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ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール 善人過ぎず、したたかに、そして誠実に

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解説

海外赴任経験のある20~30代ビジネスパーソン100人に「海外での生活と日本での生活、どちらが良いか?」と尋ねたところ、約6割の人が「日本のほうが良い」と答えたという調査報告がある (※)。
その理由については定かでないが、言葉も食事も生活習慣も異なる人を相手に仕事をすることがいかに難しいかは容易に想像がつく。

ミャンマー人がドタキャンを連発する理由

ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール: 善人過ぎず、したたかに、そして誠実に』(合同フォレスト刊)の著者である深山沙衣子さんも、外国人を相手に仕事をすることの難しさを体験した一人だ。

深山さんのビジネス相手はミャンマー人。同じアジア人とはいえ、彼らの気質や性格は日本人とはかなり異なっているようだ。

その一例として挙げているのが、ミャンマーから日本にやってくる旅行者。
日本の観光会社があらかじめ旅行プランを立てておいても、来日してから「明日は東京観光の予定だけど、じつは箱根に行きたかった」「旅程に入っていないけど、今から辛い料理を食べに行きたいからレストランを探してほしい」などと、直前になって立て続けにスケジュール変更を依頼することが珍しくない。

日本人の感覚からすれば、当日キャンセルを連発するなど考えられないことだが、彼らには「迷惑をかけている」という意識はあまりないし、キャンセル料が発生するという考えも浮かばない。そして、もちろん悪気があるわけでもない。「計画的に行動する」という習慣がないだけなのだ。

ミャンマーでは政治体制やビジネス環境が「一日にして」急変することがしばしばあり、その場その場の対応を重視したほうがうまくいく場面が多い。自然と、計画を立てて、その通りに行動するという考え方からは遠ざかっていくようだ。

「人前で叱られた」ミャンマー人の部下が翌日から職場に来なくなった理由

深山さん本人も、彼らとのビジネスを始めた当初は、カルチャーショックを受けることが多かったようだ。その一つが「職場での叱り方」だ。

ある日、ミャンマー人の男性社員が遅刻をしたため、深山さんは彼を皆の前で軽く注意した。すると彼は翌日から音信普通になり、無断欠勤を続けるようになってしまった。
しばらくしてようやく連絡がつくと、彼は「家庭の事情で地方都市に行きます」とだけ言い残し、数ヶ月後にとある外資系企業で以前と同じような業務に就いていることが判明したという。

結論をいうと、彼は「皆の前で注意を受けた」という理由だけで転職したのだ。

日本でも「上司の作法」として、「部下を褒めるときは人前で。叱るときは誰もいないところで」ということはよく言われる。しかし、人前で叱ったことが、これほどまで大事になることは少ない。

しかし、両親、教師、僧侶以外の人間が人前で叱るという習慣がないミャンマーで育った人にとって、職場の上司に人前で叱られたことはショックが大きかったのだろう。
「叱る」という行為一つとっても、日本とミャンマーとでは、これだけの違いがあるのだ。

本書の終盤では、ミャンマーという国の歴史についても紹介されているが、個別の習慣の違い以上に、その背景にどのような思想や歴史があるのかを知ることが重要なのだとつくづく実感する。
海外赴任になる可能性はなくとも、今や国内で外国人相手に仕事をすることは珍しくない。いざそうした状況に置かれた時に無用なトラブルを抱えないためにも、本書を通して異文化理解のノウハウを学んでみてはどうだろうか。

※…アイ・リサーチが2015年に実施。

(新刊JP編集部)

インタビュー

ミャンマー人とのビジネス 「後払い制」が高リスクな理由

深山沙衣子さん写真

今、ミャンマー経済が急成長しているのをご存じだろうか。

2011年の民政移管以降、輸出入規制の緩和を始めとして経済自由化を急速に推進してきた結果、2015年の実質経済成長率は8.5%と、ASEAN先進5ヶ国(タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン)全体の平均成長率を凌ぐまでに伸びている。

