■ 写真家・青山裕企が写真を撮影するようになったきっかけとは?
― 青山さんが新刊JPのインタビューに答えていただくのは『つきあいたい』(扶桑社)以来ということで、その時は女の子の写真集だったんですよね。で、今作は働く男たちが被写体になっている写真集になるのですが、ページを開いてみて、ものすごい躍動感がある写真ばかりで、見ていて楽しくなりました。ジャンプって楽しそうだな、と。こうした写真を撮影されるようになったきっかけについて、まずは教えてもらえないでしょうか。
「僕が写真家として活動している中で、『スクールガール・コンプレックス SCHOOLGIRL COMPLEX』という女子高生を被写体にした作品と、『ソラリーマン』という今回のシリーズですね、それを2本立てで進めています。『ソラリーマン』については3年前にピエ・ブックスから出版しておりまして、この『跳ばずにいられないっ!』はシリーズ2冊目になるのですが、実はジャンプ写真は趣味で撮り始めた頃からずっとやってるんですよ」
― 撮り始めた頃からですか!
「今、僕は34歳なんですが、20歳のときに大学を休学して、一人で自転車に乗って日本縦断旅行に出たことがあったんです。なぜ旅に出たのかというと、自分に自信がなくてなんとか自分を変えたいと思ったからなんですが、その旅行にカメラを持っていって、旅先で写真を撮影していたんですね。で、記念を残そうということで、セルフタイマーで自分を写したりするんですが、観光地に自分が突っ立って写っていても何も面白みがないじゃないですか。だから、ちょっと跳んでみようと思ったんです。なぜだか分からないけれど」
― とりあえず跳んでみよう、と。
「三脚にカメラを付けてタイマーで撮影するんですが、立ったまま数秒待たないといけないんですよね。それがいてもたってもいられなかった(笑)。で、なんか跳んでみて、その写真を見てみると面白い。こんな跳び方してたのか、とか、こんな顔してたんだ、とか。自分を自分で見て初めて面白いなと思いました。
それで、旅行を終えて大学に復学したあとも、今度は日常の風景の中で写真を撮ろうと思いまして、まずは自分がいろんな場所でジャンプをしている写真を撮っていたんです。大学の構内とか、近所の公園とか。誰かに声をかけてもよかったんでしょうけど、人見知りなので(笑)。それを友だちに見せていると、『なんか面白いね』『今度撮ってよ』っていう風に言われるようになるんですよ。
だから、自分に自信がないというところから撮り始めた写真を通して、自分ができていった感覚ですね。さらにその写真を通して、友だちや他者とのコミュニケーションもとれるようになって、気になる女の子の写真を撮影したりとか(笑)。そういう意味では、ジャンプ写真は本当に自分の原点です。写真を撮影し始めてからずっと撮っていますからね」
― まさしく写真家としての原点ですよね。
「そうですね。今でも自分の中では写真=ジャンプ写真みたいなところがありますね。
ジャンプ写真ってシャッターひと押しで何度でもおいしいんです。まず、撮っている現場が面白いですよね。シリアスな雰囲気の写真を撮っているわけではないですから」
― 撮影する際に「こう跳んでください」とお願いすることはあるのですか?
「いや、ないです。ソラリーマンはポーズを決めていません。『跳んでください』とお願いするんですが、どう跳んでいいのか分からないからちょっと困った顔をする人が多いんですよ(笑)。でも、それが良かったりするんですよね」
― それで、自由に跳んでもらうわけですね。
「そうですね。すると、その人らしさが出てくるんです。最初に自分がタイマーを使って写真を撮影したときに、やむにやまれず跳んでみたときに表出していた自分らしさというか。それが誰にでも出てくるように思えるんですよ」
―ジャンプしている皆さん、表情がいいなと思いました。
「そうなんですよね。写真を撮られ慣れている女の子は自分のキメ顔を知っているのですが、跳ぶと意識がどうしてもそっちに取られるので、素の表情が出やすいんです。本人はもしかしたら変な顔になっていると思うかも知れませんが、実は周囲から見れば良い表情しているよねってなるんです」
■ 「個性」と「記号」というテーマの中で磨かれた“ソラリーマン”
―『ソラリーマン』は主にサラリーマンの皆さんがモデルですよね。この写真集の中でも書かれていましたが、お父様の死をきっかけにサラリーマンを撮影し始めたと書かれていますが、サラリーマンを撮影し続けている理由について教えていただけますか?
