中谷:この本でまずおもしろいのは、「お金を使う技術」という言葉を使っているところですよね。「稼ぐ技術」とはよく言うけど「使う技術」とはあまり言わない。
お金を使うということはほとんどの人にとって「娯楽」であって、そこに技術という発想はない。そもそもお金について、多くの日本人は全般的に技術という発想が希薄だと思う。
大城:ありがとうございます。たしかに日本人はお金を扱うことを技術として捉えることは少ないですね。
中谷:お金を稼ぐということで言えば、稼げない人はよく「元手がない」ということを言い訳にします。「華僑=元々お金持ち」というイメージがあるわけだけど、実際はそんなことはなくて、元手がないところからスタートしてお金持ちになる人も多いです。
だから、元手がないからお金持ちになれないというのは間違いなんだけど、そういう言い訳を言う人の共通点として、不思議と「好きなこと」をやろうとするんです。
大城:「好きなことで生きていきたい」というのは、先生への相談や質問にも多いでしょうね。
中谷:この本にも書いてある「稼ぎ方はどうでもいい」ということですね。好きなことを仕事にしようと探している人というのは、稼ぎ方にまでこだわってしまっているわけだけど、そうなるとお金というのはなかなか稼げない。
僕の実家は僕が小さい頃から、それこそ「華僑の商法」や、「ユダヤの商法」といったことを叩き込むんです。世の中の体制がどう変わろうが、財産を没収されようが生き延びていけるように、ということで。それで最終的に行き着くのは「稼ぎ方にはこだわらない方がいい」ということです。
それと「お金の話」は「時間の話」でもあります。この対談を読んでいる人の中には、もしかしたらまだ残業して残業代が入ることでやっと生活ができているという人もいるかもしれない。でも、これに甘んじていると、いつまでも抜け出せなくなってしまう。
大城:残業している時間で未来のためにできることがある、ということですね。
中谷:そう。残業代は自分の未来のお金をもらっているだけで、その時間に勉強することもできるし、事業を興すことだってできるかもしれない。残業は未来の可能性をお金に変えているとも言えます。
残業は基本的に1時間いくらという風に計算するから「時給労働」なんです。だから仕事の密度を薄めれば薄めるほど稼げてしまうわけだけど、薄めるにも限度があるから、一定以上は稼げない。
笑ってしまうのは、「お金持ちになりたい」という人に「いくら稼ぎたいの?」と聞くと「やっぱ時給いくら以上ですかね」って答える人がいるんですよ。お金持ちになりたかったら早く時給労働を抜け出して、人がやらないこと、人ができないことをやってお金を稼いでいかないといけないのに。
会社ということでいうと、「中国では部下が上司におごる」というのはこの本で初めて知りました。日本で取り入れるとなると、メンツの問題が出てくる。これはどうしたらいいんだろう。
大城:そこはもう、「普段お世話になっているお返しで、ごちそうさせてください」ですよね。上司のメンツは守らないといけません。
中谷:いかにスマートにおごれるか、というのも一つの力量ですね。単にお金を出せばいいわけではなくて、目上の人に対してメンツを潰すことなく、感じ悪くならないようにしないといけないわけだから。
それと、上司に限らず、自分よりお金を持っている人の行きつけの店を知るっていうのも大切なこと。それも、一度行ってみるだけじゃなくて、その場に馴染むようになるまで通ってみるというのは大事な先行投資です。
「ちょっといい店で食事をする」というだけだと時間とお金の無駄だけど、それをワンランク上の人と知り合うための費用だとか、勉強代にする意識は持っておくべきです。
大城:「お金に対する意識」ということですと、日本人の中にも意識の差はあるのかもしれません。たとえば、関西と関東でも違っていて、関西では買い物をする時に値切るのが一つのコミュニケーションのようになっているのですが、東京の人はあまり値切らないですよね。
中谷:関西はその意味では海外に感覚が近い。会社員時代、ロケでニューヨークに行ったことがあって、その時に先輩が、日本より安いからということで一眼レフのカメラを買おうとしたんです。で、僕に値切り交渉をやってくれないかと頼まれました。
ニューヨークの店で、大体日本円で6万円くらいだったんだけど、先輩にいくらくらいで手を打ちますか、と聞いたら「2万円」と。
「さすがに2万はきついだろう」と思いつつ交渉に行って、店員が「ディスカウントするよ、いくらなら買う?」と言うものだから「2万円」といったら「冗談じゃない、帰れ」と。それはそうだよね。6万円のものを2万円で売れと言っているんだから。
