BOOKREVIEW この本の書評

仕事で「ここ一番」という場面なのに実力が出ない。なぜかミスをしてしまう。集中力が足りないのか、やる気の問題なのか…。その一方で、デキるビジネスパーソンは「ここ一番」というときにしっかりと結果を出している。彼ら、彼女はいったいどのようにメンタルを保っているのだろうか。

パフォーマンスを上げたいなら「脳と身体の関係」に注目せよ

東京大学医学部出身で心臓病の専門医として東大附属病院に勤務した後、現在は医師のほかに経営再建、人材育成などの分野でも活躍している森田敏宏さんは『やるべきことがみるみる片づく東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』(森田 敏宏/著、クロスメディア・パブリッシング/刊)で、「やる気」や「集中力」を高め、パフォーマンスを安定させたいなら、「脳と身体の関係」に目を向けるべきだと言う。

これは一体どういうことなのか?

私たちは時に、集中力を長く保たなくてはいけない場面がある。集中をすればするほど、仕事は早く片付く。でも、その集中力が続かないからダラダラと仕事をしてしまうのだ。

そこで森田さんは本書の中で「運動」「食事」「休み」という3つのポイントをあげる。この3つを意識することが、長時間の集中につながるわけだ。

筋肉を鍛えるほど脳は活性化する

森田さんは筋肉を鍛えれば鍛えるほど、BDNF(脳神経由来栄養因子)という、脳神経細胞の成長を促すホルモンが分泌されるという。つまり運動は脳の活性化につながるということだ。

森田さんと同じ東京大学出身であり、現在IT企業の中枢を担うポジションで辣腕をふるいつつも、サブスリーランナーとしてマラソン大会にも出場するYさんは、「走り始めてから、感情に惑わされなくなりました。冷静になったというか、走っていると頭が整理される感じです。走っていない時でも集中力が高まりました」と証言する。

本書には、ジョギング(時速9キロ)をしていると、脳もフル回転しているという調査結果が明らかにされている。運動が脳にも良い影響を与えているのだ。

「小腹が空いたらすぐにチョコレート」は逆効果?

続いては食事だ。森田さんが集中力を保つためのポイントとしてあげているのが「血糖値」である。私たちの思考、すなわち脳の運動のエネルギー源はブドウ糖だ。糖分が不足すれば十分に集中力を発揮することはできなくなる。

しかし、頭を働かせるためにどんどん糖質を摂ればいいというわけではない。血糖値が乱高下してしまうと、脳に安定してエネルギーを供給できなくなり、パフォーマンスは著しく低下してしまう。そのため、血糖値が上がりにくいGI値の低い食品(肉類や卵、乳製品、野菜類)を食べてから糖分を摂取すると、血糖値の乱高下を抑えることができる。

集中力を持続させるには「20分の仮眠」が有効

3つ目は「休み」だ。森田さんは特に「仮眠をとること」の重要性について書いている。作業してどうしても眠くなったときは、思いきって仮眠を取る。そちらのほうが結果的に集中力は持続するという。また、その時間は20分以内が良いとのこと。それ以上になると眠りが深くなってしまうため、目覚めたあと集中力を回復させるのに時間がかかってしまうのだ。

前述のYさんは「『自分なりにキレッキレの状態』を1日4、5回作り出すことを念頭に、仕事の合間で昼寝をするようにしています」と語る。あなたの周囲のデキるビジネスパーソンを見てみてほしい。実は仮眠をしているかもしれない。

いかがだろうか。本書では他にも、「脳がストレスを感じる状況はどのようなものなのか」、「脳が『面倒くさい』と思うのは、どのようなときか」など、やる気や集中力を減退させるさまざまな根本原因が紹介されるとともに、その解決法も示されている。

最近、「やる気」や「集中力」をうまくコントロールできていないと感じているなら、手にとってみる価値はある一冊だ。

(新刊JP編集部)

BOOKINFO この本の情報

書籍情報

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やるべきことがみるみる片づく東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術

定価 :
1,300円+税
著者 :
森田 敏宏
出版社:
クロスメディア・パブリッシング
ISBN :
4844374672
ISBN :
978-4844374671