「自分の父親は典型的なサラリーマンで、自動車販売の営業をしていたんですね。僕の目から見る父親って、朝、スーツを着て出社していって、夜は営業なので飲み会が多くなるじゃないですか。なので酔っ払って帰ってきて、たまに寿司折を買って帰ってくるみたいな、そのくらいしか見えていなかったんです。だからどういう仕事をしているのかも、実はよく分かっていなかったんですよね。
また、僕は就職活動をしていなくて、大学を出たあとはそのままフリーランスの写真家になった…というと聞こえはいいんですが、実際はフリーターですよね(笑)。ただ、サラリーマンに対して興味がないというよりも、すごく身近に父親というサラリーマンがいたのにも関わらず、そういった生き方に反発していた部分もありましたね」
―なるほど。
「でも、亡くなったあとに、働いているときの父親のエピソードを聞く機会がありまして、すごく慕われていたこと、好成績を残し続けていたことを聞いて、あれだけ毎日顔を合わせていたのに、そんな姿が全然見えていなかったことに驚きというかショックが強くて。それで、先ほど身のまわりの人たちを跳ばせていたと言いましたが、よくよく考えてみると父親を跳ばせていなかったんです。亡くなって四十九日が過ぎて、落ち着いたと思った頃にはすでにサラリーマンのジャンプ写真を撮っていました。最初からコンセプトを決めていたのではなくて、気づいたら撮影していた感じですね」
―自然にやりはじめていたんですか。
「そうですね。もう没頭していました。ただ、父親が亡くなったことがきっかけなんですが、撮影中は父親のことをそこまで意識しなかったです。なんか撮りたくて仕方なかった。
今回の『跳ばずにいられないっ!』は前作の『ソラリーマン 働くって何なんだ?!』からかなり制限を外していて、スーツ以外の服もOKですし、世代も幅広く載せています」
―撮影をし始めてから、サラリーマンの方々に対する見方は変わりましたか?
「これは180度変わったと言っていいですね。前作では写真とともにインタビューも掲載しているのですが、もともとは僕がソラリーマンを撮りはじめた頃から聞いていることで、働いて良かったこと、苦しかったこと、将来の夢などを聞くのですが、すごく面白いんですよ。
例えばこの東京の都心を少し歩くだけで、たくさんのサラリーマンを見ますよね。でも、基本的には誰ひとり、顔を覚えていないと思うんですよ。僕も今日もここにくるまでに100人以上はサラリーマンを見ているはずですが、どんな顔をしていたかはほとんど覚えていません。サラリーマンはどうしても群衆として認識されますよね。でも、いざ一人一人にお話をうかがってみるとすごく面白くて、しがない経理部で毎日パソコンと電卓を叩いているだけです、みたいなことを最初は言っていても、少しずつ深く掘っていくと、誇らしげに語り出すんですよね」
―仕事に対してプライドを持ってやっているということですよね。
「どんなところで働いていても、どんな役職であっても、理想を語る人が多いんです。多様性に溢れているんですよ。でもそれは、サラリーマンだから多様性があるのではなくて、サラリーマンだから目立ちやすいというだけなんですよね。それは何故かというと、サラリーマンは外見上はみんな似ているから。僕は『記号』と『個性』というテーマで写真を撮り続けていて、『スクールガール・コンプレックス』は顔という個性的な部分を隠して、セーラー服やチェックのスカートみたいな『記号』を撮ることに注力しています。逆に『ソラリーマン』は跳ぶことによって『個性』を出すんです。ソラリーマンはほとんど衝動的に撮りはじめたんですが、あとあとになって、自分はこういうテーマで作品を撮ろうとしているんだなと気づくんですよ。だから実はソラリーマンは、女子校生の作品と表裏一体なんですよね」
―写真集をながめていても、誰ひとりとして同じポーズをとる人はいませんからね。同じように見えてもどこか必ず違いますし。
「こちらからポーズを指定しないのは、そういうことなんです。多分、これまで1000人以上は跳ばせてきましたけど、美しく言うと、1000通り以上のポーズを見てきた、と(笑)」
―撮影現場も楽しそうです。
「跳んでいると、どんどんテンションが上がるんですよ。面白くなっちゃう。自薦他薦問わず跳んでもらっているのですが、どう跳んでいいか分からずに最初は困ったり、はじめは仏頂面をしていた人も、跳ぶとみんなノってきちゃう」
■ 震災時、自分の写真がツイッターで拡散され「元気をもらえた」
―モデルになっている方々は30代が多いかなと思ったのですが、中には70歳を超える方もいらっしゃいます。60代の方々も結構いらっしゃいますし、日本各地のいろいろな方が集まっていますよね。しかも自薦他薦問わず。どのようにしてこの方々を選んだのですか?
