―まずは本の内容に入る前に、先日4月20日に行われた4代目・次郎襲名披露式のお話からうかがいたいのですが、一門の方々の漫才ですとかヒップホップダンスのリズムに合わせて、新しい猿まわしが拝見できて、とても面白かったです。 それに次郎君の襲名の舞も見事でした(笑)


村崎太郎さん(以下、村崎)「ありがとうございます(笑)。『襲名の舞』は、猿まわしが日本に伝わった1000年前の姿を、想像ですが再現しています。古来より伝わる芸の復活の意味を込めてやっているので、ちょっと堅い舞 なんですよね」


―でも、あんなにたくさんの観客がいらっしゃっている中で舞を披露するということは、人間でもなかなか出来ないと思います。やはり、次郎君は緊張していたのですか?


村崎「初めてあんな大勢の方の前に立ったんでね。人間の年齢だと6歳くらいなので、やはり怖いという気持ちも あったと思いますよ。稽古の中ではよく出来ていたんですけど。でも、ああいう場になるとこちら側は笑っているしかないですよね(笑)、『しょうがないなあ』って。あのような舞台の上で、小さな猿が一生懸命やっている、そして人間がその舞台を作ろうとしている。その姿を含めて、皆さんに楽しんでもらえればいいかな、と」


―もちろんお客さんも楽しんでいたと思いますよ。
さて、本書の話に移りますが、まず読ませて頂いて、村崎さんの半生がつづられているんですが、読んでいて文章がとても力強くて、言葉に迷いがないように感じられたんですね。そこで、きっかけというか、どういったことが動機となってこの本を執筆されたのでしょうか。


村崎「今から2年前のことなんですが、私の妻(テレビプロデューサーの栗原美和子さん)がフジテレビで『太郎と次郎~反省ザルと僕の夢~』というドラマを作ったんです。そのとき、ドラマの最後に僕のコメントが載ることになって、『世界の戦火で命を落としそうな子ども達、飢餓で苦しんでいる子ども達に猿回しの芸を見て欲しい』と書いたんです。 でも、やっぱりなんか足りないんですよね。自分の言いたいことを言ってるつもりなんですが、これでいいのだろうか、と。そこで1日時間を下さいとお願いして、必死に考えて出てきたのが『都会の片隅で孤独に震えている子どもたちに猿まわしを』という言葉だったんです。後で気付いたのですが、実はその『子どもたち』って自分のことなんですよね。つまり、これは自分に向けた言葉だったんです。自分に猿まわし芸を見る機会があれば、少しは笑顔でいられるんじゃないかなあ、と。
今、いろいろ問題があるじゃないですか。経済危機だの政治不信だのって。でも、今、この社会に生きている人たちって、みんなボロボロになっていると思うんですよね。もちろん僕もそうだし、特に政治家の方々を見ているとちょっとでも言葉を間違えるとすぐに叩かれて、ひどいときは免職になったりもしますよね。
僕は1961年に生まれて、高度経済成長期を通して日本が豊かになったこの50年近くを生きてきましたが、僕らは社会の進歩にそのまま迎合して、『人間らしさ』とか『日本人とはなんなのか』ということを見つめ直し忘れてきたんじゃないかと思うんですよね。だから、皆がもっと自分たちのことを見つめなおす、そのきっかけを与えるために、僕はこの本を書いたんです」


―本書では、村崎さんの半生を通して経験されてきた差別とかも語られていますが、そうした「差別する意識」というのが、無意識のうちに刷り込まれていて、無意識にそういう行動をとってしまうようなところがあると思うんですね。それは多分、少なからず自分の存在が「普通」であるという前提に立っている気がします。
でも本書を読んで、逆に「普通」って何だろうと思ったんですよね。村崎さん自身は「普通」という概念をどう捉えていらっしゃいますか?


村崎「『普通』ですか…。僕にとっては、疑問に思ったことをそのまま放置しないことが『普通』なんですよね。例えばまた政治の話になってしまうんですが(笑)、国を動かす第一党の支持率がたかだか20%くらいしかなくて、総理大臣も次々と変わっていく。これじゃ政治離れも進むのも仕方ないですよね。でも、そうなってしまっている現状を、『選挙に若者がいかないからだ』とか『お前ら選挙行かないからこんな国になってしまっているんだ』と言って若者のせいにしてしまったりする人もいます。
僕が疑問に思うのは、もし、現在の政治のシステムで納得できないことがあるなら、なんでもっと声を大にして言わないの?ということです。誰かのせいにするんじゃなく、『何で直接選挙をしないの?』とか、もっと直接的な議論をしていいと思うんですよね。
もちろん、これは政治だけではなくて、いろんなことにも言えます。結局、議論をしても結論を出さない。皆で語り合っていない気がするんですよね。なあなあに終わらせているというか。『触らぬ神に祟りなし』が『普通』なのかも知れませんが、僕にはその『普通さ』を持っていないので、疑問を持ってしまうとそこで僕は先に行けなくなるんです。放っておけなくなるんですよ。生き方が下手だと思われるかも知れないけど、僕にとって、それが『普通』なんです」


