BOOKREVIEW
書評

 今、会社から支払われている給料がある日突然なくなったら、という想像をしたことはないだろうか?

 転職や起業、あるいは勤めている会社の倒産など、今の生活の糧となっている収入が途切れるケースは珍しくない。まして、年金制度が心もとない今、定年まで勤め上げた後、年金受給までの期間に「無給期間」ができるという人も多いだろう。

 あなたの今の家計は、定期収入がない状態に何か月耐えられるだろうか?

■ 「節約」ではなく「利益を生み出す」

 会社からの収入がないとすぐに生活が立ち行かなくなるため、働かざるを得ない状況から抜け出すために、『今すぐ会社をやめても困らないお金の管理術』(集英社刊)の著者、井形慶子氏が提唱するのは「家計に会社の論理を導入すること」。

 これは「出費を節約してお金を残す」という従来の家計管理の考え方から「出費は経費と捉えて、利益を追求する」という会社的な考え方に発想を変えることを意味する。この発想の転換によって、お金を「守る」から「稼ぎにいく」という意識を持つことが大前提となる。

 もちろん、「会社」であるから「決算書」は必須。毎月の収支をまとめた「月次決算書」を作成しよう。この「月次決算書」、「単なる家計簿」にしてはもったいない。

 重要なのは次のようなポイントだ。

■ 「貯蓄」や「退職金の積立」も「必要経費」に計上する。

  家計簿的に考えると、貯蓄などは「家計の利益」と考えがちだが、ここでは「家賃」や「食費」などと同じく「必要経費」に計上する。これらを差し引いて残ったものが家計の「利益」。
 これをいかに増やしていくかを考えるのがキモだ。

■ ボーナスをあてにすると人生破滅が待っている!?

  年二回のボーナスをあてにして、たとえば「ボーナス月はローンを倍額返済する」というようなことをやっていると、いつまでも勤め先からの収入に依存した経済状況から抜け出すことはできず、ローン地獄に陥るリスクも高い。
 「賞与」などという、いつなくなったり、カットされたりするかわからない不確実なものは「月次決算書」からは外すべき。家計の「売上」は毎月の手取りをベースにしよう。

■ こまごました節約ではなく「固定費」を削る

  家計の利益をいかに出していくか、という点を考えると、やはり出費は少ないに越したことはないが、だからといって「食費」や「日用品」をこまごまと節約しても、その効果はごく小さい。
 それならば、固定費を減らしつつ、増収の道を探ったほうが効率がいい。
 前者は「金利の低い金融機関にローンを借り換える」といったことであり、後者は「夫婦の給与を見比べて、稼ぐ効率のいい方が長く働き、他方は家事を担当する」といった取り組みを重ねることで、家計の利益は増えてゆく。

 ここで取り上げた方法は、著者の井形氏が生活保護ぎりぎりのシングルマザーだった20代から、50歳でロンドンの超一等地に家を買うまでになった成功体験に基づいたもの。

 お金に縛られない生き方を手に入れたいのなら、そのための資金繰りについて、同氏のやり方から学ぶべきものは多い。まずは、「節約してお金を残す」から「経費を使って稼ぎに行く」へ、本書を参考に考え方を変えてみてはいかがだろうか?

(新刊JP編集部)

BOOK INFORMATION
書籍情報

目次

  1. 序章
    10年後、20年後を想像して「人生の設計図」を作る
  2. 第一章
    家庭は小さな会社、いかにお金を「儲ける」か
    ~経営感覚編~
  3. 第二章
    必要なお金は30か12で割って考えるとうまくいく
    ~入門編~
  4. 第三章
    会社の論理でお金を貯める、大切な5つのポイント
    ~実務編~
  5. 第四章
    会社をやめても不安なく生活するためすべきこと
    ~生活防衛編~
  6. 第五章
    親子間でお金の話はタブーどころか必須
    ~介護・相続編~
  7. 第六章
    「死ぬ時に一番お金を持っている」では意味がない
    ~運用編~

著者プロフィール

井形 慶子

いがた・けいこ
長崎県生まれ。28歳で出版社を立ち上げ、英国の生活をテーマにした月刊情報誌「ミスター・パートナー」を発刊。100回を超える渡英後、ロンドンにも住まいを持つ。

『古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家』『日本に住む英国人がイギリスに戻らない本当の理由』『イギリス流 輝く年の重ね方』『イギリス式 月収20万円で愉しく暮らす』など、著書多数。

社団法人日本外国特派員協会会員、ザ・ナショナル・トラストブランド顧問。

INTERVIEW
著者インタビュー

――『今すぐ会社をやめても困らないお金の管理術』についてお話をうかがえればと思います。この本で井形さんは「家庭を会社に見立ててお金を管理する」という方法を提案されています。つまり会社のように「月次決算」を作るということですが、この方法と通常の「家計簿」との違いはどんなところにありますか?