著者プロフィール

森田 敏宏

Morita Toshihiro
独自に開発した集中力で、地方の新設校から最難関の東大理Ⅲに合格。
医学部卒業後は循環器医師として活躍。得意の集中力を活かし、東大病院の心臓カテーテル手術の件数を50例から600例まで10倍以上に増やし、売上アップにも大きく貢献。
並行して、当時まだ有名でなかった加圧トレーニングに着目し、東大病院に導入、加圧ブームの火付け役となる。
2007年初頭、会社経営者だった父親が、多額の借金を残して急逝したのを契機に、企業経営や人材育成に本格的に取り組む。
集中力を活かした独自のメソッドで、経営再建、人材育成、ダイエットなど多くの分野で成果を上げる。
現在は医師としての活動の他に、会社経営、企業コンサルタント、ビジネスパーソンの行動改善、集中力アップ、ダイエットなどの指導も行っている。
十数社の企業および医療法人の経営に携わっており、経営改善・収益向上・人材育成などに貢献している。
ベストセラー「東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方」をはじめ、著書多数。

INTERVIEW 著者インタビュー

面倒なことをやっているとき、「なかなか時間が進まない…」と感じる理由

仕事やプライベートで「○○をやらなきゃ」と思っているのに、なかなか実行に移せない。結果、「やらなければいけないこと」が山積みになっていく。
そうした状況を前にストレスを感じ、ますますフットワークが重くなる。

このような悪循環を抜け出すためのヒントをつかむべく、『やるべきことがみるみる片づく東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』(森田 敏宏/著、クロスメディア・パブリッシング/刊)の著者、森田敏宏さんに「脳をやる気にさせるためのヒント」を聞いた。

――まずは本書の執筆経緯から教えていただけますか。

森田:この本は、6年前に出版した「東大ドクターが教える、やる気と集中力の高め方」の大幅改訂版になります。

元々、私は集中力には自信があって、勉強も短時間で集中してこなすタイプでした。
また、医者になってからは、長時間集中力を要する手術に関わっていたので、どうしたら集中力を維持できるかのかを研究していたのです。

そして、出版社から「ビジネスマンが、やる気と集中力を高めることができ、なおかつ、やればやるほど元気になるような方法はありますか?それを本にすることはできますか?」という無茶振り(笑)を受けたのが執筆のきっかけです。

それまでに私が編み出した集中法に、ステップ集中という新しい方法を加えて、現在の集中法の原型を完成させました。

――本書では脳の断捨離をする「セレクト集中」、重要なものを見極める「エッセンシャル集中」、やるべきことがみるみる片づく「ステップ集中」、集中状態を長時間つづける「スタミナ集中」と、4つの集中法が紹介されていますが、まずはどれから始めるのが良いですか。

森田:まずは、頭の中を整理するのが一番ですので、脳の中を断捨離できる「セレクト集中」から始めてください。

――その「セレクト集中」についてのくだりを読みながら、私自身の素朴な実感として、部屋の掃除をしている中で不思議と頭の中がすっきりする感覚をおぼえることがあるというのを思い出しました。その意味で、部屋を片付けることが脳にどのような影響を与えるのかというお話をしていただけますと幸いです。

森田:これは本書で紹介しているワーキングメモリーの問題に関係します。

ワーキングメモリーとは「作業記憶」のことを意味し、ある作業をしようとするときに、段取りを考え、記憶し、実行する力を指します。パソコンで同時に複数のソフトを立ち上げたまま作業していると、メモリーをどんどん消費し、動きが遅くなってしまったり、画面がフリーズしてしまうことがありますよね。

部屋がちらかっている状態だと、これと同じことが起こります。無意識のうちに部屋の片付けを避けてしまう。すると、脳の中でも、これまた無意識に、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と考えてしまい、脳に負荷がかかってしまうからです。

――セレクト集中について、もう一つ質問させてください。本書では、セレクト集中をするにあたって、「やらないといけないと思っていること」を「自分が本当にやらなければいけないこと」と「自分でなくてもできること」に分けるべきだと書かれています。
しかし、この分類作業をどこまでやれば充分なのか、自分で判断することは結構難しいのではないかと感じました。そこで、この作業に関して「何をもって完了とするのか」の基準のようなものがあれば教えてください。

森田:全て完璧にこなそうとすると、脳にも負担がかかりますし、時間もかかってしまいます。たとえば、原稿などを書く時もそうですが、最初から100%を目指さず、8割でOKぐらいの気持ちで取り組んだ方が、集中力も高まります。