―確かに、議論すべきことが流されてしまう感じはあると思います。自分と同じ感性や意見を持つコミュニティにどっぷりつかってしまったり、インターネットとかでもそういう風潮があって、同じコミュニティの中で馴れ合って、固まってしまったりすることも見受けられます。でも、本書はそうではなく、村崎さんが本当に個人として戦っている印象を受けました。


村崎「最近、ちょっと面白いことが起きているなと思ったことがあったんです。当事者の皆さんには申し訳ないですけど、 派遣切りですとか、非正規雇用者の問題ですね。こういう状況になって、いろんな人が意見を言い始めた、議論が巻き起 こってきた、そのことがものすごく面白いと思うんです。
こういう議論はもっと他の問題でもすべきだと思いますね。ちょっと前にあったじゃないですか、食品偽装問題。今って不況で消費が鈍っていますから、ものをどんどん安くしないと売れない状況になっていますよね。でも僕は、こんな安売りとかやっていたら、また偽装の問題が出てくるんじゃないかと疑問に思うんですよ。こういう疑問は少なからずみんな思っているはずだし、そのことを、声を大にして言い合って、揉んでいける社会にならないといけないと思うんですよ。そうなれば面白いじゃないですか。
僕がこの本で一番言いたいことは、自分たち日本人が抱えているいろいろな問題を、投げ出さずにみんなで向き合おうということなんです。昔、戦争があったことを他人事のように流すのではなく、それを1つの事実として問題提起してみる。過去というのは、未来に我々がどう生きていくかの1つの指針になります。もちろん差別の問題も同じです。つい最近まで人間同士でやってきたことを、どうして語っちゃいけないの?と思うんですよね。それじゃ、分かり合えないじゃないですか」


―ところで、本書の帯は爆笑問題の太田光さんがコメントを寄せていますが、どういう経緯で太田さんが書かれたのですか?


村崎「それは…太田氏が脱腸で入院して(笑)病院に見舞いにいったときに、『こんなの書いたんだ』と見せたんですよ。そしたら、太田氏が『僕にとって、この本について発言をするのはとても難しい事柄だ』と返してきたので、『そりゃお前、卑怯だ』って言って(笑)。僕が『じゃあ、読んでからあなたの切り口で帯(のコメント)を書いて』と言ったら、こんな帯になったんですよ。太田氏は『いいだろう!』って言ってましたが(笑)。
でも、その後に『これが精一杯です』と言ってましたが、僕は『いいよ、それで。太田さんにとって精一杯って分かるし、彼の置かれている立場も分かるし、今回はこの程度にしておこうよ』と思うんですよね。でも、この『「ヤッカイな男だ」っていうのは、あなた(太田さん)が思ってるんでしょ?』って言ったら、『それがヤッカイなんだ』っていう顔をしていましたけどね(笑)」


―いいエピソードですね(笑)。でも、やはり帯のコメントは太田さんしか考えられなかったんですか?


村崎「僕は今、猿まわし芸人としてやっていますが、芸能事務所に入る上で誰がいる事務所に行くのが一番いいんだろうという考えたとき、太田氏の存在が大きかったんです。
それで、今の事務所に入って3ヶ月くらい経ったとき、自分の生い立ちを太田氏に打ち明けたんですよ。カラオケボックスで、2人きりになってボソっと。芸能者として、何もなかいような顔をして付き合っていくのも嫌だったんですよね。そしたら、太田氏は何も言わないんですよ。その後、若手芸人を呼んでサザンオールスターズを朝まで熱唱してくれたんです(笑)。
それは『この感情をサザンオールスターズの歌で共有しようよ!』という彼なりのメッセージだったんだと思います。だから、太田氏のいる事務所に入ったわけだし、やっぱり芸人のバカ話みたいなところもあるので(笑)、こんなにボロボロだけれどここまでなんとか生きてきたんだよということを読者に伝えるなら、やはり太田氏のセンスに任せるしかないと思っていました」


―では、そろそろインタビューの時間もなくなってきたのですが、村崎さんのこれから人生、どのように生きていきたいと思っていますか?


村崎「いろいろやりたいことはありますが、やはり世界中に1000人の猿まわし芸人を育てることですね。僕は今まで猿まわし芸を広めるとともに、後継者の育成もやってきましたが、日本だけではなく世界に広げて、後継者を育成していきたいと思っています。もともと猿まわしはアジアの伝統芸なんで、まずはアジアを足がかりにして。猿まわしはもう世界と向き合える位置にいる芸ですから」


―では最後に、ファンの皆さんに一言お願いします。


村崎「先ほどサザンオールスターズの話が出てきましたけど、サザンの桑田佳祐さんが休業宣言をしたコンサートで、『みんな死ぬなよー!』って言ったんですね。これを聞いて、本当にそうだなって思って。だから僕は、それに足して、『この国に殺されるな、みんな死ぬなよ!みんな頑張っていこうよ!元気な顔になろうよ!』と伝えたいですね」


―ありがとうございました!