そうした状況を受けて、今後ミャンマーへ進出する日本企業が増加するだろうと予測する向きがある。

そこで今回登場してもらうのは、2012年より現地で日本企業へのサポートをおこなっている深山沙衣子さん。

深山さんの著作『ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール: 善人過ぎず、したたかに、そして誠実に』(合同フォレスト刊) の内容にも触れつつ、ミャンマーに進出した日本企業の多くが直面する困難とはどのようなものなのかを聞いた。

―― まずは深山さんの生活スタイルについて教えていただけますか。

深山: 年間スケジュールでいうと、トータルして2か月間はミャンマー、残りは日本で過ごすという感じです。日本にいるときは、平日は自分が経営している「日本ミャンマー支援機構」での仕事をし、週末のうちいずれかは、来日中のミャンマー人の相談に乗ることが多いです。

―― ご自身で経営なさっている会社では、具体的にどのようなお仕事をなされているのですか。

深山: 日本企業がミャンマーに進出する際の支援をしています。主に、進出をするにあたっての調査、現地でのパートナー企業探し、視察案内、通訳などを行ないます。最近は、翻訳の仕事も増えていますね。

―― 翻訳の仕事、ですか?

深山: これからミャンマー人を雇うという日本企業から「ミャンマー人向けのテキストブックを作ってほしい」と依頼があり、日本語のテキストをミャンマー語に翻訳するのです。

―― なるほど。深山さんは元々、ライター業もなさっているんですよね。

深山: はい、20代のときは出版社で働いたりもしていたのですけれど、30代になり、ミャンマー人の夫と結婚して、5年ほど前にこの会社を作って、今に至ります。

―― どのような経緯で、いまの会社をお作りになったんですか。

深山: 日本とミャンマーとでは文化的背景があまりにも違うために、現地でビジネスを展開しようとして頓挫する日本人を目にする機会が多かったんです。

その一方で、日本政府が日本企業に対し、ミャンマー進出を後押しする環境を整えているということも知っていました。

必ずしも環境は悪くないのに、文化の違いから来るトラブルがもとで頓挫するのはもったいないと思い、何とかそのお手伝いをできないかと思ったのがきっかけです。

―― 日本政府はそんなにも積極的に、日本企業のミャンマー進出を支援しているのですか。

深山: ミャンマーは、地政学的に考えると、日本政府にとって、食指を伸ばしたくなる国ではあるんです。インド、中国、タイなどの経済大国に挟まれていますし、天然ガス・ダイヤなどの鉱物資源も豊富にとれますから。

なので、日本政府はこれまで、ODA(政府開発援助)を供与したり、経済特区を作りはじめたりといったことをしてきました。ただ現状、こういったものの恩恵を受けられるのは、大企業であることが多いです。

日本国内の消費がしぼむなか、なんとか持ち直したいと思っている中小企業は少なくありません。でも、そういう企業がミャンマーに進出したいと思っても、充分なサポートを受けにくい現状があります。

したがって、もっといえば当社は地方の中小企業を支援することが多いですね。地方は消費が冷え込んでいますし、労働力を確保するにしても大変なので。

―― 先ほど、おっしゃった「文化の違いから来るトラブルがもとで頓挫する」とおっしゃっていましたが、そういった日本企業がいざミャンマーに進出したとき、どういう点でつまずくことが多いのですか。

深山: 本にも書きましたが、やはりなんといってもトラブルの種になるのは、お金に対する考え方の違いです。

ミャンマーでは1988年に「高額紙幣廃止令」という施策がおこなわれました。ミャンマー民主化デモが巻き起こったきっかけになった施策です。

これにより、ミャンマー人はある日突然紙幣が低価値になったり、無価値になるという経験しました。そのため、彼らは、紙幣に頼らず、貴金属や土地を購入して資産を維持することを優先するようになった。つまり、こうした出来事をへて、「手元に現金をあまり持たない」という人々も出てきました。

