■コンサルタントがクイズも得意なのはなぜ?
― 鈴木さんはもともとクイズマニアでいらっしゃるそうで、『クイズアタック25』(朝日放送)や『カルトQ』(フジテレビ)などへの出演歴もあるとのことですが、クイズは昔から好きだったのですか?
鈴木:もともと好きでした。ただ、私は今、52歳なのですが、世代的にはまだ大学にクイズ研究会もなかったので個人で作って楽しんでいる程度でしたね。30歳くらいのときにクイズ王ブームがありまして、クイズ番組を見ていて「これなら勝てるんじゃないか」と思って本格的にはじめました。
― クイズ王ブームの頃は、仕事としてはコンサルタントをされていた。
鈴木:そうです。ボストン コンサルティング グループ(BCG)にいました。
― 大変忙しい日々だと思いますが、その中でクイズを続けていたのですか。
鈴木:クイズを本格的にやっていたのは私くらいですが、コンサルがクイズを得意とするのはそんなにおかしくはないんです。その理由は2つあって、1つ目は力のあるコンサルタントは幅広い知識を持っているということ。「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)に出演されている御立尚資さんは雑学の宝庫みたいな方ですが、知識の量が豊富でないとコンサルタントとして適切な判断ができないことが多いんです。知識量とコンサルの仕事は意外と関係しているんですね。
もう一つはグローバルな場において、上席コンサルタントとグローバル企業の幹部のようにトップクラス同士がより親密な関係を構築する過程では知性で語らないといけない部分が出てくるんです。
― 知性で語るとは?
鈴木:例えば歴史で言えば○年に何々があったというような知識だけではなく、「なぜルネサンスは起きたのか」「なぜローマは衰退に向かったのか」という歴史を文脈で捉えるような知性が問われるような話です。こうした知性で相手を引きつける力は、グローバル企業でトップに立つような方は非常に優れています。
知性がその人物を魅力的に映しますし、彼らも自分の持っている知性を活かしてマネジメントしている側面が強いと思います。
― これまで鈴木さんが書かれてきた本を振り返りますと、エンタメを題材にした本も執筆しており、幅広いジャンルに精通していらっしゃいます。経済・経営以外でとりわけ得意なジャンルはあるのですか?
鈴木:好奇心が強いので、基本的にはどんなジャンルも知っています。好きなジャンルと聞かれると、エンターテインメントやスポーツですね。
― 今回出版された『戦略思考トレーニング 経済クイズ王』は経済知識と思考力が身につくクイズでまとめられた一冊です。日本経済新聞の2015年掲載の新聞記事から出題されていますが、クイズ作りにおいてどのような人をターゲットとされたのでしょうか。
鈴木:これは2組います。1組目が日本で活躍をしている、実力のあるビジネスパーソンです。ビジネスに対して勤勉で、経済の知識もある。そういう人たちが挑戦したときにどこまで歯ごたえのあるクイズを出せるかということを念頭に作りました。「俺は仕事ができる」「経済のことを分かっている」という人にはぜひクイズに挑戦してもらいたいですね。結構難しいと思いますよ。解けそうで解けないレベルで作っていますからね(笑)
2組目は就職活動をしている学生や新入社員、若手のビジネスパーソンですね。彼らは年上の人たちに比べたら、確実にたくさんの情報に触れています。ただ、そういったニュース一つ一つを点で捉えていて、ストーリーとして語ることができない。そのためのトレーニングが必要だと思うんですね。だから、答えは分からないかもしれないけれど、興味を持ってもらえそうな題材を選んで問題を作りました。そして、50問の問題を解いて、答え合わせをしていくうちに、解答がつながっていき、今の日本の経済のストーリーが浮かび上がってくるという仕組みにしています。
― クイズを解いていくと、ここ1年間の経済ニュースを総ざらいすることができて、なおかつ今後起こる新しい出来事についても理解しやすくなる、と。
鈴木:そうですね。ストーリーとして語れるようになるはずです。
― 50問クイズが掲載されていますが、一問あたりどのくらいで解くという目安はありますか?
鈴木:だいたい1分間考えて次に進むというペースが良いと思います。分からないからといってすぐに答えを見てしまってはトレーニングになりません。なんだろう、と仮説を立てて考えてください。ただ、何分も考えるとキリがないので、その場合は答えを見て、なぜ分からなかったのかという原因を考えた方が良いのかもしれません。
■これだけは知っておきたい! 新聞の情報を効果的に取り入れる方法
― この本に掲載されているクイズは日本経済新聞の記事から出題されています。日経新聞の良いところはどこにあると思いますか?
