「100年後の水を守る―水ジャーナリストの20年」

書評

 突然ですが「人間らしい暮らしをするために一日に最低限必要な水」の量はどれくらいだと思いますか? 答えは50リットル。2リットルのペットボトル25本分です。
 『100年後の水を守る―水ジャーナリストの20年』(橋本淳司/著、文研出版/刊)によれば、日本人の生活用水の平均使用量は、一人一日あたり約300リットル。この数字だけをとって見ても、水に関して私たち日本人が「もったいない」使い方をしているといえるでしょう。

 ただ、このように言われても、実感をもつことは難しいかもしれません。そこで一日のなかで水を使う場面を想像してみることにしましょう。
 たとえば歯みがき。「3分間、水を出しっぱなし」で歯をみがいたとすると、1分間に蛇口から出る水は12リットルなので、36リットルの水を使うことになります。歯みがきで口をすすぐ際、必要とする水の量は300ミリリットルといわれています。つまりこの場合、35.7リットルの水を無駄づかいしているわけです。
 歯みがき以外にも、洗顔、トイレ、シャワー、炊事、洗濯など、一日のなかで水を使うシーンはいくらでもあります。そう考えれば、私たちが普段、どれだけ無頓着に大量の水を使ってしまっているかに気づくでしょう。

 上記の内容は、著者の橋本さんが小学生向けにおこなった「水についての特別授業」を一部抜粋したもので、授業後、子どもたちからは「蛇口を締めずに水を使うのは、水を捨てているのと同じだからもったいない」といった感想が出ました。
 さらに橋本さんが子どもたちにバケツ一杯に入った「食べ残し」を見せ、「食べ物をつくるには水が必要」という話をすると、ある子どもから「水を大切にするって、水そのものを大切にするだけじゃないんだね」という声があがったそうです。

 このように「水の大切さ」を実感してもらうことが橋本さんの活動の目的。この活動の延長として、「アクアコミュニケーターの育成」という事業も始めています。
 橋本さんによれば、アクアコミュニケーターとは「自治体、企業、学校などのコミュニティで、水についての学びの場、水の課題や解決方法を対話によって共有する場をつくる」人のこと。このような役割を果たせる人を増やすことで、様々な水問題の解決を目指しているのです。

 橋本さんはこれまで「水ジャーナリスト」として、あるいは「アクアコミュニケーター」として様々な土地を訪ね歩いてきました。本書では、バングラディッシュやインドで安全な水を手に入れることがいかに難しいか、中国の山西省という村の人たちは一日20リットルで暮らしている等、世界各国における水をめぐる過酷な現状も紹介されています。
 本書を読むことで、深刻化している水問題の現状を正しく理解できるでしょう。

著者プロフィ―ル

橋本 淳司 (はしもと じゅんじ)

水ジャーナリスト/アクアコミュニケーター。アクアスフィア代表。水課題を抱える現場を調査し情報発信。国や自治体への水政策の提言、子どもや一般市民を対象とする水の授業などを行う。参議院第一特別調査室客員調査員、東京学芸大学客員准教授など歴任。現在、武蔵野大学講師。静岡県立三島北高等学校スーパーグローバルハイスクール(SGH)推進会議委員として世界と地域の水問題学習を通じたグローバル人材育成サポート。水循環基本法フォローアップ委員として水基本政策策定をサポート。近著は『67億人の水ー争奪から持続可能へ』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『通読できてよくわかる水の科学』(ベル出版)、『いちばんわかる企業の水リスク』(誠文堂新光社)など

アクアスフェアHP

目次

一章 水を五感で楽しむ
  • 水の色は何色なのだろう
  • カナディアン・ロッキーにあこがれる
  • 水の音に心うばわれる
  • いろいろな水を飲みたい
  • ルルドの泉に寄せる人々の想い
二章 水問題の現場へ
  • 水は「薬」じゃない
  • H2Oのことしか書いてない
  • バングラデシュ、シリア、そしてインドへ
  • 海までたどりつかない川
  • 一日二〇リットルの水でくらす人たち
  • 水不足に拍車をかける水汚染
  • トイレがない!
  • 川の水をめぐる争い
  • めぐまれている? 日本の水事情
  • 食べ物をつくるのも、水
三章 学校での水の授業
  • 「水の授業」に挑戦!
  • 「話す」のではなく「伝える」
  • ヒントになったアンケート
  • 一日に使う水の量は?
  • 一日五〇リットルの生活を体験!
  • 残された水をどう使うか
  • 残った水はどれくらい?
  • 青いバケツのなかのたくさんの水
四章 中国の水不足と節水教育
  • 酸性雨をふらせるもの
  • 中国と足尾銅山
  • 中国で節水リーダーを育てる
  • 節水文化がない?
  • 鄭州市の小学校でのデモ授業
  • スタートした節水教育
  • 水問題を通じて国際的な視点を
五章 水のルールをつくる
  • 湧き水をくみにくる人々
  • そもそも水はだれのもの?
  • 「ルールがない」という問題
  • 長野県安曇野市の例
  • 「声なきもの」の代弁者になる
  • 水の憲法、誕生!
六章 水をゆっくりと流す
  • 雨水を活用しよう
  • ほったらかしの森
  • なぜ元気な森は水を育むのか
  • 子どもの力でもできる皮むき間伐
  • 身近な森の間伐材を使おう
  • 地下水をささえる水田を守ろう
  • 日本にも水道のない地域がある
おわりに
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