でも、手元に現金がなければ……。

―― 「代金を支払えない」というケースが出てきてもおかしくないですね。

深山: その通りです。ミャンマーの企業が日本企業から何か商品を買ったとして、商品が届くまでに自分の資産を紙幣に変えればいい、それが難しければ、とにかく知人にお願いして紙幣を準備しようなどと考えてしまいます。でも間に合わなければそれまで。支払いは滞ります。

ですので、ミャンマー人を相手にビジネスをするなら「後払いはリスクがかなり高い」と思っておいたほうがいいです。
このように日本とミャンマーとでは、何かと文化的な違いがあり、それがもとでビジネスの障害になるという状況が間々見受けられるのです。

海外ビジネスでは必須!強力な現地人脈を作る秘訣は?

深山沙衣子さん写真

長年、軍事政権による独裁が続いてきたミャンマー。
しかし今年の3月より、かつてアウン・サン・スー・チー氏の側近だったティン・チョー氏が大統領になった新政権がスタートしたことで、今後、民主化が前進するのではという見方もある。

そんな状況下において、ミャンマーへ進出する日本企業には、どのような影響があり得るのか。

深山さんの著作『ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール: 善人過ぎず、したたかに、そして誠実に』(合同フォレスト刊)の著者、深山沙衣子さんに話を聞いた。

―― ミャンマーでは今年の3月より、アウン・サン・スー・チー氏が事実上の陣頭指揮を執る新政権が動き出しました。このことはすでにミャンマーへ進出している日本企業にどのような影響を与えると思われますか。

深山: まず、これまで日本の大企業とがっちりパートナー関係を結んでいたような、軍政下で恩恵を得た現地の人たちは、これからどんどん仕事の機会を奪われていくと思います。つまり、日本の大企業にしてみれば、「発注元」を失うことになるわけですから、ビジネスパートナーを変えることも出てくるでしょう。

ただ、逆に言えば、公正にビジネスをする環境が整ってくるので、これからビジネスがしやすくなっていく側面もあると思います。まだまだ過渡期ではありますが。

―― ビジネスがしやすくなるというのは、今後、法制度が整ってくる可能性が高いからですか。

深山: それもあります。これまでミャンマーは法治国家とは言いがたい面がありました。今までも法律はあるにはありましたが、かなり恣意的なもので、官僚がAさんからBさんへ替わったら、まったく別物の決まりごとが出てくるという感じでした。これだと、なかなかビジネスはしにくいです。

―― 話題は変わりますが、深山さん自身、これまでミャンマー側から日本企業を見る機会も数多くあった中で、日本のビジネス文化の特殊性について気づかれたことがあれば教えてください。

深山: 沢山ありますが、日本人は「数字」をものすごく信じますね。たとえば、日本政府が公表している数字をほぼ全面的に信じて、ビジネス戦略を立てます。

これは、ミャンマーでは考えられないことです。インタビュー前編でお話した「お金」の話ともつながりますが、ミャンマー人は基本、政府のことをあまり信じません。政府よりも自分や身近な家族の言うことを信じます。

―― 今、「信じる」という言葉が出たのでうかがいます。本書では「現地の情報を集める上で、情報を一元的に持っている現地のキーパーソンと繋がることがいかに重要か」について書かれていますね。具体的にどのようにして、キーパーソンを見つけていくものなのでしょうか。

深山: たとえば一つのやり方として、交渉の場にキーパーソンが出てくるように仕向けるというものがあります。これは、まず接触したいキーパーソンの社会的地位を見て、それと同レベルの社会的地位にある知り合いのミャンマー人に交渉の場をセッティングさせるというものです。

ここで最も重要なのは、日本人の自分は自分の目をぜったいに信じないということ。ミャンマー人の目と行動力を徹底的に信じて、全てを委ねるのです。

あわせて、そのミャンマー人がキーパーソンと接触する際に、「私のバックには日本人がいて、あなたには具体的にこういうメリットがありますよ」ということを明示もしくは暗示してもらう。そうすれば、かなりの確率で会いたい人物が出てきてくれます。

