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新刊JPトップ > 特集 > 杉本彩『リベラルライフ』特集 インタビュー
■「結婚という制度は無意味」 ―今回、自叙伝という形で杉本さんの生き方を一冊の本にまとめようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。 杉本 「私はアルゼンチンタンゴをベースにしているエンターテインメントをやり続けているのですが、 タンゴという自分が最も情熱を傾けられるものを中心に、人生で何かに情熱を傾けることがどれだけ大切かということ、 また女優として、ダンサーとして、経営者としても、情熱を燃やすことで発見できたさまざまな経験や気づきを本にしたいと思っていました。
でも、書いている間に私のビジネスで大きな問題が起こりまして、経営者である自分のことも書くつもりで進めていたので、 自らの経営者としての選択ミスに及ぶまで、まだ生々しい傷痕が残る現状を書かざるをえなくなってしまったのです。 最初は躊躇もありましたが、何のために、だれのために書くのかが自分の中で明確になっていって、 それは徐々に、書くべきだという強い確信に変わってきたんですね」
―杉本さんといえばタンゴや『芸能人社交ダンス部』で見せたようなダンスのイメージが強いですが、タンゴとの出会いはどのようなものでしたか? 杉本 「出会った瞬間は、この、心揺さぶられる感覚はいったい何なんだろうという感じで、 それから導かれるようにタンゴの世界に入っていきました。 それが何なのかを追い求めて、その答えを探し続けているうちに、どんどん自分の中で眠っていたものが目覚めていったというわけです」 ―本書『リベラルライフ』をどんな人に読んでほしいとお考えですか? 杉本 「昔の私と同じように、さまざまな呪縛に苦しみながら生きている人ですね。

何かしら迷いを持っていたり、世の中の常識や因習にとらわれ過ぎて息苦しさを感じている人たちに読んでほしいです。
例えば仕事においても、結婚においても、家族のしがらみにおいても、あらゆるところに呪縛はあると思うんです。 そういった人の中には、自分が苦しんでいる呪縛が間違った刷り込みによるものだということに気づいていない人や、 自分が何に苦しめられているのかさえわからない人もいます。そういったことは、幸福な人生を求める時にすごく邪魔なものです。
間違った刷り込みによる呪縛の苦しみから解放されてほしい、というのが一番の書く意味だったのかなと思っています」
―本書を読む限り、杉本さんにとっての“呪縛”の一つに“結婚”があったように思えます。 離婚を経て、現在は結婚という“呪縛”から離れた杉本さんですが、そういった立場になって新たな発見はありましたか? 杉本 「そうですね、結婚という制度が無意味だということ。 これは結婚、離婚をしてみないと気付かなかったことではあります。
結局、結婚は制度であって、結婚という契約をしたからといって愛が保証されるものではありません。
それどころか、お互いに自分のものになったかのような錯覚をして、甘えが生じて、本当の絆を築いていくうえで邪魔なものになることもあります。 でも多くの人は、それに気づいていないように思います。

結婚イコール幸せという幻想を、だれが刷り込んだのかわからないですが、“結婚することで幸せになれる”と盲目的に信じている人がたくさんいて、 それによって自由な生き方ができなくなって、結果、自分を苦しめている人もいます。 結婚すること自体を否定しているわけではありませんが、自分ではないだれかの幸福観に惑わされて自分の生き方や幸せを見失うことは愚かなことだ、 ということに気づいてほしいです」
■「本物を探し求めてそれを得ることは、並々ならぬエネルギーや精神力、体力がいること」 ―杉本さんが『リベラルライフ』で綴られている、現在の考え方になるにあたり影響を受けた出来事や人物がありましたら教えてください。 杉本 「この考えに至るまで、具体的に自分を導いてくれた特定のだれかがいるわけではないですが、 これまでの恋愛経験や結婚の経験はすごく大きかったと思います。当然、仕事の経験も。 愛することで苦しんで、仕事の苦しみもそうですが、そこから脱出するためにはさまざまな現実と向き合わなければなりまんでしたから、 自由な精神で生きることでしか乗り越えられない、ということを経験から知ったのです。だから、だれかが教えてくれたということではなく、 自分が苦悩した結果として到達したんだと思います。もちろん、そこには愛する人からの影響もあるわけですが」 ―本作で綴られている杉本さんの過去の恋愛は、自分にも相手にもものすごく真摯な愛情を求めていらっしゃって、 相手に求めるものも自分に課すもの大きいという、とても激しくエネルギッシュな印象を受けました。 杉本さんのそのような激しさやエネルギーはどこからくるのでしょうか? 杉本 「自分でも思うんですけど、たぶんニセモノに興味がないんだと思います。 