「本当の自分」になる──ハイデガーの説く「自分探し」
- 「死は確かにやってくる、しかし、今すぐというわけではない」と自分にウソをついて安心している私
- すべての人間は、沈没するタイタニック号の上で騒いでいる乗客と同じなのです
第6章
自分をダマすのはやめて自由に生きよう!
- 自分の進む道は、自分で選ばなければなりません。自己責任の孤独な旅が人生です
- サルトルは「人間は自由の刑に処せられている」と言った
- 「あと1か月の命」と宣告されたら、どんな気持ちになりますか
- 「自由に好きな道を歩みたい」と願いつつ、「自由」を捨ててしまう人間の矛盾
- 100年カレンダー伝説──始まりのあるものには終わりがある
第7章
「無知」を知る=本当の自分を知る
- 「汝自身を知れ」ソクラテスを生涯を通して導いた言葉
- 自分は何も知らないと知った者が、最大の賢者である
- 知っているつもりの人は、知る努力をしないので、いつまでも無知のまま
- 人間は、本当のことを知りながらも、都合が悪ければ、知らないことにしてしまう
- 「私自身」と「私の体」とを区別したことが、重大な発見だった
第8章
自分探しは「死」の向こうへ
- 「モーニング娘。」を哲学して、私のナゾに迫りましょう!
- 昨日の私と、今日の私は「同じ」でしょうか?
- 昨日も今日も、同じであり続ける「私」は、どこにいるの?
- 恋人を愛することは、恋人の肉体を欲することとは違う!──ソクラテスの論証
- 「死んだあとは、あるのか、ないのか。これこそ、私の全生涯を左右する大問題だ」――パスカルの言明
- 死んだら、どこへ行くのか。これが私の最大事となり、心は疑いと恐れで満たされる――プラトンの警告
- 「苦しい人生を、死なずに生きているのは、死後どうなるか分からない不安があるからだ」――シェイクスピアの名セリフ
- 「脳が死んだら、私もなくなる」という考えは、なぜ間違いなのか
第9章
生きる意味は「本当の幸福」
- 「意味のある人生」とは「幸福な人生」だ――ウィトゲンシュタイン
- 「幸福に生きよ!」この先は、哲学を超える問題です