面倒なことをやっているとき、「なかなか時間が進まない…」と感じる理由
仕事やプライベートで「○○をやらなきゃ」と思っているのに、なかなか実行に移せない。結果、「やらなければいけないこと」が山積みになっていく。
そうした状況を前にストレスを感じ、ますますフットワークが重くなる。
このような悪循環を抜け出すためのヒントをつかむべく、『やるべきことがみるみる片づく東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』(森田 敏宏/著、クロスメディア・パブリッシング/刊)の著者、森田敏宏さんに「脳をやる気にさせるためのヒント」を聞いた。
――まずは本書の執筆経緯から教えていただけますか。
森田:この本は、6年前に出版した「東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方」の大幅改訂版になります。
元々、私は集中力には自信があって、勉強も短時間で集中してこなすタイプでした。
また、医者になってからは、長時間集中力を要する手術に関わっていたので、どうしたら集中力を維持できるかのかを研究していたのです。
そして、出版社から「ビジネスマンが、やる気と集中力を高めることができ、なおかつ、やればやるほど元気になるような方法はありますか?それを本にすることはできますか?」という無茶振り(笑)を受けたのが執筆のきっかけです。
それまでに私が編み出した集中法に、ステップ集中という新しい方法を加えて、現在の集中法の原型を完成させました。
――本書では脳の断捨離をする「セレクト集中」、重要なものを見極める「エッセンシャル集中」、やるべきことがみるみる片づく「ステップ集中」、集中状態を長時間つづける「スタミナ集中」と、4つの集中法が紹介されていますが、まずはどれから始めるのが良いですか。
森田:まずは、頭の中を整理するのが一番ですので、脳の中を断捨離できる「セレクト集中」から始めてください。
――その「セレクト集中」についてのくだりを読みながら、私自身の素朴な実感として、部屋の掃除をしている中で不思議と頭の中がすっきりする感覚をおぼえることがあるというのを思い出しました。その意味で、部屋を片付けることが脳にどのような影響を与えるのかというお話をしていただけますと幸いです。
森田:これは本書で紹介しているワーキングメモリーの問題に関係します。
ワーキングメモリーとは「作業記憶」のことを意味し、ある作業をしようとするときに、段取りを考え、記憶し、実行する力を指します。パソコンで同時に複数のソフトを立ち上げたまま作業していると、メモリーをどんどん消費し、動きが遅くなってしまったり、画面がフリーズしてしまうことがありますよね。
部屋がちらかっている状態だと、これと同じことが起こります。無意識のうちに部屋の片付けを避けてしまう。すると、脳の中でも、これまた無意識に、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と考えてしまい、脳に負荷がかかってしまうからです。
――セレクト集中について、もう一つ質問させてください。本書では、セレクト集中をするにあたって、「やらないといけないと思っていること」を「自分が本当にやらなければいけないこと」と「自分でなくてもできること」に分けるべきだと書かれています。
しかし、この分類作業をどこまでやれば充分なのか、自分で判断することは結構難しいのではないかと感じました。そこで、この作業に関して「何をもって完了とするのか」の基準のようなものがあれば教えてください。
森田:全て完璧にこなそうとすると、脳にも負担がかかりますし、時間もかかってしまいます。たとえば、原稿などを書く時もそうですが、最初から100%を目指さず、8割でOKぐらいの気持ちで取り組んだ方が、集中力も高まります。
――ここで、「やるべきことがみるみる片づく」ステップ集中についても質問させてください。本書によれば、「自分が心の中で見積もっている時間」である心理的時間と、「実際に時計で測った時間」である物理的時間とにギャップがあると、脳が「面倒くさい」と感じるとのことですが、この点について詳しく教えていただけますか。
森田:これは、順番が逆です。「面倒くさい」と感じるから、心理的時間が長くなってしまうのです。
つまり、「面倒くさい」ことと言うのは、実際の時間よりも長く作業がかかると思い込んでいるのです。そして、やる気が出ないでダラダラやるから余計に時間がかかって悪循環になってしまいます。
ジョギングで脳トレ? 走ることが頭脳に与える好影響