「街中でいきなり声をかけるということはしていません。ネット上で募集をかけたり、人づてが多いですね。また、僕自身が東京に住んでいることもあって、被写体の方々も、はじめは東京の人が多かったんです。
ただ、女子校生の作品集もそうなんですが、日本らしい写真を撮りたいというのはずっと持っていました。あとがきにも書いたのですが、震災の影響もあってしばらくソラリーマンを撮っていない時期があったんです。すると突然、僕のホームページに掲載されているソラリーマンの画像がツイッターで拡散されていてですね、自分のところに回ってきたんですよ(笑)」
―それはすごいですね。自分の撮影された写真が。
「しかもそれが数回あったのかな。あれ? これ、見たことある、みたいな(笑)。しかもその写真が何千回もリツイートされていて、おじさんが跳んでいるだけなのになぜか元気が出るというようなコメントがついていて」
―それは嬉しいことですよね。
「そうなんですよ。ソラリーマンがネットの中、つまり世界中を跳びまわっている姿を想像していたら、自分も動かなきゃなという気持ちになって。それに東京のソラリーマンを撮って日本を表した気になっていた節もあったので、きちんと自分の足で日本をまわろうと決めて、一年かけて撮影した人をほぼ全員載せました。
旅先でいろんなソラリーマンを跳ばせながら、日本を元気に変えてゆくような気持ちでしたね」
― 時折、著名な方がさりげなく出てくるのも面白いですよね。キャスターの草野仁さん、元メジャーリーガーの村上雅則さんとか。
「こういった方々も縁あって撮らせてもらうことが出来ました。前作も平沢勝栄さんやサンミュージック会長の相澤秀禎さんが跳んでいて、縁で撮っています。だから、この人を跳ばせたら面白いなと考え過ぎるとよくないですね。さりげなさが重要だと思います」
― 普通であればそういった方々を表紙にしたりしますよね。
「そうですよね、たとえば草野さんを表紙にしたらもっと目を引けると思いますけど、誰かが特別目立ちすぎることはしたくないんですよね。だから、そういった方々もいろんな働く人たちの一人として、写真集の中にうまく溶け込むように意識はしました」
―本作では19の都道府県でソラリーマンを撮ってきたということで、まだ撮影は続くと思いますが、今後行ってみたいところはありますか?
「全県制覇することに意味はないと思いますが、運よく日本をまわりはじめて一年で本にすることができたので、まだ行ってないところに行ってみたいですね。もともと本にするアテもなかったんですよ、実は」
―そうだったんですか。では、撮ってみたい人とかいらっしゃいますか?
「すごく評判の良い写真があって、父と娘の二人で写っている写真ですね。前作は全て男性一人で写っている写真だったのですが、今回は家族や夫婦の写真も入れていて、その中でも僕は、父と娘という関係にすごい執着があるんですよ。
父と娘の写真は、今後の僕にとってのキーポイントになるかなと思っています。
今までは自分の父親とソラリーマンを重ねている部分がありましたが、最近は自分が父親になっていく可能性を考えているというところで、家族というテーマが大きくなってきてるんじゃないかな」
―父と娘だといろんな家庭内のドラマが想像できますよね。娘が反抗期を迎えて、その確執の中でのジャンプとか。
「でも、なかなかこの組み合わせで写ってくれる方を探すのが大変なんですよ。お父さんだけでも集めるのは大変なんですが、娘も同行させるとなると、ハードルが一気に上がるんです(笑)。これを見て跳んでいいよというお父さん、娘さん。連絡をお待ちしています(笑)」
― 個展が東京、大阪と巡回していますが、今後のご予定は?
「5月に東北での写真展を計画しています。ソラリーマンは、まだまだ日本を跳びまわってくれると思いますので楽しみにしていて下さい」
― 他に新刊などの情報がありましたら教えてください。
「『スクールガール・コンプレックス3』が4月に出る予定です」
― では、読者の皆様にメッセージをお願いします。
「もしかしたら、誰も得をしない写真集かも知れません。片づけが上手くなるわけでもありませんし(笑)。でも、間違いなく元気になれる本だと思います。だから是非買ってみて、もし元気がない人が周りにいたらプレゼントしてみて欲しいですね。本を開くだけで、何度見ても元気になれます。そんなエネルギーの塊を詰め込みましたので、是非手にとって見て欲しいですね」