それは恋愛に限ったことではなくて、仕事でもそうなんですけど。中途半端なニセモノには全く興味がないんですよ。 でも、本物を探し求めてそれを得るっていうことは、並々ならぬエネルギーや精神力、体力がいることです。 ただそれだけのことなんじゃないかと思います」 ―でも、それだと恋愛するのが大変じゃないですか?相手も見つかりにくいでしょうし。 杉本 「すっごい大変ですよ(笑)。 私にもエネルギーがいるし、同じように相手にもエネルギーを要求しているんですから。 そこのバランスが釣り合っていないと恋愛が成立しないので」 ―そういったある種の“激しさ”は美意識の強さから来ているのでしょうか。 杉本 「今はほどほどになってきましたけど、若い頃は美意識を通り越していましたね。 もう異常なまでの完璧主義者。今は、ほどよくなったと思います(笑)」 ― 一例として、恋愛って長続きさせるために多少の「馴れ合い」は潤滑油として機能するわけじゃないですか。 杉本さんはそういったものもあまりお好きではないのでしょうか。 杉本 「馴れ合いは、その二人の関係をいい方向には向かわせないと思います。
もちろん時がたてば、お互いに馴れ合う部分が出てくるのは、自然なことなんですけどね。 でも、現状に甘んじて緊張感を全く失ってしまうのはよくないことです。 安心感の中にも、“緊張感という思いやり”と、“男と女”として認め合うことは相手に対する礼儀でもあります。
それをおろそかにしなければ、刺激のある関係性を継続させることも可能だと思うんですよ。

例えば、二人の関係を守ることばかりにとらわれているカップルっているでしょ。 そういうカップルはお互いから刺激を排除するので、行動範囲を狭めるし、結果、成長を妨げることになりかねない。 それでは、お互いが相手への興味をどんどん失っていって、男として見られない、女として見られないというような、つまらない関係で終わってしまうんです。 でも、二人でもっといい人生をデザインしていこう、という現状に満足しない姿勢が共通していると、 それに対する努力ができて、人生や生活に変化が生まれます。 お互いの変化を認め合う作業は大変ですが、そうすれば馴れ合いの関係にはならないのではと思います」
―杉本さんの生き方に憧れる方は女性を中心に多いと思いますが、そんな杉本さんが憧れる女性像がありましたら教えてください。 杉本 「“自分の足で立って人生を切り開いてきたという経験から生まれる、 強さと優しさを兼ね備えている成熟した大人”っていうのが昔から思っている理想の女性像ではあるんですよね。 精神的なゆとりがあって、人を寛容な包容力で包み込めるたおやかな優しさがあって。 それが目指すべき女性像かなと思っています」 ―今おっしゃった“強さ”というのは、具体的にどのようなことでしょうか。 杉本 「人に依存せず、自分で自分の人生に責任を持って生きていけるということですね。 精神的にも経済的にも、というのが理想ですけど、たとえ経済的に自立することができていなくても、精神的な自立は必要だと思います」 ―杉本さんが考える、恋愛における男と女のいい関係というものはどんな関係ですか。 杉本 「お互いに影響を与えあっていける関係で、お互いに足りない部分を補いあっていける関係だと思います。 人間は、一人では足りないところだらけです。でも、だれかとパートナーシップを築くことによって補うことができる。 一人のいい男、一人のいい女として成熟し完成するには、絶対にパートナーが必要なんですよね」 ■杉本彩、ズバリ“芸能界は好き?” ―今日お会いして感じたのですが、テレビで見る杉本さんと印象がずいぶん違って驚きました。 テレビでの杉本さんのイメージと、杉本さんが思っているご自身のイメージとのズレについて、 悩んだりすることもあるのではないですか? 杉本 「若い時は悩みました。“本当の私はこうじゃない”とか“もっと自分を理解してほしい”と思っていましたけど、 今は芸能界で生きるんだから虚像があって当たり前だろうと。セルフプロデュースして、虚像さえも自分でコントロールしていけるのがプロだと思っています。 世間のイメージと自分とのギャップを自分で笑えるようになった、というか(笑)」 ―ずばりお聞きしますけど、杉本さんって芸能界好きですか?お話を伺っているとあまり芸能人っぽくないので。 杉本 「一言で言うと嫌い(笑)。私には向いてないかなって、いまだに苦手意識は拭えません。
芸能界の価値観も好きになれないし。でも、今まではそんな感じで嫌な側面ばかりを見てきましたが、 今は芸能界にいるからこその良さや可能性も感じられるようになりました。 自分の目的を果たすためには必要な世界だと思いますし、違う側面からもこの世界を見られるようになり、ずいぶん前向きにはなりましたね。 芸能界は要領よく生きてなんぼというところがありますが、私は要領よく生きていくことが得意ではありませんから、そこでの評価には執着していません。 私が芸能界に身を置くのは、本当にやりたいことをやるための一つの手段に過ぎないんです」
