だいぶ前のことだと思うが、とある出版社の編集の方とお話していたとき、自分の書棚を公開できるかという話になった。私も編集の方も、答えは一致した。
「出来ない」
その人の思想を形づくるもの、それが書棚である。逆に言えば、書棚を公開するということは、自分の手の内を全てさらけだす行為であり、自分自身を真っ裸にしてしまうということだ。
そもそも他人の書棚に興味がある人がいるのかどうかということは別にしても、それを公開してしまうことは、恥ずかしいことであると思う。
とは言っても、それは一般の人の話であって、様々な本を読み漁ってきた書評家たちにその論理は当てはまらないだろう。むしろどんな本が書棚にあるか、どんな本を書棚に置くか、それが1つの重要なステータスとなるのだから。
編集者で書評ブログ「千夜一夜」を執筆し続ける松岡正剛氏によってオープンされた「松丸本舗」は、丸善丸の内本店内に設置されたセレクトショップである。
まるで歴史家の書斎のごとく、書棚にはギッシリと、そして工夫されて本が並べられており、古い図書館に来たような感覚にとらわれてしまう。
『松岡正剛の書棚―松丸本舗の挑戦』はその「松丸本舗」の魅力を、写真を多用してあますことなく伝える1冊だが、それだけではない。松岡氏のお勧め書籍300冊、佐藤優氏、東浩紀氏との対談など、本好きが徹底的に引っかかるような仕掛けが満載なのだ。
書棚というのはその人間そのものを表すものと先に述べたが、この松岡氏の「書棚」からは、その思考の幅広さがうかがえる。もし、こんな幅広さが自分の手に入ったら何ができるだろう・・・。本書を読んで、そう思い、さらに本を読もうと思うのである。
(新刊JP編集部/金井元貴)
松岡 正剛(まつおか せいごう)