電車の中やタクシー乗り場、居酒屋、喫茶店など人の集まるところで、自分とは全く無関係な人々が何やら興味をひかれる話をしていて、思わず耳をかたむけてしまったことはありませんか?
聞き耳を立てられているとは知らずに話される言葉の断片から話の流れや話題を推測するのは、あまりいい趣味だとは言えませんが楽しいものです。
本書は、能町みね子さんが町なかで偶然耳にした会話の中から、特に風変わりだったもの、興味をひかれたものを選りすぐり、イラストと共に紹介しています。
たとえば、ある日の電車の中での男子高校生三人組の会話。
一人が「三好ってゲイじゃね?」と口火を切ると、他の二人も「ふつうにしてるとモテそうだよな」「水泳部の時ヤバいもん」と乗っかり、さらに「でも、クイーンの人(フレディ・マーキュリー)だってゲイだよな」「開き直ればいいんじゃね?」と本人のあずかり知らぬところでアドバイスを行ったのち、「三好くん」はゲイだということで話が落ち着いてしまったそう。
その後、話題は家族のことに。
一人が自分の母親について「アイツ、クレイジーなんだよ~」とのっけからアイツ呼ばわり。
どうやら、彼のお母さんが毎朝彼のお尻をもむことをネタにしている模様。
「やめろって言っても『アンタが無事に帰ってくるおまじない』って言ってもんでくる」とさらに彼は母親の“クレイジー”っぷりをアピールします。
それに対して他の一人が「それ、特殊な性癖なんじゃねーの?(爆笑)」と突っ込みをいれると、「アイツおかしいよー。友達ならいいけどお母さんだからヤバい」。
それを聞いた能町さんは「え? 友達ならいいの? じゃあ三好くんは?」と、先ほどまでゲイではないかと話題にしていた「三好くん」は何だったのかと、思わず心の中で突っ込んでしまう。
本書には、この他にもあちこちで聞き耳を立てて仕入れた、おもしろエピソードが数多く紹介されています。
私たちの生活のいたるところに人々の会話が溢れています。となりの人が何を話しているのか、こっそり耳を澄ませてみれば、毎朝の満員電車も楽しくなるかもしれませんね。
(新刊JP編集部)
北海道出身、茨城県育ち。著書に『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『縁遠さん』(メディアファクトリー)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『ひとりごはんの背中』(講談社)、『ときめかない日記』(幻冬舎)など。