―― そのようにして現地の人との人脈を作っていくときというのは、どれくらい時間をかけるものなのですか。

深山: およそ1ヶ月以上はかけますね。数ヶ月かけることもあります。かけるというか、かかってしまうのです(苦笑)。これも本に書いたことですが、ミャンマー人は日本人にくらべて、レスポンスがかなり悪いです。ある日突然、音信普通になることも珍しいことではありません。

背景には、ミャンマーの通信環境はまだまだ日本のように満足できるレベルにないという課題があります。電波が弱いために、頻繁に通話が途切れてしまうのです。

ミャンマー人はこのような状況に慣れてしまっているため、「つながりにくいのだから、レスポンスが悪くても仕方ない」と考えます。結果、こちら側が必死になって電話やメールでコンタクトをとろうとしても、連絡が途絶えたままどんどん時間が経ってしまうのです。

でも、現地でビジネスをしている日本人の8割ぐらいは、こういった事情を分かっていないため、2週間ほど待ったところで痺れを切らして諦めてしまいます。

―― そんなにもレスポンスが悪ければ、たしかに諦めたくなる気持ちも分かります……。

深山: でも一方で、こんなことも思います。先ほどの「日本のビジネス文化の特殊性」に話を戻せば、日本人は「メールはすぐに返すものだ」と思いこみすぎているといいますか……。一種、強迫観念のようなものすら感じます。

私自身、ミャンマー人とやりとりをするようになって、「そんなにすぐ返事しなくてもいいんじゃない?」と思うようになりました。実際、今では半分くらいミャンマー人のようなスタイルに変えていますが、仕事はまわりますからね。

―― 最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。

深山沙衣子さん写真

深山: 先ほどもお話しましたが、ミャンマーでビジネスをやろうとすると、今の「レスポンスが悪い」という話や、お金に対する考え方が違うという話に限らず、文化的背景の違いがもとになって頓挫するということがよく起きます。

でも、1回や2回の失敗で諦めないでほしいのです。「誰でも初めは失敗するもの」ぐらいに思って、根気強くビジネスを続けていれば、自ずと味方が現れます。だから、それまでミャンマーでビジネスを続けていただけると大変ありがたいです。

書籍情報

目次

  1. はじめに

    第1部:日本人の想像を超える異文化地域とのビジネスの現状

    1. 第1章:日本人の親切心が、相手に響かないとき
    2. 第2章:日本人とミャンマー人の「仕事へのプライド」の違い
    3. 第3章:見積もり、メールの常識を忘れよう
    4. 第4章:嘘をついている前提で相手の話を聞け

    第2部:海外ビジネスで失敗しないために理解すべき19のこと

    1. 第1章:お金は「長く借りているだけ」
    2. 第2章:結果を出す前に重要視すること
    3. 第3章:ミャンマー流ビジネスへの理解

    第3部:海外ビジネスで成功を得るために「知るべき」現状

    1. 第1章:ミャンマーの歩みと歴史
    2. 第2章:ミャンマー人とは「ミャンマー流」でビジネスをしよう
    3. 第3章:日本が率先して異文化コミュニケーションを展開するための心構え
    4. あとがき

著者プロフィール

深山 沙衣子

日本ミャンマー支援機構(ミャンマー人の夫とともに創設)日本人アドバイザー。
1979年東京都生まれ。神奈川県で育つ。
立教大学文学部心理学科卒業。

大学卒業後、マレーシアの国営企業日本支社で勤務。その後広告代理店、出版社勤務を経て、フリーライターになる。

2011年、ミャンマー人の難民として日本に来た男性と結婚。

2012年4月に日本ミャンマー支援機構を起業。ミャンマー人の日本におけるトータルサポート(就職・留学・法的手続き・書類作成・仕事紹介・住居紹介・観光案内)、日本企業や日本の行政機関のミャンマー進出及びサービス提供を行う。現在までに、日本・ミャンマー・韓国・シンガポール企業などのサポートにおいて、300社の実績がある。