――ここで、「やるべきことがみるみる片づく」ステップ集中についても質問させてください。本書によれば、「自分が心の中で見積もっている時間」である心理的時間と、「実際に時計で測った時間」である物理的時間とにギャップがあると、脳が「面倒くさい」と感じるとのことですが、この点について詳しく教えていただけますか。

森田:これは、順番が逆です。「面倒くさい」と感じるから、心理的時間が長くなってしまうのです。

つまり、「面倒くさい」ことと言うのは、実際の時間よりも長く作業がかかると思い込んでいるのです。そして、やる気が出ないでダラダラやるから余計に時間がかかって悪循環になってしまいます。

ジョギングで脳トレ? 走ることが頭脳に与える好影響

ある調査によれば、日本のランニング人口は約1000万人といわれている(※)。健康維持やストレス解消など、「なぜ走るか」の理由は人それぞれだろう。

そして、『やるべきことがみるみる片づく東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』(森田 敏宏/著、クロスメディア・パブリッシング/刊)を読むと、走ることの効果は、健康維持などにとどまらず「脳」にも好影響を与えることが分かる。

そのメカニズムを中心に、本書の著者、森田敏宏さんに話を聞いた。

――本書で、脳に「ご褒美」をあげるとドーパミンが分泌されるという話を読み、Googleの「20%ルール」を思い出しました。「やってみたいこと」に取り組むことで、高いパフォーマンスを引き出すという意味では、本書の主張と重なるところが大きいのではと感じたのですが、森田先生はこの制度についてどのような感想をお持ちですか。

森田:Googleの20%ルールをご存じない方のために簡単に説明すると、これは、仕事の時間の20%を自分の好きなことに使ってよいというものです。この20%の中から、Gmailを始め、新しいアイディアが次々に生まれています。

確かに、自分がやりたいこと、楽しいことに取り組む時は、ドーパミンの分泌が増えるので、共通する点はあります。残りの80%の仕事にも良い影響を与えているはずです。

――今のお話にも関連しますが、森田さんは本書の中で、「ステップ集中を実践する上では、時間を意識することが重要」と書かれており、「時間密度」がキーワードだと主張されています。そこで、「時間密度」とはどのようなものなのか、また「自分の時間密度は高いかどうか」をチェックするための目安はあるのかについて教えていただけますか。

森田:そうですね。まず時間密度についてですが、たとえば試験勉強をするときに、1時間で問題集を10ページこなすのと、20ページこなすのとでは、密度の濃さがぜんぜん違います。

多くの問題をこなした分だけ学ぶことが多いのはもちろん、問題を解くスピードが鍛えられ、実際の試験でも有利になります。

また、自分の時間密度の高さをチェックするための目安については、周りにいる、すごく仕事が速い人をよく観察してみるのが良いでしょう。 例えば、メールの返信がすごく速いとか。そういう人と自分の何が違うか、そこがわかると時間密度の高め方が見えてきます。

――本書を拝読して、「脳→身体」という関係性だけでなく、「身体→脳」という関係性からも言及されている点が興味深いと感じました。森田先生が脳と身体の双方向的な関係性に着目したことは「加圧トレーニング」に着目したことと関係していますか。

森田:実は、私自身、子どもの頃から運動や遊びばかりしており、小学校時代は水泳、陸上、バスケットの選手でした。大人になってからも、筋トレをするとなんとなく体調が良いということを実感していたのです。

しかし、通常の筋トレは強い負荷をかける必要があるため、設備の整っているジムに通う必要があります。忙しいと通えませんし、関節などを傷めると十分なトレーニングができません。

そのような問題に悩んでいる時に見つけたのが加圧トレーニングです。加圧を始めると、体調も良くなり、記憶力も改善したのを実感しました。ご指摘のように、脳と体は密接に関係しています。

――「ジョギングは脳を鍛えることにもつながる」と書かれていたのも驚きでした。この点について詳しくお聞きしたいのですが、「走っている間だけ前頭前野が活発に働く」ということなのか、「走り終えた後も持続的に前頭前野が活発に働き続ける」ということなのか、どちらなのでしょうか。もしくはそのどちらでもないのでしょうか。

森田:実は、走っている時というのは、脳が活発に働いています。試しに、目をつぶって走ってみてください。簡単につまずいてしまいますね。

なぜ、私たちがつまずかずに走れるかというと、脳が瞬時に路面の状況を判断しているからなのです。これは視覚情報だけでなく、路面から伝わる情報など様々なものが含まれています。

一般的に、運動をしたあとに、認知機能といって脳の働きを調べるテストをすると、成績がアップします。つまり、運動後も脳の活性化はしばらく続くということです。

――最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。

森田:本書に書いたメソッドをぜひ実践してください。そうすれば、皆さんの人生は確実に豊かなものになります。最低でも2倍以上です。人生を2倍以上エンジョイできたら素晴らしいと思いませんか?