―でも、合わないとおっしゃっていても、テレビでのお話は軽妙ですし、場面に応じて的確なことをおっしゃったりされているじゃないですか。 だから器用な方なんだな、と思ってしまいます。 杉本 「ある点では器用かもしれませんね。でもそれは一生懸命に自分の役割を模索し続けた結果であって、 最初から器用にこなしていたわけではないんですよ。 やはり総合的にいうと、すごく不器用です。要領よく生きられないから結果的に遠回りしていたと気付かされることも多いし。 自ら大変なイバラの道を選び、必要以上に自分に試練を与えるような生き方をしてきましたから、器用とは言えませんよね。 もちろん、今となっては、だからこそ経験できたこともあるし、いい結果が生まれているから悪いことではないんでしょうけども。 でも、もっとラクにいっていい部分もあったのかもしれないな、って思いますね」 ―要領よく、という方向に流れていこうとは考えませんでしたか? 杉本 「考えなかったですね。もしそうなら、選ぶ男性も違っていたでしょうし。 自分がガムシャラに頑張らなくても、やりたいことを全部お膳立てしてくれるような経済的な成功者を選んでいたでしょうし、 またそういう事務所に所属したままで独立の道は選びませんよね。そこに迷いはありませんでしたから。 何がなんでも自分でやりたいと思うタイプだし、人に頼ることが苦手なので、それは不器用な生き方だと思います。
人生の大先輩のセレブの方々に言われたことがあります。“あなたは本当に不器用ね。私があなたならとっくにアラブかどこかの大富豪を捕まえてるわ。 なぜ大変な生き方を選んでるのか理解できない”って。 でも、そんな生き方では満足できない私がいるし、何よりもそういう生き方に全く興味がないんですよね」
―そういった自分の不器用さについて悩んだりということはありましたか? 杉本 「私ってバカだな、要領悪いなって思いますけど。 でも要領のいい生き方をしたいとも思っていないんですよ、たぶん。 本当に自分が勝ちとったことに対して心から喜びを味わえる人生のほうがいいや、って思っているんですよね。 その価値観自体が不器用な人間の典型なんでしょうけど」 ―お話が変わりますが、杉本さんは芸能界の方ではない、普通のお友達とお酒を飲みに行った時はどんなお話をされますか? 杉本 「私はアルゼンチンタンゴを教えたりしているんですけど、その仲間とタンゴを通していかに日本人をラテン化していくか、という壮大な計画について話したり(笑)。あとは、オーナーをやっている友人が多いので、経営者の大変さとか人をつかむ難しさとか、仕事の話になることが多いかもしれません」 ―杉本さんの生き方って憧れる人が多い反面、実践するのは大変なエネルギーがいるわけで、かなり難しいのではないかと思うのですが… 杉本 「リスキーだと思いますよ。でも命がけでやってやるという勇気を持てばだれでもできます(笑)。 生死をかけても、って本当に思うくらいの覚悟があれば。 でもみんな痛い思いやつらい思い、貧乏はしたくないっていう思いはあるだろうし、 そういった守りの気持ちがあると、厳しいのではないかと思いますね」 ―本作を読んで勇気が湧いてくるという方は、女性を中心に多いかと思います。 最後に杉本さんのような生き方に憧れながら、実行に移す勇気が出ない、という女性の方々にメッセージをお願いできますか。 杉本 「人それぞれ、みんながみんな私のようにリスクを背負って人生に挑めっていうのも難しい話なんですけど、 やっぱり自分の価値観で自分の人生を選び取っていくということでしょうか。最低限、自分の人生に対する責任と覚悟だけは持つということが、 幸せへの道だと思うんですよね。それをだれかに委ねてしまっては、幸せにはなれない。 たとえどんなに影響力のある親だろうと、どんなに親しい友達だろうと、どんなに信頼し合っている恋人だろうと。

人生の局面で、複数の選択肢からどれかを選び取っていくのは自分しかいません。 そういった局面に立ったときは、自問自答をしながら自分の深い意識に降りていって、潜在意識とまで向き合うくらいの作業をしてみてほしいです。 そうすることで、本当に自分が求めていることを知ることができるし、それがわかれば、心を自由にすることもできるんだと思います」
(取材・記事/山田洋介)
リベラルライフ
書籍情報
  • リベラルライフ
  • 価格: ¥ 1,575
  • 出版社: 梧桐書院
  • ISBN-10: 4340100056
  • ISBN-13: 978-4340100057
  • 目次
  • 第一章 家族、抑圧と呪縛と
  • 第二章 男と女、自由に真摯に
  • 第三章 仕事、このかけがえのないもの
  • 第四章 女優、「体当たり」せずにはいられない
  • 第五章 四十歳、これから始まる人生
  • 第六章 孤独、だから私は強くなれた
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