でもね、こちらが帰ろうとすると今度は引き留めて「5万5000円でどうだ」と言ってくる。で、こっちは変わらずに「2万」と言うと、また「帰れ」とくるわけです。また帰ろうとすると引き留められる。
こっちも楽しくなってきちゃって、交渉を続けたら2万近くまで値切れたの。で、ついに2万でどうかとなった時に、店員が上司に相談しに行ったんだけど、上司がその店員のことをすごく怒るわけですよ。「そんな値段で売るんじゃない」と。で、戻ってきて「上司がダメだと言った」と言ってくる。結局、最初から最後まで、上司が叱るのも含めて全部芝居なんだよね。
ここまでくると「値切り交渉」も一種のエンターテインメントです。だから、値切ることに抵抗を持つべきじゃないし、値切られることに抵抗を持っちゃいけない。そうやってお金の感覚は磨かれていくわけだから。
大城:確かにそうかもしれません。しかし、先生はそうやって先輩に仕事以外のところで何か頼まれることに抵抗はなかったですか。今だったらほとんどの人が理不尽だと感じて断りそうな頼まれごとでしたが。
中谷:理不尽とは思っていなかったですね。そういう無理なお願いをこなすことで絆ができたし、工夫して解決する力をつけさせてもらえたんじゃないかな。
大城:今の時代は先輩が後輩にそういう頼みごとをしにくくなっていますよね。部下からすると「自分は会社から給料をもらっているのであって、先輩や上司からではない」ということなんでしょうけど。
中谷:僕は32歳で会社を辞めたんですけど、それまで毎年会社の忘年会の幹事をやっていた。自分なりに楽しんでやっていましたね。もちろん無償労働だけど、それが良かった。「タダ働きの楽しみ」って僕はあると思う。
忘年会は会社から予算が出るわけだけど、幹事やらスタッフは事前準備が大変だから、忘年会が終わったらスタッフだけで打ち上げをやりたい。でも、さすがにその予算は会社からは出ないから、「じゃあ忘年会で売上を出そう」となるわけ。
その場が盛り上がってなおかつ売上を作るとなると、「これはもうオークションしかない」と。ならば、みんなが盛り上がるような目玉商品がないといけない、ということでダッチワイフを買ってきて、職場のマドンナ的な女性社員から借りてきたブラウスとスカートを着せて出品したら、盛り上がった。
こういうことは、まったくのタダ働きなんだけど、こういう「仕事じゃない仕事」があるっていうのは、会社員の楽しみでもあるんじゃないかな。
大城:「先輩との絆」のお話がありましたが、やはり人間関係や人脈は「お金」という視点で見ても大切です。先生は今まで誰かに騙されたりしたことはありますか?
中谷:もちろんあります。でもね、騙される人というのは、人間関係のベースを「信頼」においているんです。こういう人は9敗しても後で大きな1勝がある。
ある老舗ホテルの話でね、お客の中には豪遊するだけして料金を払わずに帰ってしまう「スキッパー」もいると。彼らは一見してそういうことをする人間には見えないから、ベテランのフロントマンでも騙されてしまう。優秀なフロントマンほど騙される。面白いのは、そんなに優秀じゃないフロントマンはあまり騙されないんです。なぜかというと、常に「あの人怪しいんじゃないかな」と疑ってかかるから。
もちろん、あからさまに胡散臭い人に騙されるフロントマンはいないわけだけど、一見きちんとしている人に対して、信頼をベースにするという基本姿勢はフロントマンとして必要なことだから、それで騙されても総支配人は咎めない。
大城さんは経営者だけども、経営者というのは誰しも一度は騙されますよ。そこでくじけてしまう人は経営者に向いてない。
大城:なるほど。最後に「お金を増やすために必要な考え方」についてお話したいです。不景気な時ほど貯金に走る人が増えるといいますが、華僑には「お金は生きている間に使うもの」という意識があります。
中谷:お金が増えない人というのは、自分のところに来たボールを逃がすまいと抱きかかえてしまう。つまりお金が目的になってしまっている。
でも、お金というのはサッカーボールと同じで、ゴールを狙うための道具なんです。だから使って回していかないといけないんだけど、そのことを感覚的にわかっている人は少ない。だから、僕は「マイナス金利」というのはすばらしいと思いますよ。これからは、口座にお金を預けておくと毎月手数料を取られるようになるかもしれない。「お金は目的でなく道具」という観点からはこれが当たり前なんです。