井形:家計簿は小遣い帳の延長で、なるべく無駄遣いを省こうとする節約目的。一方、企業の「月次決算」は、お金の流れを把握して、利益を出すにはどうすればいいか、儲かる仕組みを考えるもの。貯めるのでなく、稼ぐことが目的。家庭を会社(企業)に見立てれば、税金の還付や子どものアルバイト代まで全てが売り上げとなり、夫婦どちらが働けば儲かるかなど、よく稼げる仕組みが作れる。これが「月次決算」を利用したお金の管理です。

――また、通常の家計簿の弱点についてもお話をうかがえればと思います。

井形:家計簿だと、どうしても、決められた生活費の中での「やりくり」という考えになります。これだと食費、交際費、光熱費を削るなど身近なことにフォーカスされやすいのですが、生活費を削っても支出全体の一割にも満たず、効果は薄いんです。

―― タイトルにある「今すぐ会社をやめても困らない」状態とはどんな状態を指しますか?

井形:転職、リタイア、田舎暮らし、起業など、固定的賃金をもらわない状況への移行、お金がないことを言い訳にしなくても大丈夫な状態を指します。

――井形さんがこうしたお金の管理方法に行き着いたきっかけはどんなことだったのでしょうか。

井形:長年経営者として会社の財務を見てお金の「入り」と「出」を把握してきた経験が大きいですね。再婚して共稼ぎになった時、突然収入が2倍になり、頭数が増えれば稼ぎも増えると知りました。大きな経費から削減するなど、家庭も会社も本質が同じなら、会社の経理を取り入れた方がうまく行くと思いました。

――「お金を守る」ではなく「かかるお金は経費として考えて利益を取りにいく」という発想の転換は新鮮でした。これは「貯蓄だけで経済的な余裕を手にするのは難しい」ということを意味しているのでしょうか。

井形:与えられたものをやりくりするだけでは減収、病気、事故など、いざという時、生活がパニックになります。欧米人のように失くなれば取りに行く発想があれば、何があってもゆるがず、お金をコントロールできるはずです。

――やみくもに出費をケチるのではなく「大きな買い物をしたのだから頑張ってプラスにする」という視点が特徴的です。それがよく表れているのが「30年で割ってリスク回避」の箇所ですが、これは具体的にどんな買い物に当てはまりますか?

井形:会社はお金を動かす時、長期、短期で予算を組みます。家庭で長期計画に当たるのが住居費です。40代~50代で住宅購入──リフォームなどを考え、80代まで快適に暮らすための出費と考えればもとがとれる。大きな出費もまず30年で割って、1ヶ月あたりいくらかかるか、さらに12ヶ月で割ると現実的な数字が見えてきます。仮に1000万円のリフォーム代でも1ヶ月3万円。これで快適な暮らしが手に入るのです。肝心なことは使ったお金が人生に還元されるかどうかです。

――セミリタイア、起業などのポジティブな理由だけでなく、リストラや倒産などネガティブな理由で会社を辞める人もいます。最低限路頭に迷わないための備えとしてどのくらいのお金が必要だとお考えですか?

井形:人にもよると思いますが、私の基準は長年月収20万円でした。家賃(住宅ローン)+生活費で×12ヶ月(1年)で200~300万円あればつなぎになると思う。

――将来のお金のことについて、特に何も意識してこなかった人がこれから資産を作っていこうという時に、まずやるべきことはどんなことでしょうか。

井形:お金と人生は結びついています。本書を参考に自分の人生設計図を作成し、人生は有限だと考えて下さい。その上に何歳でお金がいくら必要なのか書いてみる。また、節約でなく、稼ぐために何をすべきか考えることも大事です。
イギリス人は自宅に空き部屋があれば、すぐに簡易民宿(B&B、ゲストハウス)を始め、現金を得ますし、アンティーク地図やコインを買い集め、何かあれば現金化してプラスを得ます。貯めるより、稼ぐをモットーにすれば人生はより面白くなります。

――最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

井形:お金がないという人の多くは、切り詰めることで縛られているように思います。実は年収300万円の人は1000万円の人よりお金が残る。シングルマザーの時代から貯めるより稼ぐ感覚を身につけて、ロンドンに家まで持ち、本当にしたいことを叶えてきた。正しいバランスがあればお金は必ず後からついてきます。
(新刊JP編集部)

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