※…年に1回以上ジョギンやランニングを実施している人が2012年で1,009万人。1998年の調査開始から過去最高を記録したが、2014年の統計では986万人となっている。

(新刊JP編集部)

CONTENTS この本の目次

  1. CHAPTER1 脳の混乱が「やる気」と「集中力」を妨げている
    1. 01 便利すぎる世の中があなたの脳を混乱させている
    2. 02 ワーキングメモリーの限界を知ろう
    3. 03 忙しいのに仕事が進まない理由
    4. 04 現代人に必要なのは脳の断捨離
  2. CHAPTER2 脳を断捨離するセレクト集中
    1. 01 「やることが多すぎる」という思い込み
    2. 02 脳の断捨離のカギは脳内の「見える化」
    3. 03 ついつい自分の力だけで解決しようとするのは悪い癖
    4. 04 プロジェクトをタスクに分解するとまだまだ捨てられる
  3. CHAPTER3 重要なものを見極めるエッセンシャル集中
    1. 01 「やりたくない」には2種類ある
    2. 02 重要なものを見極めるマヨネーズの瓶と2杯のコーヒー
    3. 03 仕事と向き合う3つの視点
    4. 04 目標シートで目標を設定しよう
    5. 05 目標が見つからないときの「目的の手段化」
    6. 06 目標をプロジェクト化しよう
    7. 07 毎朝の一人戦略会議ですべてがうまく回りはじめる
    8. 08 もっとも重要かつ大変なことほど先にこなす
    9. 09 結果を出す人の歩き方
  4. CHAPTER4 やるべきことがみるみる片づくステップ集中
    1. 01 脳が「面倒くさい」」と感じてしまう2つの要因
    2. 02 工程が多いと、脳は「難しい」と勘違いしてしまう
    3. 03 ご褒美とモチベーションの密接な関係
    4. 04 やる気と集中力を引き出すカギは「時間計測」
    5. 05 パブロフの犬になれ!
    6. 06 心理的時間と物理的時間を統一する
    7. 07 なぜ予定通りにいかないのか?
    8. 08 従来の時間管理に欠けていたのは「時間密度」
    9. 09 「面倒くさい」を時間にするとストレスがなくなる
    10. 10 目の前の一歩に集中する
  5. CHAPTER5 集中状態を長時間つづけるスタミナ集中
    1. 01 集中力を高める食事のポイントは血糖値の安定
    2. 02 間違った食事がパフォーマンスを下げる03
    3. 03 集中力を持続しやすい食べ物
    4. 04 1日2色でも十分!?
    5. 05 現代人は乾いている
    6. 06 最適な食事を見極める技術
    7. 07 休むことでやる気と集中力が高まる
    8. 08 疲れをためないぐっすり眠りすっきり起きる方法
    9. 09 目覚まし時計に頼らず起きる「自己覚醒」を身につけよう
    10. 10 筋肉が脳を活性化する
    11. 11 加圧トレーニングで時間を買う
    12. 12 トレーニングの前後にはタンパク質が効果的
    13. 13 ジョギングでワーキングメモリーが増える!?
    14. 14 無理なく走れるチーランニング
    15. 15 走らなくても持久力が上がる加圧ステップ
    16. 16 ウォーキングは前傾・つま先着地で
  6. CHAPTER6 究極の集中を獲得する天才脳の秘密
    1. 01 天才とは何か?
    2. 02 天才をつくるカギは脳内回路にあった!
    3. 03 究極の集中が天才を生む
    4. 04 天才になるために必要不可欠なものとは?
  7. おわりに
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やるべきことがみるみる片づく東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術

定価 :
1,300円+税
著者 :
森田 敏宏
出版社:
クロスメディア・パブリッシング
ISBN :
4844374672
ISBN :
978-4844374671

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