鈴木:経済という切り口に関しては日本有数の取材力を持っている新聞です。そのため、経済の情報や密度は、少なくとも日本で手に入る媒体の中では最も豊富ですね。
― 鈴木さんはどのような日経新聞の読み方をしているのですか?
鈴木:注目しているポイントが3つあります。1つ目は異常値。2つ目は変化。3つ目は理由です。
1つ目の「異常値」は普通に考えたら出て来ないような数字ですね。「業績が大幅に向上」「年収が1年で3割増えた」といった情報に注目します。2つ目の「変化」は、例えば「タバコを吸っている男性が成人人口の30%を切りました」というような情報です。何がどう変化したのかということを示す情報です。そして3つ目の「理由」は、なぜ起きたのかという理由です。
この3つが全て込められた記事はあまりなくて、もしそのような記事を見かけたら鴨が葱を背負ってくるという感じです。でも、そのうちの1つでも情報があればそれだけで勉強になるんですよ。そして、別の記事からその理由や背景を見つけて、情報をつなげるわけですね。
― 普段は一つの記事に対してさらっと目を通すような感じで読むのですか?
鈴木:私の場合は、見出しと最初の数行を読んでおもしろいと思ったら読み、だいたい内容が分かったところでとめます。ただ、新聞記事の本当に面白い部分は見出しや最初のパラグラフだけではなくて、記事の後半に書かれていたりするんですね。だから、重要だと思った記事は最後まで読んだ方が良いです。冒頭には書かれていないディテールに異常値であったり、変化であったり、理由が書かれていることが多いのです。
― 新聞記事をスクラップにして保存している人もいますが、鈴木さんはどのように新聞記事を保存しているのでしょうか。
鈴木:私はスクラップにはしていません。ある政治家が新聞の読み方について語っていて私と同じだなと思ったのですが、まず面白い記事があると、それをはさみで切る。それで読んで、捨てるんだそうです。つまり、スクラップにしようとしてはさみで切っている時間が、彼にとっては読んでいる時間にあたる、と。
― それは独特な読み方ですが、鈴木さんも同じような読み方をされているのですか?
鈴木:私の場合は記事をPDF化するんです。日経新聞電子版には印刷できるという機能があるのですが、印刷すると紙がたまるでしょう。だからPDF化してフォルダに入れる。ただそのあとはほとんど見ないです。だいたい(書かれていることが)記憶で残っているので。
― なぜPDF化するのですか?
鈴木:それは内容を理解するための儀式なんです。その儀式があるから覚えられる側面もありますね。情報はストックするのではなく、フローの中で覚えるものだと考えています。だから、情報に触れるフローをつくる習慣を確立することが大切になるのではないでしょうか。
― 得られた情報は体系的に理解しなければ文脈で語ることはできないと思いますが、そのために必要なことを教えていただけますか?
鈴木:頭の中でフラグを立てておくことですね。TPPが合意したという記事があるとしましょう。TPPは基本的には秘密交渉なんです。だから識者の中には、「まだ公開されていない日本にとって都合の悪い情報があるかもしれない」と書く人もいるわけです。それは本当かどうか分からない言説なので、フラグを立てて、TPPについての記事に関する何かしらの新たな情報が出てきてもキャッチできるように気を付けるようにする。そういうチェックポイントを作っておくと、情報が集まりやすくなります。
― 最後に、本書のクイズに挑戦する上でのポイントを教えていただけますか?
鈴木:このクイズを解いていくことで、2015年が振り返られるようになっています。そこには3つのポイントがありまして、まず、実はこの2015年は、グローバルな視点でいえばここ数年絶好調だった経済に暗雲が立ち込めた年だったということです。今年の前半くらいまでは好景気が続いていたのですが、ちょうど転換点にきている状況です。
2つ目は、その一方で、日本はあまり景気が良い感じがしませんでしたが、今後どのように成長していくのかということについて、いくつかの方向付けができた年でした。3つ目は、それとは別に10年ほどのスパンで未来を見たときに、イノベーションの芽が見えるようになった年だったのではないかと思います。
この3つのポイントを頭に入れながら、50問のクイズを通してもう一度情報をつなぎなおすと、現在や未来を見るときの立ち位置が分かるようになります。その部分を意識して読んでいただくと、この本が単なるクイズ本ではないことが分かると思います。楽しみながら解いていってほしいですね。
(了)