ある調査によれば、日本のランニング人口は約1000万人といわれている(※)。健康維持やストレス解消など、「なぜ走るか」の理由は人それぞれだろう。
そして、『やるべきことがみるみる片づく東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』(森田 敏宏/著、クロスメディア・パブリッシング/刊)を読むと、走ることの効果は、健康維持などにとどまらず「脳」にも好影響を与えることが分かる。
そのメカニズムを中心に、本書の著者、森田敏宏さんに話を聞いた。
――本書で、脳に「ご褒美」をあげるとドーパミンが分泌されるという話を読み、Googleの「20%ルール」を思い出しました。「やってみたいこと」に取り組むことで、高いパフォーマンスを引き出すという意味では、本書の主張と重なるところが大きいのではと感じたのですが、森田先生はこの制度についてどのような感想をお持ちですか。
森田:Googleの20%ルールをご存じない方のために簡単に説明すると、これは、仕事の時間の20%を自分の好きなことに使ってよいというものです。この20%の中から、Gmailを始め、新しいアイディアが次々に生まれています。
確かに、自分がやりたいこと、楽しいことに取り組む時は、ドーパミンの分泌が増えるので、共通する点はあります。残りの80%の仕事にも良い影響を与えているはずです。
――今のお話にも関連しますが、森田さんは本書の中で、「ステップ集中を実践する上では、時間を意識することが重要」と書かれており、「時間密度」がキーワードだと主張されています。そこで、「時間密度」とはどのようなものなのか、また「自分の時間密度は高いかどうか」をチェックするための目安はあるのかについて教えていただけますか。
森田:そうですね。まず時間密度についてですが、たとえば試験勉強をするときに、1時間で問題集を10ページこなすのと、20ページこなすのとでは、密度の濃さがぜんぜん違います。
多くの問題をこなした分だけ学ぶことが多いのはもちろん、問題を解くスピードが鍛えられ、実際の試験でも有利になります。
また、自分の時間密度の高さをチェックするための目安については、周りにいる、すごく仕事が速い人をよく観察してみるのが良いでしょう。
例えば、メールの返信がすごく速いとか。そういう人と自分の何が違うか、そこがわかると時間密度の高め方が見えてきます。
――本書を拝読して、「脳→身体」という関係性だけでなく、「身体→脳」という関係性からも言及されている点が興味深いと感じました。森田先生が脳と身体の双方向的な関係性に着目したことは「加圧トレーニング」に着目したことと関係していますか。
森田:実は、私自身、子どもの頃から運動や遊びばかりしており、小学校時代は水泳、陸上、バスケットの選手でした。大人になってからも、筋トレをするとなんとなく体調が良いということを実感していたのです。
しかし、通常の筋トレは強い負荷をかける必要があるため、設備の整っているジムに通う必要があります。忙しいと通えませんし、関節などを傷めると十分なトレーニングができません。
そのような問題に悩んでいる時に見つけたのが加圧トレーニングです。加圧を始めると、体調も良くなり、記憶力も改善したのを実感しました。ご指摘のように、脳と体は密接に関係しています。
――「ジョギングは脳を鍛えることにもつながる」と書かれていたのも驚きでした。この点について詳しくお聞きしたいのですが、「走っている間だけ前頭前野が活発に働く」ということなのか、「走り終えた後も持続的に前頭前野が活発に働き続ける」ということなのか、どちらなのでしょうか。もしくはそのどちらでもないのでしょうか。
森田:実は、走っている時というのは、脳が活発に働いています。試しに、目をつぶって走ってみてください。簡単につまずいてしまいますね。
なぜ、私たちがつまずかずに走れるかというと、脳が瞬時に路面の状況を判断しているからなのです。これは視覚情報だけでなく、路面から伝わる情報など様々なものが含まれています。
一般的に、運動をしたあとに、認知機能といって脳の働きを調べるテストをすると、成績がアップします。つまり、運動後も脳の活性化はしばらく続くということです。
――最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
森田:本書に書いたメソッドをぜひ実践してください。そうすれば、皆さんの人生は確実に豊かなものになります。最低でも2倍以上です。人生を2倍以上エンジョイできたら素晴らしいと思いませんか?
※…年に1回以上ジョギンやランニングを実施している人が2012年で1,009万人。1998年の調査開始から過去最高を記録したが、2014年の統計では986万人となっている。